09. 乙女の秘密は、世界の鍵なんだが

「えへっ? じゃないから! あたしの恋愛ひとつにそんな大きいモノ委ねられても困るんですけど⁉︎」

「……でもママの恋愛成就させないと、特異点が消えないので」

 鈴音が涙目になりながら、リンの肩を前後に揺らす。


 このままだとそう遠くなく、遠心力でリンの首が飛んで行く事を悟ったアリサは急いで仲裁に入った。

「お、落ちついてくれ鈴音さん! 私とリンは特異点を解決する為に来たんだ、そのサポートだって仕事の内に含まれる!」

「そ、そうですよ! ボクらだって特異点を解決しにきたんですから!」

 2人の言葉に、鈴音の身体がピタリと止まる。


 グッと親指を立てるリンとアリサ。リンの方は若干、吐き気を抑え込んでいた。

「……そ、それなら。こちらこそ……よろしく……お願いします」

 耳の端まで赤くした鈴音は、ゴニョゴニョと小さく呟いた。

 恋のキューピット(未来人)の2人は、特異点解決の一歩を着実に踏み出せたことを心の底から安堵する。


 鈴音が心変わりしない内にと、リンはそのまま説明を続けた。

「それではターゲット、つまりママの旦那さんでボクのパパの事なのですが」

 リンが説明を再開しようとすると、再び鈴音がかぁっと顔を赤くなった。

 特異点を解決するには、当然結婚相手となる人物を知る必要がある。

 鈴音自身も当然それを理解してはいたが、心の準備とはまた別の話である。

 

「あ、あたしの結婚相手? そそそもそも交際経験なんてあたしには無いし、全然想像もつかないなぁー」

 顔を真っ赤にしながら、明後日の方向を向く鈴音。

 だが実のところ、鈴音本人にも既にうっすらと察しがついていた。

 未来人の存在を知る人間など、鈴音ともう1人しかいないのだから。


 そしてリンは鈴音の肩をポンと叩き、真顔で床を指差す。

「ママ、ご想像通りあのパンツを見て嬉しそうに気絶してるセンパイがボクのパパで、ママの未来の旦那さん……信乃方 歩夢が貴女の彼氏になる人なのです」

「いや! 聞こえない!! あたしの未来の旦那がラッキースケベを糧に生きてる幼馴染だなんて聞こえない!!」

 耳の端に至るまで真っ赤になった鈴音は、両手で耳を塞いでしゃがみ込む。


 それを見たリンは口を尖らせて、足の間から鈴音の顔を覗き込んだ。

「ちょっとちょっと、早速拒絶しないでくださいよ。正真正銘、ボクは2人の子供なんですよ?」

 恥ずかしさのあまり小さく震える鈴音と、不満げに頬を膨らませるリン。


 そんな2人の様子を見たアリサは、複雑な表情を浮かべながら、

「リンの言う通りだ、鈴音。恥ずかしい気持ちは分からなくも無いが、私たちの使命は鈴音と歩夢が無事にイチャイチャさせる事なのだから。思う存分にイチャイチャしてくれ、それが鈴音の役割だ」

「ちょ、ちょっとアリサ先生⁉︎ いくら重要なミッションだからって、ハッキリ言い切られると流石にあたしも恥ずかしいんですけど……」


 顔を上げて口元をゴニョゴニョと捩らせる鈴音。

 それを見て、リンは何かを思い出した様に手鎚を打った。

「あ、そうそうすっかり忘れていました! 根本的に欠損していたら、特異点を解決する事の出来ない要素があるから正直に答えてくださいね?」

 鈴音が「これ以上まだ何かあるの……?」と引きつった笑みを浮かべながら見ると、リンは気にする様子もなくニコリと笑って説明を続ける。


「ママはセンパイのこと、好きですか?」

「そ、それは……」


 鈴音と歩夢、2人を結ばせる事で特異点を解決するミッション。

 それに不可欠で何よりも重要なストレートの質問。

 鈴音本人にも意外なことに、動揺するかと思っていた思考は冷静を保っていた。


 幼馴染と過ごした十数年が脳裏に過ぎる。徐々に鼓動が速くなる不思議な感覚。

 半分閉じた瞼、火照る身体。そして唇は自然に言葉を漏らした。


「…………好き。あの日から、ずっと」

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