第29章 地域活性部よ町を守れ!

「お帰り〜。任務今終わったとこ?」

「何でここに当たり前のようにいるんだよ」

俺は明石湊。愛知県の唯一の異少課のメンバー。

といいつつ、実際は俺が作った唐栗との2人でやってる感じだ。流石に人間じゃないから正確な人数には加えられては無い。でも給料を唐栗には払わない代わりに俺に普通のほぼ倍額を払ってくれたり、メンバーの1人として受け入れてくれてる。

「女川さん。どうも」

「唐栗君もどうも」

俺の隣にいるのが唐栗。そうして任務が終わった俺達を部屋で何故か出迎えてるのがこいつ。女川美奈。

前に俺の家であったからくり暴走騒動。そのときの騒動でいた1人がこいつだ。あんときはそんなで、このことを話すなという口止めぐらい。それぐらいで終わった。

でもそいつとばったり学校で会って、話したときに同じ学校の同学年ってことが分かって、それからそこそこに話し合う仲になった。そんなこんなしてたらいつの間にか異少課のこともバレたんだが、約束通り誰にも言ってないっぽいから問題じゃない。

「で、何でいるんだよここに」

「僕がいれたんだよ。何だか会いたがってるみたいだったから」

「駄目だろそんな感じでいれたら。大らかすぎるだろ」

「まあまあまあまあ。そんな問題もないよ。だからそんなに怒らない怒らない」

犯人の源川温利。愛知県の異少課の担当上司。良い意味でも悪い意味でも気にしない性格。唐栗をメンバーとして扱ってくれるのはいいけどにしても気にしろ。

「はぁ……で、結局何でここに来たの?ここまで来れた理由は分かったけど、そもそも警察署まで来る必要はないでしょ。何か重大なことでも起きたか?」

「そうそう。早急にしないといけないことがあったの。それでいても立ってもいられなくなって邪魔かなって思ったけどここに行くことに決めたの。それで……

「明石君。唐栗君。私の入ってる部活動に入ってほしいの!」

「は?えっ?」

ちょっと脳内整理のための数秒を置いて。

「部活勧誘?そのためにここまで来たの?あと今普通に冬の入り始めで部活勧誘の時期ですらないよな」

「自分もなの?」

「そうそう。とりあえずいきさつ説明させて」

「ウチの学校校則緩いじゃない?それで私も地域活性部って部活動作って活動してたんだ。何だけど、部員私だけのこの部は廃部の危機なの。3人部員いればひとまず廃部にはしないけど、冬休みまでに人数達しなかったら問題無用で廃部って言われてて。それで入ってほしくて頼みに来たの。クラスの友達は他の部入ってたりしてて無理だったから」

「そんな部活やってたんか。初めて知ったぞ」

「まあね。秋らへんに思いたって作った部活だから。これでも私頑張ってるんだよ」

「で、俺達2人を入れて目標の3人とね」

「自分いいのかな?」

「そのへんはだいじょーぶ。ウチの学校緩いから。教室に普通に席あるんだし行けるよきっと」

「そのへんは否定しないな」

ウチの学校そこらへんの受け入れが半端ないと言うか。まあ嬉しいね。

「っていっても部活はな。こっちも仕事あるから部活入ってないのもあるし」

「自分気になるかもパパ。運動部とかに入ったら流石に卑怯だと思って入ってこれなかったから」

「唐栗そっち側か。いやでもな……唐栗のを尊重してあげたい感はあるけど」

自分自身が部活行きたくないんだな。異少課の仕事抜きにしてもその時間でからくり作りしたい。

「全部の活動に参加しなきゃってわけじゃないからお願い。1人でも活動はできてるから、この廃部の危機だけ乗り越えれればそれでいいからさ」

「こっち側にメリットが……」

「じゃあ部室を朝とか放課後とか好きに使っていいから。からくり作りとかでも。学校の中じゃできる場所ないでしょ」

「あー……それは欲しいな。唐栗はどう?」

「入りたいかな。女川さんよく話してくれるから力になりたい。それに、部活動にも憧れてたから」

「よし、俺も入るとするか」

「えっ?いいのありがとう!それじゃあこの用紙に書いて!書き終わったら私が生徒会室に出しに行くから!」

嬉しそうだな。こんな嬉しそうなの始めてみたかも。


「話終わった?嬉しそうに彼女出ていってたね」

「まだ何かあるんですか源川さん。任務も終わりましたし、てっきり待機だと思ってました」

「任務中にここに手紙来てたんだ。すぐ渡そうとは思ってたけど、話があったみたいだから終わるまで待ってようって」

「それで、手紙って?」

「これ」

源川さんが封筒に入った手紙を渡してくる。宛名のとこには俺と唐栗の名前。そして送り主は静岡県異少課の若木露里となってる。誰だっけ?

「唐栗、静岡県の若木露里って覚えてるか?」

「あれだよ。ほら幼い女の子が好きな、スポーツ大会のときにあった人」

「あーいた気はするな。金持ちのだっけ?」

封筒から手紙を出して読んでいく。手紙の中身は簡単に言えば私の親が所有する無人島に異少課のメンバー達を集めて交流会をしようというもの。一泊二日のでかいやつを。

しかも参加費無料で全額負担する、ご飯とかそこらへんも用意するとのこと。イベントとかも企画しているのだとか。それでこれに参加するかしないかを問うてた。

「へぇー、金持ちはやることが大きいね。島の中で交流会。考えることはできてもそれを実行には移せないって」

「えっ……凄い」

「唐栗興味あるのか?実際俺はどっちでも良いんだけど、唐栗が興味あるならそうするけど」

唐栗こういうの好きだったか。たまには旅誘ってみるか。俺は行きたいわけでもないけど、唐栗が行くのなら付き添いたいから。

「え?パパが好きなように……でも行ってみたいかな」

「はい決まり。じゃあ唐栗サインのとこに自分の名前書いて」

「分かった。パパ」

ふたりとも行くってことを書いてと、あとはこれを渡しに行くだけ。源川さんのとこに持っていって、静岡県へと渡しに行ってもらった。

「よし。じゃあ渡しておくから」


場所は変わって蘭王高校・付属中学校。自由な校風の中高一貫校。これが俺と唐栗が通う高校だ。

本当にここは校風が自由で、いじめなども起きないいい学校。俺も学校に唐栗を連れてきて全く問題にされたことはない。

「地域活性部の部室はここか」

「具体的に地域活性部って何やるんだろう」

「そんな聞いてなかったか。まあ変なことは無いだろうから」

放課後、とりあえず昨日部活に入ったのもあって部室前へと来ていた。

「ありがとう〜。入ってくれて嬉しいよ私」

「廃部は免れたようで良かったな」

「あー……それがね。明石君は正式に入部できたんだけど、唐栗君を部員として数えることはできないって言われて。私生徒会長に言ったんだけど、唐栗君はあくまでもの扱いで、正式な学生ではないから部員の人数にもカウントできないって言われてて。ごめん、こんなこと言われるなんて思ってなくて」

あぁ。はぁ……。

ため息が出るけど、納得はするしか無い。唐栗の分の学費払っているわけでもない。制限されることは分かってる。

「パパ……」

「大丈夫。書類上はできないけど事実上部員にすることは可能だろ?それしてくれ。じゃないと俺はどっか行く」

「勿論勿論だよ。この前の時、唐栗君が嬉しそうに入りたがってて私嬉しかったんだから!ちゃんと仲間だよ私達」

「暑苦しいな」

「えへっ」

まあ唐栗が笑顔だから許すよ。暑苦しいのは嫌だけど。

「それはそうとして、このままじゃ廃部になるから何としてももう1人部員を集めないとなの。だから私、玄関前で部活勧誘してくる。適当にだらだらしてて待ってて!」

そうして部室の扉を開けて走ってでていく

「自分にも優しくしてくれて、皆優しい」

「よしよし」

「わぷっ」

いつもみたいに唐栗の頭を撫でてあげる。これ好きなんだよな。

笑顔の唐栗を見るのが、俺の笑顔に繋がるらしい。断言する。


「地域活性部部員募集してまーす!」

「うーん……あんまり話聞いてくれてない?でもまだチャンスはあるから。全校生徒多いから、1人ぐらい見つかる!」

この蘭王高校は付属中学校もある中高一貫校。部活は両方で同じだから部活勧誘できる人数も多いというわけ。

たまに興味ある人は来てくれるけど、それでも部活動には入ってくれないというのが続いて30分ほど。

「えぇどうしよう……もうほとんど帰っちゃったよね。部活してる人だけだよね」

少々焦りが見え始めてた。

「多少強引にでも話聞いてもらおう!これで何とか入らせて……」

まず話聞いてもらえないことにはどうにもならないから、そこからちゃんとして入らせようという作戦。

そしてちょうどその頃玄関に来た男の子に狙いを定めてスタート。

「私地域活性部の部活勧誘してるんだけど、ねぇ、部活入ってる?」

「ぼ、僕です?あの……は、入って……なんにも入ってないです。はい」

「あ、うんそうなの!それで私の部活廃部の危機で、今部活に入ってくれる人探してたの?どう、興味ない?」

「えっいや……あります!ありますめちゃくちゃ興味あります!」

「えっ!嘘ありがとー!なら、一旦こっち来てくれない?部室こっちで、他の部員……といっても今の部員の数全然なんだけど。まあ紹介するから」

「わ、かりました。ですから、話聞きますから、僕に乱暴しないで……ください」

「乱暴……?何のこと?私しないよそんなこと」

「そうでしたねごめんなさい気を悪くしましたねごめんなさい本当に申し訳ないです」

「ん〜?」

あんまりわかってない顔をする美奈と、何かに怯えているようにびくびくしている男の子の2人が部室へと向かった。


「ここが私達の部室だよ」

「ん〜……?」

連れてきた新入予定の子、何かありそう。明らかに普通な感じじゃないけど。

「まずは自己紹介から。私は女川美奈。高校1年生。私がこの部活を作ったから、この部活の部長だね私。何か困ったことあったら聞いてね〜」

「俺か次。同じく高校1年生の明石湊。前にあったことでこいつとそこそこの仲になって昨日部活勧誘させられたから入ったとこだ。趣味はからくり作り。」

「自分は唐栗です。パパに作ってもらったからくりの機械です。人間じゃないから本当のところ学生じゃないですけど、皆の優しさのお陰で学校の一員みたいにみなされています。やっぱり嬉しいです」

「えっ!?えっ!?からくり?これが……あ、話の途中でごめんなさい切っちゃって。あのすみませんすみません」

これ何度も見たな。毎回初めての方に説明するとこんな反応される。

「本当だ。昔から俺はからくりを作っててそれでからくりで人間そっくりのを作り出そうとして完成したのが唐栗というわけだ」

「そ、そんなのあるんです?だって、動くし、喋るし……もしかして僕が知らないだけでそうなんです?邪魔ですか僕。こんなにも知らないの邪魔ですよねごめんなさい」

「いやー……でも説明が……そんなもんで納得。してはくれないか?」

「は、はい!納得します。僕は納得します」

……唐栗の件はともかくとして、やっぱり全体的に普通らしさがない。ずっと謝ってる。

そこら辺そんなに詳しくないんだぞ俺。

「つ、次は僕……ですよね。うん。僕は堀戸栗久です。中学2年生で……」

「堀戸君ねオッケ~。それでこの部活なんだけど、やることは簡単でここらの地域の活性化のお手伝いをしようっていう部活なんだ。具体的にはインターネットとか使ってここらにはこんなところがありますよ〜って書いたり」

「イ、インターネット……」

「他にも地域の調査やイベントのお手伝いなど。ってな感じ。それであと他のことは……」

部活の日や顧問の先生。部費など伝えなきゃいけないことを伝える。にしても、そんなここら好きなのか。輝きまくってる。いいよなこんなの。

「言いたいことは全部かな。何か他に質問ある?堀戸君とか、些細なことでもいいから聞きなよ。ちゃんと部活決めるときは考えないとだよ」

「僕は特に、ですよねうん」

「……」

やっぱり何かありそうだな。

「で〜どう?結局この部活入る?入らない?」

「も、勿論僕入ります。ですから……あの…うん。お、お願いします」

「ありがと〜。これで廃部免れるよ。それじゃあ私職員室から入部届取ってくる」

「俺も行くよ」

「え?でも紙取りに行くだけだよ」

「でもだ」

「うん……」

話したくないことを、ここで話すのも違う。そこら辺はわかるぞ俺だって。


「でだ。どうするんだ?あの……名前忘れた」

「堀戸君のこと?うん……」

「分かってたのか。何も気にせず進めるから気づいて無いのかと思ったが」

「流石の私でもあんだけされたら気づくよ。堀戸君が普通じゃないというか、怯えてる?みたいなの」

「何かやったんじゃないのか?」

「でも私初対面だし関わるようなことした覚えすら無いんだよね。でも思えば勧誘のときから変だったような気も。私なんかやっちゃったかな?」

「それで、入部は普通にさせるのか?本心から入部したいようにも見えなかったが」

「でも入部したいとは言ってるから。何かあったのか聞いては見るけど、あんまり上手くはいけないかも。部活していく中で自然と解決することを祈るよ」

上手くいきゃ良いけど。


その日は入部届を書いてもらって提出したところで解散となり、そして次の日。

「なぁ」

「は、はい僕ですね。な、な、何の用でしょうか」

放課後、部活の時間は始まってるのにあいつは来ない。やってない今日提出の宿題があるから必死にやってるだとか。

「無理とかしてないか?」

「しし、してませんよ無理なんて。僕は部活に入れて光栄に思ってます」

あいつの前だけ、なんてことはない。誰に対しても心を閉ざして、本音を隠してる。

過去の経験とかがトラウマで、とかいうよくあるやつか?こんなんじゃ解決するのはまだまだ時間かかるな。

「自分もここの部活入れて良かったな〜」

「唐栗先輩、先輩?もそうだったんですね」

「唐栗には普通に話すのか」

「えっ?いやいや違います違います。ごめんなさいごめんなさいそう見えてたらごめんなさい。決して唐栗先輩だけを贔屓したわけじゃないです。ちゃんとしようとしてます。大丈夫です」

唐栗には……人間不信とやらかな。知らんなその対策。

「唐栗、ちょっと」

「なにパパ?」

「少しの間出てるから、その間話したりしていてくれ。そしてどんな感じだったか後で教えて」

「分かった」

ちょっと唐栗に任せてみるか。何か変わるかも。


「本当にごめん。宿題の範囲のメモ間違えてたの!しかも赤点ギリギリだったから……」

「ちゃんとしろよ。留年するぞ」

「で、さてと部活始めよー。今日やることだけど……って、今までこんな事やってなかったから照れるね私。それで、今私がやってることの手伝いをしてほしいの」

「これか?」

テーブルの上に昨日から置いてあったレポート用紙を指差す。

「そうそう。あまり人が来なくてゴミとかが多い場所を掃除しようってことをやろうと思って。それで話を聞いたりしてこの町のゴミが溜まりやすい場所のリストを作ってたんだ」

「二人ともこの地図見て、その場所汚れてるの見覚えない?」

「どうだったっけな。小学生の頃ならイメージあるけど、今はそんなとこ通らないから」

「自分もたまに1人で外出しますけど、それでもこんなところまでは行きませんね」

「ご、ごめんなさい。実は僕今年転校してきて、それでそこそこ経つけどいまだに地図を覚えれてないんです。ごめんなさいせっかく書いて頂いたのに」

「そう?とにかく、ここらへんの掃除をしようってこと。じゃあ今から行こ」

「そんなに早くするんです?」

「だって明日から雪の予報だもん。じゃあ行こ!時間なくなるよ」

強引かこいつ。


今いるのは町外れの丘にある廃神社。辺り一面が苔や草で覆われていて、そして若い人達の溜り場になってたみたいでタバコの吸殻や酒缶やら。言っちゃえば酷い状況だった。

全員でバラバラになって掃除を始める。でもその前に唐栗に尋ねる。

「あ、そうだ唐栗」

「なに?」

「話したことを教えてって言ってたが、今教えてくれるか?」

「でもそんなに変なことは話してないよ。この学校に転校して数ヶ月経ってるけど未だにコンビニの場所を覚えられないとか、前の友達に会えたらなぁとか。そんなこと言ってた」

「そか、なんか変なこととかなかった?」

「ううん。何も」

本当に普通の話だけど、俺が同じこと聞いてもまぁ普通に答えてはくれないだろうな。

やっぱり唐栗だけが。


そこらにいたこいつを呼んで

「何かあった?」

「いや、あのやつのこと。多分人間不信拗らせてるんじゃないかって思ってる」

「その心は?」

「俺やお前と違って唐栗とは普通に話してる。唐栗がからくり機械だから人間じゃないから素で話せるんじゃないかと」

「口下手やコミュニケーションが下手というよりは、そうじゃないかって。吶るまではいいとしてあの怯えようじゃ、そういう次元より一つ奥にいる気はしないか」

「分かるかも。あんだけ謝ってたらね。悪いことなんてしてないから謝らなくていいのに」

「原因過去に何かあったからとか?だったらそれさえ崩せたら変えられるかも」

「それが分かんねぇし崩せもしないから苦労するんだぞ。まぁ一旦は唐栗を相手とすることにしよう」


同じ頃、愛知県のとある高い場所にて。そこから近くの町を眺めている一人の女がいた。

「本当人遣い荒いんだから。テキパキ仕事終わらせたら新しい仕事投げるとか。アホなん?」

謎の怪しい女性は、愚痴を言いながら何かの機械をセットしていた。

「研究職の者共は口だけ達者なくせにこういう実地を全部投げやがる。その上手柄だけはほぼ独占して、こっちになけなしを渡して終了。ふざけんな」

「幹部の奴らにあること無いこと吹き込んでやる。お前らが悪いんだ。人をこき使う側になるためにここまで取り入ったんだぞ私。せいぜい利用させてもらうよ幹部達。教祖にすっごい忠誠誓ってて、バッカみたい」

彼女から出てくる幹部やらの言葉。そしてなによりアンダス団という語句。そう。彼女はアンダス団の1人だ。

今日はアンダス団の仕事としてここへとやってきていた。この機械もそれに使うもの。

「と、これで範囲を設定して、よーし」

その機械の対象範囲を"明石達が暮らす町の家がある場所全域"に設定して、そうして手持ち無沙汰になったみたいでスマホで暇をつぶしていた。


掃除も終わり、神社に戻って借りてきた物品を学校に返却して、そこでこの後は解散という流れらしい。早速箒やらトングやらを持って学校へと向かってる。

「そういえば、堀戸君って転校生なんだっけ?こっちはどう?慣れた?」

「いや、あの、て、転校生といっても僕転校してきたのは数ヶ月前で、それで、勘違いさせてごめんなさい。で、ここは良いと思います。本当に、本当ですから」

「へぇ〜。どこから転校してきたの?」

「富山県の学校からです。前の学校で色々とありまして、それでこちらへと。元々親戚がこっちに住んでいて……あっ、ごめんなさいこんなに自分のこと話してウザかったですねごめんなさい」

「唐栗君にもこの町好きになってほしいなぁ。私の願望なんだけどね。」

「学校見えてきた」

「これで部活終わりということか」

「ほっ……良かった……」


「何か、変な感じしない?」

「変な感じ?とは?」

「それは分からないけど……なんかそうくるものがあるというか……皆はどう?」

学校に入ったぐらいのところでふと急にこいつが言い出した。

「俺は無い」

「自分は……そもそもそういうところには疎いみたいなので……」

「ぼ、僕はわかります。ちゃんとそんな感じしてます!」

嘘っぽい。

「んー……まぁいっか」


校舎内に入ったぐらいのところ。そこでさっきの感じた違和感の正体に気がついた。

廊下を歩いているとそこに倒れて床に伏している生徒がいた。それを見つけて真っ先に向かうこいつとそれを追いかける俺達。

「だ、大丈夫?倒れてたけど……」

「……えっ?あっ……」

「病院とかいったほうが良いよ。大丈夫だと思ってても本当は大丈夫じゃないことあるんだから」

「えっ……」

倒れていたけどこいつがさすったりしたから起きてはくれた。でもなんか変な感じ。

「私の話、分かる?聞こえてる?」

「うー……」

「聞こえてるのか?」

「ちょっと、おぁアレを見てください先輩!」

指差すその奥。グラウンドでは野球部のユニフォームを付けた連中が揃いも揃って同じように倒れていた。

「えっ?えぇっ?」

「何が起きたらあんなことになるってんだ。唐栗、起こしに行くぞ」

「分かったパパ」


「どういう、ことなの」

グラウンド組も同じような反応。しかも他にも色んな生徒先生が倒れていた。近くの病院に行って何とかしてもらおうにもそこでも同じようなことが起きていた。

「分からん。ニュース調べてもそれっぽいニュースはやってないし」

「僕たちが掃除していたときに、ここらで何かが起きたんですよね」

「幸い命に別状はないみたいですけど、そういう人は起こした時に不自然な感じになる」

たとえ何かがおきたとして、こうはなる?しかもこれだけなことが起きていて騒ぎが起きていない。単なる現象とは言えないような。

「ちょっと、これってもしかして魔族とか、それに類する何かが原因なんじゃない?」

「……」

「だって、それらなら現代科学を超えたことできるでしょ。現代科学を悪用してもここまでのことは起きない気がして」

正直あんだけの力を使えるなら、これぐらい容易い。

「誰かが、ならなんのために。でもあり得るな」

「だとしたら、そいつを倒したらもとに戻るんじゃないかな」

「それは場合による」

「でも、どっちにしろ倒さなきゃいけない。私手伝うよ。そいつを倒すの」

「倒すったって、攻撃力ないだろ」

「だから、そいつの場所を見つけるとか、全部が全部戦いってわけでもないからね」


「自分、パパのこと手伝うよ」

「おっと唐栗か。聞いてたか?」

「うん。自分もこんなこと、たまたまじゃない誰かによる意図的なものだっておもってる」

「うん。私が戦いに参加できないのは申し訳ないけど、それ以外なら何でもする。こういうのって逃げられる前にやらないと、そのまんま逃げられて永遠に未解決になってしまうこともあるから、早くしないといけない。でしょ?」

俺だってこのまんまってわけにはしたくない。何とかできるなら何とかしたいっていうのはある。

こいつの覚悟はひしひしと伝わってくる。折れてやるか。

「分かったし納得した。良いんだなそれで」

「勿論」

「よし、じゃあ犯人を探すのを手伝ってくれ、とっちめるのは俺達に任せろ」

「あの、僕も手伝います」

ヒソヒソ声で話していたらそこに横から声を入れられて。その声の主は同じ部活の彼。

聞かれてたか。

「ご、ごめんなさい。話勝手に聞いてしまって。探しに行くんですよね。お願いです。僕にもやらしてください」

「僕にもって簡単に言うけど、危険だぞこれ」

「いいんです。自分の身ぐらい自分で守ること、できますから。むしろ守ります」

「いいんじゃないの?人手は多いほうがいいでしょ」

「いいったって」

「大丈夫。私近くいて止めるから。あぶないことに突っ込まないように。今必要なのはそこ。それ以外のことは今は考えない。ね?」

「うーむ……」

安全面の問題を考えたら正直連れて行きたくない。そもそもこいつでさえ嫌だ。だけどこいつは付き合い長いからそこらも理解しているだろう藪を突かないだろうそう思って特例で許したんだ。

でも時間がないのも……なんにもの人がすでに被害に遭っている一大事だ。安全策とってる場合じゃないか。

「不用意に近づくな、犯人がいたとして。オッケーだな」

「は、はい。ちゃんと守ります。ルールなので。良いんですねありがとうございます」

「ちゃんと見ておけよ」

「私に任せて」

頼んだからな。


「ダメ元で電話したが繋がらん。メールの既読も付かんから同じような状況かもな」

「やっぱりこれ私達以外全員なのかも」

「僕も電話で両親にかけてみましたけど、同じでした」

他に人がいるのか電話かけてみたものの、源川さんを含めた誰も電話に出てくれない。ここらへんだけのことじゃあ無さそう。

「SNSアカウント調べました。同じ愛知県でもここから離れた臨海部とかは何も起きてないみたいです。この町、もしくはその周辺で起きてるのかもこれ」

「ナイス!」

この町で起きてるのなら、そんなに遠くにはいなさそうか?これ起こしたのならその様子を見ておきたいというのが犯人の思想だろ。


「町周辺、頑張って探そう」

「町の東西南北それぞれ別れて探そう時間短縮のために。怪しい人見つけたらみんなに電話ってことで。分かった?堀戸君」

「でも自分、携帯電話持ってない……」

「そういやそうだったな。俺と唐栗2人で一緒に行くってのでいい?」

「分かった。じゃああっちの方お願い。私あっち行くから。堀戸君はそっちね」

「分かりました。では行ってきます先輩」

電話番号を交換してそれで行く。ただその前にこいつと少し話を。

「見つけたら俺だけに電話してくれ。あくまで一般人の子がその近くに来るのは危ないから。来たところで対して役に立たないだろうし」

「大丈夫。元から戦闘は2人に投げないとなーって思っちゃってたから。堀戸君を騙すのは悪いけど、それも堀戸君のためだもん!じゃあ私も行くね」

「あぁ、よし唐栗行くぞ」

「わかったよ。パパ」


学校を出て三方向に散る皆、俺が行ったのは店が並ぶ大通り方面。

「うっ……」

「皆倒れてるね」

「これ起こすか?それとも……」

学校に来るまでの道は人通りの少ない道だからあそこで倒れている人がいなかっただけ。ここを見ると至る所で人が倒れていた。

「今時間ないから起こしてられないな。あの感じ起こさないと身体に影響があるってわけでは無さそうだったし」

「苦しんでるって言うより気を失ってる感じかな」

「犯人の目的が益々分かんなくなってくるな」


「私達だけは被害にあってない。何でなのかな。そこにヒントありそうなのに……うーん……」

こちらは女川。色々と考えながらも走って探していた。

「普通に考えたらこんだけの人が倒れているのに私だけ無事ってことあるわけ無い。なんか理由があるとして、神社の加護?」

それっぽいことではあるものの、だとしたら犯人には全く繋がらない。

「他には……あ、単純に私達がいた神社が範囲外だったとか?そうだこれだよ。だってあの神社は町外れにある人も全く通らない廃神社。あそこまでカバーするメリットがないからそこを無視したなら、だったら犯人がいるのは神社の反対側、こっち真っすぐ行って左に曲がったら辺かも!」

こちらはこちらで予想を立て、そこへと向かっていた。


堀戸君は適当にそこら辺を走って探していた。

「それにしても、本当にこれヤバいやつだよね。こんなに多くの何も悪くない人が倒れてて……。うん」

「先輩方も探していたみたいだけど、いざ見つけたら電話しないで僕だけで戦おう。この力のせいで……なんて邪険にしたこともあった。もう二度とこれを使わないで生きようとも決めた。だけど」

「使えるのなら使わないと。あんな悪が勝ち逃げするなんてダメ。倒したあとに電話して勝手に倒れていた……でいけるかな。また、あんなことになるのは……ぐっ……」

頭の中でぶつぶつ考えながら足は動かしている。発言の最後と共に、数滴の水がそこらの道路に落ちたようだった。

そのまま何も考えず、適当な方向へと向かう。


「この小山、怪しいよね。だってここからなら、町を一望できるだろうし。麓からじゃ木でよく見れないか。展望台の方へと行こう」

女川が来たのは町外れにある小さな山。山と言っても標高10数メートルの低い山。この山の上は公園になっており、そこに展望台もある。そこらを怪しいと思って公園までの道を早歩きで登っていく。


「ここの展望台、そうだこれ使えばもしかしたら分かったりしないかな?」

その後、そこそこして同じく麓に来たのは堀戸君。

実は女川と堀戸君が行こうとしていたところは通るルートこそ違ったものの結果だけなら

同じここ。たまたま同じ場所へと辿り着いてしまった。

時間空いてるのもあり、どっちも相手が近くにいるとは気づいていない。とりあえず堀戸君も道を通って山の上の方へと歩いていった。


「あ!あぁー……!」

「何か聞こえたか?研究職の者共が雑に作ったせいで効かんかった奴がいたと?ふざけんなよ。それで不具合起きたらこっちの責任とかアイツラ舐めてんのか」

「いけないっ……すっ……」

山を登って上の方、公園の展望台。そこで事件の犯人の女を見つけた。そこの横には明らかにこれを使いましたと言わんばかりの大きな機械、そして今の言ってる内容。この人が元凶なのだろうと女川は断定していた。

見つけたときに声を出してしまい、そのせいで見つかりそうになっていたので素早く近くの茂みに隠れ、見つからないように少しずつ動いてる。

音立ててもバレないよう少し離れて、電話をかけた。


「いたか?」

「うん。場所だけ言うと、町外れの公園がある山。そこの公園のところ。えっと伝わってる……よね」

「いや流石に分かる。でも結構反対の場所だから来るの遅れるということだけ」

「了解」

明石君に伝えたい情報を伝えた。女川はギリギリ見えるような場所で茂みの隙間からそいつのことを見ていた。逃げたりしても追えるよう。


「唐栗、場所分かった。町の北西の山の公園がある場所、伝わったか?」

「パパ。大丈夫。場所の検討はついている」

「唐栗だけ先に行ってて戦ってもらう。それお願いしていいか?やっぱり戦いは俺より唐栗の方がやったほうが良い」

「うん」

「行ったな。さて俺も頑張ってそこまで辿り着かないと」


「やっぱり声聞こえる。いたか?」

「っっ……」

「ようやく見つけた。犯人さん」

「さっきのも含めて、全部お前みたいなガキってことか」

「え?」

自分のことがバレたかと思った女川。でも実際は声が、別の人の声だった。こんな場所へとこんなときに足を運んだものが一人いた。

「僕にはよく分からないけど、町の人達になんかした犯人さん、ではあるでしょ?」

「なんでお前にはかかってない?町全域にかけたんだが。やっぱり不良品だってことかこれがそんなもんで仕事させるな」

「堀戸君!」

小さな声ででも驚く。だってそこに来たのは別の方向を探していた堀戸君。いやなんででもここは学校から斜めのとこにあるからどっちからでも行ける……ってことを考えてる場合じゃなくて。

「2人はまだ来れないよね」

予想だにしない展開に脳みそフル回転中の女川。

「ここでやめて、警察にでも自首しに行くべきだと思うよ」

「自首なんか誰がするか。私がどれだけ惨めな思いして取り繕って這いつくばってやっとここまでこれたか分からないんだろうな。さっさと幹部を誘導して、組織内で良い地位になって下を見下す生活をしてやるさ」

「みんなみんなそう。駄目だって何度言ったって、そんなもん無視して。被害者が言ってることも無視して勝手な言い分撒き散らして。他人のことなんか知ったこっちゃない?ふざけんな!」

「そう来たか。異少課のもんだが何だが知らないが、どっちにしろ戦う羽目にはなってたからな。やってやんよ返り討ちにしてやる」

「えっ?えっ?」

出ていって止めるタイミングを見失い、茂みに隠れながら話を聞いていた女川。話を聞いていたらいつの間にかこんな状況になっていてこれはこれでテンパっていた。

堀戸君は小刀を、そして相手の女性は斧を持って、もう少しで戦いが始まりそうな雰囲気。

「これ、どうしよ私。止めたほうがえでも、私ここででたらむしろ迷惑で、私を守るために……」

今の状態から先程までのようなまだ平和な状態に戻せるなんて全く思えない。

「私……ここで見てよう。堀戸君も武器使いだったんだ。頑張れ堀戸君」

堀戸君を応援する以外私にできそうにはない。

「明石君、唐栗君……」

私以外の何とかできそうな人たちがこっちに早くくることを祈ってる。来て本当に。

「今度こそ、ちゃんと勝って、守る」

「ガキのレベルがどれだけか見せてもらおうか」


「言っとくが私、こんなんでもちゃんと強くなれるよう覚えたんだ使い方を。覚えたもんがこんなとこで役立つとは思ってもなかったけどな」

「僕だって転校してからこんな力もう使わないってずっと決めてたのに。なんで使わせようとしてくるの!こっちの苦労も知らないで」

「他人の苦労だとか、知るかってんだ。私は私のために生きる。それが私の人生だからだ」

「自分勝手」

「何が悪い自分勝手で。ここまで来たんだ、ガキ1人にここまでの苦労消されてたまるか」

「その苦労は碌な苦労じゃないだろうに。僕達が受けた苦労と違って」

始まっちゃった。武器と武器との戦いが。本当、がんばれー、堀戸君ー!

あのそこそこ大きい斧を普通に扱って、それで叩きつけるように攻撃している。ちゃんと強いよ私が見ても分かる。

「おっと」

堀戸君はその斧を後ろに下がって避けてる。あの斧一撃は相当重たそうだけど、攻撃の速度が高いわけじゃなくて予兆から攻撃まで少し間があるのがまだ幸いみたい。

「百刃!」

「くっ……へぇ。やっぱり武器持ちのガキか」

堀戸君が言葉を言ったら無数の小刀が空に出て、それらが一斉に犯人に向かって真っすぐ飛んでいった。

あれが多分武器の力。無数の刀……痛そうだけど、実際にはそこまでダメージを負ってない?

犯人の武器も多分異世界の武器なんだろうかなって思ってるけど、だとしたら武器の力があるってことだから……大丈夫かな堀戸君。


「斧を振ったら簡単に倒せる。そんな簡単じゃないってことか現実は?」

「僕も頑張ってはいるけど、ちょっと腕鈍ってるかも。持ってはいたけど使うことは無かったら……使わないはずだったのに。百刃!」

「初見じゃねぇ。さっきよりダメージを抑えれるさ」

「ちゃんと戦いの中で成長してる。うわぁ……」

さっき使った技の二度目を行う堀戸君。でもさっきと同じように無数の小刀が出るところまでは同じなものの、起きることをさっきのから知った相手が一枚上というか、さっきとは違ってまあまあ攻撃を避けていた。

「じゃあこっちも使うか。極攻!ぐっ……」

「効果は……見た感じ、特に変化は無、いっ!?」

「これも避けられるかよ。あと一歩遅けりゃジ・エンドってとこだったというのにさ」

「さっきより、速くなって……百刃!」

「くっ……わざわざ覚えたんだこの力を!自分自身の体力を減らす代わりにステータスを向上させるこの力を!使ったあとは痛いし色々と酷くなるってのにそれでも使ったんだ。これでお前を倒して帰ってやるさ」

彼女が説明した通りの力。これを使えば使うほど体力が減っていき倒しやすくなるのはあるが、ステータスの増加量が割とある。しかも体力が減るとはいえ恋のやつみたいに制限時間があるわけでもない。あのそもそもが高い火力の斧と併用されるとかなりやばい感はある。

「自分自身を痛めつけるなんて方法をわざわざ取ってまで、なんでこんな町を混乱に陥れるの。何がしたいの」

「教えても分かんねぇだろうがよ。それが上の指示だったのなら従うってのが私ら。理由もクソもあるか」

一瞬の沈黙、そして

「百刃!」

「はぁっー!」

どちらもの攻撃が起きた。斧攻撃は堀戸君が間一髪避け、百刃はかなり避けられて余り有効打にはならなかった。

「堀戸君!?はぁ良かった……。でも相手、さっきの力もだけど本気。堀戸君勝って、負けないで!」

茂みの中、ずっとバレずに除いている女川が、聞こえないぐらい小さな声でずっと応援していた。


「場所はここ、その公園がある場所。だからこの上の、あそこら辺」

唐栗はようやく現場の山の麓までたどり着いた。明石はまだまだ道半ばだが、こっちはもうすぐたどり着ける。

急いで上へと続く階段を上って、そして唐栗は目に二人の戦いシーンを映した。階段から現場まで移動し、そして。

「急ですが自分も加勢します」

ようやく来た!唐栗君。ここから戦局も変わるよきっと。いっけー!

「唐栗先輩!えっと来ちゃったんで……危険ですここは、離れたほうがいいですごめんなさいですけど」

「自分大丈夫。あまり深くは言えないけどそこら辺慣れているから。むしろ自信がないのなら自分より後ろに下がることをおすすめする」

「……分かりましたです唐栗先輩。すみませんが、僕にもやらしてください。僕にもできますから」

「急に出てきて2人になるとかふざけてんのか。2人まとめてやるしか無いか仕方ねぇ!」


「気をつけてください。あの人自分自身の体力を減らしてステータスを上げる技使ってきます。百刃!こっちはこっちでこの技使うので当たらないよう注意してもらえます?声はかけますから」

「うん。自分は一部のパーツが壊れたとて直せれるから。最悪巻き込んで」

唐栗は身体の中に収納された刃物、自己防衛用のそれを使って戦う。ただの刃物で異世界のものではないから力を使うことができない。でも何とか戦う。

「一旦1人消すか。これ以上来るとか言うんじゃねえぞ。どいつもこいつも私の邪魔しやがって」

「来ますね」

「自分行く」

持ち前の速さを生かして一気に間合いを詰め、それに気づいて避けられる前に攻撃をいれる唐栗。

「こいつめ!」

それに反撃するかのように斧を振り下ろす。その斧は身体の後ろ側にぶつかって歯車にヒビを入れたが、唐栗はまだ問題なく動ける。

「大丈夫ですか!?」

「自分平気だから。これぐらいなら、直してもらえる」

「なにもんだてめぇ。ただの人間ってわけじゃない。魔族か?」

「自分は唐栗。パパの明石湊が苦労して作り上げ、そして自我をもくれたからくり機械」

「どっちにしろ、戦い方は同じでいいか」

「極攻!がっ……っ……勝つさ私は!」

2回目の極攻、やればやるほどステータスはどんどん上がり体力は減っていく。じんじんとする痛みが戦い中ずっと付きまとってるだろう。そんななのによく平常に見せて戦えるもんだ。

「は、速い!これ、百刃!」

「自分が止める!」

かなりのステータス強化。最初は隙が多く簡単に避けられた斧攻撃も、今となっては避けれる方が珍しいほどに気をつけなければいけない技になってる。アレをくらったらひとたまりもないだろう。

堀戸君は百刃で、唐栗は自分が持つ刃物をぶつけて、何とか遅らせて避けれるようにした。

でもそんなのは焼け石に水、ちょっと遅れたからって避けることはできずに

「痛っ……うっ……ぐっ……あっ!痛!痛!」

一発堀戸君に当たった。致命傷ではないもののすこぶる痛む。

「うっ……ぐす」

涙が目から出て目を覆い視界をぼやかす。それぐらいの痛み。

正直これを数回喰らうだけで負け確定。何もできない。ノックアウト。

「本当に避けないもと……」

凄い痛みに耐え、視界をぼやかす涙を手でクリーンにし、そして相手の顔を見る。許さないという明確な敵意をぶつけながら。


「百刃!からの唐栗先輩!」

「うん。自分が!」

「はぁ……はぁ……中々やるな。あーウザったい」

そこそこダメージを入れたけど、さっきこいつが使った2回の武器の力でこちらは意外と優勢。

というのもその2回ので結構なダメージをくらってるのもあり、ダメージ量だけ見れば優勢である。あちらの攻撃力がかなり高いという懸念すべき点はあるけど。

「本当の奥の手を使ってやんよ。四の五の言ってられっか。私は必ず勝つ!極攻!っからの!極攻!がはっ………ぐっ………こんなに使ったのは初めてだ。身体中が痛かろうが、どんだけ血を吐こうが、私のために勝つさ!」

一気に2回もの極攻、これで4回目。口から吐血し、身体中から痛みが押し寄せてきてる。もうこれ以上使ってしまうと気絶なんかして強制的に勝敗が決する上限ライン。

ギリギリの体力で辛いだろうに勝ちへの執念で斧を持ち上げている。

「そこまでして勝とうとするなんて……血も吐いてあんだけ痛そうで」

「自分、ここまで覚悟を決めてる人は初めて。だからこそ怖い。もう少し攻撃したら倒せそうな具合だけど」

「当たったらまずいよねあれ」

「自分でも中の歯車がぶっ壊れて機能停止するかも」

極攻2回の状態でさっきくらったのでもかなりの破壊力だった。あれは一撃必殺、よくて二撃三撃で負けというものであってもおかしくない。

それがステータス強化状態。速さなんかも全て上がったときに来る。恐ろしいったらありゃしない。


「一旦とりあえず百刃!」

スッ

「凄い!これ凄いぞ。身体中の痛みと引き換えに、あんだけの速度で飛んできた小刀も全部避けられる!さぁ今から反撃タイムと行こうか!」

「嘘、これじゃ攻撃が……こんなときどうしたら」

狙ってうった百刃。しかしそれらの刀は全て地面や木に当たって消滅した。あんだけ無数にあったものが一発すら当たってない。

「はぁっ!」

「ここは自っ!うぐっ……」

「唐栗先輩!」

「唐栗君!」

かなりの速度で振ってきた斧をもろにくらった唐栗。その速度で地面へと叩きつけられた。

様子を見ていた女川も思わず声を出している。

「自分はなんとかなるけど、生身の人間がくらったら重傷じゃ済まないかも」

だとしてあの攻撃されたら避けれる気はしない。それぐらいの速度。

「だけど……百刃!」

「またこれか。もう二度と当たるかもう見切った」

「これが当たらないと……唐栗先輩、協力して追い詰めましょう。唐栗先輩が近くに行って直接攻撃を、その間に僕が百刃をする。そしたら両方に注意するのはできないからどちらかはちゃんと攻撃できるはず。百刃に巻き込んでしまうのだけはごめんなさい」

「勝つためだもん。仕方ない」

百刃ぐらいのやつならダメージは受けても破壊からの停止には至らない。あとでパパに直してもらう。

「百刃!」

スタスタ……

「ハッ!コッ、ドッ!」

「まだだまだな。速いがまだ見てられる。ふぅ良かった」

近くに行く唐栗、攻撃をしようとしてもちょっとずつ逃げられてる。絶対逃さないで当てないと。


可能な限り百刃を連発してる。犯人をあえて狙うのではなく、その横の方を。逃げられないようにして、とどめは唐栗先輩に任せる予定。

「連発できる限り、だから今で決めないと」

かなりの回数できるとはいえ、このままじゃ回数の上限が来る。それまでになんとか決めたい。

あの斧は……痛いから絶対に。攻撃力とかも上がってて。

「うっ!はぁ……はぁ……」

「大丈夫!急に大きな声を出して」

「大丈、夫です。ちょっと思い出して」

忘れろ忘れろあのことは。痛いこと想像したらあのことが出てきて。あんなに痛いのは、もうやだ。

「近づこうとすんなこいつがよ!」

「うわっ!気づかれてた」

「唐栗先輩!」

背後から近づいてた唐栗先輩が気づかれて、斧で攻撃されてる。2回目。これじゃ壊れちゃう。

「どうせ1人が注意引いてもう1人がやろうった姑息な作戦だろうがよ。こちとら覚悟してここまで来てんだ。そんなミスで終わり?ふざけんな!」

「唐栗先輩?」

「うっ……」

あまり動けてない。なんとか立ち上がれはしたみたいだけど、でもそれでも攻撃するには心もとない動き。

「僕は」

ふと心に出てきた女の子。昔の親友のとある女の子。うん、そうだよ。

「絶対に勝つ!前は負けて最後まで守れなかったから、この町の人も何もかもを勝って守って見せる!」

あの時負けてしまって、今はどうなってるかも分からない。だからこそ、今回ばかりは負けられない。


「何だが分かんねぇけど。覚悟ならこちとらしてんだ。この一撃で決めてやる」

「百刃!からのっ」

「これを避けられるだと、次はない!」

さっきまでなら完全に当たってたであろう斧攻撃。たださっきの覚悟のおかげで今の堀戸は圧倒的に今の状況に集中している。火事場の馬鹿力とでも言うべき。相手の攻撃を行う前の癖を的確に見抜いて、それを以て先に行動することで、あの攻撃を避けるといったことを可能にした。

「攻撃を避けられない最大のときは攻撃をするとき。百刃!」

「当たるか!」

どちらも一歩も譲らない戦い。激しさはどんどん増していった。


「あ、明石君こっち!今まで何して」

「先行ってもらっただけだよ。で?なるほどな。概ね状況は把握した」

そのとき、山の上へと上ってきた明石を見つけた女川。手招きして茂みの中に一旦入れる。そうして見たバトルの状況から堀戸君がそういう武器を持ってて戦ってるとかの大まかな状況は感じ取った。

「唐栗は?」

「あそこで。殆ど動けなくなってるから後回しにされてるのかも」

「助けに行きたいが、まずはこっち倒すのが先決か。にしても凄いなこれは」

手の中に武器のハンマーを持って様子をじっくり見ていた。前で行われている戦いの凄さをひしひし感じながら、いつ出るかを図っていた。


「はぁ……はぁ……ようやるじゃねぇか!」

「百刃!百刃!」

百刃のうちの一部が当たることで少しずつ体力を減らせていってる。この状況がずっと続くならいずれ相手の体力が尽きて勝てる。

ただ今の状況、堀戸君もかなり疲れてきていて、このままずっとはいけなさそう。短期決戦ができるならそれに越したことはない。

「あの体力、そしてあの攻撃。避けて少しだけ当たるとかじゃなくて、ちゃんと大部分を当てられたら、それだけで倒せそうなイメージはあるぞ。今の感じ」

「避けられない……そうだ私達で足を掴んで止めようよ!私達のこと多分誰もまだ気づいて無さそうなの。だから急に足を掴まれて避けるのが遅れたところに堀戸君が百刃でとどめを差す。行けそうじゃない?」

「2人で止めると。うん。悪くはないか。ただこれで決められないと地獄だぞ。特に自分を守る手段を何も持たないお前がいることがバレることが。良いのかそれで、危なくなるが」

「そんなの重々承知。他に良い案もないから。近く来たときにやるね」

「分かったそっちの足を捕まえろ。反対側はこっちで掴む。最悪このハンマーで」

この作戦の難点は堀戸君に作戦のことを伝えられないこと。感じて。察して。


「負けるかー!」

「今!」

今いる茂みの近くにやって来た。合図とともに右足を女川が、左足を明石が押さえ付ける。動けないように

「ぎゅっ!?誰だ!お前。どけよお前!」

「おい、お前!逃がすか!」

足を振られて、右足を掴んでいた女川が近くの地面へと蹴っ飛ばされる。

それを見て、意地でも明石は止められるよう必死に抑え込む。

「えっ?あっ!百刃!」

状況に納得はできてないだろう。だがこれを好機に思った堀戸君。百刃をこいつに向けてぶち込む。

さっきまでと違いよけようにも動きづらいこの状況。百刃の殆どを避けるなんてそんな芸当できるわけなく

「あっ!うぐっ!ぐ、ぐっ……」

試合に勝った。百刃は大部分がこの女の身体に当たり、元々減っていた体力にとどめを刺され、そうして地面へと倒れた。

「や、やった……」

ようやく荷が降りたか。堀戸君はずっと身体に入れてた力を抜いて、その場にへたり込んだ。

「お前大丈夫か?」

「うん大丈夫だよ私。どろんこになっただけ。着替えればそれで十分だから」

「パパ。終わった?」

蹴っ飛ばされた女川は大した怪我をしていない。ろくに動けなくなっていた唐栗も終わったことを知ったからか少しずつ近づいてきた。まだまださっきと同じ感じとは言えないが、壊れてしまって二度と動けないなんてことよりは全然良かった。


「えっあぁあぁあぁっ!」

「堀戸君?」

「ごめんなさい!違うんですこれは、あのその、そういうわけじゃなくて、あのその……うーん………えっと……とにかく違うんです」

「堀戸君凄かったよカッコ良かったよ!」

「そうじゃなくてこれはなんかも……え?」

「あ、収まった」

テンパってもうよくわからないことをあれこれ言ってた堀戸君だが、女川のその一言で一気にテンパりは落ち着いた。どう返せばいいか今頭の中フル回転している。

「ごめんね私。ずーっと茂みの中で戦いの様子見ているだけで。私みんなと違って武器持ってないから。まあ最後戦いには貢献したから結果オーライってことで」

「いや、あの……引かないんですか?ごめんなさいこんなこと聞いて。でも、変な武器で変なことしてるの、見てたんですよね。全部」

「引く?えっなんで?」

完全に質問の意味が分かってない女川に多分こういう意味だろうと説明する。

「目の前で全く理解できないような、そんなことやってたのに引いたり人間じゃないって忌避したりしないのか?って意味だろ」

「そういうこと?えでも、何だったって目の前で助けてくれた。悪人を倒してくれた。そんな人に感謝はあっても批判したり、ましてや引いたり蔑んだりするわけ無いよ。それにね」

そうして俺に目を合わせてくる。

「まあなんだ。俺も同じようなもんだから。たまたま拾った特殊な武器を使ってる。これが俺の武器で、自我っていう物に自我を宿すことができる」

「先輩も……本当に」


「優しいですよ皆。泣いちゃいますよ」

「えっ?私優しい?嬉しいけれど……そんなに優しいかな」

「受け取ってやれ」

俺の予想。さっきのことを聞いたってことは昔この能力のせいでなんかあったんだろうから。

「こんな僕でも、不思議な武器を使って変な力を持つ僕でも、受け入れてくれるんですよね」

「もちろん。だって同じ部活動の仲間だもん」

「僕、すっごく嬉しいです。ありがとうございます!」

すっごいいい笑顔。今までの謝ってばっかのとは大違い。やっぱこっちのほうがいいってもんだ。


「さてこの機械止めないとな」

「絶対これだもんね町の住民を襲ったの。この赤い緊急停止って書いてあるので良いかな。えいっ」

そのボタンを押したら機械に溜まっていた謎の液体、そこの量が少しずつ減っていってその分が白い光る結晶みたいなものになって機械の近くの空中に浮かんだ。

そうしてそれが弾けるかのように家の方へと飛んでいく。無数の結晶が色んな方向へと飛んでいって、大量の流れ星を見ているかのような綺麗さだった。

「これで、大丈夫かな」

「だったらいいな」


「知り合いに電話したけど、皆何事もなかったかのように活動してると。そのときの記憶が無くなってるみたいで、思ったより騒動には発展していないっぽいぞ」

「それで、この人どうしますか?このまま放置じゃ駄目だと思います。ちゃんと罪は償ってもらわないと。勝ち逃げなんて僕嫌です」

「さっき電話しといた。警察がちゃんと捕まえてくれるから」

「それにしても、大丈夫ですかね。警察に言って信じてもらえるか。こんな機械のこととか戦いのこととか、オーバーテクノロジーすぎて納得してもらえないような気もします」

「大丈夫だよ大丈夫。警察の異、うんうん。とにかく、そういうのも慣れてると思うから。武器って以外と拾ってそうで、それで事件も起きてそうだから、完全に初見なーんてことはないよ」

言いそうになったな異少課のこと。なーんか秘匿するよう言われてるからなあれ。別に隠さんでもいいとも思うけど。

「詳しいんですね先輩」

「なーんて、私の想像だよ想像」


その後来た警察にちゃんとこいつの身柄引き渡しておいて、それで事件の内容を軽く説明して今日は一旦解散。

いつもならもうちょっと詳しく説明するもんだが、唐栗の容態説明したら源川さんが現場の警察官に説明して明日詳しい話をということで帰してくれた。感謝感謝。

その日は家に帰ってからからくりいじりばっかりしてた。結構今回は唐栗がくらったみたいで、パーツの消耗が激しい。全部治すのも一苦労。

「よーしどこか変なとこないか?」

「うん。いつもとおんなじだよパパ」

ようやく直ったときには眠いったらありゃしない。その日はそれからすぐ眠った。今日は疲れた何もかも。


場所は変わって堀戸君の家では

「この力、もう使わないなんて考えてたのに」

暗い窓の外を眺めながら物思いにふけていた。

「でも、町を守ることができたし、何より先輩が受け入れてくれたの。嬉しかったな」

「受け入れてくれたんだから、先輩の前だけはあの謝りもいらないかな。元に戻っていいよね」

「ふんふーん」

今日のことを思い出しながら、気持ちよさそうに鼻歌を歌う堀戸君だった。


次の日の部室内。女川と唐栗と俺の3人で駄弁ってる。

「そうそう。あの事件って結局どうなったの?犯人のこととか動機とか。異少課で聞いてない?」

「何にも。そもそも昨日は異少課の源川さんに簡単な詳細だけ伝えてそれで帰ったから」

「それでいいんだ。いやだって明石君って警察署の異少課で働く警察官だよね。しかも異少課って異世界関係、つまりこういう犯罪のための課みたいなことでしょ?それなら休み返上で働けーなーんて言われるのかと思ってた」

カッ

「何か落ちた?」

「分っかんないね。見つけたら直しておくよ。それでそれでそうじゃないの?」

「違う。そもそも異少課といっても犯罪の後処理、調べたりするのは俺のやることじゃない。やるのは基本的に戦うことだから。あと唐栗を修理したかったから源川さんに頼んで早めに戻らせてもらった。今日事件の詳細説明しに行くよ」


「せーんぱーい」

「堀戸君。1年生の講習会終わったの?今日はそんなにやることもないから適当に座ってて」

「はーい。あ、そうだ先輩。今日クラスメイトが……」

「「じー……」」

俺も女川も釘付けになってる。不思議なものを見る目をしてる。驚いてる。

「やっぱり、違和感ありますこの喋り方」

「この前までとは違いすぎてね。イメチェン?」

「前までの謝ってばかりのよりはいいとは思うぞ」

「……この喋り方をするのは今はここだけです。ここの先輩方、女川先輩、明石先輩、唐栗先輩。この武器のこと受け入れてくれたから、先輩方の前でなら素を出してもいいかな、怒らせないように慎重にならなくていいかなって思ったんです。……聞いてくれます?僕のこれまでのこと」

「聞くよ。それを茶化したりなんてしないから。ゆっくりと話して」


「ここに転校する前の学校に通ってたとき、そのときはこの喋り方だったんですよ。あとそのときにこれも拾ったんです。ある日学校内で脅されてていじめられてた女の子がいて、その子を僕がこの力、百刃を使って脅して助けたんです。ただこんな分からない力を使って襲おうとしたヤバいやつ、なーんて噂が学校に立ったんですよ。そうしてそんな危ないやつに近づくなーって、皆から避けられました。仲良いって思ってた友達も、みーんないなくなって、教室で一人ぼっちです」

「ただそれで唯一仲良くしてくれたのがさっきの女の子だったんです。彼女といると癒やされるというか、辛い心も和らいだ気がしましたよ。でもまた懲りずにいじめてたから、同じようにしばいて助けてあげました。その時言ってやったんです。『もうこの子に二度と関わるな』って。それからその子へのいじめは無くなりました。助けてくれた僕のことをめちゃくちゃ慕ってくれてましたよ。それで俺も、『絶対守らなきゃ』って決意しました」

「まあそれで、しばらくはそんなのが続いたんですが、そんなある日いじめを行ってたやつに呼び出されて。その場所に行ったらぶん殴られました。『勝手に獲物取るとかふざけてんのか』的なこと言って。勿論百刃で反撃試みたんですよ。そしたら『使ってもいいぞ。それ使ったらそのこと画像に取って先公に送りつけるだけだからな。今までのは噂だけだったが、証拠もあるってなったらこの学校退学だなぁ。それが嫌だったら、大人しくいじめられるんだよ!』って。クソみたいな脅しして、でも退学になったら迷惑かけるの親だからって、逆らえなかったんです。だけど、『お前があいつを返すってならお前も不問にしてやるよ。どうだ?いいとは思わないか』なーんて言うからカチンときて。殴ったんです僕が。でも殴り返されて、そしたら場所が悪くて階段から転げ落ちて、次目覚めたときは病院でした」

「病院から退院したとき、親が僕の安全なんかを考えて親戚が住んでるこの学校の近くに引っ越して転校したんですよ。守るって言ったのに別れることになったのが心残りで、今ちゃんとやれてるかずっと考えてます。それでこの学校に入ったはいいものの、いじめで落とされて入院するぐらいの大怪我負ったからか、いじめられることに強い恐怖を抱いてしまうようになって、機嫌を悪くしないように謝ってばっかりの僕が誕生したってわけです。この武器もいじめられた原因でもあるからか、ずっと使わないようにしていて。そうして今に至るってわけですね」


「うぇっ……辛かったね……堀戸君」

「や、やめてくださいよ先輩。僕の過去に同情して慰めてほしいから言ったわけじゃないんですって」

「ハンカチ使うか?」

「ありがと」

ポケットに入れてたハンカチで涙を拭いた。こいつは泣いてるのが似合わん。常に笑顔みたいな、そんな感じの方が良い。

「とにかくそれでなんでこのこと話したかってわけですけど、さっきたまたま外で聞こえちゃったんです。明石先輩が警察署の異少課という場所で働いてて、それでそういう犯罪に対応して戦ってると。お願いします。僕をそこに入れてくれませんか?」

茶化してるわけじゃない。俺に深く頭を下げていて、その目が真剣さを物語っている。

「どうするの?」

「パパ、これ……」

唐栗も女川もどう対応すべきか迷って、それで俺に投げてるな。

「うーん……」

「僕、戦うことはできます。まあまあ武器に触ってなかった時期もありましたが、それででも今から使えるよう自主的に練習しますから。勿論秘密とかもちゃんと秘匿します」

「待て待て。そのことを聞いて入りたいって思うのは何でだ?」

「聞きましたよね僕の過去。僕嫌なんです。自分がされたみたいに、クソ野郎のせいで被害を受けて、その上でそのクソ野郎が全く罰を受けずにのうのういけしゃあしゃあと暮らしてるのが。だから僕はそんなことにならないようにしたいんです。それが、力を持つべきものの義務だと思うから」

はあ……そんなに強く言われたら。迷ったけどこうするか。

「上司の源川さんに相談してみる。それで無理言われたら諦めてくれ」

「分かりました!ありがとうございます。明石先輩」

転校してからの心を閉ざしていた期間溜め込んでいたものを発散させるかのような、そんな嬉しさ、喜びを顔に浮かべて答えた。


「という感じ」

「よしよしうん。それじゃあ僕、発言内容をまとめたりしてくるから、いつものようにしてて」

部活は結局することも少ないので早めに終わり今いるのが異少課。昨日の事件の詳しいことを伝え終わったとこ。

「待ってください源川さん。ほらパパ、さっきのこと今のうちに伝えないと」

「あぁ。後で伝えようと思ってたんだが、やっぱり早いうちに伝えるに越したことはないか」

「伝えること?事件でまだ何かあった?」

「そうじゃなくて、その時の事件で唐栗と一緒に戦った堀戸栗久ってやつがいて、そいつが色々とあって異少課に入りたいってことになったんだが。何とかならないか?」

「珍しいね。こんなことを持ってくるのは。僕はちょっとうれしいかな。その子は知り合い?」

「部活の後輩」

「部活。へぇ〜。それで、いけると思うよ。異少課で働く子なんてどこも足りてないから。いつかその子を連れてきて。ちょっと質問していれるかを決める。といっても、殆ど入れることになると思うよ。君達が入れることを誘ってくる時点で、問題は無いんだろうって、信頼してるんだ」

本当、源川さんはゆったりとしてるけど良い上司だよ。人間としての器ができてる。

「明日以降でいいかな。今日は昨日の事件関係が溜まってるから」

「言っときます」


「警察署に入るなんて、緊張してきた……」

「大丈夫だよ堀戸君。堀戸君なら受けるってだって私から見て問題ないもん。超優良だよ」

明日伝えたらその日のうちに行くことに。源川さんも問題ないと良いすぐに準備を始めてくれた。

それはいいとして

「なんでついてきてるんだよお前は」

「だってぇ……堀戸君受かったら部活の仲間なのに私だけ異少課メンバーじゃないってことになるじゃん。私だけ除け者みたいで悲しいもん。だから見てやるんだ3人で楽しんでるところを」

「でも仕方ないです。武器を持って戦うこと、できないんですよね」

「そうだよ〜!私も何か武器拾いたかった。一緒に戦いたい〜!」

「それより、えっと、行ってきます」

「じゃあ私達はここで待つ、かな。私入っていいって言われたから」

「いつの間に」

異少課の部屋で待機。俺はそんなだが、唐栗も女川も落ち着かない様子なのは、ちゃんと受かってほしいと思ってるからだろう。


少しの時間経って、そうしてここへと彼が来る。

「受かりました!先輩」

「良かったな」

「良かったね〜。これで本当に私だけ仲間外れか……」

「君、任務に同行、なーんてことは流石にできないけど、この異少課の部屋に来るぐらいならいつでも来ていいよ。僕が許すよ。あまり詳しくは知らないが君達仲良いんだろう?」

「仲……悪くはないですね」

「僕とっても大好きです。本当感謝してます」

「えっ!?いいの?やったー暇な時に突撃してやるー!」

「テンション高いな」

ここに来たら仲間外れじゃない。ほぼ仲間みたいなものって思えてるんだろうか。

「あ、それでは改めて僕、新しく異少課に入った堀戸栗久です。よろしくです!先輩」

「ああ」

「うん。よろしく」


ここは愛知県にある留置所。数日前の事件で捕まったあの女もここにいる。

「私は捕まって、そうさせた上層部がお咎め無しなんてな。あぁうざい」

「おい、うるさいぞ。他のやつもいるんだ静かにしろ」

「石狩豊だ。女ってのも言いづれえだろ。で、あんたがここの担当さんか。ご苦労なこった」

「まあ騒ぎを起こさないのならいい」

「待てよあんた。私は十中八九有罪。どうせ量刑も重くなるだろ?」

「そう愚痴るぐらいならやらなければ良かっただろうが。言い逃れしようたってどうもならないだろう」

「量刑に納得してねぇってわけじゃない。努力して這い上がって、そうしてこの終わり方ってのも苛つくがいい。ただ……そうだ。あんたさ、私の頼みを聞けよ。取引だ。異少課の野郎ども。あぁその上司も含めて全員。ここへ呼び出して話をさせろ。そうしてくれりゃあ私は今回の事件のこと、動機とかを自供してやんよ」

「そんな犯人の頼みを聞くなど」

「勿論無しってことでもいいがその場合私はずっと黙秘権を行使する。有罪は確定してても、事件内容をできるだけ調べるってのがあんたら警察の仕事だよな。何も脱獄しようってわけじゃないんだ。一回こう言ってるってことを伝えてやれ」

「くっ……」

犯罪者の言う事に従うのは嫌でしか無い。だが……。

悩みに悩んだ末、彼は電話で伝えることとした。話をさせろといっただけ。話をするだけと、自分を納得させて。


「なるほどね。分かったよ。うん」

電話を受け取った源川さん。内容を理解してそうして思考モードに入る。

「僕達をここに呼んで何をしようと。あんまり気は乗らないけど、事件の裏に大きな組織があるということは分かってる。行こう」


「留置所?」

異少課の部屋へと着いて、明石、唐栗、堀戸へと内容を伝える。

「あのこの前の事件の犯人が僕達異少課に会うことを要求して、その代わりに事件のことを話すと。こういうのに乗るのはつけあがるから僕は嫌なんだけど、事件のことが大きくなりそうで裏を知ったら他の事件も解決できそうな状態で。それで来てくれないかい皆」

「そういうことですか」

「パパが行くなら自分問題ないよ」

「僕は入ってばっかりなので、指示に従いますね」

「こっちの方に巻き込んでごめん。本来は事件のことはあっち側がやることなんだけど、今回ばかりは」

「いいですよそんなの」

そうして3人と唐栗で留置所へと向かった。


留置所内を歩いて、犯人の女石狩豊の房の前へと来た。

ここにいるのは石狩と異少課達。源川さんが一番前で石狩を睨み、その後ろに明石と唐栗。そしてその2人に隠れるようにいる堀戸。

「わざわざ呼び出して何の用だ」

「そうカリカリすんな。私はここに捕まって抵抗できない身。武器も何も奪われて何もできなくされてんだ」

異少課とは逆に落ち着いたように見える石狩。

「取引を持ち掛けようとな。単刀直入に言うさ。私がいたのはアンダス団だ」

「アンダス団だと!」

「おうおう。怖い顔すんな。どうだ?あんたらとしては各地で犯罪を行うアンダス団を壊滅させたい。そして私はあいつらがのうのうと生きて私だけが捕まるのが許せない全員まとめて牢屋にぶち込まれて同じ苦しみを与えたい。手を組まないか?私がアンダス団にいた頃の情報を与えようって話だ」

「話をするだけか?」

「ああそうだ。他には私は要求しない。私としても困るんだよ。無茶な要求してこの取引が無くなるのは。お前らにとって利しかないだろ?」

「犯罪者と取引って……」

「気持ちは分かるがな」

露骨に嫌悪感を示す堀戸。そしてその様子を見て気遣う明石。

「なるほど。だとして、その情報が正しいって証明は?アンダス団の奴なんて殆ど組織のためにとか言って口を紡いでるやつばっかだ。今からアンダス団の秘密喋りまーすって言われても、信用なんてできない」

「そうかそうか。だがな、私はそんな奴らと違う。心から忠誠誓ってるそんなおかしな奴らじゃない、最初は信者だったがアンダス団の状況を見て気づいたんだ。神なんていねぇって。今まで騙されてた恨みを、コケにされた恨みを、全部吐き出してやる。そんなんだから幹部共とコネを作って、コケにしてきた奴らを蹴落とすとこでこうなったんだ。アンダス団に忠誠なんてない。ただ私を利用した奴らも全部、ぶっ壊れてしまえ」

「……」

「どうするの?」

「僕にはちょっと重いですよ。この前入ったばかりで、こういうのに慣れてないので」

「俺もこんなのは初めてだからな。どうすんだ源川さん」

「うっ……くっ……」

悩みに悩んでる源川さん。その様子をずっと見ていた明石達。

「こちらとしてもアンダス団の被害が大きい。僕達として新たな被害者が出る前にアンダス団をちゃんと終わらせないと、捕まえないといけない。大変不本意だが、その取引に応じよう」

「源川さん。分かりました」

「取引成立ありがとさん。これからよろしくだ」

悪魔のような笑顔を見せる石狩、そしてこの選択にとてつもないしかめっ面をする源川さん。

源川さんの背中にそっと俺は手を置いた。

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