第14話……死霊のスコットさん

 秋の収穫が終わったころ。

 私は傭兵団のライアン団長に呼ばれた。



「おう、来たか!」

「お待たせしました」


 部屋に入室し、団長に挨拶すると、辛気臭そうな神官が同席していた。



「この若造は信用能うるのですかな?」


「保証しますよ、ガウはなかなかのやり手です」


 そう言って、ライアンさんは私を神官に紹介した。



「本当ですかな? ……この若造がね?」


 ……あまり信用してもらってないようだ。


 今回の任務というのは、この神官さんをある場所まで送り届けたらいいそうだ。

 なんでも悪霊払いに行くらしい。

 現地に着くまで、盗賊などから守ってほしいそうだ。



「じゃぁ、早速いきますかね」


「はい、わかりました」


 神官さんに連れられて、領都を出て街道を北西に進んだ。

 マリーとポココは、今回は荷物と一緒にドラゴの背中だ。

 神官と私はそれぞれ馬に乗って走った。




☆★☆★☆


「神官様! ようこそおいでくださいました!」


 とある村で村長らしき人に出迎えられる。



「うむ、拙僧が来たからには安心されい!」

「……で、悪霊は何処かな?」


「ここからさらに北東の山中ですじゃ!」

「うむ! 帰ったら女と酒をたんまり用意しておくように!」


「かしこまりました」


 神官さんはそう言い、村長から地図を貰うと、地図に描かれた地点へと急いだ。

 ……が、山中で陽が暮れかかる。



「ここで一泊していかれませんか?」


「いらぬ心配をするな、全て任せておけ!」


 野営を薦めるも、断られる。

 我々は、さらに山を登った。

 標高が上がり、気温が下がる。

 更には陽も沈んでしまった。



「どうやら、この辺りの様だな?」


「……はぁ、そうですか?」


 薄気味の悪い山の尾根に出る。

 既にマリーとポココは、疲れてドラゴの背中で眠ってしまっていた。



――ガタガタガタ


「……ぽこ?」

「ん?」


 怪しい音に、ポココが反応して起きて来る。



「ガウ! あっち!」


 同じく起きてきたマリーが指さした方向から、何かが歩いてきた。



「……げ!?」


 よく見たら、骸骨が剣を持って歩いてきていたのだ。

 ……しかも、だんだんと数が増えて来る。



「……し、神官さん、お願いします!」


「ば……、馬鹿をいうな! あんなのが出て来るなんて聞いていないぞ!」


 ……何しに来たんだ?



「出でよ、神聖なる浄化の光!」


 気を取り直した神官さんが魔法を唱えると、彼の手から白い光条が迸り、一体の骸骨剣士を捉えた。


――ピシ


 ……しかし、少々ヒビが入っただけだった。



「ガウ、こっちも!」

「ぽこ~」


――ガシッ


 マリーの方へ向かった骸骨剣士を叩き壊す。

 魔法の付与されたロングソードで斬った骸骨は砕け散った。



「いけるぞ!」


――ガシッ

――バキッ


 私は骸骨剣士を次々に残骸へと変えていった。



「ぎゃぁああ!」


 声がした方角を見ると、神官さんが骸骨の剣にくし刺しにされて絶命していた。

 ……な、馬鹿な?

 彼は専門家じゃないのか?



「……くっくっくっ、たわいもないのぅ……」


 声がする方向を見ると、襤褸を被った死霊が、浮かんだまま近づいてくる。

 エネルギー体なのだろうか?

 この死霊にはほぼほぼ実体がない。


 ……多分、奴が骸骨たちの親玉なのだろう。



「ファイアボール!」


 マリーの魔法に骸骨たちがたじろぐ。

 骸骨を追い払うくらいなら、マリーの魔法で何とかなることが判った。


 ……あとは、この死霊を潰せばなんとかなるのかな?



「くっくっく、若造! ワシに勝てるかな?」


 死霊はそう呟くと、大きな鎌を振り下ろしてきた。


――キィーン


 とっさにロングソードで受け止める。

 さらに死霊は距離をとると、魔法詠唱を行う。



「出でよ! 真空の刃!」


 かまいたちが起こり、私は表皮を切り裂かれ、血しぶきが舞う。



「ファイアボール!」


 魔法詠唱を行うも、生じた火球は死霊によってかき消された。



「くっくっく……、人間如きに勝てるかの?」

「さぁ、わが眼を見よ!」


 怪しげな魔法詠唱と共に、死霊の眼が青白く光る。



「ワシの眼を見た人間の血は凍るのじゃ!」

「ここで躯を晒すがよい!」


 ……が、何も起きない。



「な、なんじゃ貴様? なぜ生きておる?」


「……さぁ?」


 とぼけた返事を返すしかない。

 すくなくとも、私が死なないことは事実だった。

 ……ひょっとして、人間にしか効かない魔法なのかな?


 虚を突いて一気に間合いを詰め、死霊に剣を突き刺す。



「ファイアボール!」


 剣を媒体として、死霊の中で火球を爆発させた。



「ぎゃあああ! 熱い!」


 火に包まれ、燃える死霊。

 バタバタと地面でのた打ち回る。

 それと同時に、骸骨剣士たちは一斉に崩れ落ちた。



「助けてくれぇ!」


 燃え盛る死霊に、助命を懇願される。

 そもそも死んでいるのだろうけど……。



「なんでもしますから……、お願いします!」


「本当になんでもするポコ?」


「え?」


 ポココとマリーがにんまり笑っている。



「も、もちろんですとも!」


 マリーの魔法によって炎が消された。


 ……結局、この死霊はマリーと契約。

 マリーのしもべになってしまった。


 ちなみに、名前はスコットというらしい。

 話してみると、意外と気がよさそうな死霊だった。




☆★☆★☆


――翌朝。


「ありがとうございますじゃ!」

「いえいえ!」


 村に悪霊討伐を報告に行くと、村長に喜ばれた。

 ……正直に言うと、討伐しきってはいない。

 まぁ、私が連れ帰るのだから、効果としては同じだろう。



――帰り道。


「旦那様! 魚が焼けましたぞ!」


「お爺ちゃん、お魚焼くのが上手ぽこ~♪」


 死霊のスコットに、旦那様扱いされる私。

 ちなみに彼は魚釣りが趣味らしい。


 ……余談だが、護衛任務としては失敗となり、私は後日謝罪することになった。

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