第19話 確認

 マットウェルとエクレーは、森の奥にある土の柱の元へたどり着いた。柱は黄色く輝いている。暖かく、優しい光で辺りを照らしていた。


 その前でサーヤはへたり込み、ぷるぷると肩を震わせている。



『いやぁ、ごめんて』

「ごめんじゃ済まないよ! どうすんのっ、死んだも同然でしょうがっっ!!」

 サーヤが怒っている。アルゴスの術で助けられたということは、魂はもう家の所にはいないという事を物語っていた。ズローブルとの戦いで倒れ、魂だけになってもサーヤ達を助けに来てくれたと察したのだ。それは間違いなかったのだが、目の前で柱からアルゴスの声が聞こえ、サーヤと話している。

「あ、マットとエクレーも来たか」

 コルが気付いた。

「二人ともっ、ちょっと聞いてよ! 師匠ってば体を失ったのに、ごめんごめんて、めちゃくちゃ軽いんだけどっ!!」

『しょうーがないじゃない。あいつしぶとくてさぁ、奥の手使わないと封印できなかったんだもん』

「だもんって……」

 マットウェルは少し拍子抜けしていた。死んでもなお娘の為に力を振り絞ったなんて、泣ける要素があるはずなのに、会話が軽い。軽すぎる。

「封印、ですか」

 エクレーが柱の前にひざまずき、確認した。アルゴスはええ、と声を出す。

『だめねぇ、長く生きてると力もおとろえちゃうのかしら。魔族の回復力を甘く見ちゃいけないわよ』

「分かりました。肝に銘じます」

 エクレーがうなずく。コルも眉を寄せてうつむいていた。

「……」

 マットウェルは静かに柱を見つめている。

『あのさ、申し訳ないんだけど、あの魔族が柱の光でちゃんと消えたか確認してほしいの。蛇の魔族は消えたのが見えたけど、あいつは木々と一体化してるから、気配がつかみにくくて』

「……分かった」

 サーヤが立ち上がる。暗くなる前に確認しなくては。

「師匠、ずっと会話、できるの?」

『私の魂は柱と一つになってる。私の自我を保っていられるのは、そう長くないかもね』

「了解。すぐ戻ってくる。エクレー、腕を出して」

 失った右腕をサーヤの前に出す。サーヤが腕に触れると、みるみる元に戻っていった。

「えっ、えぇ!? どうなって――」

 マットウェルは目を白黒させている。

「後で話すよ。今は家に戻らなくちゃ。みんなで行く?」

 皆が頷き、再び森の中へ走って行った。




「これは……」

 森を抜け、家に着いた。そこには瓦礫の山となった思い出の家と、大きな木々の塊があった。

「この中にズローブルが?」

 マットウェルが恐る恐る近付いて見上げる。ツタや木の根がからまり、大きく葉を茂らせた巨木になっていた。根の間から様々な花が咲いている。

「この木や花が、師匠の体……」

 サーヤがそっと触れてみる。張りがある葉は、十分な栄養を吸っている証拠だ。

「魔族の体は見当たらない。中も根でいっぱいになってる」

「サーヤ、分かるのか!?」

 彼女は木の根に手を触れているだけだ。それで中の様子を感じ取るなど、常人のできる技ではない。

「私は、影を操る事が出来るから。私の影が重なっていれば、影の中の様子を感じ取れる。今、魔族の反応はないけど、肉片一つで体を復元できる奴なら、はっきりと消滅したとは言い切れないわ」

 アルゴスの、魔族の回復力を甘く見るなという言葉に、サーヤは言葉を選んだ。エクレーとコルも巨木を見上げている。

「今の俺達に、出来る事はないからな。このまま木でいてくれることを祈ろう。でももし、復活したなら今度は俺が斬る。完全に消滅させてやる」

 マットウェルの瞳が強く光った。サーヤは彼の様子を見て、うんと頷く。

「その時は、よろしくね」

「ああ」

「日が沈んでくるぞー」

 コルが二人の間に入って来た。

「アルゴスの所へ戻りましょう。夕飯の支度をしなくては」

「え? 柱の所でキャンプですか? 食料ないのに……」

 マットウェルが首をかしげると、エクレーはふっと笑った。

「行けば、分かります」


 こうして一行は、アルゴスのいる柱の所へと戻る事にした。

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