第6話 屋根裏部屋の灰学生
その後。遠藤美千代さんの存在は、私を除くすべての生徒達、教師たちの記憶から消えていた。
どうやらA組の里佳さん、C組の飛鳥さんが恐ろしい怪物から黒百合に助けてもらった……ということだけが皆の記憶に残っているらしい。美千代さんのことを聞いても、そんな生徒は初めから存在しないことになっているらしかった。
そして私は今どうしているかというと。
「まあ、本当ですの?」
「いやだわ、うふふふふ……」
寮の談話室でお嬢様たちの談笑を横目に、エプロンをつけて、お茶菓子の配膳や片付けをしたり、テーブルを拭いたりしている。このあと生徒達が談話室を出たら、雑巾で床磨きだ。
どうしてこうなったのかというと……私にもまるでわからない。
暴令嬢戦士、紅薔薇が黒百合と勝負して去ったその日の夕方のホームルームで。いきなりクラス担任の教師が、壇上で灰色の封筒を懐から取り出して、読み上げた中身いわく。
「黄崎アリサ。素行不良により、貴女から特待生の資格を剥奪する」
「はっ? 何ですか素行不良って!?」
「
として働いてもらいます。」
「えっ、サンドルって何ですか」
「雑用係として働きながら授業に出席することが許された生徒のことです。詳しい説明は後でね。……ついては、今日中に寮の部屋の荷物をまとめ、東寮の屋根裏部屋に移るように。以上、
「なんですかそれ!? そんな横暴が通るわけ……!!」
しかし横暴は通ってしまった。
寮の私の部屋の荷物はすべて引き払われて、屋根裏部屋へと移動された。実家の自室より狭い部屋に、簡素な机とベッドが置かれた薄暗くて埃っぽい部屋。
今まで知らなかったけれど、
そしてこの屋根裏部屋の
「あー! あの時の土下座先輩!!」
「どげ……? あ、私、2年生の灰野
そう言って、土下座先輩……灰野紅緒は、ふへへ、と笑った。
………あ~~~もう! どうしてこうなった! 私をこんな目に遇わせた黒百合、絶対にゆるさないわよ!
ついでに黒百合のことを刺激した暴令嬢戦士、紅薔薇にも責任があると思う!次にもし会ったら、うんと文句を言ってやるんだから~!
私は怒りのパワーを雑巾にぶつけ、談話室をピッカピカに磨いてやったのだった。
※ ※ ※
「きゃああ! 白百合様のお通りですわ!」
本校舎では、生徒会長の
日本人離れした淡い色の巻き毛に、薄青色の瞳をした白百合雪子は、フランス人形が歩いているかのような美少女だ。彼女は、他の生徒とは全く違う、真っ白なセーラー服を身に纏う。袖やスカートには、他の制服には無いレースやフリルがふんだんにあしらわれていて、制服というよりドレスのようだ。
そんな彼女のそばには必ず、黒百合円香が騎士のように付き従っているのだった。
「円香、暴令嬢戦士が現れたそうですね」
雪子は、他の生徒に聞こえないようにそっと黒百合に囁いた。
「はい。しかし気にすることはありません。私が必ず始末します」
「まあ、残念。暴令嬢戦士を見てみたいと思っていましたのに」
「雪子」
「ふふふ、冗談ですわ」
雪子がくすくすと笑う。他の生徒たちは、話の内容は聞こえないながら、その笑顔の美しさに、ほう、とため息をついた。
しかし、次の瞬間。自分の足元を見た雪子の顔がさっと曇った。
「まあ、廊下に綿埃が……」
その言葉をきいた生徒たちが、慌てて一斉に廊下に飛び出した。
「白百合様! どうか私をお踏みくださいませ」
「わたくしも!」
名だたる令嬢たちが、次々と廊下に腹ばいになって、白百合が上を通るのを待つ。人間カーペットだ。
「まあ、みなさん、ありがとう」
「まったく……しっかり掃除をするよう、
白百合が細い足を踏みしめるたびに、カーペットになった生徒から、悲鳴とも嬌声ともつかない声があがった。
暴令嬢戦士(あばれいじょうせんし) 紅薔薇(ローザ・ルージュ)パイロット版 藤ともみ @fuji_T0m0m1
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