代田会弦とリミッター 07
九年前から日本の首都である名古屋。
近衞財閥のグループ会社の多くがここに本社を構えている事もあり、市の中心部以外でも超高層ビルがそびえ立つ世界有数の経済都市でもある。
そんな摩天楼の中でも一際高く目立つビルがあった。
そのビルは対ヴァイラス組織CVOの日本における司令塔の役割を果たしており、大陸に蔓延るヴァイラスが太平洋に進出するのを阻止する役割も持っている。
その為世界中のCVOの隊員の中でも選りすぐりの
その猛者達の中でも上澄み中の上澄み、現在世界に二人しかいないCVOで最強を表す肩書き『最高オフィサー』。
その一人がここCVO日本支部セントラルタワーの最上階の最高司令官室で、
「グゴーー」
爆睡していた。
「ああっ!こんなとこにいてはったんですか!めちゃッくちゃッ探したんですからね!てかなに寝とるんですか!起きて下さい!」
重厚な扉がバン!と音を立て
暖房の効いた部屋に太ももまでかかる黒のダボダボのパーカーにパンツ一丁で寝ていた彼女はその少女の声でうっすらと目を開けた。
「んっ…ああ、 ヒナ か。何の用?」
「『何の用?』ちゃいますよ!あなたが寝とる間に小型のヴァイラスが福井防衛線を突破したって通報が来はったんですよ!あまりの速さにレーダーが捉えられんくてどこに行ったか分からんかったんですけどついさっき居場所が特定されたらしいです。対処レベルは4に設定されて、上級隊員は勿論、最高オフィサーであるリアンさんにも出動要請がありました。」
リアンと呼ばれたその女性はアイマスク用に被っていたパーカーのフードを外し頭をポリポリと掻きながら体をダルそうに起こす。
先程まで上半分がフードに隠れていた凛々しい顔にはアクセントのようにつけられた菱形のピアスが右耳についていた。
ダボダボの身体のラインが出にくいパーカーとショートカットの髪型、そしてその顔も相まってリアンのスタイルはとても中性的な印象を与える。
「うー…面倒臭いぃ。まあでも給料出して貰ってるし行くしかないか…。ヒナ、兵器管理部から私のUS取って来て。」
「良いですけど…ブラジャーぐらい付けてから出動して下さいね。」
パーカーのヨレヨレの襟からは彼女の控えめな胸がチラチラと見えている。
はしたない、とヒナは思っているのだが無理にキチンと直そうとするとこの部屋の主であるCVO最高司令官から『分かってないなぁ関ヶ原ちゃんはァ』ともの凄いムカつく顔で説教を喰らう為、ヒナは一応人様の前に出れる最低限の身だしなみだけ整えてやることにしている。
一応言っておくが最高司令は女性である。
まあお陰でこのセントラルタワーに常駐する男性隊員の離職率は他のCVO施設に比べて恐ろしく低いらしいので、自他共に真面目な性格と認めている関ヶ原ヒナは彼女を見る度に悶々としているのだ。
「クジラのヴァイラス以来だね、防衛線を突破されたのは。」
リアンは数ヶ月前名古屋で起きたヴァイラス災害を思い浮かべる。
あの時リアンはいち早く現場に駆けつけたものの、たどり着いた頃にはヴァイラスは既に球体の肉塊と化していたのだった。
世間ではその不可解な一連の騒動に当時様々な憶測が飛び交ったものの結局ヴァイラスの自爆という腑に落ちぬ結論に落ち着いた。
レーダーに引っ掛からぬステルス性能と光化学迷彩の鱗を持ち視認もしにくかったとはいえリアンが駆け付けるより前にヴァイラスが倒されていたのは彼女がCVOに入ってから初めての事であった。
「ともかく先に
「横浜あたりでいいよ、そこまで行けば私のUSの方が早く着く。ちなみに東京のどこなの?」
リアンがブラジャーをつける為パーカーを脱ぎながらそう言った。
「立川です、今ノギア学園がそこで試験をやっとるらしくて通報もさっきそこから…」
その言葉を言い終わるか否かのところでリアンは付けかけていたブラジャーを放り出し、再びイスで寝始めた。
「ちょっと!何やっとんですか!早よしないと怒られますって!みんな下でリアンさん待っとるんですから!リーダーいないと動けんのですよ日本の組織は!」
突如として寝だしたリアンにヒナは焦り出す。
「必要無い。」
「え?」
「行く必要がないって言ってる。司令室にも知らせて、駆除隊員じゃなく事後処理班を向かわせろって。」
「じ、じゃあ今立川にいるヴァイラスは誰が…対処レベル4ですよ⁉︎」
「問題ないよ」
リアンはその黒く吸い込まれそうな瞳ををヒナに向ける。
「会弦がいる。」
◆◆◆
もう大丈夫だ。
彼が迅来して最初に感じたのはそれだった。
登場した瞬間その男はこの場のパワーバランスを一気に変えた。
一晩中桃鉄でもやってたんですかって程のげっそりとした顔からは想像もつかない程のシャツの袖口からはみ出る鍛え上げられた腕。
何故か片方だけ宝石の様に光る金色の眼は眼下のヴァイラスに冷たく向けられている。
圧倒的強者が醸し出すものであろうそのオーラは彼の事を何も知らない俺にさえ『彼に任せておけば安心だ』と思わせた。
「お前の事は知ってるよ!代田会弦!」
頭を踏みつけられ、口が裂けたような笑みをしながらヴァイラスはそう叫ぶ。
代田と呼ばれた男はその両手に二つの黒緑色の手斧を持ちながらその叫びを心底嫌そうに聞いていた。
恐らく手斧はUSだろう。
「俺のこと知っているのか?」
「流石にこっちも無学じゃ無いさ。人類最強とも言われる個体をこちらがマークしない訳がないだろう?」
俺も知っている。
いやというか世界で代田会弦の名を知らない奴なんかいない。
かつてCVOの超エリート戦闘員、最高オフィサーとして総数約一万七千体のヴァイラスを殺し『人類の盾』と呼ばれた男。
特にポーランド防衛戦線での彼の活躍は現在の歴史の教科書に載るレベルの偉業として称えられている。
最近噂も聴かなくなって消息不明とか言われてたけど…ノギアの教員とかなのか?
「そこの君。」
「!」
唐突に代田は俺に声をかけた。
「このヴァイラスは何か『奇妙な力』を使わなかったですか?」
「いや…特に。」
強いて言うならめちゃくちゃ脚が速いとかそんな所だが、別に『奇妙』って訳じゃ無いしな。
ヴァイラスだしあれぐらいのスピード出るだろ、知らんけど。
「些細な事でも構いません。この手の喋るヴァイラスは何かしらの事象に関連する能力を使うので。」
ああ確かに、トトも『引き寄せ』の能力を持ってたしな。
途端にトトが懐かしくなってきた。右腕からひょっこりと出てきてくれないかな。
…てかあれ?
右腕のこと代田にバレたら俺
俺は右腕をそっと隠した。
「もういいでしょ。どうせこの状況で君からは逃れられないんだからさ。とりあえずこの足退けてよ。」
ヴァイラスはそう諦めたようにそう言った。
何か誤魔化すように。
「そうだな、だがその前に…お前にはマトモに動けなくなってもらう。」
その言葉と共に代田の背中から四本の鎖がジャラジャラと音を立てながら生える。
触手だ。
そして地べたに這いつくばる彼を戒めるかの様に十字架の上にリングをあしらった(確かアンクとかそんな名前だった気がする)ものが触手の先端に形成され、彼はそれをヴァイラスの両腕両脚にそれぞれ一本ずつ計四本打ち込んだ。
刺さる時に明らかに痛そうな音がしたがヴァイラスの方はケロッとしている。
恐らく痛覚がないのだろう。
触手は先端のアンクのみを四肢に残して分離し、そのまま触手は代田の背中へと仕舞われた。
その直後にアンクは ガコン! と何かがはまったような音を出し、更に奥まで刺さる。
その動作を確認し終えた代田はヴァイラスからゆっくりと足をどかした。
そして代田が踏むのを止めたというのに、ヴァイラスは起き上がる気配すら見せなかった。
「確かに手脚に全く力が入らない。いや力を入れてるのに動かないと言った方が正しいか…一体何をしたんだ?」
ヴァイラスは相変わらずそのニヤケ面を貼り付けながら彼に聞く。
「答える義務はないな。CVOが来るまでそこに突っ伏してろ。」
「…はーい。」
呑気そうにヴァイラスは言った。
そんなヴァイラスを横目に代田は俺に話しかけてきた。
「君、名前は?」
「八木カムナです。」
「八木君、君はここから離れなさい。何故かは後で聞きますが、先程の状況を見るに君が狙われていたのでしょうし。もし歩くのがしんどいのならこちらにいてもらっても構いません。恐らくもうすぐここにCVOの事後処理部隊と救急隊が来るので運んでもらうといい、彼女も一緒にね。」
代田は少し凹んだ壁の下で意識を失っているリスキィの方を向いた。
彼の言う通り逃げようと思ったが、腹を中心に色んなところがクソ痛くて長い距離歩くことも出来なさそうだし、とりあえずヴァイラスは彼に任すとして俺はリスキィの介抱でもしているか。
俺は腹部を押さえながらリスキィの元へと歩くことにした。
「___こちら代田。受験者二人の安全と侵入したヴァイラスを捕獲しました。」
手斧を両手で持ちながら代田はそう呟く。
一見デカい独り言のように見えたが恐らくハンズフリーで会話できる電話の様なものを身体に埋め込んでいるのだろう。
つくづく便利だ、俺も欲しいね。
『___オッケー了解。シロちゃんの言ったとーり事後処理部隊が来るって。他の職員も今向かってるよ。』
代田の首筋辺りから若い女性の声が漏れるように聞こえる。
この声どこかで聞いたことがあるな。
確か試験が始まる前会った元気で小さい女性教員の声だ。
「分かりました。ヴァイラスですが十年前と同じく高度な知性を持つヴァイラスです。CVOにはその旨も伝えるよう…」
「突然だけど、ここでクーイズ。この試験で無免許でUSを使っている人間は一体何匹いるでしょうか!」
唐突にヴァイラスはそう叫んだ。
「どうした突然、気でも狂ったか?」
訝しむように代田は尋ねる。
だがヴァイラスはそんな代田を無視するかの如く神経を逆撫でする声色で言葉を続けた。
「ブブー正解は65匹でしたー。残念!で、ちなみにそいつらにUSあげたの俺なんだよね。格安で。」
「そうか、ならそいつらも纏めて警察行きだな。USの無免許使用、ヴァイラス
「少し人の話を聞けよ代田会弦。俺がただUSをばら撒いただけだと思うか?」
「…どういう意味だ。」
ヴァイラスは飄々とした態度を崩さず言葉を続けた。
「感染ってのは便利だけどメンドくてね。対象が疲労状態でなおかつ傷口から直接体内に自分の遺伝子を打ち込まないと即成功しないんだよね。しかもある程度自分の肉片を打ち込まないといけないから回復し終わるまで弱体化するし。この知能レベルまで上げる時なんて…」
「だから何の話だと聞いている」
いつまでも的を射ないヴァイラスの言葉に代田の声色に怒気が含まれ始め、斧を持つ腕には血管が浮き出始める。
「うっさ、まあ簡単な事だよ。混ぜ込んだのさ、受験者達にばら撒いたUSに俺の遺伝子の入った肉片をな。」
その言葉を聞いた瞬間。
代田はバッと後ろを振り返り俺に向かって叫んだ。
「八木君伏せて!」
「!?」
俺が訳も分からず戸惑っていると突如として四方八方のビルの陰から代田に向かって弾丸のような速度で多数の人影が突撃してきた。
「グウゥゥゥウウ!」
雄叫びを上げるソイツらは人の形をして動いているもののその肌には生気がなく、瞳孔は散大し、代田の足元にいるヴァイラスと同じく二本の巨大な牙が口からはみ出していた。
「なっ…!」
「試験で疲労すればするほど、USが体内に浸透すればするほど感染は進行していく。僕に忠実に動く兵隊の出来上がりだ。」
代田は顔をしかめながら、自分に迫り来るヴァイラス一つ一つを手斧と触手でしくじることなく対応していく。
砲弾の雨に晒されているのと変わりないというのに彼は汗ひとつかくことなく己に飛びかかる感染された人間を無力化していった。
「ルグゥウウ!」
「なっ…!」
「ッ八木君!」
突然、感染者の中一人が代田ではなく俺の方へと向かってきた。
その男は俺が最初に戦ったあの金玉潰され男だった。
「クソッ…!」
もう武器もない。トトの能力を使ったところで間に合わないし意味もないだろう。
死
その一文字が頭を掠め、そいつがぶつかってくるまでの時間がスローモーションのように引き伸ばされる。
俺へと激突する最後の一歩の為ソイツが右脚を踏み込んだ瞬間。
その身体はガクンと下にブレそのまま力を失ったかのように地面に激突した。
「!?」
倒れるソイツの向こう側には金色に怪しく左眼を光らせる代田の姿があった。
その視線は俺を襲った立とうともがく『感染者』へと向けられていた。
「アハハッ!触手で触らなくても無力化出来るのか…!
一体どんな手を…?」
だがその隙を突いてヴァイラスは代田の足元から素早く転がって脱出し、距離をとるとゆっくりと起き上がる。
「チッ…運がない。」
「オッ、どういう訳かは立ち上がれるぐらいの力は出るようになった…なるほどな」
ヴァイラスはニタリと笑みを浮かべ、そのまま代田からクルリと背を向けるとそのままクラウチングスタートの構えをとり、走り出そうとした。
『アクセラレーション:ライナー』
「行かすか、US『ジロンド』」
代田が再び金色に光る左眼でヴァイラスが踏み込もうとしている右脚を睨んだ。
それに呼応するかのようにヴァイラスの脚にガコガコンと重機が動くような音を立てながらアンクが現れる。
が、彼はソレをものともしないかのように音を置き去りにして近くのビルへと着壁した。
さっきは身動き一つ取れなかったというのに…なんでだ?
「もう無理さ、何人たりとも僕を止める事は出来ない…とその前に。」
壁を踏み台にし、ヴァイラスは俺が移動したことにすら認識出来ぬほどの速度で肉薄した。
「せめてアイツへの手土産にお前は持っていくとしよう八木カムナ。」
ヴァイラスの右手が俺の頭を掴もうとしたその瞬間、 ハルバードの形をしたソレはグジュリ と生々しい音を出して俺に襲いかかるヴァイラスの掌をブッ刺し、猛スピードで飛んでくる約70Kgの物体をハエを払うようにいなした。
「US『ヴィトリス』」
「リスキィ!」
そう、あの時気を失ったかと思っていたリスキィは触手の形成を解除せず、俺に寄り掛かり密着しながら触手を展開することで俺ごとヴァイラスから身を守ったのだ。
「何も思い通りにいくと思うなよ、ヴァイラス。」
顔面と
怖い。どっちが悪者か分からない。
「チッ…生きてたか、しぶとい奴だ。まあ今回は引き分けだ。代田会弦とそこの女。」
「…リスキィだ。」
「お前ら二人はいつか必ず俺が殺してやるよ…じゃ、ばいば〜い」
そう言ってヴァイラスは感染者を追いかけてくる代田の進行方向に向かってチャフのようにして操りながら数秒も立たぬうちに点となって消えていった。
「ハァ…。」
その光景を見届けた後、俺はヴァイラスが立ち去った安堵感からか急に力が抜けそのまま倒れるように眠ってしまった。
◆◆◆
「気がつきましたか。」
白色の天井に響く男の声で意識を戻し、異様にムズムズする目をゆっくり開けながら俺は上半身を起こした。
俺はベットの上に寝かされていた。
広さは10畳程、ヴァイラスにぶっ壊された俺の部屋より広い。
ふと身体を見てみれば試験の時に負った怪我が手当てされ、左手首には何色とも形容し難い色の点滴が繋がれていた。
サイドテーブルを見てみれば、カゴの中に色とりどりのフルーツが盛られている。
メジャーな物から見たことない物までだ。
その隣で俺の命の恩人である代田会弦がリンゴの五倍はある大きさの手斧でリンゴを剥いていた。
質感を見るに手斧はUSだろう。
疑問なのだが元々体内にあるUSで食べ物を剥くのは衛生的に大丈夫なのか。
…俺は考えないことにした。
どうやらここは病室らしかった。
だが質素すぎる。ベッドとサイドテーブル以外の家具は殆どない。
クジラの時に入院した公営病院の方がまだ賑やかだった。
窓も無くただ蛍光灯の冷たい光が部屋の隅々まで照らしている。
そのせいか実際の部屋の大きさより広く感じた。
そういえば感染した奴らやリスキィ、サルシャはどうなったのだろうか。
あのヴァイラスはなんで急に俺とサルシャを狙ったのだろうか。
疑問が頭の中に次々に生まれ錯綜する。
「困惑するのも無理はありません。まずは順を追って私が話せることは全て話しましょう。」
顔に出ていたのだろうかは知らないが代田会弦…いや代田さんは俺の心の声に答えるように声でそう言った。
その雰囲気はヴァイラスと対峙していた時とは打って変わって温和な印象を俺に与える。
「…そうしてくれると助かります。」
「分かりました、まずあのヴァイラスですが…残念ながら取り逃がしました。」
代田さんはポケットから数枚の写真を取り出した。
そこには様々なアングルと時系列別に撮られたヴァイラスの姿が映っていた。
「ヴァイラスの名はエボル、ヴァイラスがクロムウェルさんの身体を乗っ取る直前に自称していたのがステルスバクの映像に写っていました。完全に四肢の力は封じ込めていたのですが…君とリスキィさんが耐え忍んでくれたというのに申し訳ない。」
代田さんは剥きかけのリンゴを置き、膝に手をついて謝罪した。
「いやいや、闘ってたの主にリスキィですし。代田さんのUSの能力ってなんなんですか?変な十字架みたいなのを刺したりしてましたけど。」
俺がそう言うと代田さんは触手を一本だけ形成し俺の目の前にその先端を動かした。
「私のUS『ジロンド』は生物のリミッターを操ることができる能力を持っています。通常状態で自分のリミッターを、触手の先のアンクを刺すことで刺した対象のリミッターを操ることが出来ます。」
「リミッ…ター?」
「自分の身体を配管、パワーを水、リミッターをバルブに置き換えてみて下さい。一度に多量の水を流すと配管に負荷がかかり、劣化が早くなりますよね。そこでバルブで配管に流れる水を調節する事で安全に、より長い時間水を供給する事が出来ます。形こそありませんがこのバルブのようなものが生物の身体の至る所にあり、パワーの調節を脳が無意識のうちに私達の体で行っています。そして窮地に立たされた際、脳がそのバルブを緩め普段自分が出せない程のパワーを出すことが出来るのです。」
代田さんはいつの間にかりんごの皮を全て剥き終わっていた。
彼が剥いたりんごは皮剥き後の独特のゴツゴツ感がなく、りんごの皮がそのまま果肉に置き換わったんですか?と勘違いするほどツルツルに剥かれていた。
「そして私の『触手』はそれを強制的に調節する事が出来ます。リミッターの数値を低くすればいくら力を入れても動く事も出来ず、逆に高くすれば例えデコピンでも致死性を持ちます。」
「なるほど…。」
火事場の馬鹿力をいつでも出せるということか。
自分にバフをかけれて、触手を刺せば相手には強制的にデバフをかけれると考えていいのならめちゃ強い能力なんじゃないか?
ん?そういえば…
「代田さん、俺がエボルに感染された人に襲われた時触手で刺してないのにリミッターでデバフかけてましたよね。あれどうやったんですか?」
「……。」
そう、あの時代田は触手を使わずにリミッターをかけていた。
エボルが逃げようとした時もそうだ、あの時も目が光ってたのが気になる。
目で見るだけでもリミッターを操れるという事なのだろうか。
でもそんな『見るだけ』でなんて魔法みたいなこと出来るのか?
「悪いですがそれは言えません。国家機密レベルです。」
あ、そこは教えてくれないのね。
まあヴァイラスにも高い知能をを持つ奴がいる以上、そういう手の内が外部に知られてしまうのは得策ではないか。
でもあの目が金色に光るのカッコよかったし、なんとか騙くらかして暴露させられないだろうか。
俺も欲しい。
「じゃあなんでエボルは逃げる事が出来たんですか?」
「試験会場で喋るヴァイラスは特異的な能力を持っていると話しましたよね。ステルスバクの映像データから推測するにあの時彼は脚の筋肉ではなく能力で移動をしていました。」
「というと?」
「彼の能力はおそらく『加速』。データによれば一歩進むごとに最大二倍まで筋肉の出力関係なく加速出来るそうです。あの時の私の触手はヴァイラスの依代となっているクロムウェルさんの筋肉のリミッターに干渉するものでしたので能力で移動するヤツには関係なかった、という訳です。」
「一歩で二倍ってことは…えっと…」
俺の足りない頭を働かせ指を折りながら暗算する。
「初速が人の歩く平均の速さである時速4kmと推測したとしても七歩も届かぬうちに音速を超えますね。」
七歩で…規格外すぎる。俺もよく生き残れたもんだ。
「そうだ、サルシャやリスキィは…というか試験はどうなったんですか?」
「気が付いて無かったんですか?試験は私が君達の所に来た少し前に終了していたんですよ。君が倒れた数分後にペアのサルシャ デメッドさんはアナウンスから数分経ってから君の元へ駆けつけて来ましたよ。倒れているのを見て心配していました、このフルーツも彼女の差し入れです。いいバディを持ちましたね。」
「その後は?」
「君とリスキィさんは緊急搬送、サルシャさんは経歴詐称の件で学校本部に連れて行かれました。その後の情報は私には入って来ていません。ですが噂によると近衞家本邸に向かったそうです。」
「…そうですか。」
まあ偽名を使ってただけだろうし経歴詐称に関してはそこまで重いことにはならなそうだが、問題は近衞だ。
『やらなければいけないことがある』
サルシャが言っていた言葉が頭をよぎった。
感染した奴が戻るかどうかは分からないがクロムウェルがああなってしまった以上俺はその意志を継いでやりたい。
だが…あの時見せたあの怨嗟に支配されてるかのような表情だけが気になる。
「君が倒れてからは大体このような感じです。」
「そうですか……で、最後に聞きたいんですがこれは?」
俺は自分の四肢に何重にもつけられている手錠に目を向けながらそう言った。
起きた時には気づかなかったが首には金属製の分厚いチョーカーも着けられている。
いやというか手錠以前に全く手足が動かない。
これって…
顔を上げると代田さんは先程の穏やかなものとは打って変わった視線を俺に向けていた。
そうまるであの時の、ヴァイラスを眼下に捉えていたあの目。
「…八木君、君に与えられた選択肢は二つあります。一つは今ここで私に殺されるか。もう一つは永久に研究機関で身体を切り刻まれ続けるか。今、選んでください。」
命の恩人から人生史上最悪の二択が提示される。
理由?
HAHAそんなの分かりきってるさ。
自然宿主とトトのことがバレた
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