第7話 トイレに行ったら手を洗え

 私が勤めている会社は、自称一流会社である。まぁ、自称一流会社というのは、誰でも名乗れるから自称なのだ……。では、客観的にはどうなのだろうか。よく言われることに、トイレを見ればその企業のレベルが分かる、というものがある。というわけで、弊社の状況を鑑みてみた。


 まず、トイレに行ってみる。汚い。一人のおっさんが、大の方から出てきて、そのまま出て行く。


 ん?


 こら、待て、手を洗っていけ! ハァハァ。


 とりあえず、今後は奴の触った書類や物を触らないことにする。


 ところで、私は平和な冬という季節が結構好きだ。何で平和かと言うと、変な生き物が発生していないからである。


 変な生き物って何? という人は、マリオブラザーズのピヨーン、ピヨーンと動くハエのような生き物を想像してもらえば正確だ。ハエでもブヨでもないが、ピヨーン、ピヨーンと飛び回る、あの手の類の生き物である。カサカサしないだけゴキブリより可愛らしいし、ハエよりもモタモタと飛ぶ動きに愛らしさを感じる人がいるかもしれない。


 が、私は、奴らを愛することはできない。


 なぜなら、奴らが大量発生すると困るからだ。小をすませようと、「シャー」っとやっていると、便器から慌てたように奴らが飛び出してくる。


 こちらとしては、便器に住んでいる奴らに触られるわけにはいかないので、大砲からのレーザビームで果敢にも攻撃を仕掛ける。


 5勝1敗。


 何も聞かないでくれ。


 だが、戦いはそれで終わりではない。小は逃げ場がある。だが、大の場合は逃げ場所が無い。後ろに回られたら終わりだ。ゴル○13を真似て「俺の後ろに行くんじゃねぇ」と文句を言うが、奴らは言うことなど聞いたりはしない。


 だから、座るまでが戦いだ。近寄ってこようとする奴らに対し、変化自在のキックで対応。キック、キック、キックの鬼となる。しばらくすると戦に破れたものどもが、床に黒いシミとなっているのだ。


 まさに兵どもが夢の後……。と思ってスッキリしていたら、再び奴らは現れる。お前らはどんだけー。


 仕方が無いので、殺虫剤を持ってきて撒いてみた。


 あっという間にいなくなった。


 しかし、次の日には、同じだけ発生していた。


 そのうちいなくなるだろうと、あきらめた。


 確かに、冬が来るといなくなった。だが、もうしばらくしたら、またあの夏が始まる……。ブルーになる。そういえば、去年の夏は、人間との戦いも激しかった……。


 とある日、トイレの大のルームに一枚の紙が貼られていた。


「使い終わったら水を流しましょう。 総務部」


 というものだ。いたって普通の張り紙だ。勿論、しばらく平和だったのだが、ある日、汚い字でその紙に書きこみがされていた。


「オマエモナー」


 その日からだ。凄まじい戦いが開始されたのは……。


「いつもちゃんと流していませんが、何か?」

「ちゃんと流せ、ゴルア!」

「流石だな、俺たち」

「流してないのは、複数いるのか? 小一時間問い詰めるぞ」

「だが、流さないのは、自分も臭いという諸刃の剣。素人にはお勧めできない」

「釣れたー」

「今さらですか? 晒しアゲ」

「プッ、それで煽ってるつもり? sage」

「正直スマンかった」

「うんこをうんこと見抜けない人は、トイレを使うのは(ry」

「もう、ダメポ」


 そして、この「もう、ダメポ」が書き込まれた瞬間に戦いは終わった。ネタが付きたのかもしれない。その書き込みがされてから、一週間が過ぎ去った。気がつくと注意書きの紙は剥がされていた。


 弊社は大丈夫なのだろうか? トイレに入るたび、そう思う今日この頃である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る