自称神様を名乗るケモミミ娘と古民家で暮らすことになりました。

十里木

第1話

「……というわけで、今までお世話になりました」



 目に濃いクマがついているため、ついたあだ名は狸。

 まぁ、それほど俺は給料を切り詰め、生活のほとんどを仕事に費やした。

 同期が遊んでも仕事をし、旧友が同窓会を開いていても仕事をしていた。


 そして、やっとたまった3千万円。

 個人的にためたお金でリスク分散をしながら株投資もやっている。


 とにかく、もう会社員として働かなくてもとりあえずやっていけるーーーそれくらいにはなった。

  

 これでやっと念願の田舎暮らしができる。

 悠々自適。

 何物にも邪魔されず、動植物たちと戯れる日々ーーー。

 と、引っ越すその時までは思っていた。



「えっと……どちら様でしょうか」


「あんたこそだ誰よ……。 もしかして、タヌキ?」


 

 玄関前に立っている巫女のような女性は訝しげに訪ねてきた。



「以前勤めていた会社では、そう呼ばれていましたが……ちゃんと人間ですよ」


「ふーん、私はリン。 犬の神様よ」


 

 犬の神様……。

 確かに、よく見ればつややかな黒髪からは犬のような耳が二つ見える気がする。

 と、彼女は再び眉をひそめた。



「……あんた驚いたりしないのね」


「まぁ株が暴落するよりかはマシ、ですかね」


「カブ?」


「いえ、株です」


「……? まぁ、なんでもいいわ」



 文化の違いか、どうも株の意味が食い違っている気がする。

 

 彼女は仕切りなおすように、こほんと咳を一つつく。



「ここは私とおばあの家なの……あんたには住ませられないわ」


「そうおっしゃられても……私はすでに賃貸の契約をしてしまっておりますし」


「賃貸?」


「はい、家を借りる契約です。 えっと……ほら、ここに」


「んー? なんか長ったらしいわね……じゃあ私の試練を乗り越えたら住まわせてあげる」


「し、試練ですか」


「そうよ! 私にーーー花札で勝ったらね!!」



 いつの間に用意したのだろうか。

 彼女は、地面に花札を並べだす。



「私が勝ったら出ていきなさい、あんたが買ったら譲るわ!」


「はぁ、じゃあ勝負しましょうか」


「ふん、私の実力についてこれるかしら!」



 ……勝負は滞りなく進み、あっけなく勝敗はついた。



「うわぁあああん! こいつなんなのよ! 強すぎ!!」


「昔からこういうのは得意でして……」


「んんん!!! こうなったら私も住み着いてあんたに毎日挑んでやるわ!」



 こうして、自称犬神様のリンさんとの古民家暮らしが始まったのです。

 

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