第5話

 数日後、夜、仕事を終えてアパートに帰ってくると、部屋が寒い。まるで外にいるような寒さだ。


 自分の部屋に行って備え付けの暖房の管を触ってみると、凍えそうなくらい冷たい。これじゃあ眠れない。カルロスに相談しよう。


 カルロスの部屋のドアをノックする。


「ねえ、カルロス。私の部屋の暖房が壊れてるみたいなんだけど、見てくれない?」


「あら、そう? 見てみましょう」


 カルロスが私の部屋に来て、管に触る。


「本当だわ。冷たくなってる。もしかしてアパートのガス暖房の調子が悪いのかも。明日業者に来てもらうわ。私の部屋に予備の電気ストーブがあるからそれ使って」


「ありがとう」


 カルロスから電気ストーブを借りてきて、電源をつける。ちゃんと動いた。


 よかった。こんな真冬に暖房がなかったらとても眠れない。火事にならないように、タイマーをセットしてベッドに入った。



 翌朝、キッチンで朝ごはんを食べていると、短い丈のワンピースを着たマリアが青い唇をしてやってきた


「うぅぅ、寒い。暖房壊れたのかしら。朝方帰ってきたんだけど、眠れなくて」


「私の部屋のガス暖房壊れてたよ。マリアの部屋も?」


「ええ。すごく寒いわ。私たちの部屋だけじゃないわ。さっき廊下で暖房の管に触ったらとても冷たかったの。このアパート一室全体の暖房が壊れているはずよ」


「えーっそんな。昨日、カルロスが業者に聞いてみるって言ってた」


「そうなのね。もう、嫌になっちゃう」


 ケトルのスイッチを入れると、マリアは椅子に座った。


「ねえ、この前、夜中にすごい騒ぎ声しなかった?」


「したした。あれ、カルロスだよ」


「えっ? カルロスだったの? 困るわよね」


「ほんと。おかげで次の日寝不足で、仕事にならなかった」


「私もよ。全く迷惑なもんね。騒音に暖房なし」


「おっしゃるとおり。迷惑だよね」


「しかし、本当に寒いわ。これじゃあ風邪を引く」


「カルロスが電気ストーブを貸してくれたから、毛布貸すよ。この寒さじゃ眠れないでしょ」


「そんな、悪いわよ。ミサキが寒くなっちゃうじゃない」


「大丈夫。私、毛布余計に持ってるから。寒がりだからたくさん買ったの」


「あら、そう? じゃあ、借りようかな。ありがとう」


 マリアの役に立てて嬉しい。いつ会っても笑顔で話してくれるマリアは、私のシェアハウス生活を幸せなものにしてくれている。

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