おじいさんとおばあさん

  むかしむかしのことです。おじいさんとおばあさんがいました。

 おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんはその帰りを待ちながらお米のとぎ汁で布巾をしぼっていました。

「おい、婆さんや。」

 おばあさんがしぼったばかりの布巾をお日様に当てて乾かしている時でした。突然、おじいさんが大きな斧を持ったまま家に帰ってきたのです。おばあさんが振り返るとおじいさんの足元には薪に使う小枝が落ちていました。

「爺さん、どうしたんだい?」

 不思議そうに首を傾げるおばあさんに、おじいさんは何事もなかったかのように笑います。

「ああ、すまんなぁ、驚かせて……少しこの森の様子がおかしいと思ってな。ちょっと気になって来てみたんだよ。まぁでも大丈夫だろ、ほら帰るぞ。」

「え?もう帰るのかい?」

 おばあさんの手を引き、家路に向かうおじいさんの顔からはさっきのような笑みは消えており、その目は鋭く尖っていました。そんなことを知らないおばあさんは何もないところでつまずくと持っていた籠を落としてしまいます。

 ドサッ。地面に落ちた籠から飛び出た野菜を見ておじいさんは大きくため息をつくと言いました。

「やっぱりな……。今日はこのへんにしとこう。」

「どういうことだい?」

 不思議そうな顔をするおばあさんの問いにおじいさんはただ笑っていました。それから数日、おじいさんは朝早くに起きて朝食もそこそこに出かけて行ってしまいました。そして夜遅くまで帰ってきません。そんな日々が続き、次第に二人の距離は開いていきました。ある日のこと、おじいさんは大きな麻袋を担いで家に帰る途中でした。

「おう、ばっちゃん元気だったか!」

 大きな声で呼びかけるおじいさんの姿を見るとおばあさんの目が大きく開きました。そこにはいつものように元気な姿で荷物を運ぶ自分の姿が写っていたのです。しかしそれは一瞬にして暗闇に包まれたように消え去ってしまいました。

 ドサッドサッ。目の前に現れたのは自分の変わり果てた姿です。

 おばあさんは自分の体に目を見やり、驚き声も出せずにいます。その様子を見たおじいさんはニヤリと笑いました。するとおじいさんの周りから真っ黒なものが現れおばあさんを包み込んで行きます。

 ……ここまで読んだ司書が顔を上げると、聴いていた子どもや親が、ドン引きした顔でこちらを見ている。

「あら、どうかしました?」

 たまたまその様子を見ていた同僚がツッコむ。

「いや、普通わかるでしょ」

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