◇伝説・徳川の秘宝を追え
ついに見つけた――。
緑生い茂る赤城山。その最深部で、俺は歓喜に打ち震えた。
目の前には灰色をした巨大な石棺が埋まっている。
今まさに俺が掘りあてたものだ。
この中には、あの伝説の財宝が眠っている……はずだ。
いや、間違いない。さんざん調査と研究に明け暮れた果ての発掘作業だったのだ。確固たる自信があった。
今ひとたび、俺は喜びのあまり恍惚の叫びを轟かせる。
泥と汗にまみれ、がむしゃらに掘り続けたこの一年間は、決して無駄ではなかったのだ。
して、何を見つけたというのか――。
皆も聞いたことがあるだろう。
かの徳川幕府が残したという隠し財産の伝説を……。
明治維新を迎えた果てに、無血開城した江戸城。
そこにあるはずだった幕府御用金は、いつの間にか何者かによって運びだされていた。
調査の末、赤城山山中に隠されたのではないかというのが定説となった、あの徳川の秘宝。
これまでにも数多の発掘者たちが夢に挑み、そして敗れ去っていった伝説の財宝……。
それが今まさに俺の目の前に現れたのだ。
ああ、なんという僥倖! 数奇! 運命! そして結実!
私財の全てをなげうって、妻も子供も捨てて発掘にいそしんだこの一年間……。
その血のにじむような苦労が、今まさに供養されてゆくのを感じる。
脳裏をよぎってゆくのは走馬灯だろうか。
いやいや、俺は死なない。いま、この瞬間から俺は生まれ変わるのだ。
さて――と、俺ははやる気持ちを抑えつつ石の棺へと向き直った。指先が震える。
伝説と言われた徳川の秘宝……。いま、令和の世に蘇らん!
棺の蓋に手をかけると、力を込めてずらしていった。
ずず……と重い音を立てて、石棺はその中身をついに日の元に晒す。
そこにあったのは、紛れもない――
大量のぼろ布だった。
よく見ると、一枚一枚に運針が施されている。
そしてそれらの片隅には、徳川の名がかすれかかった文字で記されていた。
「これは……ひょっとして、江戸城で使われた掃除道具か?」
伝説は間違ってはいなかった。
これがほんとの、徳川の
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