第9話
数日後、仕事が終わり夕飯の買い物袋を抱えてアパートの階段を登り切ったところで、ドアから出てきたカルロスに出くわした。
「はーい、ミサキ! ちょうどよかったわ。伝えたいことがあったんだけど、ミサキと会う機会がなくて。急いでるんだけど、今、数分話せるかしら?」
「いいよ。何の話?」
「ミサキの部屋と〇〇の部屋の間の壁を取り壊して一部屋にすることになったから、出て行ってほしいのよね」
「……えっ?」
「二週間の猶予を与えるから、それまでに出て行ってね」
「はっ?」
笑顔のカルロス。
「二週間で次に住むところ探すなんて無理だよ。明日から一週間出張だし。っていうかこんな大事なこと、今、口で言われても」
「口頭で伝えたことは、法的に有効なのよ」
「そんなわけないじゃん! 書面にして」
「いやよ。今、口頭で伝えたから。二週間以内によろしくね」
「こんないい加減なやり方ありえない。私の担当弁護士に言いつけるから」
担当弁護士なんていないのに、とっさに嘘をついた。友達がよく、アメリカはすぐに訴えるから弁護士が必要と言っていたのが頭の片隅に残っていたのだろう。
カルロスの表情から笑顔が消えた。
「私もう行かなきゃ。遅れちゃう。じゃあ、口頭で伝えたから。よろしくね」
そう言いながら、カルロスは階段に向かって走っていった。
二週間猶予なんてありえない。しかも、こんな大事なことを伝えるのに、きちんと書面を準備したのではなく、たまたま会ったから口頭でといういい加減な対応。
それに加えて口頭の約束が法的に有効という、意味のわからない主張。
次が見つかるまでは絶対に出て行かない。そう決めた。
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