第32話 アルゴスの言う通り

 サーヤ達は、今まで自分達に起こった事を話して聞かせた。セレティアの里で光の巫女であり、サーヤの姉であるエイナが魔族ズローブルを呼び出し、マットは体の時間を歪められ封印され、里の外に飛ばされた事。アルゴスやサーヤ達と出会い、精神の封印を解いてもらい、両腕の封印は半分残っている事。魔族と戦闘になり、アルゴスの魂が土の柱に戻った事も話した。



「そうだったのか……。アルゴスが魂に――」



 ディルンムットは目を見開いた。アルゴスの強さを知っていたからだ。魔界の穴を閉じた時、魔族を何体か倒す姿を見ていただけに、敗北したという事実に驚きを隠せないでいる。

「……」

 マットウェルは、膝の上で拳を握り、ずっと俯いていた。

 ディルンムットがサーヤを見る。

「状況は分かったよ。説明してくれて、ありがとう。アルゴスは、装置を完成させたんだね」

 言いながら、ごと、と柱の力を増幅する装置を手に取る。ずっしりとした重量感。それを見て、ディルンムットは懐かしむように微笑んだ。

「昔、これを作りたいと相談してきた時を思い出すよ。あの時は、ガイヤは平和そのものでね。魔族の脅威がまた来るなんて、誰も思っていなかったんだ。もちろん、僕も」



 ――ガイヤの力が弱まる!? そんな事あるわけないだろ。アルゴス、君大丈夫?――

 ――ガイヤ本人が言ってるんだもの。備えるべきでしょ? ディルちゃん、私達が何の為に生まれたか、忘れたの?――

 ――そのディルちゃんて、やめてくれる? 僕達が生まれた訳は……次の脅威に備えて……――

 ――ほら! また来るのよ。やばい時がっ! それがいつかは分からないけど、その時後悔しないように動かないとね。平和ボケしてたら、足元すくわれるわよ――

 ――分かったよ。僕は何をすれば良い?――



「ガイヤにまた脅威が来るって、早々に動いていたのは彼女だけだった。そのおかげで、今、この装置がここにあるんだな。この銀細工は僕が作ったものだけど、もうちょっとキレイに仕上げるべきだったな」

 サーヤ達には美しい銀細工に見えるが、本人にとっては装置の必要性を感じていなかったせいで、作りが若干簡素なものになっていた。この装置がガイヤの命を守る頼みの綱だと言うのに。

「他の柱も、今になって実感してるだろうね。アルゴスの言う通り、備えていて正解だったって。僕達は、平和ボケしていたんだ。サーヤ、君のアルゴスはとても偉大な人物だよ。柱の中で一番だ」

「はい。本当にすごい人です!」

 サーヤは自分が褒められるよりも嬉しかった。



 ディルンムットは、棚に置かれたいくつもの鏡を見る。どの鏡も暗く、何も映っていない。

「森に近付く影はないな。まずは、皆で一緒にこの装置を取り付けに行こうか」

「はい。でも、もし監視レンズが反応したら――」

「大丈夫。柱の所にいても聞こえるくらい、大きな音が出るから。すぐに分かるよ」



 一同は席を立ち、家を出た。

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