第16話……不死身のトロール族長

「隊列前へ!」


 領都の騎士団と傭兵団の混成編成で、坑道がある山を取り囲む。

 空には暗雲が垂れ込め、雨が激しく降っていた。



「進軍開始!」


 前回の騎士団の攻勢は失敗だったが、それにより敵側の情勢はほぼわかっていた。

 作戦としては、騎士団が表からトロールの集落を攻め、後背から傭兵団が奇襲するという計画だった。



「かかれ!」


 騎士団の喚声が聞こえる。

 正面の戦いは始まったようだった。



「我々も行くぞ!」


「「「おう!」」」


 ライアン傭兵団も本格的に山を登り始めた。

 私も後ろから続く。

 トロールを見つけ次第、戦端が開かれる。



「でやぁ!」


「ぎゃぁあああ!」


 傭兵団の奇襲にトロールの悲鳴があちこちに響く。

 今回こちらは相応の準備をしてきたのだ。


 敵の巨体に対して、両手斧などで武装。

 複数で取り囲み、関節部めがけてパイクを突き立てるなどの戦術をとった。


 豪雨の中の攻勢で、敵は鼻が使えない。

 我々は人間の弱点を一つでも減らそうと、天気の悪い日を選んできたのだ。



「ギギギ、人間風情ガ……」


 しばらくすると、人の言葉を解する一回り大きいトロールが現れる。

 コイツが今回の元凶だった。

 族長と思われ、金属製の鎧まで纏っていたのだ。



――ビシッ


 コイツは斬りつけても、その傷は見る見るうちに塞がったのだ。


――ガシッ


 手首を切り落としても、すぐに手首が生えてきた。



「ば、化け物!」


 傭兵団に逃げるものが続出する。

 不死身の巨体を前に、逃げない方もおかしいだろう。



「逃げるな! まずは取り巻きを倒せ!」


 ライアン団長は戦いながら、必死に団員を激励する。



――ガシッ


 ……が、族長トロールの棍棒が、ライアンの横腹にめり込む。



「ぐはっ」


 血を吐くライアン団長。

 激痛にもんどりうって、転げまわる。



「団長しっかりしてください!」


 アーデルハイトさんが慌てて駆けよる。

 私もその時、やっとのことで4体目のトロールを倒していた。



「おい! 引き揚げだ! 逃げるぞ!」


「はい!」


「……いや、ガウは敵を引き付けるために残れ!」


「え!?」


 ……正直、マジかよと思う。

 しかし、誰かが後ろで敵を足止めせねばならなかった。



「頼んだぞ!」


「……あ、はい!」


 ……ということで、敵中に取り残される。



「どりゃぁ!」


 今日5体目のトロールに剣を突き立て、蹴っ飛ばす。



「ギギギ……元気ソウダナ……小僧!」


 族長トロールに目をつけられる。

 ……ヤバい、やられるかもしれない。

 眼光も怪しく光る相手には、それだけの禍々しい迫力があった。

 早速、逃げることにする。



「ギギギ、逃ゲルカ?」


 ……当たり前だ。

 こんな化け物一人で倒せるわけがない。


 私は団長たちが逃げた方向と反対方向に走って逃げる。

 しかし、前回と違い、足場が悪天候の泥濘で速度は上がらない。



「はぁはぁ」


 息が上がるが、族長トロールは元気に追いかけて来る。

 しかし、私はあきらめず必死に走った。



「ガハハ……待テ小僧!」


 山を登りきって、尾根まで上がり、向こうは崖となった。

 陽も完全に落ちて、真っ暗になっていた。

 逃げ場がない。絶対絶命である。



「逃ゲルトコロハ無イゾ!」


「お前もな!」


 そう叫んだのは、私の荷物入れから出てきたスコットさんだった。

 彼は夜になるまで身を潜めていたのだ。



「出でよ、我が戦士たち!」


 単身追いかけてきた族長トロールの周りの土中から、骸骨剣士がワラワラと現れる。



「オ前タチ! 何故人間ノ小僧ノ味方ヲスル?」


 数的形勢が不利になった族長トロールが慌てる。



「いつ私が人間だと言った? エンチャント・ストレングス!」


 私も巨人の姿になる。

 ……ここに人間などいなくなった。

 族長トロールとサイクロプスと死霊と、骸骨剣士たちである。



「オ前タチ! 一体何者ダ!?」


「そんなことを言う必要はない!」

「でやぁ!」


 私はトロールの肩口に魔法のロングソードを突き立てる。

 同時に骸骨剣士たちの剣もトロールの巨体に刺さる。



「無駄ダ!」


 トロールの反撃に、剣を離し、慌てて距離をとる。



「無駄じゃないぞ! 天空の雷神よ、我が願い聞き届け給え!」


 後方で魔法詠唱していたスコットさんが叫ぶと、族長トロールに刺さっていた剣めがけて空から巨大な雷が降ってきた。


――ドシィィィイイ


「ぎゃああああ!」


 再生できる体を持つ巨大な魔物とはいえ、巨大な雷の直撃を受けてはひとたまりもない。

 体は二つに裂け、高温の電撃で燃え上がった。



「ファイアボール!」


 私とスコットは追い打ちで火炎魔法を次々と詠唱し、族長トロールの体を焼き払った。



「あ、あぶなかった……」


 もう背後は崖で、これ以上逃げるところがない場面での勝利だった。



「今回も旦那様なら余裕ですな」


「嘘言うな」


 揶揄ってくるスコットさんに悪態をつくと、剣を鞘に納めて山を下った。

 背中には嫌な汗がびっしょりの私だった。




☆★☆★☆


――しかし後日。

 あと残ったのは普通のトロールだけであり、リーダーを失ったこともあり、翌日の再討伐で無事に全滅させることが出来た。

 ……三度目の正直といった辛い勝利だった。


 団長も負傷するという大損害を受けたが、成功報酬としてライアン傭兵団には、領主さまから多額の金貨が下賜されたのだった。

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