アラサー無職の俺の部屋に、異世界返りの幼なじみが女子高生としてやってきた。しかも俺も若返らせてしまったので、これから一緒に『イチャラブ』学園生活を送ります
イベント3 異世界帰りの幼なじみと一緒に自己紹介するらしい。それはいいけど、恋人っぽく匂わせるなよ? ②
イベント3 異世界帰りの幼なじみと一緒に自己紹介するらしい。それはいいけど、恋人っぽく匂わせるなよ? ②
「ねえ」
1限目が終わって、休み時間。
一人の女子が俺の元にやってきた。
「さっきのやつってさ、狙ってやったの?」
自己紹介の時に、真っ先にいい反応をしてくれた子だ。
今時の高校生らしく脱色したショートヘアに、ほどほどにメイクされた顔。
ロリコン趣味はないが、かなり可愛い部類に入ると、おっさんの俺にも一目でわかる。
「自己紹介のことかな?」
俺は彼女にたずねた。
「そう」
「あー、ちょっと空気が不穏な感じになってたから、なんとかできねえかなー、と思って」
「で、あえてちょっと痛いキャラを演じて、笑える空気に変えたと」
「まあ、そんな感じかな」
俺は軽く肩をすくめてみせる。
……あれが演技だと気付いていたのか。ギャルっぽい見た目だけど、聡い子だな。
「ふーん」
彼女は俺の目を覗き込むように小首を傾げた。
「なーんか手馴れてるね?」
「そうか?」
こともなげにこたえたものの、内心ぎくりとする。
俺の職場は人の入れ替わりが激しかったし、けっこう癖のある人物も多かったので、自然と対応手段を身に付けるにいたっただけなのであるが。
……とりあえず自分と
というか、バレたら確実に面倒なことになる。
「まあ、とにかく良い対応だったよ! みんな明るく楽しくがワタシのモットーなんだ!」
幸い、それ以上追求されることもなく、彼女は元気印といった感じの笑顔をみせた。
「ワタシ、
最後の台詞に自分で軽く吹きながら、右手を差し出す彼女。
「よろしく」
俺はその手を握り返す。
あだ名決定しちゃったっぽいなあ……まあいいけど。
で、肝心の梢の方はというと。
10分の休み時間中、誰にも話しかけられることはなかった。
2限目の休みも同じ。3限目も。
会話どころか近付こうとする生徒さえいない様子。
はっきり言うと、モロに避けられていた。
「……なぜだ?」
さすがに若干気落ちしたトーンで呟く彼女。
「だから、家を出るときに言ったろ? 異世界に行ってたことは学校では伏せておけって」
俺は嘆息混じりに告げた。
昼休みに入ったばかりの教室は喧騒に満ちている。
ただし、梢の机周辺だけ人気がない。
さすがに気がかりになって、声をかけてみたんだが――
「どうしてなんだ? たーくん、教えてくれ」
「普通に誰も信じねえんだよ。よくて痛い奴だと思われてドン引きされるか、悪けりゃ病院に連れていかれるんだ、その設定をオープンにすると」
「………………」
梢は考え込むように、しばしの間、沈黙する。
「異世界帰りというのは、そんなに珍しいものなのか。20年前、日本にいた時は、しばしば本などに出てきたような気がするのだが」
「……昨日から思ってたんだけど、おまえさん、昔見た漫画とかアニメの知識と現実をごっちゃにして記憶してねえか?」
「自分ではよくわからん。ううむ……」
眉間に皺を寄せる彼女。
――異世界ボケ
梢は、あまりにも異世界での生活が長かったため、時差ボケや平和ボケならぬ、深刻な異世界ボケに陥ってしまっているのである。
「……わかった。では、たーくんの助言通り、今後は異世界に赴いた事実は伏せておく」
「そうしといてくれると俺も助かるよ。なんかボロが出そうになったら、俺もできるだけフォローするからさ」
「やっぱり持つべき者は、『愛する人』だな」
「またアースガルド語が混じってるんだが?」
「失礼。持つべき者は友だと言ったんだ」
そんなやり取りをしていると、ふいに横から声がかけられた。
「お二人さん、ちょっといいー?」
振り返ると、一人の女子生徒がすぐ後ろに立っていた。
「おお!」
思わず感嘆の声を上げる俺。
梢のATフィールドを突破してくれる生徒がついに現れたか。
「って、三上さん?」
件の女子は、例の三上樹里だった。
「あー、樹里でいいよ。名前呼びの方がフレンドリーだし」
「そうか?」
「うん」
にこにこ笑う彼女。
さっきもそうだったが、人懐っこくて親しみやすい子である。
えーと、なんていうんだっけこういうの……そう、今時は陽キャって呼ぶんだったかな?
「いきなり人の背後に立つな」
対照的に底冷えする声を上げたのは、梢だ。
彼女はいつもの5割増しのむっつり顔で、樹里をねめつけるように、見上げている。
「非常識な……
「非常識はおまえだ・ろ・が!」
反射的に梢の頭をどつきたくなったのを、ぐっとこらえた俺を褒めて欲しい。
本当にこいつは……。
「ごめんな、せっかく話しかけてくれたのに」
「ははは、いいって」
謝る俺に、樹里はパタパタと軽く手を振ってみせる。
俺の幼なじみは、相変わらず口をへの字にして、談笑する俺たちを睨んでいる。
いったい、なにを餓鬼みたいにへそを曲げているんだか。これじゃどっちが大人なのかわからんだろ……。
「それよりさ、せっかくだから、一緒にご飯を食べない?」
「あー、そういや弁当を持ってきてねえな」
朝からゴタゴタしていたせいで、すっかりそのことを忘れてた。
「なんとなくそんな気がしたから、学食へ案内するよ! この子も一緒にね」
そう言って、背後を親指で示す樹里。
その時、俺は初めて、彼女に隠れるようにもう一人女子が立っていることに気付いた。
おずおずと、樹里の影から覗き込むように、こちらをうかがう少女。
彼女と目があった途端、俺たちは同時に声を上げた。
「「あ」」
その女子生徒は今朝、梢にパンツをくれたあの少女だった。
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