キングズ・ロー図書館

今村広樹

ある勇者のお話

 むかしのはなしです。

 世界は悪いドラゴンに脅かされていました。

 そしてドラゴンを倒すために勇者が志願して、いま決戦のときです。ドラゴンはとても強くて勇者の攻撃ではなかなか倒せません。でも何度も攻撃をすると少しずつ体力を奪えました。

「うおおお!」

 勇者も攻撃しながらどんどん疲れていきます。

 でもがんばって戦い続けます。なぜなら勇者にとってこれは使命だから。

 この世界のすべての生き物を救いたい、それが勇者の夢でした。

 そんなとき勇者はあることに気づきました。なんと悪いドラゴンの身体から小さな子供の声が聞こえてきたのです。その声はこんなことを言っています。

「お腹空いたよ」

 どうやらこのドラゴンは悪いことする代わりに食べ物を欲しがっているようでした。しかしドラゴンはたくさん食べるのですぐに食べ物は無くなってしまいます。だから仕方なく他の人を襲います。

 それを聞いて勇者は泣きそうになりました。

 勇者だって生まれたときは普通の人間だったんです。誰かを食べたりなんてできるはずがない。

 だから思い切って尋ねてみることにして、ドラゴンに近づきます。そして剣を捨て話しかけようとしました。ところが……。

 ガブリ! いきなりドラゴンに食べられてしまいました。それでも必死にもがきながら叫びます。

「おいらは食べても美味しくないぞー!!」

 こうしてドラゴンを倒して世界に平和が訪れました。

 それからというもの、この世界の全ての人は困ったことがあったり、悩みがある時は空を見上げるようになりました。それは勇者が自分の命を犠牲にしてもみんなを守りたいという想いが伝わってきて勇気づけられるからだと言われています。

 おしまい

「……なんだこれ、ヘンなハナシ」

 絵本を読みながら、首を傾げる少年に母親が声をかける。

「ほら、帰るわよ」

「はあい」

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