イベント3 異世界帰りの幼なじみと一緒に自己紹介するらしい。それはいいけど、恋人っぽく匂わせるなよ? ①

「はーい、みなさん、今日は転校生を紹介しまーす」


 小柄で童顔の女教師がにこにこ笑いながら、教卓から告げた。


 朝。

 ショートホームルームの時間である。


 俺とこずえは、登校前から様々なごたごたに遭遇しながらも――まあ、だいたいこの幼なじみのせいなのだが――なんとか、遅刻せず目当ての高校に辿り着いた。

 

 校長室であわただしく各教員に挨拶を済ませた俺たちは、そのまま担任に連れられて今日から世話になるクラスへと案内された。

 転校初日なので、当然担任教師から紹介される流れになったのだが――


「え? 二人同時?」


 誰かがそんな声を上げる。

 

 不思議に思うのはもっともだ。

 普通、転校生が同じ日に同じクラスに転校してくることは、まずないだろう。

 これも、異世界転生を司る神様とやらが便宜を図ったからなのだろうが。


 ――あ、言い忘れていたけど、梢は異世界帰りの元勇者な


「そうでぇす。いっぺんに二人もお友達が増えて、みんなもうれしいねぇ♪ それじゃさっそく、女の子の方から自己紹介いってみよ~」


 疑問の声を軽く流しつつ、やけに高いテンションでそう促す担任。

 彼女が脇に退くと、入れ替わりに梢が教卓の前に立った。


 ――大丈夫かなぁ……


 俺は他人事にも関わらず、不安を覚える。


「私の名は依知川梢。わけあって異世界アースガルドで勇者をしていたが、先だって日本への帰還を果たし、貴兄らと机を並べる名誉を得た。これからよろしく頼む」


 胸に片手を当て、ビシッとやたらに堂に入った礼をする梢。


 ――駄目だったか


 俺はこめかみに手を当てて、そっと嘆息をもらした。


 教室になんともいえない空気が漂う。


「今、異世界とか聞こえた気がするんだが……」

「自分のこと、勇者とか言ってたよね」

「なに、あのアニメみたいなポーズ」


 小声で囁き交わす生徒たちを見て、俺の中で危機感が募ってゆく。


 やばい……。

 このままだと、転入初日にして梢が危ない人認定されてしまう。

 フォローするなら、いますぐやるしかねえ。


「はーい、そんじゃ、僕の方も自己紹介いきまーす」


 俺は、梢を押しのけるように教卓の前に躍り出ると、強いてふざけた口調でクラスメイトたちに声を投げた。


木島達郎きじまたつろうっていいまーす。たっちゃんとか、超名作野球漫画の主人公っぽく呼んでくれてると嬉しくて躍り上がっちゃいまーす。まあ野球経験はないんですけど」


 そこまで告げると、聴衆の反応をうかがう。


 我ながらかなり寒い自己紹介だが、前の梢の自己紹介があまりにもアレ過ぎたためか、そこまで引いている奴はいなさそうだ。


 ぷっ……


 その時、誰かの吹き出す声が聞こえた。

 教室の中ほどに座っている女子が、口元に手を当てて苦笑している。

 

 ここだ――


「僕はただの人間ですけど、この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、僕のところに来てください」


 それを聞いた途端、さっきの女子が大笑いした。


「あははははは、知ってる知ってる、そのネタ」


 彼女は、片手を腰にあてがい、もう一方の手で天井あたりを指さす。


「こんなやつでしょ?」


 俺は即座に片膝をついて、両腕を大きく開く。


「そうこんなやつ」

「あはははははははは」

 

 件の女子は腹を抱えて笑い始めた。


「あーそれ俺も知ってるわ。昔のアニメだよな」

「私もパパのDVDで観たことある~」

「ハレ晴○ユカイだっけ?」


 そんな会話が方々から聞こえてきた。


「なんだ、ただのアニオタかよ」


 誰かのもらした言葉に、俺は即座に乗っかる。


「あー、そんな感じっす。俺も彼女もオタ趣味にひたりすぎて、ちょっと厨二入っちゃってますけど、仲良くしてやってくださーい」

「ちょっとじゃねえだろ」


 即座に入った誰かの突っ込みに、教室がどっとわく。


 やれやれ、なんとか切り抜けたか。

 あとは――


「私は本当に――」


 一歩踏み出し、再び口を開こうとした梢のつま先を、俺はとんと軽く踏んだ。


 怪訝そうな目をこちらへ向ける彼女。


 俺は他の生徒には見えない角度で、『これ以上、喋るな』と口パクで伝える。


「…………たーくんがそう言うなら」


 納得いかない様子を見せながらも、引きさがる梢。


 ――キーンコーンカーンコーン

 

 タイミングよくホームルーム終了を告げるベルが鳴った。


 やれやれ、最初から疲れるぜ……。

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