林檎売りの少女は魔法が使えない

伊織みこと

はじまり

1話 あの頃から

「私たちにはあなたがいらないの。」


繋いでいた手を離され、わたしの手は氷のように冷たくなっていく。


「お母さん…?」

「あなたなんか産まなきゃよかった。そしたらこんな思いもしなくて済んだのよ!!あなたなんかっ…!」


そう叫ぶと思いっきりわたしの頬を叩き、行ってしまった。顔はよく見えないけれど、涙が流れている。

静かにわたしたちを見ていた隣の人も静かについていってしまった。


「お母さん!お父さん!待ってよ!!わたしを置いていかないでよ!」


2人について行こうと走ろうと思っても足が動かない。体が重い。意識も遠のいていく。


ねぇ、なんで?なんでわたしを置いてくの…?

わたし悪い子だった?

もっともっといい子になるから!

わがままなんか言わないから!

だから!だから!わたしを…ひとりにしないで…


「…ひとり…に…しないで…」


・ ・ ・


窓から細い光が差し込んでいる。鳥のさえずる声が聞こえる。


「…最悪な目覚め」


あの頃を思い出すなんて。


6歳のとき両親に連れて来られ、捨てられたこの地。もはや私は両親と過ごした年月よりも長く住んでいる。


捨てられた場所の近くには雨風にさらされた古い小さな家があり、あの日いつの間にかその家で寝ていた。


最低限の生活用品はあったこともあり、なんとか生きている。


家は死の果実と呼ばれる真っ赤な林檎の木で囲われ、その林檎の木と川を挟んで深い森が広がっていた。まるでスポットライトが当たっているかのようになっていた。


だから食べられるのは林檎のみ。生きていくには食べなければと死の果実を食べたが、思った以上に甘くて美味しかったのだ。


思わず涙が出るほどに。


「あのときの林檎は美味しかったな。今じゃ料理して食べるのにも飽きちゃった。さて、準備〜っと」


シャーリーは毎週水曜日になると町へ林檎を売りに出掛けていた。


しかし、死の果実と呼ばれる林檎が売れる訳もなく、いつも傷んだ林檎を持ち帰ることになるのだが。


それに、シャーリーには魔力がないのだ。


この世は誰もが魔法を使えるのにも関わらず、シャーリーには僅かも魔力がなかった。


魔力が強いひとほど髪の色が黒い。


どんなに魔力がない人でも金色なのだが、シャーリーは真っ白い髪だった。


それなのにシャーリーは6歳まで両親と過ごしていたのだ。


魔力のない子供は生まれた瞬間に殺されるはずなのに。


疑問に思うことは多々あるのだが、不思議なことにシャーリーには、この森に置いていかれる前の記憶が一切ないのだった。


ただし、町への行き方は覚えているのだ。


「いきますか。林檎を売りに。」

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