第4話

 しばらくしても話し声が止まらないので壁を叩く。聞こえていないのか話し声は止まらない。


 五回ほど叩いて、やっと気づいたようで、話し声が止まった。


「静かにしてもらえる? うるさくて起きたんだけど」


 壁越しにカルロスに叫ぶ。笑っている声が聞こえる。


「ごめんねー」


 笑いながらカルロスは言った。申し訳ないとは全く思っていない口調だ。苛々しながら念のために耳栓をして目を閉じた。


 朝になって身体に鞭を打ってベッドから出た。カルロスの部屋からはいびきが聞こえる。いいもんだ。


 その日は眠くて仕事にならなかった。



 数日後、キッチンで夕飯を作っているとカルロスが帰ってきた。


 キッチンは玄関の目の前にあるので、誰が入ってきたかがすぐにわかる。


「ハーイ、ミサキ! いい匂い。何を作ってるの?」


「肉じゃがっていう料理だよ」


「おいしそうね。よい夕食を!」


 カルロスは何もなかったかのように笑顔でウィンクして、自分の部屋のドアを開ける。夜中の物音のことは忘れているのか、申し訳なさのかけらも見られなかった。


 カルロスの部屋は、キッチンの横にあるので、空いたままのドアから部屋の中が見えた。ベッドが二つ置いてあり私の部屋の三倍くらいはありそうな広さだ。


 なんかフェアじゃないな。自分よりも広い部屋に住んでいるカルロスをうらやましく思った。

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