第二章 土の柱
第9話 到着
コンコン。
「はーい」
とある娘が、がちゃりと扉を開く。そこには、白いドレスに緑の長い髪をさらりと流した、長身の美しい女性がいた。
「森で倒れていたの。ここへ来るつもりみたいだったから、連れて来たわ」
「え?」
女性の後ろには、芝生に横たわるマットウェルがいた。
「誰? 初めて見る……」
「サーヤ、気を付けて」
女性は、サーヤと呼んだ娘に小声で話しかけた。
「彼の気配は魔力を含んでる。事情は分からないけれど、この世界にはない力を持っているのは普通じゃないわ」
「! どこで倒れてました?」
「ここから南東の位置。山二つを越えてきたわ。でもね、あの装束はセレティアの人間が着ている物よ。里とは全く違う場所にいたのが気になって……。あの里は今――」
「師匠から聞いています。聖なる里が、暗黒の魔力で消滅したって」
地鳴りと地震は、サーヤがいる所まで届いていた。空へと突き抜ける黒い光も見えた。それからだ。彼女の師匠が研究室から出て来なくなったのは。
「アルゴスは?」
「研究室にこもって、
「そう。ガイヤから受けた役目を果たさなくてはね」
「はい。アネモス様、ありがとうございました。この子の事は、すぐ師匠に相談します」
「そうして頂戴。じゃあね」
そう言うと、アネモスはふわりと宙に浮かび、くるりと回ると消えてしまった。心地よい風が吹き、サーヤの髪をなびかせる。
「あぁっ、この子を部屋に入れるのを手伝って欲しかった……」
はぁ、と息を吐き、サーヤはマットウェルをよいしょと担いで、家の中に入った。
「う……」
不意に意識が浮上したマットウェル。ゆっくりと目を開ける。木の板が張られている天井だ。自分の家なのかどうかも分からない。
(ここは……?)
体を動かそうとしたが、関節がきしみ、痛くてうまく動けない。指はかろうじて動かせるが、腕が重くだるい。とりあえず首を少し右に動かしてみる。すると、本棚が見えた。びっしりと本が入っていて、どれも美しい金色の文字の背表紙。見た事がないくらい大きな本もある。
(どこなんだろう)
ぼんやりと考えていると、扉が軋んだ音を響かせ開いた。
「あ、目が覚めたね」
サーヤが顔を出した。マットウェルは目を
マットウェルは、どこか懐かしい感情が湧いていたのだが、何故なのか理解できずにいた。
「師匠ー、来て来てー」
サーヤの呼びかけに、遠くで「はいはい」と返事をする声が聞こえた。先にサーヤが部屋に入って来る。
「君、森で倒れてたんだって。私はサーヤ。名前は?」
「なまえ……、いっつ!」
自分の事を思い出そうとすると、頭がズキンと痛みだした。両手で頭を抱え込む。
「名前……分からない。思い出せない……」
「ちょ、大丈夫!? 頭痛がするなら、無理に考えなくて良いよ。お水持って来るから」
サーヤはバタバタと部屋を出て行った。その後ろ姿をマットウェルは見ていたが、自分が何もない空っぽの器のように感じて、恐怖を覚えていた。
「俺は誰だ? 何も覚えてないなんて……」
「そうねぇ、あなたは誰なのかしら?」
突然聞こえた声に、マットウェルはハッとした。扉の所に立っていたのは、足が長く背の高い、色気が香水と一緒に漂っている金髪の美人だったのだが、違和感があった。
声が、男だ。
「えっと……おかま?」
「Mr.レディと言いな」
大柄な美女がぴしゃりと言った。
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