第10話……マッシュ要塞の戦い【前編】

 マッシュ要塞へ向かうライアン傭兵団。

 道は比較的平坦で起伏が少ない。

 ドラゴの背中に揺られ、マリーとポココはすやすやと眠っていた。



「……じゃがのう、マッシュ要塞は恐ろしいで……」


 私はライアン傭兵団の最古参、シェル爺さんの話を聞いていた……。




☆★☆★☆


――マッシュ要塞。

 城門にさえ攻撃を受けることが少ない、難攻不落の要害だった。



(――十二年前)


「掛かれ!」


 その時の領主さまの軍勢は、騎兵500名に歩兵が3000名。

 偵察部隊として小型翼竜騎士が3名。

 その他工兵部隊と奴隷多数。


 その時、従軍したシェルは、まだ壮年の傭兵だった。



 マッシュ要塞は、門に続く一本道以外は湿地で泥濘の地であった。

 よって、パウルス側の前線部隊は、泥濘の上に木の板を渡す。



「盾部隊、進め!」


 続いて盾持ちの部隊が続く。

 この盾持ちの部隊は、奴隷で構成されており、犠牲になったとて、パウルス軍には痛みは少なかった。


 城からの矢が降る中、奴隷で構成された盾部隊は前進。

 矢によってバタバタと倒れる奴隷たち。

 ……しかし、家族を人質に取られているので、彼らが退くことは無い。


 それに続く正規軍の歩兵部隊。

 城門にも工兵隊が忍び寄る。

 いままで傷一つつかなかった城門にも攻撃が加えられる。


 今回は盾部隊のお陰で、流石のマッシュ要塞にも陥落の気配が見えた。

 しかし、正規兵の殆どが、高さ10mの石造りの城壁の下まで達したとき……、



「投擲開始!」


 城壁から一斉に油の入った壺が投げ落とされる。



「放て!」


 それに向かって火矢が放たれ、城壁の下は燃え盛る阿鼻叫喚の世界となった。



「ぎゃあ! 助けてくれ!」

「退くな! 戦え!」


 前方から逃げて来る兵士が、立ち止まろうとする兵士と入り乱れ、パウルス軍は大混乱。

 更には、マッシュ要塞から飛竜騎士部隊が十数騎あらわれ、弓矢の雨を降らせた。


 城壁からも、これとばかりに大型弩や投石器が放たれ、パウルス軍の陣地は火災を伴い大損害を受けて撤退した。



 ……この時、シェル爺さんが左頬に負った火傷が、今も残る。


 退却時には、食料が燃えてしまっていたらしく、さらに過酷な運命だった。

 主に飢餓が原因で、兵の8割を喪失した戦いだった。


 ……それ以来、戦いはあれども、マッシュ要塞の城門に近づくことも難しいという。




☆★☆★☆


「……じゃてな、若い者が言うように、簡単に攻撃できるものかどうか不安じゃ……」


 その言葉には、傭兵団長のライアンさんも含まれているのだろう。

 私が所属するアーデルハイト小隊も、皆若い顔ぶれだった。

 皆、若くて情熱溢れるが、経験という点では厳しかったのかもしれなかった。



「よし! 小休止だ!」


 傭兵団を率いるライアンさんが、小休止を告げる。

 小川に降り、水を汲み、馬にも飼葉を与えた。



「ぐるる……」


 ドラゴは水は飲めども、飼葉は食べない。

 肉食の生物だったからだ。


 その日は、さらにもう少し行軍して、森林の中で野営したのだった。




☆★☆★☆


――白い雲、青い空。


 遂に目的地に着陣する。

 大きな石造りの城が、はるか向こうに見える。

 マッシュ要塞だ。


 さらには、敵は翼竜騎兵もいくらか配備している。

 城の上空の制圧も難しい状況だった。



「大きい建物ポコ!」

「あの塔に登ってみたいわね!」


 マリーもポココも呑気だ。

 あの建物が、今までどれだけの血を流してきたことか……。



「傭兵ども、柵を作れ!」

「はっ!」


 貴族階級である騎士に命じられ、私達は陣地に簡単な濠を巡らし、柵を立てた。

 彼等の為に、泥まみれになって幕舎も建てる。



「わはは!」

「今回の戦いも功を立てん!」


「流石は男爵様ですわ!」

「うはは! 出世間違いなし!」


 貴族や騎士様は、既にワインを片手に勝った気でいる。

 連れてきた女性たちと肉を食べ始めたり、ちょっとした旅行のような雰囲気だった。


 ……それもそうだろう、今回は正規の兵士だけで9000名。

 今回はパウルス王の支援もあって、過去の戦いの約3倍の兵員を動員していたのだった。


 それに対して、マッシュ要塞の防衛兵は約1000名とのことだった。

 防御三倍のルールに照らしても、有利と言える戦力差だった。




☆★☆★☆


(――翌日)



「我々が先陣を承りましょうか?」


「いや、お主らは後ろで我等の戦いを見物しておれ!」


「はっ!」


 貴族方々は、ライアン傭兵団を前方にはやらなかった。

 手柄を稼ぐ魂胆だったのだろう。


 私はドラゴに餌をやりながら、ぼーっと前線を見ていた。



「始まったポコ!」

「どれどれ!」


 マリーとポココもお昼を食べながら観戦していた。

 勢い的には優勢。


 我が方の騎乗騎士たちが勢いよく敵城門に駆けっていった。

 それに続く歩兵部隊。

 それに合わせるかのように、城壁から矢が浴びせられた。



――ギギギ


 突如異変が起きる。

 マッシュ要塞の城門が開いたのだ。

 ……内部で兵士たちの反乱でも起きたのだろうか?



「今だ! 掛かれ!」


「おう!」


 騎乗騎士たちが、ランスを天に掲げて突っ込む。

 それに旗を持った従者が続いた。



「げぇ!」


 ……が、突っ込んだ騎士たちは狼狽した。

 城門から潜り出てきたのは、体高10mはありそうな大男であるジャイアントたちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る