第30話 ディルンムット

 賢者ディルンムット。とても背が高い。少し垂れ目の黒い瞳は、優しい色をしていた。そして、腰のあたりまである灰色の髪の毛は、後ろで一つにくくられている。髪の毛と同じ灰色のローブを羽織り、手は黒の手袋、そして皮のブーツを履いていた。彼の足音はとても不思議で、ガシャ、ガシャ、と金属が当たるような音がする。


 彼の家は、とてもキレイだった。彼はリリーシャがいてくれるおかげだと言う。アルゴスとサーヤ達の家と同様に、豪華な装飾や宝が置いてあるわけでもなく、贅沢とは無縁のような、普通の家だった。部屋の隅には金属の棒や板、塊が邪魔にならないよう並べられている。彼は金属を扱う事にけている。これらで様々な物を作るのだろうか。そして、棚には鏡がいくつも並べられていた。



 通された部屋のテーブルの席にそれぞれつく。エクレーは、自分はただの影なので、上の身分の方と同じ席にはつけないと、サーヤの後ろで立っていた。

「そういうの、僕は気にしないから、疲れたらいつでも座っていいからね」

「恐れ入ります」

 ディルンムットが優しい笑顔を向ける。エクレーは頭を下げた。サーヤとマットウェルの二人は、彼の様子をずっと見ていたのだが、とても誠実だ。嘘の笑顔でもない。


(やっぱり、何か訳があるんだ)


 サーヤは確信していた。



「魔界への穴が開いた時、蓋をしていただき、ありがとうございました」

 サーヤは最初に言わなくてはと思っていた礼を言った。

「いや、それが僕の役目だからね。入り込んでしまった魔族の対応も必要になる。アルゴスは忙しくしているだろう?」

「あ……えっと……」

 サーヤは口ごもってしまった。

「どうかしたのかい? アルゴスに、何かあった?」

 ディルンムットが話の先を聞きたそうにしていたのだが、サーヤは勇気を出して口を開いた。

「あのっ! その前に、お聞きしたい事がありまして」

「ん?」

 ディルンムットは首を傾げた。

「町で、ディルンムットさんの話を聞きました。三年前、町が襲われた時の事です。賢者について、良い印象を持っていないようでした」

「ああ、それか……」

 彼は困ったように眉を寄せて、視線を落とした。

「確かにあれは、僕の行動も悪かったと思う」

「そんな事ないわ! ディルはいつも町を守ろうとしてる」

「いや、事態の収拾を焦って、町の人を置いてけぼりにしてしまった。怖い思いをさせたのは、僕の責任だ」

 リリーシャは首を横に振っていたが、ディルンムットは自分を責めていた。

「そうだね。君達に誤解されるのは悲しいからね。言い訳に聞こえるかもしれないが、正直に話すよ」



 そう言って、ディルンムットは語りだした。

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