第6話

 その二日後、夕飯を食べようとテーブルに座った時に、手紙の束の横に紙が置いてあるのに気づいた。夕飯を食べながら読んでみる。


『今月から、掃除代として一人毎月十ドル支払ってください。カルロスより』


 えっ。確か掃除代は家賃に含まれていたはず。


 夕飯を食べ終えた後に自分の部屋に戻ってカルロスの会社とのシェアハウスの契約書を見ると、月の家賃の内訳に掃除代と書いてある。


 掃除代は家賃に含まれているのに、追加で請求しようとしている。

 

 念のためにマリアにも聞いてみようと、マリアの部屋のドアをノックする。


「どうしたの、ミサキ」


「ねえ、キッチンにある手紙見た?」


「見てないけど。どうしたの?」


「カルロスがね、掃除代として一人毎月十ドル払ってくださいだって」


「はぁっ? まず、暖房どうにかしろっての!」


 顔に似合わずやくざみたいな声でマリアが言った。普段は控えめなマリアだが、暖房がない日が三日続いて、寝不足で風邪気味。相当機嫌が悪いようだ。


「しかもね。契約書みたら掃除代って家賃に含まれてるんだよ」


「えっ? 何、追加でせしめようとしてるの?」


「そうみたい。払わなくていいよね」


「当り前じゃない。そんなもん払わなくていいわよ。あームカつく! カルロスに手紙書いてやる」


 そう言うとマリアはペンと紙を取り出して書き始めた。


『暖房の件はどうなったの? 暖房代も家賃に含まれているんだから、値下げ交渉するわよ。あと、掃除代はすでに家賃に含まれているから払いません』


「これでいいわね。キッチンに置いてくる」


「ありがとう、マリア」


 温厚なマリアが書いたとは想像ができない内容だ。それだけ過酷な状況に追い込まれているということだろう。


 アパートに必須の備えである暖房を欠いている状況をどうにかしようと必死になるのではなく、数ドルの掃除代をもらうことに必死なカルロスが何だかまぬけに思えた。

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