第10話
出張先から戻って、アパートに帰ってくると、キッチンからマリアが顔をのぞかせた。
「あら、ミサキ。久しぶりね」
「マリア、久しぶり。今、出張先から帰ってきたんだ」
「お帰り。疲れたでしょ」
「そうね。強行突破だったから、ちょっと疲れたかな。それより、立ち退きの件聞いた?」
「聞いたわ。実はね、彼氏の家に住むことになったの」
マリアは幸せそうに左手の薬指の指輪を見せた。
「えっ! 結婚するの?」
「そう。暖房とか立ち退きの件で相談している間に、もう結婚しよう、という話になって。こんなに悪いことが続くってことは、別の道に行った方がいいっていうお告げなのかな、と思ってね」
「よかったね! マリア。おめでとう!」
「ありがとう、ミサキ。遊びに来てね」
「もちろん、行く行く!」
マリアが結婚するのは嬉しかったが、一緒に住めなくなるのが悲しかった。
「いつ出るの?」
「一週間後よ」
「えっ、そんなにすぐ! 悲しいな。じゃあ、出る前にお別れ会ってことで夕飯一緒に食べよう。私、日本食作る」
「いいわね。スシ食べてみたいわ」
「おっけー。スシナイトにしよう!」
「楽しみね」
数日後、ニューヨークにある食材で手巻き寿司を作って、二人で食べながら夜中まで話続けた。
そして、マリアが出ていく日。
玄関の前でハグをする。泣いている私の頭を優しくさすってくれながら、マリアは「一生のお別れじゃないんだから、大丈夫よ」と言ってウィンクをした。
優しそうな彼氏がマリアのスーツケースの取っ手をつかむと、マリアは私に手を振って、二人は玄関から出て行った。
独りぼっちになった私は、自分の部屋に戻ってパソコンを立ち上げて、物件探しを始めた。
二時間程探したが、一つも見つからなかった。既にカルロスが言っていた二週間の猶予期間は過ぎていた。
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