第3話 子会社の立場

 今は昔、パワハラが一般的日常生活の時代、ティターンズが連邦より一階級上なように、子会社の社員なんて親会社から見れば一階級、いや三階級、若しくは犬のように扱われてたことがあった。


 と言っても、そんな人いるはずない。犬扱いする親会社の社員がいるという噂は噂で誇張だと思って聞いていたが……。てゆーか、ゴキブリとかナメクジ扱いする人がいるんですが!!


 部署の伝統とか言うのもあるのだろうが、酷い人がいる部署は、全体的に無茶苦茶だ。勿論、良い人もいるんだが、凄まじい人もいるわけで、そう人の印象が強く残ってしまうという傾向も確かにあるかもしれない。


 そう、あれは数年前、ある物品の納期が近づいてきた年度末のある日。


 そう、そこは修羅場。1日は、24時間=1日は、3日ある=1ヶ月あれば、3ヶ月と同等である。


 という、理解不能な連立方程式により、納期まで十分な余裕があると判断され、突如現れた親会社社員に仕様変更を命令された我々ゴキブリは、さまざまな攻撃を受けていた。


親会社様担当A:「お前(当然、ゴキブリの名前など呼ばない)、例のやつできたか」


私:「それに関しましては、今やっているところです」


親会社様担当A:「この馬鹿、口答えしてんじゃねーよ。会社に何しにきてんだよ。さっさと仕事しろ。あーあ、だから馬鹿をいくら増やしても使えねーんだよ」


親会社様担当A:「XX、お前の会社はどうなってんだよ。ちゃんと仕事できる奴はいねーのか。ごるぁ」


弊社部長XX:「そうは言われましても……」


親会社様担当A:「子会社の役職は黙っていろ! ここは、親会社の拠点である! 子会社とは、やり方がちがーーーう!」


 ティ、ティターンズですか? ここは……。散々、好き放題言って去っていく親会社様の担当Aさん。


私:「部長ーーー。助けてください」


弊社部長XX:「課長はどうしたんだ?」


 あそこで過労死しています。と言いつつ、部屋の片隅で目を開けながら寝ている異臭を放っている物体を指差す私。


弊社部長XX:「大丈夫か?」


 大丈夫かなんて聞かれても、自分自身が精一杯だから知らない。死んだら労災ですよね? とギャグっぽく言いたくなるが、そんな気力もない。


私:「明日の会議は、部長も絶対来てくださいね」


弊社部長XX:「分かった。明日は、○○さん呼んでくるよ。何時からなんだ?」


私:「8時からです」


「朝一からかー」、と呟く部長に対し、私は、「20時ですよ」と言い直すと、部長は苦い顔に変わったが、「とりあえず、絶対に○○さん呼んでくるよ」という言葉を残してさっさと逃げるように帰っていった。


 私は、このとき、○○さんがなんで出てくるのかは分からなかった。この時は……。


★ ★ ★


――次の日、20時、親会社様会議室


 定例の親会社様での打ち合わせに部長も○○さんも来ていた。ちなみに、○○さんは、研究所の所長である。後から聞いた話だと部長と○○さんは、飲み仲間で結構融通が効く仲らしい。


 会議室はそれほど大きくはない。5、6人入る程度の広さ。長テーブルを二つ繋げてAさんがお誕生日席、会議室の奥側のお誕生日席側から部長、〇〇さん、手前側のお誕生日席側は課長、私という布陣で会議は始まった。


親会社様担当A:「だから、特性がいまいちなので、その部分の仕様を修正するように」


弊社課長:「その部分に関しましては、先日の打ち合わせで、仕様範囲内ということで御社設計部門の方と調整が……」


親会社様担当A:「分かんねー奴だなー。変えろって」


弊社部長:「その部分は、御社の問題と聞いていますが……」


親会社様担当A:「XXは、黙ってろ!」


○○さん:「さっきから聞いていたけど、どちらかというと、やはりそれは御社の問題ではないかな」


親会社様担当A:「五月蝿い! やれったらやれってんだよ!」


 Aさん、逆切れ状態である。理屈など無い。反論されたのが気に入らない。そんな態度だ。


○○さん:「君では話にならないな。部長呼んできてくれないか?」


「呼んでくる必要なんかない!」と言って、Aさんが椅子を蹴ると、今度は○○さんが切れた。


「さっさと呼んで来い!」と言って、立ち上がって正拳を振り下ろすと……


『ばこっ』って音とともに、長テーブルがひび割れる。Aさんが、驚いていると○○さんが、「何度も言わせるな!」と言って、さらに『ぼごん』と長テーブルを叩いた。


 大きな穴が開いている。もう、完全に長テーブルは使えそうにない状態だ。てゆーか、○○さんのコブシから血が滴っている……


 これには、さすがのAさんもびびったのか、速攻で親会社様の部長を呼びに行く。


親会社様部長B:「○○さん、ご無沙汰していました」


 親会社様部長の態度を見てAさんは怪訝そうな顔をする。多分、虫けら扱いすると思っていたのだろう。


○○さん:「Bさん、社交辞令はいいですよ。それより、御社の教育方針はどうなっているんですか? 納期直前に仕様変更とか……。下請法が関係ないとしても契約上の問題がありますよ」


親会社様部長:「そうは言いましても、納期が厳しいものですから……」


 どうせ、部下がやってること見て見ぬ振りしていたくせに、と思いつつ、親会社様部長Bと○○さんの戦いをしばし眺めていた。あくびを噛み殺していると、親会社様部長の表情が徐々に陰っていく。


○○さん:「……ですので、御社の問題ですよね。弊社の仕様は、そのままで問題ありませんよね」


親会社部長:「分かりました……」


 ををををぉぉ? 押し切った? こうして、○○さんのおかげで窮地を脱した我々は、一週間後、無事に当初とほぼ同等の仕様で製品を納入して、案件を終了させることができた。後日、課長に、「どうして○○さんはあんなに強いんですか?」と質問をすると、「なんせ、叔父さんが親会社の△工場の工場長で、弟さんが、人事部部長だからなぁ」との返事。「なんで、うちにいるんですか?」とさらに質問をすると「○○さん、長男だし、親父さんの体の調子が昔から良くないから、親会社さんだと転勤もあるだろうからってことで、うちにしたらしい」とのこと。


 なんにせよ、無敵フラグ立っています。けど、逆に言えば、それくらいのフラグがないと親会社様と対等になれんのかい……。


 そして、先日、完成図書を納めに行ったときのこと、Aさんはかなりやつれていたが、穏やかになっていた。


 ふと、壁を見ると、「パワーハラスメントは止めましょう!」という総務発行の通達が貼られていた。なんにせよ、今回は無事乗り切ったようだ。そして、部署に帰ってきてイントラネットの掲示板を見ると、私たちのグループが、孫会社へと業務移管された通知が掲載されていた。


……。

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