イベント7 異世界帰りの幼なじみと休日デートするらしい。ずっと一緒にいてやるよ! ④

「あ! たーくん、あれはなにか見覚えがあるぞ!」


 次にやるゲームを求めて店内をうろついていると、ふいにこずえが叫んだ。

 彼女が示す先には、ガラスに囲まれた台が据えられている。

 台の中には、ぬいぐるみや携帯ゲーム機など、様々な物が並べられていた。


「クレーンゲームか……」


 たしかにこれは昔からあるよな。

 シンプルだからこそ長年親しまれているゲームの代表格だろう。


「まだこちらの世界にいた頃、友人としょっちゅうやっていたような気がする」


 梢の言葉に、俺は、心の中で「おおっ!」と叫ぶ。

 

 ――ってことは、記憶の呼び水になる期待大じゃねえの?


「やってみるか!」

「うん!」


 俺は数枚のコインを入れ、彼女を振り返る。


「やりかたは?」

「すまない。残念ながら、そこまではおぼえていない。機械を操作して、中の物を取ろうとするゲームだということだけは、かろうじて記憶にあるが」

「オーケー。じゃあまず俺が手本を見せるよ」


 俺は液晶画面のスタートボタンを押した。


 操作は簡単。

 スタートしたあとは、横に動くボタン→縦に動くボタンの順にクレーンを操作し、縦ボタンを離すと、その位置でクレーンが自動的に下りてゆくだけだ。

 で、運が良ければ、クレーンの腕が景品をキャッチして運んでくれる。


 俺は横ボタンを押した。


 ウィィィィンーー


 クレーンが右側に移動してゆく。


 そういや、なにを狙うか考えてなかったな。


 適当に目に留まったぬいぐるみを狙うことにする。猫とウサギの中間みたいな外見のマスコットキャラだ。

 ぬいぐるみの手前まできたところで、今度は縦ボタンを押し込む。


 ウィィィィンーー


 ちょうど真上に差し掛かったあたりで、ボタンを離した。

 クレーンが降下し、アームを閉じる。

 

 ――お? なんか紐にひっかかったみたいだぞ


 運よく人形についているタグの輪の中に左のアームが入り、そのまま持ち上げてゆく。


 ウィィィィンーー――ガコン


「て、感じだ」

 

 取り出し口から、マスコットキャラを手に取りつつ、俺は幼なじみに告げる。


「簡単だな。これなら今の私にもできそうだ」

「それじゃ、ゴーだな!」


 俺は投入口にコインを入れた。

 梢がゲームを開始する。


「ん? なにかうまくいかんぞ?」

「くそなぜだ!? まるで魔力障壁が張ってあるかのように、アームが弾かれてしまう」

「………………」


 数回ほど失敗すると、梢は黙ってプレイするようになった。

 いつものむっつり顔が、心なしへの字口になっているようにも見える。


「……ええと、なにか昔のこと思い出した?」

「静かに。気が散る」


 ギラギラした目で景品を見ながら、短くこたえる幼なじみ。

 ……こいつあれだよね、たぶんパチンコとかにハマると人格が変わっちゃうタイプの人間だよね。


 さらに数回の失敗を見届けたのち、俺は彼女に声をかけた。


「梢、さすがにそろそろ終わりにしようぜ?」

「……わかった。次で最後にする」


 本音は「取るまでやめたくない」だろうが、さすがに俺が財布の中をちらちら見ていることが気にかかったのだろう。


 彼女は意を決した顔で横ボタンを押した。


 ウィィィィンーー


 クレーンが横にスライドしてゆく。ラストチャンスだ。


「ところでおまえさん、ずっと一個の人形だけを狙ってるけど、そんなにあれが気に入ったんか?」

「……たーくんとお揃いだから」


 彼女の言に、その人形を改めて見ると、たしかに俺が最初に取ったぬいぐるみと酷似していた。

 というか、俺の人形は青、彼女の狙っているぬいぐるみはピンクと、はいているズボンの色しか違いがない。


『この前、三上みかみも言っていた。できれば、デート中にペアになる物を入手するのが良い、と。その日の思い出を形として残せるから、と』


 アースガルド語で何事か呟くが、もちろん俺にはわからない。


 ウィィィィンーー


 クレーンがくだんの人形の真上まできた。


 梢は、祈るように目を瞑ると、次の瞬間、カッと目を見開いてボタンを離す。


 そこまで気合を入れんでも……。


 クレーンの爪がぬいぐるみを挟んだ。


「よし!」


 そのまま、ゆっくり持ち上げてゆく。


 だが、いかにも不安定だ。

 ゆらゆらと頼りなく揺れて、今にもアームから滑り落ちそうである。


 その時、俺は自分のゲットした人形のタグに、なにかが書かれていることに気付いた。


「なになに……「仲良しカップルのネコ太くんとウサ子ちゃん☆ 二人を揃ってゲットすれば、絶対恋愛成就だよ~♡」だとさ。くだらなw」


 俺は苦笑したが、梢はなぜか再びカッと目を見開く。


 ちょうどその時、ぬいぐるみがつるりとアームから外れてしまった。


 あー駄目だったか――


浮遊魔法レビテーション!』


 落下しつつあった人形が、ぴたりと静止する。

 そのまま宙に留まり、クレーンの腕に押されて運ばれてゆく――ってちょっと待て


「おい! 魔法を使ってねえか!?」

「使っていないが?」

「いや目の中に五芒星が浮いてるし、明らかに魔法のために精神集中してる顔だよね!?」

「使っていないが?」


 人形はそのまま不自然に運ばれてゆくと、不自然に落下して不自然にすぽっと投入口に落ちた。


「クエスト完了だな」


 ぬいぐるみを取り出しつつ、梢が言う。


 ……………うーん、この手のゲームって、何度も失敗して取れなかったら、店員が見かねてサービスしてくれる(こともある)らしいし。


「……今回は大目に見るけど、今後、外で魔法を使うのは控えろよ」

「わかった。ところで、この人形はたーくんの物とペアみたいだぞ?」


 いま気付いたという風に白々しく告げる梢に、俺は盛大なため息を吐く。


「そうみたいだな」


『やったあ! フラグが立ったあ~☆ これで10年後に、「そういや、これが俺たちの最初のデートだったな」って愛を交わしながら囁き合うルート確定だあ~』


 例によって異世界語でなにやらはしゃいでいるが、こいつ俺の話をホントにちゃんと聞いてるんだろうな……。

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