2話 白猫
髪を茶色に染め、日常魔法が使えるようになる実を食べ、黒いローブを深く被ると、左手にランプを、右手にはたくさんの林檎が入った籠を持つ。
「…いってきます」
誰もいない部屋にシャーリーの声だけが響く。
外側はいつもと変わりない。
シャーリーにとって林檎の森から川を渡った先の外側は暗闇に包まれた不気味な森だった。
闇の森と呼ばれるこの森は、太陽の光が入ってこないほど背の高い木が広がっているため、昼夜関係なく真っ暗闇だ。そんな森に動物が生息しているわけもなく、虫すら生息していない闇の森。
「…ん?…な…にかいる?」
シャーリーの目線の先には何か白いものがあった。真っ暗な森の中でそれは白く光って見える。
「…猫?」
近づいてみると、白いものは猫だった。白い耳は情報収集するかのようにピンっと立っている。
「お前なんでこんなとこにいるのよ?」
シャーリーがそう言うと白い猫はゆっくりと顔をあげる。
白猫の顔を見て驚く。瞳が緑色だったのだ。シャーリーと同じように。
「…君も捨てられたの?」
「ニャ〜ォ…」
シャーリーの言葉に反応するように鳴く白猫の声は嬉しそうだった。しかし、白猫はぐったりとしているように見える。
「君どこか悪いの?」
シャーリーがそういうと白猫はその言葉に答えるように左足を舐め始めた。
その左足には赤く血が付いていたのだ。
「足を怪我してるじゃない…」
白猫の左足をそっと見てみると、切り傷のような跡がたくさんあった。
そして左足だけでなく、他の足にも切り傷が刻まれていたのだ。
「ここに来るまでに足を怪我してしまったのね?」
「…んにゃぁ」
白猫は力なく鳴くとシャーリーに体を任せるように体を倒した。
「治療してあげるね」
シャーリーは籠から林檎を取り出しナイフで切る。その林檎を傷に当てると呪文を唱える。
「クラーラフェリーダス」
すると林檎が淡く光り、白猫の足を綺麗に治した。
白猫は痛みが消えたことに驚いたのか顔をあげ、左足を舐ている。
「他の足も治すから抱っこするよ」
「ニャオ」
シャーリーは猫を抱きかかえ、同じように林檎を切り、呪文を唱えて傷を治した。魔法の使えないシャーリーだが、林檎で魔法を使うことができたのだった。
「君も一緒に町へ行く?」
「にゃぁ〜お!」
「君はきっと、町から来たんだろうから戻ることになってしまうけど」
白猫はシャーリーの足にすりすりと顔を擦っている。よほどシャーリーが気に入ったらしい。
「そうだ。町に着くまでに君に名前をつけてあげるね」
「にゃ〜お」
「嬉しいの?行こっか!」
シャーリーの心はいつも町に行くときよりもずっと、高鳴っていた。
白猫の名前を考えながら歩く森は、少しだけ、明るく感じた。
林檎売りの少女は魔法が使えない 来栖彩月 @mikoto_05
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