第12話……初めての宝箱

――ズン王領。

 人族の王朝であるパウルスと異なり、こちらでは大小30にものぼる多様な種族が暮らす地域である。

 そのため、戦力として様々な種族を動員することもある。


 王そのものが、人間でないという噂さえあるのだ。

 ……もしかして、悪魔の類ではないかと。


 それを顕著に顕すかのように、パウルスとズンでは敬う神が違った。

 この宗旨が違う旨が、いつも紛争の種となりえた。


 敬う神が違えば、相手は邪教徒であり、安易に敵捕虜を奴隷階級に落とす習慣にも繋がっていた。

 ……また、文明と小麦収穫高においては、若干パウルス王領の方が上との試算が通説である。




☆★☆★☆


 マッシュ要塞攻略に失敗し、ライアン傭兵団は大きく勢力を衰退させた。

 多くの団員たちが怪我を負ったからである。


 傷をすぐさま手当できるような回復魔法の使い手は、極めて少なく、又その代償は高価だった。

 一般の人々は、薬に類するものをのんで、おとなしく養生するほかが無かったのである。



「しばらく休みだ! 仕事はないぞ!」

「わかりました!」


 そんな状態なので、傭兵団に仕事がない。

 私はアーデルハイト小隊長に、しばらくのんびりして来いといわれた。



 ……うーん。

 久々に山でも行こうかなぁ……。




☆★☆★☆


「ぽこ~♪」

「お弁当も持ちました!」


「レッツGO!」


 ドラゴが牽く荷馬車を連れながら、山にハイキング兼採取の旅。

 鉱石やら薬草をたんまり稼ぎたくて、大きめの荷馬車を用意した。


 私の体はマリーの幻惑魔法に馴染み、人間の姿の時は体重まで軽くなっていた。

 魔法というものは凄いものである。



「ぽここ~♪」


 戦闘では全く役に立たないが、こと採取に関しては、ポココは素晴らしい能力をもつ。

 鉱石や薬草のある場所を正確に嗅ぎ分け、私たちを案内してくれるのだ。



「お昼にするわよ~♪」


「は~い」


 みんなでご飯を食べる。

 街で買ったパンとソーセージと果物だ。


 先日の負け戦で、ブドウ畑に掛かる税金が上がるらしく、あまり収入は見込めない。

 傭兵の稼ぎもしばらくなさそうだから、山での稼ぎが大切だった。


 ……食事の後。

 午後もしばらく採取に従事していると、



「ぽここぽここ~♪」


 ポココが騒ぐ。

 行ってみると、大きな洞窟だった。



「はいってみるわよ!」


 松明に火を付け、どんどん中に入るマリー。

 比較的大きい穴だったので、ドラゴの荷馬車にも付いてきてもらった。



「ガウ! あれ倒して!」

「はいはい」


――ドシュ


 時折現れる粘質状の魔物を倒すときだけが、私の出番だ。


 獣と違い、魔物は魔石という小さな魔法エネルギーを含んだ鉱石を出す。

 これも集めたら、町の商人が買い取ってくれる品だった。



 次第に、洞窟の壁面が岩から、加工された石材に変わる。

 明らかに人工物だ。


 この世界には、古代の魔法王朝の遺跡がある。

 まあ、そのだいたいが盗掘された後なのだが……。



「あっ、宝箱よ!」


「おお~!!」


 前世を合わせて、人生で初めて見るリアル宝箱。

 思わず大きな声を出してしまった。



「ぽここ~♪」


 ポココが危険はないことを教えてくれる。

 ……しかし、鍵が無いな。



――バキッ


 結局、箱はドラゴがかみ砕いて開けた。

 流石は龍族。あごの力が強かった。


 箱からジャラジャラと銀貨の類が出てくる。



「すご~い!」


 既にマリーの眼は【$マーク】だ。


 ……しかし、このようにお宝が入った宝箱が無造作に置かれているということは、この遺跡は未盗掘ということを現していた。

 一攫千金があるかもしれない。



――ガシャーン

――ガシャーン


 宝箱に喜ぶ我々の前方の暗闇から、金属製の鎧が歩いてきた。

 フェイスガードの下には赤い光が宿る。

 明らかに魔物だった。



「ガウ出番よ!」

「ぽここ~♪」


 マリーとポココは、素早くドラゴの後ろに隠れる。

 ……しかし、ちゃっかり宝箱はドラゴの荷台の上だった。



――バキッ



「……う!?」


 手斧で魔物を殴りつけたら、柄が折れた。

 ……硬い。

 手が痺れる。

 このような魔物がいては、宝箱が盗掘されていない訳である。



――ザシュ


 背中に背負っていたミスリル鋼の魔法剣で切りつける。

 驚いたことに、まるで豆腐を切る様に切れた。



「おお~ガウ凄い!」

「凄いポコ!」


 ……多分、魔法剣と魔物の相性が良かったのだろう。

 鎧の化け物は音を立てて崩れ落ちた。



「おお~大きい!」

「本当だ!」


 鎧の魔物から出てきた魔石は、今まで見たどの魔石よりも奇麗で大きかった。


 ……しかし、実入りは大きいが、魔法剣がなければどうなっていたことか。



「もう少し、準備してこようか?」


「ガウがそうしたいならいいよ!」

「ぽここ~♪」


 本格的に魔物を相手にするには、我々は軽装過ぎた。

 ハイキングと採取に適する服装なのだ。

 とてもではないが、連戦に耐えうる装備でもなかったのだ……。




☆★☆★☆


 領都で薬草と鉱石を換金した後、武器屋に出向く。



「すいません、魔物に効く武器を下さい!」


「……お前さん、何を相手にする気だい?」


 私の声を聞きつけて、奥から主が出てきた。

 魔物相手の武器は高くて貴重だったのだ。


 人間相手にはただ硬くて丈夫であればいいが、魔物相手には銀製であったり、魔法付与されているモノが効果を発揮した。


 ……だいたいにそれは、丁稚が扱えるようなものではなくて、主人の秘蔵の品であったのだ。

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