第11話……マッシュ要塞の戦い【後編】
「掛かれ! 掛かれ!」
突如、ジャイアントが出てきて一旦引くも、パウルス側の士気は高く、騎士たちが総出でジャイアント3匹を追い払ってしまう。
ジャイアントは城と反対方向へ去っていった。
「大物は去ったぞ! 攻め寄せよ!」
「「「おう!」」」
こののち、パウルス側は夕方まで攻め続けるも、城方も必死で魔法や弓矢で応戦、何とか持ちこたえた。
……しかし、このまま続けば、あと三日で落ちそうな勢いだった。
「しかし、領主さまも傭兵団などという、要らぬ者たちにお金を使いましたな」
「そうよな、我等正規の騎士団だけで城は落としてみせようぞ!」
今回、ライアン傭兵団以外にも、2つの傭兵団が今回の戦いに参加していた。
全ての傭兵団は、陣地構築に従事するものの、前線で戦う機会は無かった。
もはや勝った気でいるパウルス軍の宿営地は、酒と楽しそうな歌が響いていた。
さらに夜が更け、皆が寝静まったころ。
――ドシーン
パウルス側の陣地に岩が降ってくる。
「何事だ!?」
城とは反対方向の無警戒の方角から、昼間のジャイアントたちが戻ってきたのだ。
彼等は大岩や丸太を投げて攻撃してきた。
「迎撃準備!」
……とはいうものの、夜間に巨人族に攻められた側は大混乱。
更には、城の方向から飛竜騎士も飛んでやってきて、火矢で攻撃してきた。
幕舎に次々に火が付く。
ここぞとばかりに、城の門が開き、敵の騎士たちが馬に乗って突っ込んできた。
「退け!」
「逃げるな! 戦え!」
指揮官それぞれが、真逆の命令を勝手に伝えたことが混乱を増幅。
パウルス軍は大混乱に陥った。
「どうするポコ?」
「……命令を待とう」
私もポココも夜目が利いたため、落ち着いていることが出来た。
人間でない有利性が現れていた。
「むにゃむにゃ、ガウ、何かあったの?」
「……」
マリーが寝ぼけ眼で出てきた。
……だから、魔法が使えても奴隷になるんだよな、きっと。
「りょ、領主さまがお逃げになったぞ!」
声が響く。
退却命令は出ていなかったが、総大将が逃げたということは皆逃げるべきだった。
「ガウ、どっちに逃げればいい?」
「……どうしますかね?」
アーデルハイトさんに、夜目が利くことを事前に伝えてあるので、助言を求められる。
「あっちに敵が少ないポコ!」
「そうですね、小隊長! あちらの方角へ退却しましょう!」
「……え!?」
アーデルハイトさんが驚く。
私とポココが指し示した方角は、敵の城がある方角だったのだ。
「あちらの方が、敵の数が少ないです。敵もまさか自分たちの方角に逃げて来るとは思わないでしょう!」
「わかった! 我が小隊の命、お前に預けるぞ!」
アーデルハイトさんが笑う。
「ワシの命も預けるぞい!」
声がする方向を見ると、シェル爺さんが笑っていた。
驚いたことに、シェル爺さんは逃げる準備をすでにしていた。
……さすがは歴戦の傭兵である。
「急げよ!」
「はい!」
最低限必要なものと、マリーをドラゴに乗せる。
マリーは寝ぼけていて、まだ役に立たない。
「血路を開け!」
「「「おう!」」
アーデルハイト隊8名と、シェル爺さんは敵中突破を敢行。
敵の包囲網を薄皮を裂く様に切り裂いた。
☆★☆★☆
「敵がいたぞ!」
「「「おお!」」」
退却戦で最も過酷なのは、これからだった。
夜には敵兵に混じって、近くの村民までが落武者狩りに加勢するからだ。
特に貴族や騎士には高額の賞金が掛かっており、農民たちは必死で敗残軍を追いかける。
また、兵卒は捕虜になったら、身ぐるみをはがされて、奴隷として売られる恐れがあった。
昼は敵に追いかけられ、夜は近くの農民に追いかけられ、寝る暇がなかった。
……次第に、疲労は極度に達する。
「人間ガイタゾ! ガガガ!」
ここにきて、森の中に住むモンスター達も、弱った我々を襲う。
彼らは人間と違って、夜目が利くという、とんでもない相手だった。
――ドカッ
――ドカッ
私は手斧で、夜分襲ってくるゴブリン達をなぎ倒す。
返り血で、真っ赤だったり、真っ青だったり、もう滅茶苦茶だった。
「食料がもうないぞ!」
逃げる途中で、食料が切れる。
逃げるときにそう沢山はモノが持てなかったからだ。
……しかし、
「おいしい匂いがするポコ!」
ポココは鼻が利く。
「案内してくれ!」
「わかったぽこ!」
ポココに付いてしばらく行くと、草むらの窪地で、味方の貴族達が晩御飯を食べていた。
「あの、すいません、すこし食料を分けて貰えませんか?」
頼んでみる。
「お前たちのような虫けらに分ける食料はないぞ!」
「……しっし、どっかに行け!」
――ドス
私は腹が立って、貴族を蹴飛ばしてしまった。
「よくやったぞ、ガウ! 全員簀巻きにして食料を奪え!」
「わっかりました!」
シェル爺さんが笑い答える。
アーデルハイトさんの命令は、味方貴族からの略奪だった。
「貴様ら何をする!」
「敵襲!?」
結局、味方の貴族達をボコボコにして、食料を奪った。
簀巻きにしたので、あとは敵の捕虜になるか、モンスターの餌になるだけだろう。
「お金、宝石、わーい」
マリーとシェル爺さんが、貴族たちの貴金属を物色。
……た、逞しいな。
この後二週間、街道を避け、間道と山道を踏破した。
みんな顔が泥だらけだったが、アーデルハイト小隊は全員無事に、領都に帰還できた。
「ガウ、お前のお陰だ! よくやった!」
「ありがとうございます!」
……人間離れした能力が役に立ち、退却に成功。
小隊長に褒めてもらった。
この戦いで、領都に戻った兵士は出発時の2/3の6000名。
無傷の者はほぼいないというありさまだった。
……また、多くの騎士や兵士たちが捕虜になり、奴隷として売り飛ばされるという体たらくの大惨敗だった。
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