素質選別、スタート

記憶が混濁している。あたしはさっきまでディオラさんと一緒に帰ってて、殺戮事件の話を聞いて、その後なぜかディオラさんに包丁でお腹を刺されて…数分間の間に情報量が多すぎるためイマイチ整理ができずにいた。

目を開けると広がってきた光景は学校の和室。探偵部の部室の為よく見る光景だ。その畳の上にあたしは横たわっており畳の匂いに癒されていたが身体を揺さぶられて起きた。

「みりむん、起きて!」

「浅野先輩?先輩も何故ここに?」

隣にはいつもお世話になっている浅野梨香子先輩が居た。何やら焦った顔をしていたがあたしが起き上がると安堵の表情に変わった。辺りを見渡すとほかの先輩や顧問の先生も和室に居る。掛けられている時計を見ると夜の七時、もうとっくに門限も生徒最終下校時間も超えてしまっている。

先生が焦ったように問いかけてきた。

「伊田!目が覚めたみたいでよかった…ところでララピアントを知らないか?ここに居なくてお前と一緒に帰ってたはずなのだが……」

確かにディオラさんが居ない。話を聞くとここに居る人達皆ディオラさんにお腹を刺されたみたいで和室に連れていかれたようだ。

とりあえずディオラさんを探そうとドアノブに手をかけたら野太い声が響いた。



「出ちゃだめだよ」



振り返るとディオラさんが真顔で佇んであたしを見ていた。その顔で見られるとヘビに睨まれたカエルみたいに硬直してしまう…今のディオラさんには逆らってはいけない。本能が伝えているから。

「…ごめんね」

「大丈夫だよ。僕を探そうとしてくれてたから……とりあえず元の場所に戻って」

言われるがまま畳に座る。掛けられたホワイトボードの前にディオラさんが立ち、威嚇するかのようにボードに手を叩きつけた。その勢いの強さと怖さに思わず声が出て震える。

「今から探偵部の皆にクイズを解いてもらうよ。問題は全部羽見田小学校六年三組殺戮事件に関して。今この事件について調べている皆はお手の物だよね?」

「…狂ってる!!いきなり俺らを刃物で刺したかと思いきやこんなワケのわからないクイズとかいうのに参加しろって…!」

そう叫んだのは三年の副部長。今のディオラさんに逆らったら何されるかわからないからやめた方がいいのに先輩は続ける。

「ちょっといい子ぶったかのように入部してきて、入部初日にこんなバカげた事するとか…!ふざけるのも大概に……」

「先輩、さすがにそれは言い過ぎですよ!」

「伊田は黙っててくれ!今すぐ退部を…」







「ペラペラうるせぇな」





一瞬、誰の声かわからなかった。


その野太い声がディオラさんとわかった頃には、副部長は糸がほどけたように倒れている。副部長の左胸には直径3センチくらいの穴が開いていてそこから脈打つように真っ赤な鮮血が漏れていた。

悲鳴すら出せずに硬直していると、いつもは感情をあまり表に出さない浅野先輩がワントーン遅れて叫んだ。

それもディオラさんは気に入らないのか浅野先輩に銃口を向ける。

「だからうるさいです。本当に静かにしてくださいよ」

「わ、わかったから…銃を…」

「なんで先輩に従わないといけないんですか?副部長みたいになりたくないなら静かにしてください。それだけですよ」

ディオラさんから凄まれ先輩は黙りこみ俯く。こんな扱い、家畜じゃん。機嫌を損なわせないように恐る恐る尋ねる。

「ディオラさん…どうしてあたし達をこんな時間に……?」

「…単刀直入に言うね。今からこの探偵部の皆に僕の作ったクイズを解いてほしくて集めたんだ。君達探偵部ならこのクイズも朝飯前だと思って…副部長がいきなり脱落したから全員に出せなかったのは残念だけど、皆ならきっと解けるよ」

なかなか根拠のないことを言ってくる。あと脱落ってディオラさん側が決めるんだ。そして、なんとなく察しはついている。このクイズに間違える、すなわち死の可能性が高い。今のディオラさんならやりかねない…

「それじゃあ始めるよ。クイズは全部羽見田小の事件についてだから、今この事件を調査している皆には簡単だと思うよ。それじゃあ…『素質選別ゲイム』、スタート」


その単語、羽見田小の事件の別名だ。この探偵部でその事件名はあたししか知らないはずなのに、なんでディオラさんが?

驚きが顔に出ていたのかディオラさんはあたしの顔を見て勢いよく吹き出した。

「伊田さん緊張しすぎ。大丈夫、伊田さんならきっとクリアできるよ」

だから根拠もデータもない応援とか励ましはやめてくれ。でもこの事件はあたしの人生を変えた出来事…ミスは自分自身のプライドが許さないだろう。

やってやる、ディオラさんの恐怖クイズに。


            ***


「第1問。羽見田小学校六年三組殺戮事件の発生日はいつ?これは基本中の基本だから、流石に間違える人は居ないよね。ちなみに起きた年も含むよ」

何月何日とかだけじゃなくて詳しく答えないといけないのか。これは部員も先生も余裕だろう。

今現在は2020年。羽見田小事件は2年前の2018年…そして今日で事件発生から2年目となる。カレンダーは9月18日のマスに大きい丸印と『新入仮入部員予定』と赤ペンで書かれていた。



事件は2018年9月18日発生。皆もわかったようで互いの顔を見やり頷きあう。ディオラさんはにこやかに笑いながら声を上げた。

「はい、タイムオーバー!一人ずつ答えを言ってね。あとズル防止の為人が答え言っている時には自然と周りの音を遮断させるからよろしく。まずは部長から」

部長が口を開けた途端、耳から音が一切入ってこなくなる。しばらくの間音が聞こえなかったがあたしの順番がまわってきたのか急に音が聞こえるようになる。

「伊田さんの番だよ。羽見田小事件はいつ起きた?」

「…2年前の今日。2018年9月18日です」

答えた後にディオラさんは満面の笑みであたしに拍手を送った。よかった、一問目で間違える出オチにならなくて済んだ。

回答した後にはもう周りの音が聞こえる。正解したことに一安心していたが、その安堵が砕かれるのはあまりにも早かった。


二年の先輩が日付を間違えてしまったのだ。


「えっと……2018年、10月18日…」


月を間違えてしまっていた。非常に惜しい…








「ひぃっ!?」


先輩の短い悲鳴と重い銃声。今度は頭めがけて引き金を引いていたのか、先輩は頭から血を流していた。

嫌な予感は当たった。やはり間違えるすなわち死…ディオラさんは本当に人が変わったように恐ろしい悪魔の性格に成れ果てていた。

「まさかこんな簡単な問題を間違えるとはね…幻滅したよ。それじゃあ次の問題いくよ?羽見田小の事件の生き残りの教師はこの事件に別名を名付けました。事件の別名はなんでしょう?」

いきなり難易度が跳ね上がる。


この別名についてはとあるツールを使って出てくるニュースサイトから知ったものだ。一言でいうと深層ウェブからアクセスしないと出てこないサイトで、部の中ではあたししかアクセスしていない。

これには皆困惑の表情を浮かべている。もしかしたらあたし以外知らないパターン!?ここで一斉に皆を殺しちゃうの!?

「何だそれ…この事件に別名とかあったか…?」

「知らないよこんなの…」

どうしよう。皆を生き残らせる為には答えを教え…ダメだ。それは絶対ルール違反になる。だけどこのままだともしかしたら、皆死んじゃうかもしれない…

こうなったらもう神頼みしかない。

「じゃあまず先生から…わかりますよね?」

怪しく笑うディオラさんを吹き飛ばすように先生は大声で叫ぶ。

先生なら、いける…









そんな期待はあっという間に踏みにじられて、先生の心臓を弾が貫いた。


やっぱり皆はこの事件の別名を知らないから皆死んじゃう、否、他にもあたしの知らない別名があるかもしれなくて全滅もありうる。

聴覚はシャットアウトされている状態なのに禍々しい銃声と部員の皆の悲鳴が聞こえてくるように感じる。


浅野先輩の出番が回ってきて一気に不安になる。先輩はあたしが入学して初めてあたしに話しかけてくれた大事な先輩。そんな憧れの先輩が、いつ死んでしまってもおかしくない状況に居るのだ。


先輩は震える口から言葉を絞り出す。














そのまま、先輩は頭から血を流し白目をむいて倒れた。




あたしの希望はあっという間に砕け散ってしまったのだ。意図的にあたしにしかわからないような問題を出してきているのだろう…それなのに怒る気がおきず皆の死体を眺めているだけだった。

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