15. 思春期の事情は、複雑なんだが
「お、お待たせ歩夢」
鈴音とリンがトイレに向かって5分程。
歩夢がスマホをいじって時間を潰していると、どこかギクシャクした歩夢き方で鈴音が戻って来た。
「あれ? リンは一緒じゃないのか?」
「あー、リンはお腹が痛いみたいだからちょっと遅くなるみたい」
「おう了解。まぁここでゆったり時間潰してようぜ」
何とか違和感なく誤魔化せたことに、鈴音は安堵の息を漏らす。
あとは作戦通り、アリサの雇ったチンピラが絡んでくるのを待つだけだ。
ようやく落ち着いた鈴音に、歩夢は思い出した様に声かける。
「……ところで鈴音。あーなんというか」
「どうかしたの?」
ポカンと尋ねる鈴音の服装に、歩夢の視線が上から下へ行き来する。
「なんか今日の服、妙に気合入ってないか?」
「ふぇ⁉︎ そ、そうかな⁉︎」
全く予想していなかった歩夢の発言に、鈴音は思わず上擦った声で答える。
当然、鈴音自身も自覚はしている。この服は露出部も多く、正直言って着るのはかなり恥ずかしかった。
だが初の作戦ということもあり、願掛けも掛けていつもは挑戦しない派手な若者らしい服装に挑戦したのだ。
適当に目を泳がせながら、歩夢は続ける。
「休日に掃除しにくる時とか、いつも私服はそんなに派手じゃないだろ」
「ま、まぁ偶にはちょっとね! 私もJKだし? 偶にはおしゃれしたい気分の日だってあるから」
「……そういうもんなのか」
一方の歩夢もまた、必死で冷静を装っていた。
歩夢の知る鈴音の私服は、基本的に大人っぽい落ち着いた色が基調なイメージが多い。
普段の制服や私服と比べると今日の服は少し、いやかなり胸元の露出部が面積が大きかった。
すると年相応の発育に少し遠い鈴音の胸元は……時折危うい隙間を作るのだ。
当然ながら鈴音本人はそれに気づいておらず、ここまでも何度もそんなタイミングがあった。
(…………これ、言ったほうがいいのか? )
悩みに悩み高速で頭を回転させた後、歩夢はむず痒く口を開いて、
「何だ、その……似合ってると思うぞ」
「あ、ありがとう」
とりあえず、素直に服装について褒めてみた。
ここで胸元について指摘してもいいが、見ていたと思われたら嫌だし(実際のところ見てはいたが)後でそっとリンに伝えてもらおうと意を決めた。
そのまま歩夢はこの後の予定についてや、昨日動画サイトでみた話などをしようと改めて顔を上げる。
「…………」
「…………」
が、言葉がうまく出て来ず不自然すぎる間が続く。鈴音も顔を赤くして目を合わせようとしない。
(…………な、なんだこの空間は! )
妹的存在としてみていなかった鈴音の服装を誉めたところ、何故か妙な空気になってしまった。
これはあれだ! 彼女が出来た時のシュミレーションだ! と自分に言い聞かせる歩夢。
すると、鈴音がまたも上擦った声で提案した。
「ね、ねぇ歩夢! リンが帰って来ちゃう前に、次はどこに案内するか決めちゃわない?」
「そそそそうだな! 俺としては、道枝市で唯一の有名地である動物園でもありだと思うんだが!」
歩夢はまたも胸に引き寄せられる視線を、何とか振り解こうとするも偶に引力に負ける。
動揺を隠し切れない鈴音もまた、それに気づくことなくチグハグな会話を続ける。
そんな気まずい空気を書き換えたのは、歩夢でも鈴音でもない声だった。
「おぅおぅ、あんちゃんどこ見てんのやワレぇ? 喧嘩売ったんのかおう!」
「そこの男お前だお前! シカトしてんじゃねぇぞオラ!」
歩夢が視線を上げると、そこに居たのはモヒカンヘアーに黒マスクのいかにもと言ったチンピラ。
もう1人も、これまたテンプレみたいなスキンヘッドのチンピラだ。
(…………き、来たぁ!)
ガラの悪い声だけで、鈴音は作戦の為に雇われたチンピラだと悟った。
作戦の第一歩夢が、始まる。緊張感に震えながらも、鈴音はゆっくりと振り返る。
「何だあいつら……」
当然ながらそんな事は露知らず、歩夢は唐突な展開に困惑していた。
チンピラはどんどんと距離を詰め、まじまじと歩夢の顔を見つめながらガンを飛ばす。
「でぇ兄ちゃん。どこ見てたか正直に言うてみぃ?」
「だから俺は別にガン飛ばしたりして無いって。さっきからずっと、こいつ1人しか見てないし」
露骨に因縁つけてくるモヒカンを見ながら、歩夢が面倒そうに鈴音を指差した。
「ふ、ふぇ⁉︎」
突然すぎる言葉に耳の端まで、一気に真っ赤に染まる鈴音。
比喩表現抜きに湯気が出そうな程に体温が急沸騰している。
「あ、あたし1人しか見てないって……ちょ、ちょっと待って心の準備がまだ……」
「やまかしいわ! 急に惚気てんじゃねえぞ女ぁ!」
いかにも三下らしいセリフを吐くスキンヘッド。
続きモヒカンも、ドスの効いた声で歩夢に顔を近づける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます