イベント4 異世界帰りの幼なじみと部活見学するらしい。やめろ、そんなに激しくやると服が破けるだろ! ①

 放課後。


 帰りのホームルームが終わると、すぐに長谷景子はせけいこが俺の元へとやってきた。


木島きじま君、ちょっといいですか?」

「ああ。話はこずえから聞いてるよ。これから学校の中を案内してくれるんだろ?」

「あ、はい」


 長谷は眼鏡の端をくいっと持ち上げる。


「あと、いちおうクラス委員として、お二人に言わなければならないこともありますので……」


 どこか含みのある言葉に俺は内心首を傾げたが、とりあえず「梢!」と幼なじみを呼んだ。


 そして、俺たち3人は教室を後にした。




 先導する長谷に従い、俺たちは階段を昇ってゆく。

 

「では、5階からご案内しますね」


 下校する生徒たちの流れに逆らって、てっぺんまで辿り着くと、長谷はそう告げた。


「この階の右端には…………………………………………あれ?」


 つぶらな瞳を瞬かせる彼女。


「…………………………………なにがあったのでしたっけ? おかしいわ、なぜでてこないの…………?」


 落ち着きなく視線をさまよわせる長谷を、俺はさりげなく観察する。

 

 先程からかなり緊張している様子だったので、気になっていたのである。

 正直あまり気の強いタイプには見えないし、一人で転校生二人を相手にするのは、彼女にはちと荷が重いのではなかろうか、と危惧していたのだ。

 しかも、そのうちの一人は、いきなりパンツを要求してきた奇人だし。


「す、すみません…………少しど忘れをしてしまったようで……」


 焦りで頭が白くなってきたらしい彼女に、俺は助け船を出すことにした。

 

「たしか右端には、図書室があるんだよな」


 俺の言葉に長谷は驚いた顔を見せる。


「そ、そうです!」

「その隣は理科準備室でその隣が理科室だっけ?」

「はい。……でも、どうしてご存じなんですか!?」

「あー、事前に校舎全体の見取り図を調べておいたから」


 俺は軽く肩をすくめて告げた。


「え!? うちの高校、かなり広いですけど、すべてですか?」

「ああ。どこになにがあるかは、全部覚えたかな」

「す、すごい………!」


 眼鏡の奥から感嘆の眼差しを向けてくる長谷。


 そんな驚くことか?

 社会人の頃は色々な現場に飛ばされたので、これから勤務することになる建物の構造を事前に調べておく習慣が付いているだけなのだが。

 まあ、今回は勤務先じゃなくて通学先だけど。


「普通、そこまで気が回らないと思います。わたくしは転校経験がありませんけど、もし自分だったら、新しい生活に馴染めるかどうかが心配で、とてもそこまで準備できないです」


 なるほど。たしかに高校生だったら、そんなもんかもな。


「教室にいる時から思っていたのですけど、木島君ってどこか落ち着いているし、クラスの男子たちと全然雰囲気が違いますよね」

「え? そう?」


 内心ぎくりとしながらこたえる。

 中身がおっさんだと勘付かれたかと思ったが、なぜか長谷は胸の前で両手を組み、こちらをじっと見つめてくるばかりである。


「当たり前だ! たーくんをそこいらの男と一緒にするな!」


 唐突に横から声が割り入ってくる。


「たーくんは私の想い人なんだぞ!」


 梢は両腕を組み、豊かな胸を反らせて告げる。


「え? 想い人?」


 長谷が聞き咎めると、途端に彼女はしどろもどろになった。

 

「あ、いや、その………………重い人?」

「いや、俺の体重そこまで重くねえけど!?」


 実際、今の俺は高校生の標準体型――いわゆる中肉中背ってやつである。

 まあ、昨日まで普通に中年太りしてたけどな。


「そ、それはそうと、たーくんはこの学校の非常口や、いざという時に脱出できそうな窓は把握しているか?」

「いや、そこまでは知らんけど」

「ふっ……甘いな。それでは、冒険者は務まらん」


 仁王立ちして言い放つ梢。


 ドヤ顔で言われても、俺はそもそも冒険者じゃないのだが……。

 

「私は新しいダンジョンに赴く際は、常に逃走経路を入念に下調べしておく。いざ強敵と遭遇した時に生死を分かつからな!」


 長谷が「え」という顔になる。

 やれやれ、また中二病を演じにゃならんのか……。

 

「梢、俺たちの好きなゲームやアニメと違って、この学校の中には強敵とかでないぞ」

「そうなのか」


 しょんぼりうなだれる幼なじみ。

 

「でも、火事の時はおまえの知識が役に立つかもな」

「うむ! その時は任せてくれ!」


 梢は顔を上げて、どんと胸を叩いた。


 ほんと単純な奴……。

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