第13話……ダガーとマント

「あることはありますがね……」


 武器屋の主は自慢のひげをさすりながら、二つほど奇麗な箱を持ってきた。



「……おお」


 若干煤けてはいたが、紛れもなく古代魔法王朝製のダガー。

 黒光りする一級品だった。



「おいくらです?」

「金貨25枚になります」


 ……げ!?

 銀貨にして2500枚(250万円相当)だと?



「……くぅ」


「お客様に無理にお譲りしなくとも、お貴族様に売れますからな……」


 主がニコリと笑う。

 足元を見られているのかな、などと思いつつ悩んでいると。



「二本とも買うわ!」


 マリーが即決した。



「……毎度あり」


 それとは別に、魔物用に銀の矢を幾つか購入。

 支払いは多額なので、預かり所に預けておいた銀貨で行った。

 ……最近の稼ぎが全て消え去る出費だった。



「これを元手に稼げばいいのよ!」


 マリーは思ったより気丈だ。

 買ったダガーは、マリーと私で1本づつ持つことにした。




☆★☆★☆


「次行くわよ!」

「ポコ~♪」


 ……再び洞窟の遺跡の中。

 6時間は太陽の光を見ていない。

 既に鎧の化け物を23体も倒していた。


 鎧の魔物に刺さった矢を抜き、魔石を回収する。

 銀の矢はもったいないので、回収して再利用した。



「マジック・アロー!」


 マリーも新しく習得した魔法で魔物を狩る。

 魔力で顕現した矢が魔物を破壊した。

 ……その後、出てきたのは、本日三つ目の宝箱。



「ポコ~♪」


 ポココが怪しい術で箱を開ける。

 彼女は宝箱開け係だ。


 入っていたのは銀製の食器だった。

 戦利品はドラゴが牽く荷車に乗せて、さらに奥にすすんだ。



――ギギギ


「!?」


 ある石室空間に入ると、後ろの通路が封鎖された。

 仕掛け部屋だった。


 目の前の2mほどある石像が、突如動き出す。

 魔法仕掛けのゴーレムだった。



「マジック・アロー」


 マリーがすかさず魔法を繰り出す。


――カン


 ……が、弾かれる。



「え~!?」


 どうやら、魔法耐性が備わった特殊なゴーレムだった。



――ヂン


 ゴーレムが振り下ろす巨大な手を、ミスリル製のロングソードで受け止める。

 相手の怪力具合にいちいち手が痺れる。


 その後、数合打ち付けるも、刃が刺さらない。

 ……仕方なし。



「エンチャント・ストレングス!」


 私は姿を巨人のモノへと変化。

 巨躯が顕現し、みなぎる力が、体内を駆け巡る。



「でやぁ!」


 渾身の力で切りつけると、見事ゴーレムを真っ二つに仕留めた。

 起動中枢を破壊されたゴーレムはただの石に戻り、ボロボロと崩れ落ちる。


 ……が、私の服もボロボロに破れた。

 後での補修が大変である。


 壊れた石像の中から立派な木箱が現れる。

 開けてみると、汚れたマントのようなものだった。



 ……その後、三日三晩探索を続け、ある程度の財貨を手にする。

 しかし、魔法耐性のゴーレムのような強い敵は、もう現れなかった。




☆★☆★☆



「是非売ってください!」


「いやです!」


 件のマントは魔法付与がされた一品だった。

 洗濯されたそれは青白い奇麗な敷布だった。

 鑑定してくれた武器屋の頼みをマリーが断る。


「金貨200枚でどうでしょう?」


「いやで~す!」


 ……いくらでも払いそうな武器屋の主から無事退散し、久しぶりにライアン傭兵団のアジトへ出向いた。

 お土産に最近狩ったイノシシの肉を持参する。

 しかし、先日の戦いのせいで痛々しい負傷者が目立つ。



「……ああ、ガウ、そろそろ仕事だ!」


 アーデルハイトさんに呼び止められる。

 ……今回の依頼は、領都近くの村のゴブリン退治らしい。

 久々の傭兵家業としての任務だった。




☆★☆★☆


――二日後。


 私は騎乗の人だった。

 慣れない馬で、真っすぐ走るのもおぼつかない。

 乗馬技術に限って言えば、私はライアン傭兵団でもっとも下手かもしれない。



「遅いよ! ガウ!」

「ポコ~♪」


 マリーとポココを乗せたドラゴは恐ろしく速く草原を疾駆する。

 私は追いつくのに必死だった。

 ……ドラゴの背中いいなぁ。


 開けた丘に出ると、眼下にゴブリンの集落が見えた。

 焚火が見え、営みの様子が垣間見える。



「これよりゴブリンの集落を襲撃する! 一匹も逃すな!」

「はっ!」


 アーデルハイトさん以下騎乗4名で、領都近くの村の傍にあるゴブリンの集落に攻めかかった。

 丘からの騎乗での奇襲で、ゴブリン達は完全に浮足立つ。



「でやっ!」


 ゴブリンの族長らしき者を仕留めるのに、初動で成功。

 さらに混乱したゴブリンの集落を馬で蹂躙する。


「全て焼き払え!」


 向かってくるゴブリンを撫で切りにし、逃げるゴブリンの背中には矢を突き立てた。

 そして、ゴブリンの家屋に次々に火を放って焼き払った。


 ……もはや、どちらが魔物の所業か分からない。

 こちらも村からの依頼で手を抜くわけにはいかなかった。


 途中から近隣の村人が加勢し、一気に残ったゴブリンを山奥へと追いやった。

 その日の夕方頃には、後処理も終わっていった。



「撤収!」


「はっ!」


 村人たちに別れを告げ、馬を領都へと向ける。

 これから冬になる。

 ますます魔物と人間が少ない食べ物を巡り、寸土を争うだろう。

 どちらが正義でどちらが悪かは、それぞれが決めることだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る