第9話……最強の荷馬!? ドラゴ登場。

――鳥がさえずる中。

 私は再び山を抜け、モンスターが住む【魔の森】に足を向けていた。



「ガウ! ここにも生えてるわよ!」

「ぽこ~♪」


「は~い」


 この森は人里離れているのと、出てくる魔物が強いなどの理由で、貴重な野草などが人知れず残されていたのだ。

 貴重な薬となるキノコや、高価な食材となる野草を優先的に採って、背中の籠に入れた。


 ……そうこうしていると、


「ガウ~、なにか変なものがあるよ……」

「……ぽここ?」


「……げ!?」


 マリーが呼ぶ方向に、歩いて行ってみると、直径1mはありそうな卵があった。



「親がいないのかな?」

「ぽこ~?」


「しばらく待ってみようか?」


 親が来たら、それはそれで、この卵の大きさからするに怖い話だが、待ってみることにした。

 採取作業をしながら待ち、陽が暮れかかる……。



「親さんこないね? もって帰ろうよ?」

「ぽこ~♪」


「え? マジ!?」


 ……孵化して、巨大なモンスターでも出てきたらどうするんだろう?

 まぁ、モノは試しということで、町はずれにある家にまで持って帰った。


 藁を敷き詰め、少しでも温めた。


 夜はポココが横に寝て温めてくれる。

 孵化した途端、食べられないといいけど……。




――数日後の晩。

 夕食をとっていると。


――バリッ


「ギャアァァ!」


 卵が孵化して、頑丈なトカゲのようなのが出てきた。



「……げ?」

「怖い!?」


「キュゥゥゥ!」


 トカゲのようなものは、毎晩温めてくれたポココに懐いた。



「ぽこ~♪」


 その日から、我が家の家族は一匹増えた。


 ポココはご機嫌で、毎日魚の干物などをせっせと食べさせている。

 ……しかし、かなりの食費だ。




☆★☆★☆


「これはドラゴカーゴだぞ!?」


「なんですか? それは?」


 このトカゲが何者か分からないので、アーデルハイトさんに来てもらった。

 どうやら、ドラゴカーゴという小型の龍族らしかった。



「お前、どこでこれを!?」


「えーっと、山の向こうの森です……」


「ふむう、この魔物を乗りこなすものは、竜騎士とよばれる逸話もあるぞ!」


「へぇ!!」


「だがな……、選ばれた者しか乗れないのだ!」


「ぽここ~♪」


 我々の前で、ドラゴカーゴの上にポココがのって走り回っている。



「……って、選ばれたのはひょっとしてポココですか!?」


「タブンな……、もったいない話だ」


 ため息をつくアーデルハイトさんの前を、ポココを載せたドラゴカーゴがバタバタと走り回っていた。



 ……ちなみに、このドラゴカーゴ。

 名前は安直にドラゴと決まった。




☆★☆★☆


「晩には町につけるよう、急げ!」


「はい、隊長!」


 今日のライアン傭兵団、アーデルハイト小隊の任務は物資輸送。

 商人の代わりに小麦を買い付け、領都まで運ぶ仕事だ。


 ……が、今回のこの仕事は楽だった。



「ぽここ~♪」


 ポココの言うことは聞くドラゴが、馬の代わりに荷車を牽いてくれたのだ。

 小さくとも流石は龍族。

 重い荷馬車をなんなく牽く。


 ちなみに、足の裏が平べったく、悪路にも適性があった。

 ぬかるんだ地面でも、難なく荷車を牽いてくれたのだ。



「ドラゴ! 今晩のご飯は沢山やるぞ!」


「グルル~♪」


 なんだかその働きぶりから、小隊長にモテモテなドラゴだった。




☆★☆★☆


 夕日が沈もうとする山岳地。

 暫しの休息をとっていた私達。



「しかし、もったいないなぁ……」


「はぁ……しかし、しかたありません」


 この日も輸送任務だが、ドラゴはポココ以外の者をその背中に載せることは無い。

 馬と違って悪路をモノともせずに走る様子は、名馬を求める騎兵からは羨望のまなざしで見られたことだろう。



「あいた、たた……」


 輸送任務中に、マリーが足を痛める。

 荷馬車は荷物で、一杯で載せる隙間はない。



「ぐるる~♪」


 私がマリーを背負おうとしたら、ドラゴが鼻を擦りつけてきた。



「ドラゴ! 私を乗せてくれるの?」


「ぐるる~♪」


 喜んで乗るマリー。

 同じ家で住む中で、私だけがドラゴに乗せて貰えなかった……。




☆★☆★☆


――ダダダダダッ


「ぐるる~♪」


「ガウ! はやくぅ~♪」


「ぽこ~♪」



 今日もマリーとポココは猛ダッシュするドラゴに乗る。

 それを追いかけ、私は徒歩で追いかける。


 付いて行く身にもなってくれ……。

 これじゃあ、私だけが家来か奴隷みたいじゃないか……。



 アジトに着くと、次の任務が説明される。

 任務の規模が大きいため、小隊単位ではなく、傭兵団全体で取り組む依頼だ。

 説明を聞く団員の数は30を超えた。



――マッシュ要塞攻略。

 今回は、領主さまの軍に従軍し、川の中州にある石造りの城を攻撃することとなった。

 しかし、この要塞は要害であり、何度も領主さまの軍勢を退けていたのだ。

 領主さまは攻撃したくないらしいが、今回は王様の命令らしい。

 私達が住むシャルンホルスト大盆地とは、パウルス王が治める北部地域と、ズン王が治める南部地域に分かれている。

 我々はこの北部のパウルス王の領土で暮らしていた。

 パウルス王の勢力圏に楔となっている位置に、マッシュ要塞はあった。

 攻略は難航が予想され、莫大な被害が生じる恐れがあった。



「皆の者いくぞぉ!」


「「「おお~!」」」


 それでもなお、ライアン傭兵団の士気は高かった。

 しかし、それは苦難の始まりだった……。

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