第2話

 次の日、キッチンで夕飯を作っていると、身体にぴったりとした丈の短い銀色のワンピースを着た女性がキッチンに来た。


「ハーイ、初めまして。私はミサキ」


「ハーイ、私はマリアよ。よろしくね」


 マリアの声は低く、顔もえらがはっていて、恰好もキャバ嬢っぽい。ひょっとしてレディボーイかな、と思った。


 マリアは冷蔵庫から飲み物を取り出すと「じゃあね」と言って、長い髪をなびかせて玄関のドアから出て行った。


 きつい香水の匂いがキッチンに残った。夜の仕事かな、それともクラブに行くのかな。今度会ったときに聞いてみよう。



三日後、キッチンに行くとマリアが夕飯を作っていた。


「ハーイ、いい匂い!」


「ありがとう。ペルーの料理なの」


 鍋で何かを煮ているようだ。スプーンを回したままマリアがこちらを向いて答える。


「マリアは、ペルー出身なんだ」


「そうよ。出稼ぎにニューヨークに来てるの。親に仕送りをしてるのよ。ペルーに比べてニューヨークの賃金は高いから、少しだけど仕送りができるのよね」


「すごい、マリア。素敵だね」


「ありがとう。母親のためにペルーに家も建てたのよ」


「すごい!」


「ペルーの家はニューヨークに比べて全然安いからね」


「それでもすごいよ。お母さん嬉しかっただろうね」


「そうね。喜んでいたわ。ずっと小さなアパート住まいだったから。最近では庭で野菜作りにはまってるみたい」


「よかったね」


「うん。料理できたけど、ミサキも食べる?」


「えっ、いいの?」


「もちろん。お皿を取ってもらえる?」


 お皿を手渡すと料理を盛ってくれた。二人で椅子に座って食べ始める。


「いただきます」


「なんて言ったの?」


「いただきます、だよ。日本で食べる前に言う言葉なんだ」


「私たちの食前のお祈りみたいなもの?」


「違うかな。これは、食物に対して命をいただきます、ってことなんだ」


「素敵ね。い、た、だ、き、ま、す」


「マリア、耳いいね。あってるよ」


「うふふ」

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