第三章

第25話 ここは?

 眩しいほどに輝いていた周りの光が、徐々に引いていく。



 目を開けると、そこは木に囲まれた場所だった。



「あれ?」

 サーヤは首を傾げた。

「同じ場所……じゃないよな」

 マットウェルも今の状況をよく分かっていない。

 降り立った所は、見渡す限り木ばかり。ここは森の中だ。


「オレ様達がいた森とは違うぜ。柱は見当たらねぇけど、森を抜けた先に町が見えた」

 コルが木の葉の間を縫って飛び、空から位置を確認してくれた。

「師匠、柱の所に飛ばすって言ってたよね」

 柱の近くでもないようだ。これはどういう事かと眉を寄せる。

「ガイヤが不安定な状態だからか? アルゴス様の所は装置のおかげで力が強化されたけど、魔界の穴の影響はけっこう深刻だったとか」

「マットの考えも一理あるかもしれませんね。柱同士の繋がりも不安定なのかもしれません。着地点がずれてしまったのでしょう」

 エクレーが周りを見た。

「なんだよマット。お前、けっこう頭使えるんだな」

 コルが意外そうに言った。

「俺を剣だけのバカだと思うなよ。状況を把握した上で、可能性を考えただけだ」




 ――マット、闇雲に突っ込んじゃダメだ。相手をよく見て、何を考えて、どう動こうとしているのか見極めるんだ――

 ――えぇ!? 相手の考えなんて分かんのか?――

 ――目や体のわずかな動き、足を前後どちらに動かしたかで、だいたい次の手が読めるよ――

 ――だからいつもお前に剣でかわされるんだな……。勝てねぇわけだ――

 ――状況を把握して、推理するんだよ。いくつもの可能性を考えておけば、いざという時、混乱しないだろ?――

 ――ジョシュは頭良いな。なぁ、俺にも教えてくれよ! 頭脳戦ってヤツ!――

 ――いいよ。俺達はもっと強くならなきゃいけないもんな。エイナを守る為に――




「……」

 頭の使い方を教えてくれたのはジョシュだった。彼の教えは剣術だけでなく、全ての状況において使えるものだったのだ。行方不明の兄弟と幼馴染。すぐにでも探しに行きたい。無事をこの目で確かめたい。そう思うだけで、何もできない自分に苛立ちがつのり、胸の奥がキュッと締め付けられた。


「マット、大丈夫?」

「! サーヤ……」

 はっと我に返る。目の前にエイナと同じ顔をしたサーヤが、自分の顔を覗き込んでいた。暗く、思い詰めた表情だったかもしれない。心配させてしまったかと、マットウェルは明るく振舞った。

「何でもねぇよ! 腹減ったなぁと思っただけ」

「頭使ったからだな」

「あ~、俺、今焼き鳥が食いてぇ気分」

 マットウェルがじろりとコルを見ると、びくりと体がはねたコル。

「俺を見んな。俺は影だぞ! うまくねぇぞ!」

「食ってみねぇと分かんねぇだろっ」

 コルを追いかけた。コルは、いやあっ! と悲鳴を上げて逃げている。

「とりあえず、見えたっていう町に行ってみようか。ここがどこか分からないと、金の賢者の所にも行けないし」

 サーヤが話を元に戻す。

「そうしましょう。コル、どっちに行けば良いの?」

 エクレーの声は静かだが、不思議と誰の耳にも届く。ぎゃあぎゃあ騒いでいたコルもぴたりと逃げるのをやめ、サーヤの肩に戻って来た。

「こっち」

 羽で方角を指示する。マットウェルも本気ではなかったので、くくっと笑いながらもふざける事はしなくなった。


 三人と一羽が歩き出す。今は、ここが金の柱の管轄なのかも分からない。とにかく進まなくては。




 森を進む中、コルは先ほどの事は冗談で、食べられる事はないと分かっていながら、それでもマットを少し警戒していて、チラチラ見る事をやめない。マットウェルは、しばらくその状況を楽しんでいた。

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