第8話……マリーの病を治せ! グリフォンとの死闘。

 アーデルハイト小隊には、最近若い人が4名入隊して、私は副隊長の立場になっていた。

 傭兵団は私が入ったころより、少し大きくなり、盛況を感じさせていた。


 私の人間不信は未だ健在だが、傭兵団の同僚たちとはよく話すようになっていた。

 いずれもがお互いの背中を守り合う中であり、命を預けた戦友だったのだ。

 一緒に食事をし、時には酒も一緒に飲む仲だった……。



――ある日、私がアジトに詰めていると、ポココが急いでやってきた。



「マリーが倒れたポコ!」

「……え!?」


 今日は体調が悪いといって、家で休んでいたマリーが倒れたらしい。

 マリーは私の家族であり、もっとも信頼する戦友でもあった。

 ちなみに最近、ポココとは魔法の力で話ができるようになっていた。



「ただいま!」


 急いで家に戻る。

 私達は町ハズレに小さな部屋を借りていたのだ。

 さらに今回、町から医師も連れてきていた。



「……ガウ、お帰り……」


 か細い小さい声で、マリーは寝床から返事した。

 マリーは高い熱を出し、とても辛そうだった……。



「う~む」


「どうなんです?」


 診たてた医師は、とても難しい顔になっていた。



「これは大樹病ですな……」


「……なんですか? その病は?」


――大樹病。

 この世界の人がごくまれにかかる病気らしい。

 高い熱を伴い、体力を奪う。

 3年も放置しておくと、体が木になってしまう難治性の病だった。



「お薬はないんですか?」

「……あるにはあるんじゃが……」


 医師は渋い顔になる。

 説明によると、大樹病の薬は、貴族様専門のものだったのだ。

 平民が貴重な在庫を使うことは許されない。

 そもそも、私は流民、マリーは奴隷出身で、二人とも平民以下の存在だったのだ。



「薬の原料は何なのです?」


「グリフォンの爪じゃ……、そうやすやすと手には入るまい!」


――グリフォン。

 上半身と羽が鷲。下半身がライオンという、強力で恐ろしい怪物だった。



「それを手に入ればお薬にしてもらえますか?」


「それは構わんが、そんな怪物を狩りに行ったら間違いなく死ぬぞ!」


「マリーは私の大切な家族です。何とか探してきます!」


 ……私は勢いよくポココと共に家を飛びだした。




☆★☆★☆


――ライアン傭兵団のアジトに戻る。



「休暇だと!?」

「はい、3日ほどいただけないでしょうか?」


 直属の上司であるアーデルハイト小隊長に事情を話す。

 話を聞いた小隊長は此方を向き直り、



「……良かろう! この盾も持っていけ!」


 あっさりと休暇願は許可され、大きな鉄製の盾も借りることができた。

 私は話が分かるいい上司をもって幸せだった。




☆★☆★☆


 町でグリフォンの情報を集めると、西の山脈の向こうの人知れずある森にいるらしいとの話だった。


 私とポココは、その日の夕方までには、領都の西にそびえる山脈を登っていた。

 山の中腹で暖をとり、翌日の朝には尾根を抜けた。


 高い山の上は寒い。

 クマの毛皮がとても役に立った。


 この山脈の西側が、モンスターの多く住む森だった。

 私はポココの嗅覚を頼りに、グリフォンを探して回った。



「ガルルゥゥゥ!」


――ビシッ


 途中多くのモンスターに襲われるが、弓矢と戦斧で次々に薙ぎ払った。

 衣服はモンスターの返り血で真っ赤になっていった。


 陽が高く昇るころ、グリフォンと遭遇した。

 全長8mを超えるような化け物だった……。



「ギャオオォオオ!」


 警戒したグリフォンの咆え声は、辺りの木を激しく振動させるほどの衝撃波だった。


――ガキン


 飛び掛かられ、その鋭い爪を鉄の盾で防ぐ。

 この盾を借りてなければ、ヤバかったところだった。


 隙をみて、戦斧を振り回すが、グリフォンの体は堅く、致命傷を与えることが出来ない。

 数合打ち付けるが、効果はない。


 さらには、相手は飛ぶこともできるのだ。

 とても厄介な相手だった。



「エンチャント・ストレングス!」


 私は姿を巨人に戻し、全力で立ち向かう。



「ファイア・ボール」


 口から炎も吐くという奥の手も使う。

 グリフォンは次第に出血し、動きが遅くなってきた。


 ……が、いずれの手段もグリフォンに止めを刺すには至らない。



 そうこうしているうちに、私は足を滑らし、グリフォンの巣に入ってしまった。


 そこにはグリフォンの収集品が沢山あり、その中で立派な造りのロングソードがあった。

 素早くそれを握りしめ、グリフォンの体に突き立てる。



「ギャオォオオ!」


 断末魔の叫びが森中に木霊し、グリフォンは息絶えた。

 そのロングソードは後でわかったのだが、ミスリル鋼でできた希少な魔法剣であった。




☆★☆★☆


 ――その後。

 医師から薬が処方され、マリーの熱は下がった。


 そして、余ったグリフォンの爪は、1/3を傭兵団に献上。

 残りの2/3はマリーの名前で、領都の平民用の医療施設に寄付し、とてもよろこばれた。



「ガウ! 明日からバリバリ稼ぐわよ!」

「ぽこ~♪」


 マリーは元気になった途端、目が【$マーク】になっている。


 賞金稼ぎの傭兵としては見本のようなやる気だが、私としてはたまにはゆっくりして欲しいなと思う、今日この頃だった……。

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