第12話
三日後にカルロスの部屋に移動した。持っている荷物はスーツケース一つとボストンバック一つに納められるほど少ない。
荷物を置いて窓を開けると、新緑の匂いがしてとても気持ちいい。
広い部屋を見渡すと、自然と笑顔があふれてくる。
カルロスに口頭で立ち退きを宣告されたときのことを思い出す。あのときは突然のことで腹がたったけど、終わり良ければ総て良し。ニューヨークでこんな広い部屋に住める機会なんてない。
ガブリエルも物件を探してくれると言っているし、とりあえずこの生活を楽しもう。そう決めると、キッチンから冷やしたワインとチーズを持ってきて、一人で新居パーティーを始めた。
それから二週間後、突然マリアから連絡があった。カルロスの件で話したいことがあるから会いたい、とのことだ。
「実は彼氏の弁護士にこのアパートのことを調べてもらってたの」
「えっ、そうなの?」
「それでね、これ見て」
マリアが差し出した紙には、知らない名前の会社についての詳細が書いてあった。会社名の下に業種「ホテル」と書いてある。代表者はカルロスで住所は私が住んでいるアパートの一室だ。
「これって、カルロスが勤めてるって言ってた不動産管理会社名と違うよね?」
「違うわ」
「どういうことだろう?」
「カルロスは、私たちの家賃を管理会社に渡す前に、そのうちのいくらかをカルロスの懐に入れていたんだと思う。この紙のカルロスの会社と管理会社との関係はわからないけどね」
「なんか、怪しいね」
「詐欺よね。カルロスは、ミサキが弁護士に言いつけると言ったから、嘘がばれるのが怖くなって、姿をくらましたんじゃないかしらね」
「あーなるほど」
「本当にメキシコに行ったかどうかなんてわからないけどね。今もすぐそばに住んでいるかもしれないし」
「本当。カルロスの言うことは信じられないよね」
「名付けて『詐欺師カルロス』ね」
「なんか映画のタイトルみたいだね」
そう言って二人で笑った。
詐欺師カルロス 滝川 千夏 @Momomo123
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