第30章 悪魔が来たる交流会

愛知県の留置所。先の事件の犯人。石狩豊と取引をして、アンダス団の情報を引き出していた。

「じゃあ早速有益なこと教えてやんよ」

「勿体振らずに教えろ」

「はははっ。とりあえずまずは事件の件だな。と言ってもなんかこの機械を使って町の人からエネルギーを集めろなーんて言われたからそれに従っただけだ。研究職の野郎どもが考えることは全く分からん。なんか前にも同じような方法で集めようとしたけど失敗したなーんて話は聞いたから、そのリベンジだろうってぐらい」

「エネルギーの使い道とかに心当たりは無いんだな」

「無い無い。同じ組織だからってぜーんぶ把握できるわけじゃないさ。私は幹部とのコネを持ってるとはいえ下っ端。そんなに大事な情報は回ってこない」

「まさか大した情報も持ってないのに取引したってことか」

「いやいや。幹部とのコネが生きる。幹部を接待してた時に色々と聞いた話はあるんだよ。今の異少課に必要な話だと……これだな。思った以上にでかい話だ。心して聞けよ」

「う、うん」

堀戸がちょっとビクビクしながらも、それでも集中して耳を傾けていた。

「まずこれが前提。今の中部地方にある9県の異少課の中にはアンダス団からのスパイが1人、どこかの県の異少課でメンバーとして紛れ込んでいる。これは今もだ。アンダス団は異少課のことを懸念すべき敵組織として認めてて、その活動を見張ってるってわけだ」

「スパイ!?」

「そ、それってえっと……」

「嘘、だよね。だって前にスポーツ大会で皆と会ったけど、皆いい人そうだった。あ、その後に入ったとか?」

「それって……」

驚く明石、ことの重大さに気づく堀戸、慌てる唐栗、そしてその言葉に聞き覚えがあることに気づいた源川。

「割と長いみたいだぞ入ってから。で、これからが本題だ。数日後に異少課共が集まって交流会やるらしいじゃねぇか。スパイが仕入れた情報だ」

「そ、そうなんです?」

「確かに手紙来てたな。その日に何かをやろうって?」

「そこは島で場所的にすぐ逃げようにも逃げれない場所。と言ったら分かるか?襲うってわけだ異少課を。幹部が来て少しずつ倒して、異少課を完全にぶっ潰そうとしてる」

「……」

これから起きることに絶句する2人+唐栗。それに対し止まることなく話を続ける源川。

「スパイは誰?」

「それは知らん。スパイのやつは同じ幹部だってのに私はみたこと無い。いる以上の情報は無い」

「これ、まずいですよ。中止にしましょうよ。他の人が危ないです」

「そうだな。静岡県のに早速連絡して」

「待て待て。そうしたら襲撃をする日を変えるだけ。根本的な解決には至らない。この情報を知ってるんだ。ここの3人で襲ってくる幹部を逆にぶちのめして捕まえて見りゃいいんじゃねえか?アンダスの幹部1人捕まえるだけで相当のダメージを与えられる。壊滅に一歩近づくわけだ」

「でも僕達だけじゃ……人数わからないけど、でも多くて」

「ちょっと皆、こっち来てくれないか。黙ってた話があるんだ」

源川は皆をこちらに呼んで、知っていたけど今まで黙ってた事実を語り始めた。


「それで、話って何ですか」

「僕は奴の言う事、どこかの県の異少課のメンバーにスパイが入っているということ。僕はそのことを聞いた事があるんだ。僕の友人で岐阜県の僕のポジションにいる飛田箕乃という人から」

「それって、あの人がでまかせ言ったわけじゃなくて、本当に異少課にスパイが」

「うん。それで明石、唐栗、堀戸。任務を出す。岐阜県の異少課とも連絡する、多分手伝ってくれる。だから、交流会で被害を出させるな。襲ってくる魔の手から皆を守ってくれ。頼む」

頭を下げて任務を伝えてくる源川さん。本当こういうとこが良い人だ。

「ちなみに他の異少課にスパイのことは?」

「言わない。言うとなると確実にスパイにも気づかれる。そして計画の中断、変更させられたら結果は同じ。スパイのことを知ったとして常に身を守れるわけではないだろうから」

「でも大丈夫ですか?参加できます?」

「あぁ……そこは僕に任せて。1人新しく入った子がいるからその子も交流会に呼べないか頼んでくる」


次の日

「堀戸の分は問題ないと」

「ほっ……」

「それで今日は岐阜県の異少課に行ってスパイのことやら、今分かってることを聞いてきて、当日のことなどを考えてきて欲しい」 「分かりました」


「始めましてかな。私は飛田箕乃。ここの異少課の上司だね。これからよろしくね。話は温利君から聞いてる」

岐阜県にワープしたらすぐに女の人に迎えられた、話に聞いてた飛田さんだ。

「よろしくお願いします」

「よろしくです」

「とりあえず異少課の部屋に案内するね。話はそれから。あと私に対しては敬語使わなくてもいいよ。駄目ってわけじゃないんだけどね。堅苦しいの苦手なの」

そのまま部屋へと案内された。


「起きろ、仕事あるって言われたろ」

「ふわぁ……あと5分、いや5時間、いや5日間ずっとぐっすり寝てたぁい」

「起きろや」

「痛いよ暴力反対。もう」

だんだん分かってきた。とりあえずチョップすれば玲夢は起きる。

「沖、玲夢、愛知県の子連れてきたら。始めるよ」


とりあえず一旦挨拶やら新しく入った堀戸の自己紹介やらをして。

「さてと、それじゃあ仕事の話に移ろうね。それで、まずは愛知県で起きたこと私達に伝えてくれる?沖と玲夢は知らないだろうし、私も温利君から聞いただけで詳しくまでは聞かせれてないからね」

「分かりました。じゃあ……」

そこで伝えられたこと。愛知県で起きた事件の犯人を捕まえてその犯人がアンダス団であったこと。そして何より

「でその犯人が言うには、中部地方の異少課にスパイが1人紛れ込んでいて、しかもそいつの送った情報からもうすぐ開かれる交流会で異少課を全員潰そうとしてると」

「それっ!」

「んっ……」

そのことを聞いて、気が勝手に引き締まった。玲夢もぼけーっとしたいつもの顔がちゃんとシャキッとした顔に変化していた。

「うん。分かったよ。それで、今日はまず私達の持つ情報を渡して、それで私達で協力してその交流会での襲撃に備えようというの」

「分かりました」

「とりあえず……」

この前話したこっちのスパイに関して分かってる情報を渡して、そうして交流会の話へと進める。

「そうだ、2人交流会行くんだったっけ?呼ばれていたのは知ってるけど、どうしたのあれ?」

「あー……そうだあれは確か、あーあった。まだ出してなかったです。でもこれちょうどいいかな。2人とも行くって書いとく」

「私もか……仕事のあとぐっすりと眠らせて」

「それはいいよ。だからお願い玲夢」

「うん……」

「そっち達も行くってことでいいよね?」

「ああ。堀戸も異少課入ったあとに源川さん経由でお願いして来ても良いことになってる」

「だから、5人でえーっと、他の異少課の人数は」

「17人」

「おーありがと玲夢。17人かー……全員見きれるかな。1人が別行動したらそれで狙われるから」

「17人、多いと思ってたけど、そんなに」

「全員でやれば余程強かったりしない限り勝てるんだが、先手取られるとまずいってことか」

「待てよ。玲夢の透明化使って犯人捕まえる……とかできないか?」

「透明化使っても私だけじゃ心もとないかな」

「でもありだと思うぞ。休みってことにして実はいたっていうの。それなら別で捕まえる行動できて」

「できる?玲夢は」

「やるのなら頑張る」


少し時間は巻き戻る。場所も静岡県へと移る。

「これで今回の任務も終わりね。お疲れ陸ちゃん。それに2人も」

「ああ」

「お疲れやな」

任務も終わり帰るところ。今回の任務は都合により新潟県との合同である。

「ねえねえ陸ちゃん。なんだかさぁ、違和感というか。こんなんだったっけって思って。いくらなんでもここまで塩対応されてないよね」

「まあいいんじゃねぇのか。人は変わるもんだから」

「やっぱり、分かるんやな。ウチはまともかく松木はずーっとあんな感じ。菊花お嬢様が亡くなったときから。松木の菊花お嬢様への想いがウチ以上なんは知ってたし、やからウチも声かけられんのやったけど、今後もずーっとアレなんは流石にやな。お嬢様も喜ばん」

「うぉっ。聞かれてた」

「お嬢様って……そうか。身近な人が亡くなったときの辛さは分かるけど、でもここまで引きずるのか」

「お嬢様とその執事やメイドの関係って、ただの主従以上の関係を持つこともあるのよね。生まれた頃からずーっと、そうでなくても長い間仕えてたら、もう家族みたいに思うらしいの」

「菊花お嬢様のためーに生きてたようなやつやしな。ウチもそうやけどそれ以上に」

「南さんがやりたかったこととか、こうやって欲しいなーってこととかないの?そういうことなら、少なくともやる気は出せるんじゃないかしら?」

「菊花お嬢様……あ、そうや亡くなる前にスポーツ大会開いて、異少課間で交流してもらおうとしてたな。同じ職業なのにそこの関係がないのは良くないと」

「アレねアレ。ならいっそ、やっちゃう?交流会開いちゃおうよ。私達静岡県と新潟県が主催で開くのよ。だったら良くない?そこら辺の費用とかはお祖母様に頼めば出してくれるからね。行けると思うのよ」

「いやでも、流石に悪いんよ。ウチ達のために開いてくれるんやろうし嬉しいけど、費用もかなり掛かるやろうし」

「費用は設営の手伝いで支払ってもらうーでどう?大体私はお嬢様だから、自分で動かせる金もかなりあるから」

「いいんやな」

「開きたいってのは私達もあるのよ。だから、大丈夫。陸ちゃんも手伝ってくれるよね?」

「いきなり振られた。そういうちゃんとしたことは手伝うよ」

「分かった。松木ー!」

ずーっと何も喋らずボケっとしていた松木のもとへとかけていく蓮葉。それを見る2人であった。


交流会当日、松木の扉を使って目的地の島へと移動した。一旦はこの島にある主催者若木家の別荘で全員が揃うのを待っている。

招待された組、富山・石川・福井・長野・山梨のが談笑をする中、あまり楽しめてはいなさそうなのが2組。

まず、新潟県・静岡県。主催組。

「大丈夫やよな。この前念入りにチェックしたんやし、」

「絶対に成功させる。これがお嬢様のやりたかったことだ。亡く……なられても、それでもやりたかったことをやってもらえれば、お嬢様も本望だろう」

こちらは単純に成功できるか、変なことが起きないかを心配していてた。

そして岐阜県・愛知県。スパイ探索組。

「玲夢、大丈夫だよな」

「できるだけ頑張る。バレないようにするから」

「はぁ……はぁ……ちょっと、僕……」

「まさか知らない人だらけでか。どうした?」

「どんな感じで仲良くなろうかって。やっぱりまだ怖くて。せんぱーい」

こちらはスパイを探す任務が無事終わるかを考え込んでいた。失敗は許されない。異少課がここで全滅などといったことならないように。


「みんな揃ったわね。それじゃあ、交流会始めましょうか。今回主催するにあたって新潟県のお二人にも協力してもらったから、何か困ったことがあったらその子達にも聞いていいからね。勿論私や陸ちゃんにも聞いてもいいから」

「話始まってんぞ。皆静かにしろ。聞いてやれ」

亜美が雑談している皆を諌めると同時ぐらいに

「ひっ……うっうっ……」

「どうした堀戸、急に……」

栗久が湊の背中掴んで隠れるように縮こまってしまった。

「大丈夫?まさか何かあったんじゃ……」

「ヤ、ヤンキーは、僕の過去ので……怖い」

堀戸を過去いじめていたのはヤンキーみたいなやつで、まだそういうのは怖い。

ヤンキーではないものの、言動がヤンキーに似てしまっていて、しっかり恐怖対象に入ってしまっている。

「今日は唯一岐阜県の観音玲夢さんだけが休みだけど、それ以外の人はみんな来てくれてありがとう。ちゃんと皆交流会してよね」

観音玲夢は休み。そう静岡県には伝わっているが、実際は透明化した状態でこの中でじっとしている。作戦通り。


「あとそうそう。新しく異少課に入った子がいるんだって。こっち来て自己紹介とかしてくれるかしら」

「ぼ、僕ですね。僕は堀戸栗久。愛知県の異少課につい最近入ったばかりです。入ったばかりであんまりよく分かってるわけではないですけど、よろしくです」

「それじゃあ堀戸君は分からないだろうからね、それぞれ自己紹介しようか。それでその後は適当に交流してて。私達次やることの準備をしないといけないの」

ということで皆簡単に自己紹介を終え、一旦解散。主催組が準備のためにどこかへと行ってしまい、皆は交流しようと話を始めた。

「よっ。アタシはさっきも言ったが名村亜美だ。よろしくな」

「俺は北。ホラー関係の話知ってたら教えてくれるか?好きなんだそういうの」

「ひっ……ヤンキーの人」

栗久も話しかけられたが相手がさっきヤンキーらしさを見せた亜美。反射的に近くにいた湊の後ろへと隠れて、びくびくしながら少し顔を出して様子を窺ってる。

「ヤンキーの人って……アタシか。アタシヤンキーってわけでは無いんだがな。この喋り方とかそこん所は昔から変わらないだけだって」

「うっ……」

「堀戸は過去のことでヤンキーとかそういうのが苦手なんだ。そこんとこ、理解してくれ」

「ご、ごめんなさい。わかってはいるんですけど、やっぱり強さが……」

「亜美行ここっち。俺達がいたら逆効果」

「だな」

そうして去っていく2人。

「それ、やっぱり治るのは時間かかりそうか」

「刻み込まれてて。普通の人ならまだ慣れては来ましたけど、やっぱああいうのは……」

「ま、少しずつ慣らしていけ」

いつか慣れればそれでいい。緩やかに進めろ。


「それはいいとして、玲夢?」

「ん、ん〜」

「寝てたのか?これから仕事」

「寝てないよ。とりあえずこの建物の中調べてた。特に怪しいものはないよ」

さっきの場所から移って自分の部屋に向かう。玲夢が来てることはスパイのやつ及び犯人にはもちろん、他の人にも説明が厄介になるから知られたくはない。そのためこの部屋だ。

透明にしていた玲夢もここでは透明をもとに戻す。そうして話を始めた。

「見ては見たけど、始まってから怪しい行動を取ってるやつはいなかったな。しきりにどこかを気にしてる。とか、やってそうではあったんだが」

「俺が前に調べた時もそんな感じ。スパイとして手慣れてるか何とか、スパイを見破ることより今は襲ってくるのを防ぐことに集中しようか」

「ちなみに玲夢、透明化の制限時間は大丈夫か?4時間じゃなかったか?」

「……うん。え?どうする?今から4時間で島中探し回る?もう来てそう」

「どっちとも考えられるよな。今から乗り込んでくるとも」

窓の外、この島の船着き場を見る。移動扉で来たのもあり今船は一つもない。

「時間、いつ襲ってくるのかな」

「やっぱり寝込みかね。前のアンダス団の襲撃のときは寝てるときに武器をほぼ奪われたなんて聞いたから」

「何かが起きる前に犯人を叩いてしまえばそれでいい。ここにいるので犯人叩けるか?」

「聞いた話だと前のときはかなり強敵で大怪我を負ったものの、武器が奪われて戦える人が少なかったにも関わらず追い払ってはいる。ここにいるのは5だから」

「4だな。俺の自我は戦いの場ではあんまり役に立たん」

「先輩の自我で犯人を見つけるのは。そうでなくても怪しい人とか」

「誰にやるか的は絞らないとだな。できなくはない」


「でも犯人の居場所がわからないと」

「島内をくまなく探すのは島の広さ的にNG」

「沖の浮遊で島内を空から探すのは?」

「木さえなけりゃあり、見えねえんだ」

この島には様々な木が生えていて、その裏に隠れて様子を窺ってるのなら見つけるのは困難。

「しかもまた変に見られたら」

あっちが警戒するなんて流れになったらもっとめんどくさいことに。

かといってあんまりいいアイデアは思いつかない。

「玲夢に探してもらいたいけど、どう?」

「外に出て怪しいことしてないか見つけろと?」

「そうそう」

「それぐらいなら」


「1人、岐阜県の観音玲夢が来てない。そして、愛知県に新しく入った堀戸栗久という男が新たにいる。」

ここは館内のトイレの個室。どこかの異少課に務める誰か。異少課のスパイはスマホを使って誰にも気づかれないように連絡をしていた。

「計画に支障はないということか?」

「問題はない。また何かあったら連絡する」


「それじゃあ玲夢、行って来い」

「使い方が荒い……」

また透明になって動く観音玲夢。それを見送って作戦会議を続ける。

「今思ったんですけど、スパイ自身が動くことも考えたほうがいいですかね?」

「あぁ……異少課を全滅させたなら異少課にスパイを送る理由もなくなるし、バレてでもやってくるのはありえるか」

「可能なことならスパイ疑惑があるやつらを捕まえておきたい。運営側が確白ならそれとなく予定を変更してもらえるか頼むんだが、運営側もどうかは分からないんだよな?」

「確白取れてはない。信用するには至れない」

「動くかだね」

「でもいくら不意を打たれたとしても、1人2人は倒せても全員倒すのは無理じゃないですか?だって異少課なんですよね?武器持ってない……ならともかく」

「武器は持ってるだろうな前のときもそうだったらしいし。確かに堀戸の言った通り、直接動くことはこちらがかなり不利になった時以外はやらないんじゃないかな」

「自分もそう考えるかな。それしてるなら今までに行動を何か起こしてそう」

「じゃあそこは考えないということで」


「戻った」

「お帰り玲夢。で、どう?」

「周り少し見回ったけど特に何にも。もっと探してみる?」

外で見回りしていた玲夢も帰ってき、透明化をやめる。

「いや、それ以上探すのは。あまり効率良くないような」

「一旦ここで隠れて休んでもらうか?時間切れるのは不味いだろ」

「4時間なんて、考え無しに使ってたらあっという間に経ってる」

「うん。じゃあ玲夢。それまで待っててくれるか?」

「何かあったら起こして」

そうして部屋の押し入れで静かに寝始めた。

「こっちに任せろ」

玲夢に一言告げて、押し入れの扉を閉めた。


昼。午前中は交流のためのビンゴ大会やらがあったが、スパイ関係の動きは特になく今に至る。

「そうそう。昼のあと1時からくじ引いてチームに分かれて島を舞台にサバゲー?みたいなやつやろうとしてるの。だからそれまでに動きやすい服に着替えておいてくれる?」

「ねぇ、これって」

「だと思う。後で話し合おう」

振る舞われた豪華で美味しい昼飯を食べながらも、その味はあまり入っては来なかった。それ以上のことがあるから。


「玲夢、これ昼飯。それで、玲夢は食べながら聞いてて欲しいけど、1時からので事件起こるかも」

「今までのはこの館内でしかも人数が揃ってる時、一気に仕留めないと返り討ちにあうだけだから仕掛けてこなかったんだと思ってる。でも1時からのは多分今までのとは状況が違う」

「うん。1時から外でチームに分かれてサバゲーみたいなのをやるんだと。チームに分かれるから不味いかも。単純に分散したときに1つ1つ潰すのはありえる」

「それで?私は何したらいい?」

弁当を食べながらもちゃんと聞いてる玲夢。いつも寝てばかりだけど重大な状況ではちゃんとやる気は出す。

「全部のチームに事情を知ってる俺達を配置したい。だけどチームの数も分からない。だから玲夢には起きる前にどんな内容なのかとかを調査してもらいたい。頼めるか」

「大丈夫。今から行く?」

「お願い」

食事を終わらせてすぐに行く玲夢を見て、そうして他のことを考え始める。

「これを無事に終われさせれば」


「松木、そっち大丈夫数合ってる?」

「問題なし」

「凄いテキパキ進んでる」

「私達も負けてられないよ陸ちゃん。やろっ」

(……)

透明になって準備してるところに潜入中の玲夢。聞くだけなら透明じゃなくても良い気もするけど念の為。あと普通に聞いても後で話すからとはぐらかされてしまいそうで。

(これに、書いてあるかな)

前の机に置かれていた折りたたまれた紙。それっぽいので読んでいく。案の定そこには今から起きることのルールが書いてあった。

(チームに分かれたサバイバルゲーム。くじで3チームに分かれて持っている玉を相手にぶつけることで倒せる……武器の力の使用も可。時間は2時間半。これぐらい?)

なんか色々と書いてあって長いのを所々飛ばして要約しながら読んでいる。この部屋狭くて透明でもぶつかって気づかれてもおかしくないから早めにここから出たい。

「松木、どう?」

「どうとは」

「今、この仕事をやってる時はいつもよりもテンションを上げれてる。これからも、この感じ続けてられそうなんか?」

「菊花お嬢様……。蓮葉が言いたいことも分かるが、俺のことだ。触れないでいてくれ」

「そんなの分かっとる。でも、あのままずっと見るのも辛いんよ。松木やって1人の男の子として、幸せになってもええやんか!」

「辛いことがあったとしても、それに囚われすぎるのも良くないと思うわ。今を生きないと」

「珍しくまともなこと言ってる露里が」

「うん?どういうこと?」

「そういうこと」

(……)

無言で作業を続けてる。気まずい。もう、帰ろう。十分使えそうな情報は得れたから。


「だって」

また部屋に戻って透明化も消して。そして調べてきたことを報告。忙しい。

「3チームか……多すぎるよりはマシだけど」

「3チームそれぞれに入ったら私どうする?」

「玲夢の透明化って時間あるよね?」

「3時間ほど。ここを守るだけならいけるよ。ただそれから先ができなくなる」

「まあでも流石に2時間半ぶっ続けで玲夢は透明でサポートやら探すのやらしてほしいな。最悪夜に来ても寝てるから誤魔化せると踏んで」

「ありだな。ここは危ない」

「自分もそう考える」

「じゃあそれで行こうか。トランシーバーある?」

「勿論」

今回のために連絡用のトランシーバーが支給されている。ありがたく使わせてもらおう。もし何かが起こればそれぞれ連絡してチームの動きを把握しよう。

はぁ……緊張してきた。


「他に質問はある?」

始まる前、さっき玲夢から聞いたのとほぼ同じ説明をされた。周りからは楽しもうとしている声が聞こえてくる。

「それじゃあまず最初にくじでチームを決めよう。ここにあるからね」

「これや。1から3まで入っとるから、引いたらそれを持って同じ色同士で集まるんや」

順番にそれぞれが引いていく。そうしてチームが決まった。

チームはそれぞれ、

チーム1,新,愛香,黒子,栗久,陸,唐栗,北

チーム2,心,丹,日向,亜美,蓮葉,沖,露里

チーム3,翔,ブラッド,繁,白子,凪,湊,松木

とりあえず3チームにそれぞれ入れたのは良かった。


「玲夢、どうする?」

「私適当に探してる。こっちが動いてること知ったら向こうも活発に動いてると思うから、守るのはお願い」

「任せておけ。こっちも緊急事態だ。あんまり使いたくないが自我を使って探してみる」「僕も、頑張ってみせます」

「自分も。協力して守る」

チームに分かれて出発する前にこっちの人達で士気を高める。勿論俺も全力でいかせてもらう。玲夢が見つけてくれたら一番話が早いからそうして欲しい。


各チームそれぞれチームごとの初期地点へと移動。その間もずっと周りに気を張って、草が不自然に揺れる音が聞こえないかやら、ちゃんと見張る。脳が疲れる。

「ウチらの始まりはここやな。時間的には、5分経ったらスタートや。それまで作戦決めておこか」

「そうね。玉を当てるのだから近づいて一気に当てるのがいいのかしら。でもそれだと当てられてしまうのよね」

「この治癒の力も、戦いにはなんにも約に立たないね」

「丹のは今回は使えないな。何か使えそうなの、空飛べたよね。それ使って遠距離から攻撃とかどう?」

「俺か。開けてるならともかく木があるから」

「アタシのこの技も使えないし。やっぱり隠れてやるのが正攻法かな?」

正直こっちに話は何か適当に話す。こっちに脳のリソース使いたくない。今は特に変なことはなさそうだけど、いつ起きてもおかしくないからな。

「時間になったよ。それじゃあ始めちゃいましょうか」

残りは2時間半。


「でも場所分からないと動きようなくないか?」

「いっそバラバラに行動するのはどうだ?アタシはいいと思う。固まって動くより見つけやすいんじゃあとは思う」

「やめたほうがいいと思う。あっちがバラバラになってるならともかく組んでたら7対1で勝ち目がない」

「そうかー……割とありだと思ったんだけどなー」

冗談じゃない。そんなことされたら守り切るなんてもってのほか。少なくとも全員を監視できる状態にはしておきたい。

「このまんま止まったままーというのは良くないだろうし、やっぱり積極的に動かないとそもそも他チームと会えずに終わることも起きかねないな」

「地図はあるよね。やっぱり決めようどこ行くか」

「僕も頑張って考えてみる」

「木で見えないといってももしかしたら場所は分かるかもしれないから、一旦やってみよ。行けるかもしれないのよそれしたら」

「無駄骨には終わりそうだけど、一応やってみようか」

武器の力を使って空を飛び、そして周りを見渡す。

周りを見渡しても木ばっかり。他のチームも、そうして襲ってくるやつも。全く見つけることはできない。木々の隙間からもしかしたらと思ったけどその期待も無かった。

「何にも。全く分からなかった」

「あらそう……んーやっぱりがむしゃらに動くしかないのかしらね」

「今の状況じゃそうだよな」

「これ、大丈夫か?他チームにと会えずに2時間半あるぞこれ」

こっちの話はこっちで禄に進まない。結局とりあえず真っ直ぐ移動することで一応決着が着いた。


そんな島内、他に誰もいないはずの場所。

「よし、もういいだろ。あいつも地面に戻ってる。いきなり連絡が来たから何だと思えば隠れろなんて。先に教えてほしかった。ひとまず木に隠れてそれで終わらせられたのだけは良かった。

「さてと、狙う準備を」

もうすでに戦いは、始まっていた。


「そうそう。木に自我与えて聞いてみたんだが、今日集合時間より前、この島に怪しい人が上陸したと分かった」

「なるほど。それで容姿とか、他の情報は?」

「おしえてくれなかった。というよりいる気配を感じ取ったりとだけみたいで、だから直接見たわけではないから情報は無いと」

そこが分かってくれれば大きな進歩なのに、なかなかうまくは行かない。

「とりあえずそいつには気をつける」

「了解。他のにも聞いて情報出せないか調べるな」

「頑張ってください。先輩」

頑張るか。


ガサゴソ

「ん?」

「どうかしたの?まさか敵チームもういるのか」

「いるかもしれないから空飛んで確認してみる」

さっき何か、聞こえた気がする。ガサゴソという音が。気のせいならそれでいいけど。

空を飛んで周りを見渡す。木があって見づらいのは分かるけど隙間から見ることでじっくりと観察する。

「どうやった?」

「やっぱり気のせいかも……だけど」

確かに聞こえた。人か風か動物かは定かではない。たとえそれが何であったにしろ

「隠れながらいくのはありかも。茂みとか使って。しゃがみながら」

「確かにそれいいかもね。スパイとかそんな感じで楽しそう」

「でもずーっと隠れてると疲れない?近くにいなかったならいいとは思うんだけど」

「日向と同じ」

「疲れるかもだけど、勝つためにはこれがいいと思う。先制を当てられるのはでかいから」

スパイ関係なくそうするだけアピール。適当なことだから変に思われてなければいいけど。

「なるほどね。やってみる価値はあるかもね」

「皆どうする?決めようこれをやるか。ついでに他の作戦とかも思いついたのなら私に教えて」

まあなんかいい感じにはいきそう。


「近くにいるかな」

「自分には分からない。いないとは思う」

唐栗と栗久が守るチーム。人間よりも良い精度でできる唐栗が近くにいないかの情報を得ていた。

なんか皆話してるなぁ……。混じってみたい。人とあんまり関わらないようしてても、本音ではそんな人が欲しかった。ただいじめのトラウマから抜け出せなくて。

交流会なんて、僕も普通に楽しみたかった。

「そういえば入ってきたばかりだっけ?どう?異少課は?」

「僕ですか。どうと言っても、まだどうとも。本当に入ったばかりで」

「そうなの。それじゃあ……」

「それは……」

話しかけられて、それに答えて。他愛もないだけの会話だけど。

これができるのって、嬉しいって実感した。僕がここまで戻れるなんて。

「ありがとうございます。僕のこと」

「自分?何かあった?」

あの部活の先輩方にまた感謝。いかんいかん。守ることを忘れてしまってる。ちゃんとしないと。


「あぁ……うん。うん分かった」

「どうでしたか?」

「何も。近くにはいない」

そして湊が守るチーム。

「ずっと静かだけど、何かあった?嫌なこと」

「……菊花お嬢様」

「菊花お嬢様。なると、あぁ……」

こちらで問題増やさないでくれ。そこは自力で。それよりも大きなことがある。

「この近くでない。それで終わるのなら」

あんまり使いたくなかった自我をふんだんに使って怪しいやつを丸裸にしようとしているのに、それでもあんまりの結果。

犯人がいるという情報は大事だが。それでも直接捕まえられる、そうでなくても犯人のこと。そこを知りたい。

「はい。切り替え。これ以上は天から舞い降りし絶望と憎悪が人の身体を這い上がらず!」

「嘘、良くない」

しっかりと気を引き締めてやろう。邪魔な音声を背景に聞きながら。


茂みの中、あれこれ言いくるめて隠れながら移動する。普通に外からざっと目を通すぐらいなら見つけることはできないだろう。

「玲夢、こっちの方来てくれるか。怪しい人の気配を感じた」

「了解。でもそこそこかかるからそれまで何とか場を繋いで」

さっきの音がやはり気になる。ここらへんの近くにいる気がする。

トランシーバーで玲夢に頼む。ここらにいるのならむしろ良い。透明な玲夢が気づかれることなく捕まえてくれる。

「どうかした?何か言ってたけど」

「いや独り言。勝つための作戦考えてた」

「なるほど。俺も考えてるけど、上手いもの思いつかないんだよな」

玲夢が来るまで。正直今の状況は見つからないと思う。この茂み割と広い。外から葉っぱごしにようやくじっくり見ないと見つけることができない。

「ただ」

それでもあっちがそういう探知系の武器の力を持っていた。この中の誰かがスパイで隠れてることと今の場所をずっと教えていた。崩れる要因なんて色々ある。

「なーにぼさっとしてる。アタシ達待ってるんだけど」

「いやすまん」

とりあえず茂みの中をまっすぐ進む。


話を伸ばしたりして、隠れたまま適当に動いている。そうしているとようやく来た。

「近くにようやく来たけど、ここらへんを探せばいいよね」

「俺達はそのでかい茂みの中心らへんにいる。この茂みの周りとかに怪しい人がいないかを探して」

「えっと……見えた。とりあえず場所は分かった。じゃあ探すよ」

透明化してて何にも見えないけど、それでも頼もしいものがようやくここに来た。お願いする。何とか見つかるようにと。

「いたかも」

「いた?本当に」

「ちょっと待ってえっと……うん。見えた。怪しい人、見たことない人が、茂みの中を一心不乱に覗いてる。今から捕まえに行く」

玲夢に任せる。やってくれ。


「茂みの中。奇襲をかけるのに向いてはいないが、早めにはやりたい」

透明でも音だけは聞こえてしまうから、少しずつ音を立てずに慎重に近づいていく。

木の裏に隠れている挙動不審な男。この島にいる時点で怪しいけど本当に怪しい。間違いない決めつけて良い。

「この茂みの中にいるといっていたが、見つからぬ。かといって次の連絡が来るわけではない。ここから見つけるしかないということか」

その事を聞いて玲夢は少し立ち止まって音を立てないよう驚く。

(茂みの中にいるといっていた?なんでそのことを知ってるの)

盗み聞きした?それなら場所も分かるだろう。

だが今は一旦後回し。近づくのを再開。

(でもどうやって捕まえよう)

透明だからって近づいて一瞬で気絶させる技を持ち合わていない。武器を用いたとしても同じ。

戦うとしたら有利ではあるけど、それでも相手の能力によっては苦戦を強いられる。

「ようやく見つけた。手こずらせやがって。さて一気に制圧といこうか。"6人"なら奇襲でノックアウトからの攻撃でいける」

(それって、)

ハンマーを取り出して今にも動こうとする

「今襲いかかろうとしてる。私じゃ止められないから、そこを守って!」

トランシーバーでこのことを伝えて、それと同時に男は奇襲のための移動を開始した。その速さは玲夢が全速力で走っても追いつけない。ただ玲夢はそこに立ち止まって見るだけしかできなかった。


「っつ!」

「なーんか聞こえた気がしたけれど、どうかしたんか?電話?なら」

「お願い今すぐ皆の周りに壁を!早く!」

「えぇっ分かった分かったわ」

たまたま近くにいたから。確か覚えてる製造の使い手だ。

ここから逃がしたところで多分追いつかれる。製造の力で壁を作ってもらう。そうすりゃ奇襲を失敗できる。

「何これっ」

「俺もちょっと。何かあったのかな」

「敵襲でもあったか。なら備えないといけないな。このままなわけには行かない」

「作った……ちょっと!?」

作ったのを見たら自分を浮かして周りを見渡して……壁に向かう男。犯人を見つけた。

「壁!?何だこれは」

「壁の奥に怪しい人がいる!しかも今にも攻撃しようと、戦って何とか捕まえないと」

「えぇっ、いつの間にそんなことに」

多分これならスパイのこと知ってたことは気づかれていない……はず。

「バレたかよ。あぁウザいイライラする」


「何が、あったの?」

「で、誰だい。ここは私有地の島のはずだ。その格好からして、全うな人間には見えんが、誰だ」

「奇襲は避けられたか……」

壁が取り払われて、目の前の男と俺達で対峙。多分最初から知ってたとバレずにこの状況を作り出せたはず。

ちゃんと相手のことを知れてるこの状態なら、正々堂々。8対1だ。

「お前は!あん時のやな。前にウチらの武器盗みおった。またやろうって?」

「私も今思い出したわ。あのときはブラッドちゃんに大怪我を負わして、許さないわよ」

「ブラッドに怪我って、あのときの」

「吹に怪我させて逃げたんだったか。じゃあ尚更ちゃんと捕まえてやんないと」

この反応……あのときのか。俺は行ってないから詳しくは知らないけど、スパイ調査のときに知った女子達の身に起きた武器窃盗事件。その逃げたと書かれてた犯人か。

「失敗したか。作戦変更だ。イライラする。何が原因で気づかれやがった」

ハンマーを構えてこちらを見ている。こっちも皆武器を構えて対峙してる。

「気を付けるんや。あいつ周りに火柱を立てて燃やし尽くす技を使ってくる。火傷せんように」

「丹は後ろで、治癒皆にまいておいて」

「了解」

「……っ!」

「この野郎、獄炎!」

「ぐっ……こりゃきついな。特に避けるのが」

「大丈夫です!?かけてますから」

先陣を切って毒針を持ち襲いかかる。それを止めるかのように獄炎をピンポイントで撃つ。強い。そうだって分かる。

「でも、これなら」

「いっけー!」

「風!どこから。いやそういう力か」

風の力を操って、強風を当てて目をくらませて。

「はぁっ!」

そして空を飛ぶ俺が一撃。あの技も空までは届かないだろうと読んでいたが。風の力と合わせれば結構これは意外といけるかもしれない。


「皆まとめて死ね!獄炎!」

「うっ!」

「痛っ!ゴホッゴホッ」

「大丈夫か皆。意識を失ったり大怪我はしてないか!」

空を飛んで近くにいた俺以外。全員を包み込むように技を撃って。結構な大ダメージを与えた。俺が空を飛んでどうにかできたとしても、このままじゃ後ろがボロボロで倒したときには全員がなんてこともありかねない。

「これ、まずいよ。治癒じゃ遅いよ」

「丹……これ以上は無理だよな」

「うん。最高で今出力してる」

「こりゃ短期決戦にしないと無理があるか」

俺もそう思う。長期にすればするほど被害が増える。

「連絡だ。こっちで犯人が今暴れてる。何とかして応援を連れてこれないか」

一応トランシーバーで連絡はしたが、増援は時間との兼ね合いで期待できない。

「私は」

「玲夢は近づいて何とかできないか。透明なままで気づかれずに削る手伝いをしてくれ」

短期決戦しようにもきつい。これは頭の回転どんどん早めて考え思いつかないとだ。


「毒針一発でも入れさえすれば少しは大人しくなるか?」

「皆待っててね。私がこの力で!」

今度は名村亜美が毒針を持ち、若木露里が棍を持って同時に襲いかかる。どちらも素早くすぐに距離を詰める。

「ちっ、構えてられねぇな」

「これで!」

「一発!」

「あぁイライラする。獄炎」

2人を相手にしようとして反応が遅れて、結果2人共の攻撃をちゃんとくらう。虻蜂取らず。

ただ攻撃をくらったらそのお返しとばかりに獄炎の攻撃。近くにいたのを追い払うようにでその2人へと当てた。

「ぐぁっ!」

「ひっ……っっぁ……一旦使おうかしらこれ。傷癒!」

鏡丹治が皆を継続的に回復するのとは別に周りに少量の回復が起こった。ただ少量。焼け石に水レベルではないけど劇的に変化させて全てを元に戻すまでではない。

「あっ、少し身体の傷が癒やされた気分」

「それが私の力だからね。ダメージを与えるとそのダメージの量に応じて回復できる。そんなの」

「俺も負けてられねぇな」

空を飛んで攻撃。空まであの獄炎。届かない可能性も高い。

「獄炎!」

「おっとと。やっぱりなるほどか」

思ってた通り、獄炎で俺のこと狙ったんだろうが急上昇した俺に当たらずそのまんま地上にできただけ。空まではやっぱり当たらないか。なら少なくとも俺はいける。でも他がアレだなこれは。

「皆やれてるのに。この力じゃな……」

「大丈夫だよ日向。思いつくよ活かし方がきっと」

「いや。うん。普通に!」

「風起こして、これで少しは視界を遮れるはず!」

不触の使い道に悩んだと思えば、それを活かすことを一旦無視してまっすぐ攻撃を。風で遮り追い風となって時間を縮めて一発入れて。着実にこっちのチームも順応してる。

「なんなんだよ。こんな事考えてない。ああ想定外のことを起こすとかプランも何もかもめちゃくちゃですっごくイライラする。くそがっ!」

狼狽えてんな。そんなこと言って前見てないうちに急降下からの攻撃を入れてやった。


「獄炎!」

「っぁっ!はぁっ……はぁっ……」

「あっちも弱ってるんだが、こっちもってとこか。一撃一撃が重いあれは」

結局この問題が何とも。空を飛んでる俺はともかくとして、他のメンバーがずっとやられてる。

「もうちょっと時間かけられたらちゃんと回復できるのに……」

「もっともっと攻撃しないとね。これだけじゃあ焼け石に水だから」

2人の回復役がそれぞれやってるがどちらも重い一撃に対する相性が悪いと言うか。そんなに効果が出ていない。

長期戦なら役立つだろうけど今回は短期決戦狙うべきものだから仕方がない。


「これ、どうしよう。近くに行けない」

透明なまま。少し離れた場所でじっと立ち止まっている玲夢。

目の前で起きている戦い。それが激しくて迂闊に近寄れない状況にあった。突っ込んでボコられて気づかれるそんな未来が見えてる。

「私にできること。あの武器を……できないよね。私の力じゃあ」

無理矢理武器を奪い取れば攻撃できなくなって簡単に戦いを終わらせられる。でも仮に近づけて掴めたとして、精一杯引っ張っても大人の力に勝てるわけがない。

「本当に私は何したらいい?」

「透明できづかれていないことを利用して色々とやってほしい」

そこを聞いてるんだけど。私にできることは何……。

「あの獄炎を突破……」

1人で考えるしか無い。なんかうまいことできそうにないかな。


「迷うのは駄目。時間をただ無駄にするだけだって分かるけど……」

いっそ透明なまま戦いに参加するのも考えてみた。透明な私なら場所も分からないよね。その獄炎も当てられることはなさそう。

他の人から回復なんかの支援を受けられないけれど、やっぱりやってみるのありかも。

透明な誰かがいることなんかは確実に分かっちゃう。そのことも警戒する。

少なくともここで皆を守ること。戦いに勝利することは私がここにいることがバレてしまうことより大事。そこら辺は任せる。

「うん」

決めた。これが私にできること。

「っっ……んっ?何だ誰だ!」

透明なまま攻撃して、そして離れた場所で。音さえ立てなければ気づかれることはないから。

「戦い中に余所見とは」

「ぐっ……作戦のうちってとこか。くそっ。獄炎」

「ここの裏や。ここなら……せや。ちゃんと壁の後ろまでは狙えんみたいやな」

「そうか。少しは対策できるようになってきたか。丹の回復も大分経ったから元の状態までかなり戻ってきた」

作戦のうち。もしかして私のいることバレていないのかな。

「私もちゃんと与えて、いざというときに回復できるようにしておかないとね」

「来たな!獄炎!」

「えっぐっ……壁の後ろに行けなかった……早いねやるのが」

「あっ、危な」

小さな声で、気づかれないような声でぼそり。

獄炎は1本じゃなくて6本の火柱を起こす力。狙っていなくても巻き込まれてしまう。私が巻き込まれると回復もできなくなる。慎重にやられてしまわないように。せめて攻撃してくる反対側に基本いよう。


「体力あるな。攻撃は入れてるのに」

一般人とかより鍛えてるんだろう。普通の体力より全然多い。だからこそ時間かかるし強敵なんだけど。

「あぁもうこの空飛び野郎が!ウザいめんどくさい。獄炎!ちっ」

「ふー。空飛んでたら基本くらわないだろうけど、降りた時攻撃した時。油断してしまわないようにしないと」

「降りてこい。正々堂々!」

「急に襲ってくるやつに正々堂々説かれても」

「マズイか。全滅させてバレないようにするのは必須。だが俺だけではやることができない」

「ガラ空きだよここが」

「今のうちにね、私やるから」

割と今のところは善戦中。獄炎のダメージはかなり大きいけど、こっちも負けてられない。それに壁の後ろから獄炎をくらわずにいられてる。

「獄炎!」

「痛っ!ここギリギリ出てたの……痛い」

「私やるね。傷癒。これで大丈夫よね」

「風で目眩し!」

こいつ倒して組織の情報吐かせれば壊滅にかなり近づけるはず。どっかの下っ端とは違って、こいつは幹部のはず。大事なこと知ってんだろ。

「今度はこっちか!……これも誰のどの技か。本当分かんねぇのイライラする」

急に誰もいない後ろを振り向いてうんたらかんたら。これ、透明な玲夢がやってるのかな。

「玲夢に負けてられないな」

いつものように攻撃を入れた。


「このままやっても埒が明かないな。ならいっそこれだ。やれるか分からんぶっつけ一発勝負だ!獄炎!」

「えっ!」

「壁の後ろにできないなら、直接だ。このハンマーで!」

「うっ、ふっ……避けるの、きつっ」

獄炎を撃ったかと思えば、それの対応してる間に壁のところまで近寄り、そこでハンマーによる一発の強烈な攻撃を。ここまでされるとマズイかも。

「痛っ!ぐふっ……」

「荒らされてる!荒らされてる!」

「毒針で下げたのに。全然火力がそげてない」

「とりあえず俺攻撃するよ」

場を荒らされたことに驚きを返せない。獄炎も強いけどここまでされると。

対策もできない。何とかあるかもしれないけど、多分特に変わらない。


「あのハンマーにかけ……いや無理だな。あれ掴めんな」

「壁作って……壁壊して資材取って……これこうして」

「大丈夫、本当に。かけてはいるけど……」

「こっち来ないで!風で……これでいけるかな?」

「間合い詰めてきたね。アタシが相手してやんよ」

「私の傷癒使い切っちゃたわね。やらないとまずいわよね」

一気に詰めてきて中はてんやわんや。戦おうとしたり回復させようとしたり守ろうとしたり。全員バラバラに色々やってる。マズイかも。


「えっ、これ、なんか大丈夫?早く止めないと、だよね」

透明なままの玲夢。とりあえず感覚でさくさく攻撃していたけどやっぱりお悩み中。

もっと重たい一撃を入れられないか。いまのままじゃおまけみたいなダメージ量の予感。

「それとも他に……」

せめてもうちょっと力があればがっちり捕まえて動けなくしたり、無理矢理に持っている武器を奪えたりしたのに。今の貧弱さじゃあ……。

「落とさせれる?いけるかも」

そして考えて出てきた作戦。武器を持つ手を攻撃して武器を落とさせる。そしてそれを拾って取れなくする。落としたあとは問題ないだろうから、落とせるか。

でも、人間手や腕が痛かったら必然的に落とす。きっと必ず多分。

(ここで!)

音を立てず、ハンマーを操る手を攻撃する。

「ちっ、誰だ!ここか?」

「ひっ……」

「そうかそうかよ。何かいる気はしたんだずっと。あぁやらしぃめんどくさい。やってくれたよほんと」


「さっきから何のことを」

「さぁ。でもいけそう。鈍くなってる。アタシの毒がじりじり回ってきたか。どうだ気持ちは」

「まだ、俺はやれる……!」

「ちっ。なら仕方ないね。ちゃんとやってやんよ」

「私もちゃんと。倒したときに使ってみんなの痛みを全部癒やすんや!」


(これはあんま良くないか。襲おうって行ってボコボコ。勝てるってならいいけど、あのまんまじゃ良くない)

(全員じゃないってのになんでやられてるんだ。驕った結果とやらか。ま、そんなのは良いとしてあいつのインターネット情報、仕事のやり取りが警察に見られるのは組織に取って良くないことになりそうだな)

(こっちでなんとかしないと)

さっきの戦いの中、誰かが、心の中で考えていた。


少し経ち、相手の体力はほぼ削れたというところ。

「はぁ……はぁ……よくやってくれたこの野郎」

「まだ戦う気あんのやな。そろそろバテて終わってほしいのやけど」

「今のところは回復追いついてるけど、せめて最後の悪あがきで巻き込んで終わろうなんて考えてないだろうな。そうしようってんならアタシが受け止めるぜ」

「本当に平気?さっき攻撃を大きくくらっていたように見えたけど」

「うん。僕は大丈夫。痛かったけど、治ってきたから」

「そう。なら良かった」

「にしても何者なんだ本当に。何が目的だってんだ」

「私もあんまり分からなくて、沖ちゃん分かる?」

「……あんまり」

ここで下手なこと言うのは良くない。そもそもて不要な警戒を与えてしまいかねない。それに気づかれてしまうのはとてもまずい。

「獄炎!」

「おっとと、で?アタシがこんなのでやられるって?」

あれだけきつかった獄炎をたやすくよけてる。あっちの行動も疲れでゆっくりとなっていて、その分避けやすくなってる。

ここまで来たらもう倒せるだろって油断が生まれてくる。気を引き締めないと。


「あともう少し!」

透明の玲夢はその状況を見て喜びが出ている。自分では気づかないうちに浮かれてる。

「うん、うん!」

「またかよ。本当どこにいやがる。いるなら正々堂々出てこいや!」

透明化の期限はまだある。透明化のことまでは感づいていそうだけど、でも音さえ立てなければ私は見つけられない。それに

「今何があったかは知らんが、毒針刺してやらァ。さっさと終われ!」

「攻撃して、私の傷癒、この量だとどこまで行けるかしら」

私が気を引いたら今度は皆が攻撃。うん。やっぱり、このやり方さi

バン!バン!ドーン!

「な、何の音だって?」

「わた……皆、皆大丈夫。何が……しっかりして、しっかりして!あぁそうだ傷癒!これでいける?死んじゃうなんてやだよ私」

「丹!今何がおきたか見てた?」

「見てたけど……なんか急に爆発して?とにかく、まずい人みんなを集めて、その人に対してこっちでなんとかする。」

謎に起きたのは爆発!?大丈夫かな。空飛ぶのをずっとやってたら効果が切れそうって言われてたからさっき降りていた。そんなときにくらってしまうなんて、本当……。

被害に遭ったのは平良心。西蓮葉。そして任田沖。これは本当にまずい。まだ大怪我になる程度の怪我はしてないけど、してきそう。


「……なるほど。はははそういうことか」

「やばい。早く止めないと」

謎の爆発のせいでみんなボロボロ。直でくらってしまった3人は勿論、それ以外の人も混乱やら怪我人の治療やらでてんてこ舞い。

「ちっ、透明野郎め。本当どこにいやがる。ここか、獄炎!」

「ぐふっ……」

「聞こえたぞ!」

適当に撃ったんだろう獄炎が運悪くかすってしまって。直撃ではないにしろ痛い。声を出さずにいられなくて、その声を聞かれてしまった。

「ここか!」

「ひつ……」

近くに振り下ろされるハンマー。怖い。間近に迫ってる恐怖。早く逃げたいのに、なんでこんな時に足がすくんじゃうの。

ガチャガチャ武器を振り回してせめて抵抗。でも効果はないに等しくて。

横目で助けてくれないかと皆の方を見てみみる。

「これで皆時間かければ、いけてっ!」

「ほっとくとまずい一番大怪我してるの分かる?私のでまずその子の応急処置するから」

何とか癒やして怪我を治そうと頑張る2人。

「こっちには、来させな」

「アタシがやられたら、守れるのが。慎重に、でも大胆にだけど。足が痛いっ……」

そしてこっちの方を見ているも特に動こうとせず、武器を構えてタイミングを見計らってる2人。

私のこと、襲われてること、これ気づかれてない。本当にまずい。

「あっ……」

何もできず、ただ私は恐怖に目を瞑った。


「ぐっ!誰だ」

「この惨状。あなたがやったの!許さない」

「えっ……」

目の前に聞こえてきた声。それを見ると前にいたのは波山愛香。

別のチームにいるはずの彼女だった。

「また新しく来たか。来んな獄炎!」

「えっ!危なっ。瞬間移動しなかったら私……」

「近よっ!ぐっ!?今度は誰だ!」

「魔弾の力で!」

「我に任せよ!」

「私もやるから」

今度は別の方向から3発の攻撃が。根高繁、六道白子、ブラッド。それぞれの遠距離攻撃の武器の力で圧倒して追い詰める。

「この薬で少しは和らげるはず」

「こっち側は盾で守るから」

「ここに扉を作って。これで近くに一気にいける」

一気に明石湊のチームの皆がこっちに来てくれた。それぞれが自分にできることで対応している。

「愛香!大丈夫か急に行ったけど」

「白子!私も加勢する」

「大丈夫か本当に。なんかいいもん」

「亜美、もうこんなことなってるなら伝えてほしかった!」

遅れて唐栗、堀戸栗久チームも来た。皆がここに集まって、たった一人の敵に対峙している。

私も負けてられない。すくみもいつの間にかなくなってて、立つことだってできる。手伝いぐらいはしないと。


「僕もやらないと」

「いややめといたほうがいい。百刃じゃ周りの奴らを巻き込んじまう」

「じゃあ僕は」

「攻撃以外の、そこら辺の手伝いとか。攻撃はこいつ等に任せとけ。倒れてる人の救助だ行くぞ」

「はい!先輩!」

「唐栗は……攻撃か?」

「大丈夫。あれならいける」

「焼けたら壊れる。なるべく避けろあの攻撃を。いいな」


大集合した皆。この人数差を相手に戦うのはいくらなんでも不利だとこいつも分かっていた。

「これは……酷いな。くそっ。一時撤退か。イライラする」

「電磁の力で、これで痺れさせて」

「凍らせて逃げ道を塞ぐ」

それを邪魔するように神代新が電磁で、根高繁が氷の魔弾で動くのを阻害し。

「瞬間移動で、ここに!」

「ここ通りゃ一気にいける」

波山愛香、東松木の瞬間移動組が逃げるところに一気に近づいて逃さないようにし。

「光を纏いし槍よ!」

「ちゃんと当てる私」

六道白子、ブラッドの遠距離攻撃組が遠くから背中を見せるのを狙い撃つ。

ものすごいコンビネーションを見せてじわじわと追い詰める。こんだけやって逃げるなんて選択肢は取らせない。ちゃんと捕まえる。

「私もやらなきゃ」

透明のまま近くでまた。今回ばかりはもう強引に。ハンマーを掴んで無理矢理に攻撃の邪魔をさせた。今のうちに誰かやってくれると信じて。


「やるしか無いってわけか。仕方ねぇ。この人数相手だって、無理じゃないこと証明だ!まずは一人、獄炎!」

「えっ!っとと」

「危なかった……ちゃんと防げた良かった」

まず倒れた子の手当をしている人から的確に狙おうという作戦らしい。でもその狙った獄炎は大木翔の盾で守られた。

「お返しの、空気球を!」

「ちっ……」

「今だな!とりゃあっー!」

「ここでやるしかない!」

「私も何とか、できることやるわね」

怯んだスキを見て近接攻撃組が一気にダメージを与える。扉を通って遠くからでも一気に近づいて時間を短縮。戻ってカウンターなんかされる前にまた逃げるヒットアンドウェイ。

「まだだ……獄炎!」

「さっきまでより行動も遅くなってきてんな。もう終わりってとこか」

「大人しくして。周りのを巻き込ませないで!」

「それぐらいどうってこと無い。光を纏いし槍よ!」

一気に皆でダメージを与えてどんどん削る。そしてついに。

「これで最後よね!一気に私決めるわ」

「がっ……ぐふっ……ぐふっ……よ、くも」

「ふぅ……終わった?」

「やったやったよ!終わったよ私やれたわよ!」

「よしよし。今回に関してはすごいと思う。本当に」

ようやく、ようやく、ここに平和が訪れた。


犯人も倒れて気絶してる。しばらくは起きないだろうから今のうちに色々と行ってる。

来るときに使った犯人を警察署の方に送って、爆発の被害をくらった7人を全員病院の方へと送った。

「露里からこの後こと頼まれた。元々の終わる予定の日まではいてもいいけど、こんな事もあったし何より大怪我してしまった人もいるから、これは予定を繰り上げて解散にしてしまおうだと」

流石にこの後続けるなーんてできやしない。怪我した人。その見舞いに向かった人。人数も減ってしまった。


「すまないな本当に。早く動かそうとはしたんだが、中々に上手く誘導するのが大変で」

解散となり帰ろうとなる。荷物をおいた部屋で透明化を剥がした玲夢が愛知県の3人と話している。

沖はさっき病院へと運ばれてしまい今はここにはいない。

「僕は何にもできなくて。唐栗先輩に全てを押し付けてしまって」

「自分のことを信用して動いてくれて良かった」

「私は何とかなったから。うー」

両手を上げて伸ばそうとする玲夢。透明でずっと色々とやってて、本当にお疲れな様子。

そしてまた透明になって皆がいる扉を通って静岡県の警察署へと戻る。でもその後岐阜県へと戻らず玲夢は病院の方へと行った。


「玲夢」

「起きたの。さっきまで倒れてたのに」

「簡単な検査のときに起こされたよ。あんま分かってないから聞くが、あいつは何とかなったってことか?」

「うん。あの後皆来て一気に削った」

「そう。はぁ……何とか好きにはさせないですませたと。あのときはずーっと心臓ドキドキだった。いつ来るか分からないなんて恐怖感が」

「はぁ……眠い」

「玲夢も今日は1日寝ずにお仕事して、ありがと。感謝してる。ここで寝る?」

「帰る。それじゃあ、早く治して」

病院で無事だったのを確認した玲夢は、岐阜県へと戻った。


事件から数日後。怪我の療養をして出られてなかった岐阜県の異少課に久しぶりに顔を出した。箕乃さんにすっごい心配された。

「そうそう。それでその件で気になったこととか、ちょっと聞いてみたいのね。やっぱり異少課としてはスパイがいるのは良くないし、異少課の子が襲われたりなんてのもあるから、見つけておきたいのね。繋がりそうな情報って無かった?」

「うー……あ、俺が怪我したあの爆発。今回のやつがやったにしてはちょっと引っかかることがあって」

「うんうん」

「爆発くらって朦朧とする意識の中でそういうことか。なんて言ってて、そいつがやったのならなんか違和感があって」

そういうことかが何に対するのか分からないけど、爆発に対してなら自分でやってそういうことは違うような。

「分かった。他には、玲夢とかはどう覚えてる?」

「玲夢起きろ。透明で近づけてただろうから聞いてたり見てたりしないか?」

「わぁぁ……起こさないで。私今日1日中寝る……」

「起きろて。箕乃さんとの大事な話」

「寝たい……それで?」

あの日玲夢が寝ずにめちゃくちゃ働いててくれたから、その反動かここ最近ずっと眠ってる。あの日活躍したからって多少は見逃してたけど、流石にこのときは起こす。

とりあえず今の話の内容を説明しておいた。

「『茂みの中にいるといっていた』と言ってた。そのことを知るはずないのに。あと思い出したけど"7人"じゃなくて"6人"なら奇襲で……とも言ってた」

「あー。ってことはやっぱり?」

「でしょうね多分。」

知らないはずの情報を知っていた。犯人がやったわけではなさそうな爆発。そして7人いたのに6人を倒そうということ。

「あのチーム、俺を抜いて6人の中にスパイがいて、俺達の位置情報を送り、戦い中まずくなっていたから爆発で援護させた。スパイだから倒す必要がなくて6人。ということ」

「私も、そう思ってた。その時いたのがこの6人で、そのうち前までので平良心、西蓮葉は違うっていう結論になっていたから、容疑者から外して。だから容疑者は4人だね」

「この中に……近くにいたってことか」

「そういえば、この4人。全員爆破地点から遠くにいて軽症で済んでた人」

「他の3人はたまたまだろうけど、爆発で自分が大怪我をしてしまわないようにしたんだろうね。そのときそれぞれどこにいたの?」

「名村亜美と若木露里が攻撃をするためにあいつの近くにいて、鏡丹治が回復するために後方に。その様子を見ていたのか近くに丸岡日向が」

「4人まで分かってたら容疑者全員を取り調べて探れないの?」

「あんまり。やっぱり気づかれてないと思い込んでてほしいからね。スパイを探してるなんてごと気づいたらどんなことしてくるか予想もつかないけど、仲間を人質に取ってきたり異少課を壊滅させようと躍起になったりしてもおかしくないからね。それに、そんな調査で分かるようならもうとっくにバレてるよ」

「4人のどれもスパイらしさを感じないもんな。相当うまいよこのスパイ」

「やっぱりその周りの異少課の人に聞くのは……」

「したくはないかな。前も言ったけど単純にバレてしまいそうで。それに同じところで働いている仲いい人がスパイかもなんて言われて納得はしないよ良い子たちだからね。」

危険のほうが多いのか。嫌だなほんと。

「ちなみに他の、スパイがいないと分かってる異少課の人には?それらに言っても疑われはしないんじゃない?現に私達や愛知県のは知っちゃってるわけで……」

「微妙だね〜。愛知県のはあっちも知ってたからってのがあるし、異少課にスパイがいるなんて情報変に流したら混乱やらで色々となっちゃうだろうからね。君達みたいにすんなり受け入れるのは難しいよ」

確かに。結局そんなに動けそうにないか。


「ところで、あいつに関して何かない?警察に捕まって取り調べしてるんだろ?」

「完全に黙秘貫いてるね。スマホとかを解析してみたけどデータがすでに消されてたあんまり期待しないほうがいいだろうとね。進展したらこっちに流すよう頼んではみたんだけどね」

「どっちにしろ、今はだめか」

忠誠心が高いというか何と言うか。

「異少課の方でも重大案件としてはいるし、他県の情報などからも全貌を探れないか動いてはいるけどね」

「アンダス団め」

ろくでもない。本当ろくでもない。


「それじゃあ私はこれで、他の仕事してくるね」

そう言って箕乃さんが立ち去り、ここで玲夢と2人っきり。どうせ寝ちゃってるだろうし、静かにそっと……。

「怪我……大丈夫なんだよね。強がりじゃなくて」

「ん、本当に痛いだけ」

「そう……目の前で爆発しちゃうの見ちゃったから。あのときは何とかなってたけど、後でまた夢で見て思い出しちゃって」

「あぁ……」

玲夢もそんなこと考えるんだな。眠ってばかりのだって思ってて、なんか新鮮。

「安心して眠れ。ここにいるから」

「うん。ありがと」

手を繫ぐぐらいで震えが取れるのなら、いくらだってする。

俺も意外と甘いもんだ。


「はぁ……普通に交流会やりたかった。なーんでこんなときに来るのかしらよくわからない人」

ここは事件の起きたあの島。露里の別荘に静岡県と新潟県の4人が集まっていた。今は交流会の片付け中。

「露里……本当これに関してはご愁傷様。なんか前も聞いたけど今回のやつに巻き込まれたんだって?」

「そうだよ陸ちゃん。私呪われてるのかな。今思ったけどあの人、狙い私だったんじゃないかな」

「まさか、ロリコンが行き過ぎて手ぇ出してその恨みか?」

「酷ーい。傷付いたー。女装した可愛い陸ちゃん見たら直るかもしれなーい」

「するか」


「この本はこ、k……痛……」

「ほい。痛いのなら無理に動かすな」

「ありがとな、松木」

「……」

必要最低限しか言わず、ろくな返事もしてくれない松木。その様子を見てしまうと蓮葉も悲しい気持ちになり、顔でもそれが見えてしまっている。

「これは、ここでええんやよな」

「そこそこ。厳密に片付けなくてもいいとは思うのよ。そんなに頻繁に使うものじゃないから」

「よし、ならここで……」

さっきの件で無意識に悲しそうな、そんな顔になってしまっている蓮葉。そのちょっと変わった様子に敏感に気づく2人。

「うーん?」

「露里も気になる?」

「聞くか?聞くか。また、何かあったの?」

「ウチのこと?」

「悲しそうな顔してるわ」

「あー……ウチやっぱりそうなんか。相談、乗ってもらってもええか?」

「聞く聞く。それで、何があったの?」

一旦片付けは中止してこっちの話に集中。

「なるほどなるほど。わかったわ」

「前も同じような話したよな。交流会の準備しているときはあそこまでじゃ無かったのに」

「松木もお嬢様のやりたかったことならってことでやる気出せたんやろうけど、実際のところ交流会は途中で中止になってしもうて、その気力も消えてしまったんやろうけど……」

「本当に悩んでるなら何とかしてあげたいけれど、こんな事経験してもないからまともなアドバイスが出来そうになくて」

「やっぱり、松木は本当に大事な人なんや。ウチにとって1番がお嬢様で、2位が松木。お嬢様に救われた時からずーっと一緒。同じお嬢様に使える者としてよく近くにいたら、嫌でも大事になってしまうんや。やからこそ、元のあんな、お嬢様に仕えてた頃のお嬢様大好き執事に戻って欲しいんや」

真剣な目をしながら、心の中の思いを暴露していく。

そのことを全て聞いた時、露里が口を開いた。


「そのこと、直接伝えるのじゃだめなの?」

「……まあ、せやね。でも松木にも事情あるんやし、それはできんね」

「でもさ、やっぱり直接言うのは大事だと思うの。ちゃんとそう伝えることで変わることもあるのよ」

「言うとることは分かるけれど……」

でも今までもそれをできていない。蓮葉の方にも、松木が自主的に戻って欲しいとか、そういう思いがあるのだから。

「寄り添うことは大事だけど、多少強引に変えるのもまたあり。それがためになるなら強引もいいんじゃないかな」

「陸ちゃん良いこと言う〜」

「ん~~……」

真剣に悩み中。少しばかり悩んだその結果は

「一旦、やってみる」

「私は応援しているからね〜」

「何かいい感じに、なれたらいいね」


「松木、今から話あるんや。大事な話」

「……」

無言で今していたことを止めて、松木は蓮葉の方をゆっくりと振り向く。

松木の目をじっくりと見て、一旦深呼吸。そしてやっと伝える。

「松木。ウチは嫌なんや。その松木を見るのが。お嬢様が亡くなってから、松木は無気力で宙ぶらりんになってしもた。これはウチから頼む、大事なお願い。元の、お嬢様のために生き生きと執事をやってた、あの頃のに戻って欲しい!それに何より、お嬢様ならそうあって欲しいって絶対言う!」

悲痛な気持ちが伝わるそんな声。松木のことを考えてと言えていなかった胸の内を全部吐露した。

松木もここまで来られたら仕方ない。真剣なその声に少しばかり驚いた。目を細めて少し下を向き、右手はズボンを握りしめている。

「俺の世界はお嬢様の周りの世界。10年近く生きてきたのがそれだった。蓮葉以上に俺はお嬢様に依存していた。だからお嬢様という依存先を無くして、心にぽっかり穴が空いた。それが多分今の俺だよ」

ただの執事とお嬢様なんて関係なら家を出て給料か払えなくなってまでお嬢様に仕え続けるなんてできない。それができる時点で2人共、依存してしまっていた。

「松木、ならそれを埋める手伝いする。色んな体験経験で少しずつ治していく」

「うん。お嬢様のことは俺が一番。蓮葉よりも分かってる。だからこそ、お嬢様が俺にどうすべきかも分かってる。分かってる!だけど」

こちらも悲痛な叫び。2人共変わらない。

「松木。うん」

「お嬢様よりは安心できないだろうけど、どう?」

放り出して適当なところに置いていた松木の右手。それを両手で掴んで安心させていく。ちょっとは気持ちが収まっただろうか。

「安心できない。お嬢様だけ」

「よく言うんやな。本当松木やな」

あっち側からも手を握り返してきてくる。思いが伝わったってことでいいよね。

「なんかいい感じになったみたい?」

「こんな簡単ならもっと早くやっても良かったんじゃないかな」

「野暮だよ陸ちゃん」

「そうだな。終わりければ全て良し」

少し離れた場所から眺めていた、2人は最後お互いを見合って、ちょっと笑ってた。


「よし。それじゃあ、これで片付け終わりね。お疲れ様」

「本当、色々とありがとな。なんか困ったことあったらウチら呼んでええんやで。むしろそうしてくれんとウチらの感謝の気持ち伝えられんから」

「俺も色々と。蓮葉とはなんだ。少しずつ進めてくよ」

「せやよ松木。ウチ待つからねちゃんと。進むことが大事で、その速度はあんま関係ないんやから」

「あ、そうそう。悪いけれどあの扉もう少し残しておいてくれるかしら?個人的な都合で、私もう少しやることがあるの」

「俺いるか?」

「ありがとう陸ちゃん。でも大丈夫よ」

というわけで露里だけがこの島に残り、他の3人はそれぞれの異少課へと帰っていった。


「さて、やっぱりおかしいのよ」

独り言を呟きながら、露里は木々の中を歩いていく。目指す場所は前に戦いが起きたあの場所。

「うん。何度考えてもありえないわ。そうなるはずがない」

「こっちの方に何かあるかもよね。彼へと繫がる情報が」

その場所。下を見ながら念入りに草をかき分けて、何かを探す露里。

「これ、は?」

「そう?へぇ……なるほど。うん。えっ!うん、うん……」

落ちていたのは誰のかも分からなくなっていた手帳。獄炎で燃えたそれはかろうじて少しが残っている程度だった。

「これ、捜査のときに見つかってないてことは、気づかれなかった?でもそれ本望。それはそれとして、予想外の事実を私知っちゃった。」

「これは、すぐに行動しないと。早くしないと、このままじゃまずいよ」

その手帳をポケットに入れて、走って元の扉へと戻る露里。

「アンダス団……アンダス団……」


警察署の駐車場。そこに黒い大きな車が止まっている。

「お嬢様こちらに。飛ばしますからシートベルトを」

「分かったわ。できるだけ早く。重大なことだから」

お付きの人に車を運転させて、警察署から近くの留置所へと向かう。

「この人はどこに入ってる?」

「何か用で?」

「重大な用ですぐにそいつに会わないといけない。あと、こちらも大事な話があるから、他の人には近くにいてほしくない。お願い」

「参ったな……まぁいいか。あんま他の人に言わないで下さいよ僕が怒られてしまうので」

「大丈夫。言わないから」


そして露里は今回戦った敵。アンダス団幹部の男。コードネーム『ラッド』の元へといた。その男のことをマジマジ見つめている。

そこで何かを話して、そして留置所から出てきた。

「どうでした?」

露里は無言で首を振る。

「そうですか?では一旦警察署へと送りますね」

「えぇ。ようやくと思ったのに」

「残念でしたが、いい情報は得たんですから、それ使っていきましょう」

残念そうな顔で外の景色を見つめている露里は、何を思っているのだろうか。

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