第15話……炭鉱の町ハイム

「見えてきましたね」

「ぽこ~♪」


 マリーたちと歩いて向かった地は、領都から北西に行った町であるハイム。

 炭鉱で有名な鉱山町であった。


 このハイムでパウルス王国のほとんどの鉄製品が作られる。

 鍛造の槌の音が聞こえる活気のある街だった。



「ようこそいらっしゃいました」


 この街で出迎えてくれるのは、ドワーフ族の町の長老だった。

 彼に部屋に案内され、今回の任務のお話を聞く。



「先日、坑道がある北の山麓で『魔物を見た』という話がありましてな、炭鉱夫たちが山に行こうとしないんですじゃ!」


「魔物ですか?」


「私も実際に見た訳ではありませんが、是非討伐していただきたく……」


 長老が金貨の入った袋を差し出す。



「わかりました、明日山に行ってみましょう!」


「おねがいしまする」


 我々は傭兵だ。

 一定額のお金を貰ったら、どんな危険な任務も受けるのが習わしだった。




☆★☆★☆


――翌日、目的地に向かって山道を歩く。



「ドワーフが怖がる魔物ってなにポコね?」

「なんだろうね?」


 ポココとマリーが疑問に思うのも無理はない。

 ドワーフとは人間より強靭な種族であり、戦闘力もある程度あったのだ。

 彼等が恐れる魔物とは……少し不安になった私だった。



――さらに二時間後。



「出ましたぞ!」


 先頭で案内してくれたドワーフの若者が叫ぶ。

 確かに林の中に動くものが見える。

 それは3m位の人影だった。



「旦那様! あれはトロールですじゃ!」


 ドラゴの背中の荷物の中に潜む、死霊のスコットさんが教えてくれる。

 彼は日光が苦手なので、日中は表にでなかった。



「ぐおおぉおお!」


 トロールがコチラを見つけたらしい。

 叫んで仲間を呼びつつ、突っ込んでくる。

 トロールはサイクロプスより幅広な巨人族で、かなりのゴリマッチョ体形の魔物だった。



「ファイアボール!」


 マリーがすかさず魔法を詠唱し、突進してくるトロールに火球を叩きつける。

 一体に痛烈な打撃を与えることに成功する。



 ……が、


「沢山来たポコ!」


「……げ!?」


 私が弓をつがえていると、トロールの数が20体くらいに増えた。

 彼等は石の斧や簡易の木の盾などで武装していた。



――ザシュ!


「ぎぇえええ!」


 私はミスリル製のロングソードに持ち替え、近づいてくるトロールを2体ほど叩き切る。

 トロールは鮮血が噴き出し倒れる。


 ……しかし、相手は多勢だ。



「包囲されないように後退しろ!」


「はい!」


 マリーに指示をだし、荷物を載せたドラゴと共にじりじりとさがる。

 睨み合っていると、トロールの数はさらに増えて30体ほどになった。


 ……流石にこの数は勝てないぞ!?

 もし私が前に斬りに出たら、前衛を失ったマリーたちが襲われる危険があったのだ。



「仕方ない! 一旦退くぞ!」


「はい!」


 私を後ろに残したまま、マリーたちは後方へと逃げる。

 私も相手を牽制したあと、急いで町の方向へと逃走した。



 私達は誇り高き騎士ではない。

 ……逃げるが勝ちである。



 町に帰った後で、ドワーフの長老に敵情報告をし、善後策を練る。

 流石に我々だけで対処するのは難しかったためだ。




☆★☆★☆


「トロールが30体ですと!?」

「困りましたな、これは戦闘が本職の騎士様をお呼びするしかありませんな……」


「それがよろしいかと思います!」


 私の判断としては、前金としての金貨5枚だけを受け取って帰るという判断だった。

 私一人では勝てないだろうし、かといってマリーたちを危険に晒すわけにはいかなかったのだ……。



「……お役に立てず、申し訳ありません」


「いやいや、情報だけでも感謝ですじゃ!」

「お帰りの道中お気をつけて」


 私は長老に見送られ、鉱山町のハイムを後にした。

 やはり逃げ帰るのは、少しほろ苦い経験だった。




☆★☆★☆


 アジトに帰り、ライアンさんに報告。

 今日の晩御飯は、行きつけの宿屋の一階だった。



「パンとシチューを二人分ください!」


「マリーちゃん、いつもありがとうね!」


 宿屋のおかみさんに注文を頼むと、奥のキッチンでご主人が調理するのが見えた。



「ポココちゃんの分はサービスするわ!」


「ありがとうございます!」


「ぽこ~♪」


 ポココはここのおかみさんに気に入られている。

 この世界でもモフモフ動物は、やはり人気の様だった。



「……おう、傭兵くずれ、今回は逃げ帰ってきたそうじゃないか?」


 食事中に絡んでくるのは、領都の騎士団の面々。

 彼等は既に酒が入り、出来上がっていたようだった。



「俺様達が魔物を退治してやるからよ、弱虫は早くお家に帰ってな! はっはっは!」


 騎士にとって逃亡は恥である。

 ……しかし、彼等も逃げることはあるだろうに。

 何故なら、彼らは先のマッシュ要塞への攻撃に参加していないメンバーの様だった。




☆★☆★☆


――しかし、その三日後。


 漏れなく彼等も逃げ帰ってきた。

 ……領都の騎士団のメンツの為、逃げ帰ったことは内緒である。


 しかし、魔物の全貌は、私が見ただけでは無かったようだった。

 よって、領主さまからライアン傭兵団全体への任務要請となり、達成報酬は大幅に増額された。


 領都の騎士団の先鋒となって、魔物を退治しろということだった。

 ……つまるところ、代わりに倒してくれということだったが、我々はお金を得て、彼らは名声を得るといういつものパターンだった。

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