第17話……ドワーフの女戦士、その名はジークルーン
「旦那様! 掘り出し物がありますぞ!」
草原の中、スコットさんが手招く。
我々は騎士団が討伐した後のトロールの集落を略奪していた。
これは名誉が伴わない傭兵団の十八番だった。
「スコットさん、これは何なの?」
「これは高貴な魔族しか持てない旗ですぞ! 高貴な旦那様にはぴったりですぞ!」
スコットさんが言うには魔法の反物で作られているらしいが、ボロボロの旗だった。
確かに私にお似合いかもしれない。
「ぽここ~♪」
「お金はっけん!」
マリーがポココについていって貴金属を拾う。
ポココの鼻は優秀だったのだ。
どうやら貴金属の腐食臭もわかるらしい。
……しかし、マリーはお金を何に使うのだろうか?
「旦那様! これも貴重ですぞ!」
スコットさんが手渡してきたのは、古びた魔法書や、あやしい植物の種。ヤバそうな薬の類だった。
「長年死霊をしているワシが言うからには間違いありませぬぞ!」
スコットさんが勧めるままに、私の収集品は怪しい古物商といった感じのものばかりになった。
対称的にマリーの収集品はキラキラ輝いている。
「ぽここ~♪」
ポココは特に欲しいものはないらしい。
彼女は一体何が好きなのだろうか?
――後日。
……結果的に、スコットさんの目利きは正しく、高価な魔法書などをGETしたことが判る。
その甲斐もあり、私はスコットさんに教わりながら、新たに電撃の魔法などを身につけた。
☆★☆★☆
「よろしくお願いします!」
「よろしく頼むよ!」
私は拡げた農園の為に、奴隷商からゴブリンを買う。
ゴブリンは非力であるために、格安で販売されていたのだ。
農園にはゴブリンだけで20匹は働いている。
「ぽここ~♪」
「ギギギ……」
農園はブドウ以外に、ポココが拾ってきた種やら、スコットさんが勧める怪しい薬草など、色々なものを植えていた。
これが何かと聞かれても、その多くは前世にはない植物だったのだ。
よって私はよくわかっていない。
しかし、農園の売り上げは順調で、そもそも傭兵団から貰った賞金は、全て農園と鉱山に投資していた。
「調子はどうですか?」
「まぁまぁかな?」
坑道では老齢のドワーフが受け答えする。
鉱山の方は、最近雇ったドワーフのおじいさんを責任者に据えていた。
彼の下にゴブリンが10匹体制で採鉱している。
おもな採鉱品目は銅が主力で、副産物が銀や鉄といった具合だった。
とれた鉱石は、領主さまに買い取ってもらっている。
この世界での金属製品は専売制で、誰もが扱えるわけではなかったのだ。
比較的鉱山も利益を出している状況だった。
☆★☆★☆
「お前に話がある」
「なんでしょう?」
ある日、傭兵団のアジトで、アーデルハイトさんに話しかけられる。
話の内容は、団長が怪我で、休養中は彼女が団長代行を務めるとのことだった。
「……でな、貴様にも一隊を率いてもらうぞ!」
「え? 私が!?」
「貴様はトロール討伐で最高の手柄を上げた。皆もお前を評価しているぞ!」
「あ……ありがとうございます」
……ということで、私は新たに新設された傭兵団第4小隊の隊長となった。
しかし、正規メンバーはマリーだけである。
流石に、狸のポココと死霊のスコットさんは正式メンバーと報告しにくかったためだ。
「出世おめでとう、ガウ!」
「ありがとう、マリー!」
「ぽここ~♪」
「旦那様、ようございましたな!」
実は既に4人態勢なのだが、アーデルハイト団長代行に言われて、やはりメンバーを集めることにした。
流石にもう少し人手が欲しいとこだったのだ。
「ガウは人間嫌いだものね……」
「……う、うん」
前世からのしがらみで、どうも人間は好きになれない。
私の家も領都のはずれに借りているし、経営する農園も鉱山も働き手に人間はいなかったのだ。
「……で、メンバーどうするの?」
「どうしよう?」
人手は酒場で募集するのがこの世界での通例だったが、領都の酒場は主に人間たちで溢れかえっていた。
酒場で皆と飲食をしていると、
「やぁ! ガウの旦那!」
「うん?」
奴隷商である小人族のノームに声を掛けられる。
しかし、いったい彼はその小さな体で、どうやって奴隷商をしているのだろうか?
「いい奴隷が入りましたぜ!」
「ほう」
前世の世界ならとんでもない会話だが、この世界においては普通である。
紹介されて見に行った檻に入っていたのは、若いドワーフだった。
「どうです? 旦那」
「でも、ドワーフは高いんでしょう?」
ドワーフは力もあり、奴隷商の扱う商品としては高価だった。
「訳ありでしてね……、金貨1枚と銀貨75枚でどうでしょう?」
「安いね、買ってみようかなぁ?」
結局、買うことにした。
理由は相場より安かったからである。
「したい仕事はあるかい?」
「ぺっ! うるさい下郎!」
罵声と唾を吐きかけられた。
安いだけはある。
……しかし、やんごとない身分のドワーフだったのだろうか?
「うちでは農園と鉱山なんだけど、どっちで働きたい?」
「わらわは崇高な戦士だ! そんな仕事できるか!」
今までは戦闘員だったのかな?
鉱山も農園もどっちも嫌なのかぁ。
……どうしよう?
「……ねぇガウ、新しい隊員にしたらどうかな?」
「!?」
マリーの言う、その発想はなかった。
確かに、傭兵団のメンバーとしての登用もありだったのだ。
「傭兵としてなら働きたい?」
「戦士として遇するなら、忠誠を誓おうぞ!」
……戦闘員ならOKらしい。
「ちなみに、お名前はなんです?」
「わらわはドワーフの戦士、ジークルーンだ!」
こうして、誇り高いドワーフの女戦士ジークルーンが我が隊のメンバーとなった。
彼女は大型の盾に斧という近接タイプの戦闘スタンスだった。
……これから、頑張ってもらおうね、うん。
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