第8話

 カルロスの部屋に行って直接言おう。寒い中ベッドから出た。


 カルロスの部屋のドアは空いていて、カルロスともう一人がベッドの上でジャンプしながら大声で話している。


「静かにしてよ! 夜中の三時だよ! 明日朝から仕事があるのに」


 カルロスともう一人は驚いて私を見た。


「あっごめん、ミサキ」


「もうやらない、って言ったのに何なのよ!」


「ごめんね」


 申し訳なさそうな顔をしてカルロスは謝る。


 数秒カルロスをにらみつけて、背をむけてカルロスの部屋を出る。少しでも眠ろうと自分の部屋に戻ってベッドに入った。



 数日後の朝、キッチンでマリアにばったり会った。


「カルロス、また夜中に大声で話していたわね」


「前にもうやらない、って約束したのに。もう嫌になっちゃう」


「本当、子供よね、あの人。ところで知ってた? 下の階の人がアパートの大家に文句言ったらしいのよ」


「えっそうなの?」


「なんかね、夜中にカルロスがベッドのマットレスを階段の踊り場から下に落っことしたらしいの」


「はっ?」


「なんか、落とした物音がすごい大きかったみたいで起きたらしいのよ。玄関から踊り場に出て下を見たら、ベッドのマットレスが落ちてたんだって」


「あ、そうか。だからあの夜、誰かがうちらのアパートに来たんだ」


「ミサキ、知ってるの?」


「いや、あの夜にカルロスの部屋から何かを引きずる音が聞こえて、その後にドアベルが鳴って、誰かが怒っているのが聞こえたから、何なんだろうとは思ってたけど。そのことだったんだね」


「頭おかしいわよね、カルロス」


「本当だよね。なんで夜中にマットレスを落っことすんだろうか」


「謎よね」


「謎だね」


 私たちは目を合わせて笑った。

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