短編『新作』

来賀 玲

新作が出る

.










 ─────それは、箱詰めと言っても良い様な場所だった。

 ある惑星へ向けて飛んでいく、人員輸送船。

 その中の寿司詰めな狭い座席に座る、老若男女、人間とそれ以外、

 皆、なんの繋がりもない様な顔ぶれだった。


 だが、その瞳の奥には皆、何か暗い情念と、希望の様な物を浮かべて、長い窮屈な航海を耐えていた。



「‪……‬ネットが通ってるから、小説の更新が出来るのは楽だな。あ、うるさかった?」


「上司よりは静かだ」


 隣り合った座席の二人の男が、会話を始める。


「‪……‬なー、良かったのか?」


「何が?」


「仕事、辞めたんだろ?」


「‪……‬お互い様じゃないか」


「俺は良いよ。辞めた所で気楽な派遣業だし。

 お前、お父さんの仕事引き継がなくていいのか?」


「親父が嫌いだから」


「‪……‬‪……‬『戦場』に行くんだ、嫌いでも遺書ぐらい書けば?」


 うーん、と相方に問われた男が唸る。


「待ち望んだ戦場だぞ?10年だ。

 ま、俺は新参だしな‪……‬『ヤマネコ』出身だし」


「けどさー‪……‬」


「周りを見ろよ。

 誰も嫌で来た顔ぶれじゃない。

 お前だって‪……‬あの『戦場』がまた、って聞いた時は、喜び勇んでたろ?」


「うーん‪……‬」


 納得いっていないのか、モニョモニョする相方を尻目に、男はまたスマホのメモ帳へ戻る。




「───『ヤマネコ』時代か。ある意味黄金期だな」



 ふと、相方と反対の席にいた、妙なローブを付けた若い男が言う。


「どう見ても、そっちは『渡鳥』より若そうだ」


「いや、これでも『地底人』だったんだ。

 ‪……‬‪……‬トラックに轢かれて、異世界に転生して生活してたんだ」


 おぉ、と、最近珍しくは無い相手に驚く声を出す。


「『地底人』ってことは、古参か‪……‬あるいは、」


「そりゃまた、チートもあって良い人生だったでしょうに。

 なんでまた、「戦場」に?」


「‪……‬‪……‬幸せな生活か。

 それがどうにもね‪……‬アンタらは、あの鳥の巣の名前の組織と同じ物があるが‪……‬

 『愛機』がない世界があったら、どう思う?」


 ああ、とローブの男に納得する。


「‪……‬物足りない」


「ああ‪……‬それで、ツレとこっちになんとか戻ってきたんだ」


 隣には、よく見れば肌の色が紫でツノの生えた仰々しい存在、

 いかにも魔王な存在がいた。


「そちらも?」


「ああ。まさか、異世界の宿敵が同じ『地底人』出身とは思わなかったよ」


「うむ‪……‬!

 だが、月光の聖剣をあの振り方をする姿で即座にわかった」


「よりにもよってその世界にもあるんですか、月光」


「‪……‬‪……‬なんせ、女神が作ったんだもんな。

 だろ?」


 ‪……‬‪……‬さらに魔王の向こうで、顔を赤らめるよくいるファンタジー世界の女神までがいた。


「‪……‬‪……‬物好きな、一体なんでまたあんな戦場に?」



「さっきも言っただろう?


 いや、分かるだろう?あの感覚だ。

 戦争だ。俺たちにはそれが必要なんだ」



 ‪……‬その物騒な言葉は、しかし困ったことになによりもわかる言葉だった。






 ────去年の年の暮れ、彼らにとってもはや遠い過去か、あるいは諦めきれずダラダラ続けていた『戦場』は、


 それを提供していた『企業』が、

 まるで、過去を思い出したかのように突然、新しい『戦地』を与えた。











 ────とあるウマの様な少女達の通う学校では、



「なんでー!?どうしてトレーナー辞めちゃうのぉ!?」


「違うんだよ。俺は‪……‬俺は、本当は‪……‬『傭兵』だったんだ‪……‬

 傭兵はもうできないと思っていたんだ‪……‬なのに、また戦場が始まる‪……‬!」


「ヤダー!!ボクのこと優勝させるって言ったのにー!!」


「ごめんよ、俺は!!

 魂を戦場に置いてきたままなんだ!!」






 ─────とある透き通るような世界の学園で、



「先生!!なんで!?」


「戦場が呼んでいる。それだけだ」


「ご主人様!!行かないで!!」


「俺に必要なのはあの薄汚れた世界なんだよ!!」







 ────とある、海軍の鎮守府では


「どうしてですか、指揮官様‪……‬!

 せめて、私を連れて‪……‬」


「すまんな。ケッコンまでしておいて。

 俺は最低な男だ。もう、忘れてくれ」






 ─────とある世界の選定に立ち向かう機関では、



「先輩!!今世界が滅んで、戻そうとしている時に!!どこへ行くんですか!?」


「ごめんって!!ちょっとだけ、ちょっとだけ滅んだ世界で傭兵してくるだけだから!!

 10年待ったから許して!!周回ももう嫌だし!!」









 ‪……‬‪……‬かつて、『傭兵』として戦った人間達がいた。


 かつて、鋼鉄の愛機を駆り、任務を遂行し、殺し合った傭兵達がいた。



 そして今、終わったはずの戦いが、また始まる事になった。



「‪……‬‪……‬粗製で、腕はないが‪……‬俺もまた傭兵したいから、あの惑星に向かっているんだ」


「ああ‪……‬‪……‬今度は、あの至高の機体みたいな物があるかな‪……‬」


「‪……‬‪……‬あの機体に成り果てた傭兵とも、戦場で会えるかな」


「会いたいなぁ‪……‬元勇者さん達は、会いたい相手はいるか?」


「‪……‬二度と会いたくない相手なら、ほらそこにいるぜ」



 元勇者のローブの男の先、くたびれた中年の男性が、いそいそとガレージキットを水性塗料で塗っていた。


 途端、誰か分かってしまったが故に顔が曇る。



「‪……‬‪……‬伝説のイレギュラーである『あの人』か‪……‬!」


「流石に衰えているとはいえ‪……‬会ったら確実に死ぬからこそ戦う相手もいなくなった奴が‪……‬」



「‪……‬‪……‬もうすぐ、戦場の惑星だ。

 なんでも、新資源が暴走して星ごと壊滅状態になった場所らしい」


「それでも、戦いは続いていた、か。

 俺たちみたいなどうしようもない人類ばっかだ」


「‪……‬‪……‬お前ら、次会う時は敵同士かもな。

 粗製って言ってたが、会ったら容赦はしない」


「ああ‪……‬ここはチートも使えない戦場だ。

 その時は、死ぬまでやり合おう。


 身体が闘争を求めるままに、さ」




 ────もうすぐ、戦場がやってくる。


 10年ぶりの、戦いの場所が


 さぁ、始めよう。









《メインシステム、戦闘モード起動します》








           ***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編『新作』 来賀 玲 @Gojulas_modoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ