第27章 吸血教の裏側

「我には信念に基き往かなければならぬ場がある。故に我は留まるよう命ずる定めを拒絶する」

「………」

夏休みに入って少ししたある日の石川県異少課。ここの所毎日先程のような長いセリフを行って日柱吹ことブラッドはどこかへと行ってしまっていた。

「やっぱり今日も行った?」

「ですよ能戸さん。またあいつどっか行きました」

最近ずっと仕事を放棄してどっかに行ってしまうブラッドに能戸和嶋、石川県の石山さんポジションの人は大変頭を悩ませられていた。

「俺としてはいいのよ。何だけどさ、何とかならないかな。上から言われてて。給料払って雇ってるのに仕事を放棄するなんて何事だって」

「あぁ……心中お察しします。」

「でもブラッドもどうしても行かないと行けない場所って言ってたから、仕方なく仕事休んで行ってるんじゃないかな」

「そもそもそこなんだよ。行き先分からない?鏡なら仲良くしてるんだから聞いてない?」

「俺も知らないです。ブラッドと話してもそんな話はしてこないです。一回聞いてみたりはしたけど教えてはくれなかったです」

「丹が知らないならお手上げだな。勿論俺も聞いてないから」

「せめて行き先が正当性あるものなら上を何とかできるんだけど……あ、お願い日柱の跡を付けてどこ行ってるか突き止めてくれるか?」

「それって尾行ってことです?大丈夫かなブラッドのこと勝手に付けて」

「やろう。それで行き先によっては怒ろう」

「日向、穏便にね。ブラッドも悪気があってやってはないだろうから」

「はぁ……ちょっと面倒くさい」

今の面倒くさいのは吹じゃなく丹に対して、丹は何でか吹に対してやたら擁護的。吹のことを吸血鬼として信じてるってことを抜きにしても吹を悪く言われるのを嫌ってる。だから吹が勝手なことをしても強く言えないのがもう……。丹の性格は真面目で良い子だから丹に強くは言いたくないし……。

あいつちゃんとした理由であれよ。正当な理由ありゃまだいいんだ。吸血鬼として誘われたとか言われたら丹が居ないときにぶっ飛ばすぞ。


「我には信念に基き往かなければならぬ場がある。故に我は留まるよう命ずる定めを拒絶する」

昨日と完璧に同じ文言。気に入ってるのかとか思いつついつもと同じように気にしない素振りを見せた。

「行く?」

「うん」

部屋から出ていった。尾行スタートだ。


「外出るんじゃないのか?」

「こっちってあの他県の警察署に繋がる扉が置いてある場所だよね。ブラッドも他の県行くのかな」

ひとまず警察署を出るのかと思えば出入り口方面じゃない方向へと歩いていった。こちらにあるのは扉が置かれている倉庫だ。他県行くのか?

「今日も行かないと」

「えっと富山県?何か吹と富山県に関係あったかな」

「俺も聞いたことはないね。何なんだろう」

吹が通った富山県へと繋がる倉庫の扉を通り、富山県の警察署へと移動する。


そしてそのまま出口へと歩いてる。壁の突起を駆使して見つからず見失わない絶妙な距離を保つ。尾行って初めてやるけど楽しいな。

「何してるんだこんな所で?」

「えっちょちょシーッ!」

なーんて考えてたら後ろから声かけられた。

「大木さん?でしたよね。どうも」

「確か石川県の2人だな研究所戦の時に会った。よっ。でなにしてるんだ?」

「静かにしてくれないか。今仕事で尾行をしてるから」

こんな時じゃなかったら少しばかり世間話をするのも悪くないけど、今は本当に駄目。尾行が。吹がどこ行くか突き止めないとだから。

「尾行?」

「うん、尾行。ブラッドが最近どこか行ってるから尾行してどこに行くのか突き止めるの」

「まあということで、すまない。あ、丹早く追わないと」

「ちょっと待ってよ日向ー」


警察署を出て、町の大きな道路の歩道を歩いていく。

「いやこうか?いやこれでは我のこの輝きを綺羅びやかにすることはできぬな。全く奥の深いものよ」

そこそこ大きな声で中二病的ポーズをしながら独り言を言ってるから見失なったりはしなさそう。ただそれはいいとして。

「何で普通に着いてきてるの君」

さっき会ったやつが何でかここまで着いてきてる。何で。さっきは警察署内だからたまたま会って仕方ないけどここにいるのはおかしいだろ。

「師匠達が生徒会と部活動で皆忙しくて暇だったので。そしたら尾行なんて楽しそうなことしてたので俺も混ぜてもらいます!」

「勝手に混ざるな警察署へ戻れ仕事中なんだふざけるな」

怒りモードで言いたいこと言いまくった。いやそうだろ警察署へ戻ってくれ吹の尾行してんだよ仕事なんだよ。


「此の日も我が望みのために共に歩みを合わそう」

「ええブラッド。今日も貴女と邂逅できたこと、この定めに感謝するわ」

富山駅前。吹は駅前に居た同い年ぐらいの女子の元へと走っていってた。この感じ待ち合わせ。話の感じここんとこ毎日の吹がいない日は彼女と会ってたということか。

「中二病仲間ってとこか」

「何度も言うけど中二病ってなんなの。ブラッドがそんな病気だって言われるのなんか嫌」

「中二病ってなんか楽しいよな。あそこまで露骨ってわけじゃないけど、かっこいい名前をつけたりだとか」

「本当それぐらいで済めばどれだけ良かったか……。意思疎通をちゃんとさせてくれ」

家でプライベートで中二病なのに関してはまあ良いんだよ。何で仕事中まで中二病なんだよ。丹に悪影響出ること分かってるのか。

「まさか会うためだけに仕事サボってたって?は?」

怒るぞ。プライベートの時間でやれ。仕事で時間取りづらいと言っても。

「ちょっと怒らないで日向。まだそれだけか分からないから。ね」

「丹も無理に庇わなくて良いんだぞ」

「無理に庇う?」

「ああうんもう良い」

何かもう諦めた。


駅から待ち合わせした人と2人でまた歩いていく。

「そういえば、何で丹と吹ってあんなに仲いいん?」

「あんなに仲いい?」

「丹結構話したり一緒に行動したりしてるじゃん。俺が頼んでもあいつあんまり聞いてくれないのに丹が言ったら結構話聞いてくれるじゃん」

吹が丹の言う事を聞くのは丹が吹のこと吸血鬼って信じてて凄いとかって持ち上げてくれるからだとかとも思ったけど、だとしても結構仲いいんだよな。

「うーん何でだろう。異少課として一緒に居た時間が長いから?」

「あーそっか。そう言われてみればそっか。2,3ヶ月ぐらいは2人きりだったんだっけ?」

「うん。俺が入った時色々と教えてもらって、それもあってブラッドのことは仲良くしたいなって。そうして絡んでたら結構仲良くなったかな」

吹→丹→俺の順で異少課入ったはず。今思ったけど吹1人の異少課って本当に大丈夫だったんかな。能戸さんお疲れ様。

「どこの異少課も異少課間の仲は良いんだな。やっぱりそっちのほうがいいよな。俺達富山県も5人いるけどみんなみんな仲良い」

「まあ、悪くはないな」

話聞いてくれないとかはあっても、嫌った事も嫌われたこともないな。丹ほどじゃあないけど俺と吹の関係も良かったってことか。

あいつ中二病なだけで根は良いからな。中二病なのが圧倒的マイナスなだけで。中二病を除けば問題は全くない。中二病だけに困らせられている。


「ん?あれ英澄?よね?」

「あ、本当だ。何か誰かと楽しそうに話してるな」

「へぇー……生徒会の仕事放棄して……」

ブラッドと歩いているのは凪や新、繁が通ういつもの中学校の生徒会の一員でありブラッドのいとこの有形英澄。

と言っても、日向も丹も翔も全く関わりないので、勿論分からなくて仕方ない。

「何をやってるのかしら。あの怜音でさえ生徒会自体には来ているというのに」

「元気そうでは良かったかな。急に全然来なくなって心の病気とか負ってたらどうしようとは思ってたから」

道を歩く彼女達を見つけたのは、同じ生徒会の伊良皆羅紗と凪。生徒会で使う道具を買いに雑貨店へと行こうとしていたところで見つけた。

パシャ

「証拠も撮って、サボった分覚悟しなさいよ!」

最近、英澄は生徒会に来ていなかった。学校自体は来てるが生徒会の仕事を放棄して真っ直ぐ帰っていた。今日も買い物の件で生徒会に集まることになっている。それを無視してこんな所で楽しく話している。羅紗が許せるわけなかった。

「店はそっちじゃ」

「英澄がどこに行くのか、何で生徒会に来なかったのか。そのこと全部問いただしてきますから。買い物はそれ終わってからで」

「は、はぁ。あぁでも、何で生徒会来てなかったかは気になるかも。行くなら俺も行こうかな」

「待ってなさい英澄。サボった分後で仕事増やしてあげるからね」

「お、おぉ」

羅紗の様相にちょっと萎縮されていた凪だった。


2人のそれぞれを別々の人達が尾行している今の状況。

「着いたな。流れの終点へと」

「いざ入ろう。全てを見通すこの場へと」

「着いたみたい?なんだろうこの建物」

「中入るけど俺達どうする?中に入っちゃう?」

「その方が良さそうかな。ちゃんと尾行して巻かれないようにしないと」

「何ここ。何かキナ臭い感じプンプンする。こんな所に一体何の用があるの英澄は?」

「変なことに巻き込まれてないよな」

ブラッド達が目当ての建物に入る。その建物から発されたなんか嫌な空気に皆ほんのり気づき、思い思いを綴っていた。


「2人とも入ったよ。俺達も行こっ」

「あら、どちら様ですか?」

「おわっ、あ、あの……」

何か女性に話しかけられたけど、どうしよう言い訳考えてない。普通に考えて建物なんだから他の人いてもおかしくないよな。何も考えず入ったけどこれ駄目だったか。

「もしかして入信希望の方ですか?」

「あ、いや俺達は」

「そうです。3人でここの噂を聞いて、気になって来てみたんです。一旦見学して入信するか決めてもいいです?まだ噂だけで中身のことまで良くは知れてないんです」

「あ〜なるほど。ようこそ吸血教へ。今は敬虔な信者が神に祈りを捧げているところですよ。奥のホールで行っているので、後ろ側で一緒に祈ってみてください」

「分かりました。ありがとうございます」

丹?何か作戦あるの?

俺はここが人様の建物だと分かったから謝って帰ろうとでも思っていたんだけど。

「丹、何でわざわざ見学するなんて?確かに探しやすくはなったけれど」

「入信希望って言ってて何かの宗教施設だと思ったから。ここにいるってことはブラッドもこの宗教の信者になってるって可能性高いでしょ?それに、この宗教団体も気になって。勝手に神様名乗って悪いことしてるんじゃないかなって」

「カルト宗教ってやつ?」

「そ」

カルト宗教。でもあの吹が宗教にハマるとか全く想像できないんだけど、さっき言ってた吸血教。あの吹なら名前的にこの宗教にはハマりそうなんだよな。


「それにしてもここ、本当に何?色んな人が入っていってるけど……」

あちらと違ってこちらは中に入らず外で待っていた。何かこの場所が嫌な感じして、感覚的に中に入りたくないというのもある。

「会社?それか店とか?」

「看板置いてないんだよね。店にしろ会社にしろそういうのは置きそうじゃない?そんなもんも無くて、まるで自分達が外にバレないようにしているみたい」

「隠し事している?でも尚更英澄がそんな所行くとは思えないんだよな」

「私も。あの英澄だから裏の事情はありそうなんだけど、ここと繋がってそう。本当に大丈夫かな英澄」

「どっかから中見てみようかな。英澄が何やってるのか含めて」

「中に入る?」

「いや、外の窓ガラスから。中入ったらいいんだけど、中は怪しい感じで真正面から入るのは嫌な予感がする」


「ここから……人多いけどいるかな」

「皆集まって何かしてる?何だろ?なんか言ってるけど」

建物横のガラスから中の様子を見る。その場所から見たのはホールのような場所。そこで皆が集まって動かず何かを唱えている異様な光景を目の当たりにしていた。

「吸、血?あの奥に書いてあるけど、あー見えないそこどいて」

「ヴェンポイ様って書いてある。でも知らんなそんな人」

「あ、いたいた英澄。あの奥で他の人と同じように静かに何か唱えている。写真に収めなきゃ」

スマートフォンの写真モードでここにいる証拠を残した。言い逃れができないように。

「でもここ、本当に異様。英澄が悪いことしてるってわけじゃないけど、悪いことに巻き込まr」

ガタッ

「おやおや、こんな所で覗き見とは悪趣味ですね。」

「誰だ!」

「ただの教団の者ですよ」

窓ガラスで見ていた途中、羅紗が急に後ろから殴られて気を失った。凪は角度を変えて殴った男のことを見つめていた。


「さあ、ヴェンポイ様へ我らの祈りを捧げましょう」

「「「「「「血を見しその身体に宿し……」」」」」」

ホール的な場所に入って少しすると何か始まった。嫌な感じ。神様に皆で必死こいて祈ってる。

「吹もやってる。こんなことするタイプじゃないと思ったんだけどな」

「何かここ胸糞悪い。変な神様に必死こいて祈って。勝手に神様名乗ってるんだろうから本当に胸糞悪い」

「丹?」

丹も何かここに着いてから怒ってる?何かいつもの丹らしくないな。ブラッド関連かな。

「俺達もやろうぜ」

ここから先にやることって吹が1人になり次第確保するだけ。吹が仕事サボったのって宗教の集まりに出るとかそういう理由だったんだろうし。宗教系は簡単に首突っ込むと面倒くさいことなるの見えてるんだよな。


「さあ今日の祈りも済んだのです。教祖様に血を捧げましょう。」

「ヴェンポイ様の元へと血を捧げ、対価を貰って参ります」

「うわぁ……」

祈りを捧げるのが終わったと思ったら次は血を捧げるとか、まともな宗教ぼさは大分薄れた。そして信者は喜んで仮面被った教祖の元で注射器かなんか使って首元から血を抜いてもらってる。

「あの教祖倒せばいいかな」

「こんなとこで暴れたら信者が取り押さえるからやめといたほうがいいんじゃないか?いくら技が使えるからってこんな数防御するのは無理があるぞ」

「それにいくらこんな事したって法律的にぶっ飛ばせないからな。血を吸うのも合意の元だし、現状じゃあ変な宗教ってだけでそれだけでやったらこっちが悪者だぞ。丹、気持ちはわかるけど」

「それにしてもみんな躊躇いなく血を捧げるな。少しぐらい嫌がる素振り見せてもいいのに」

「ずっと思ってるけど吹が宗教にハマるって考えられないんだよな。もしかして、洗脳してる?」

「洗脳……。そんなことを!神様勝手に名乗って洗脳させて信者を増やすなんて……」

「あくまで可能性」

「証拠見つけたら倒して良いんだよね。見つけよう」

「丹、ブラッドのことか分からんけど一旦リラックスしろ。言動が丹らしくないぞ」

やっぱりおかしな丹。


「証拠を探すと言っても、見える場所に証拠なんて置かないよな。こんな大規模な教団構えてそんなヘボすると思えんし」

「あの教祖とか教団の上の人を尾行してみる?証拠の場所連れっててくれそう」

「ありっちゃ有りだけど危ないな。透明化できるのならともかく」

どっかの県の異少課に透明化できたやついたはずだけど誰だったっけ。連絡先知らねけど。

「こんな状況で尾行は難しいよね。やっぱり脅して吐かせる?」

「だから」

丹は何でこんなにおかしいの。誰か丹に何かした?

「吹に直接聞いてみるか?なんか握ってるかもだろ?」

「ブラッドに聞くのはやめたほうが良いかもね。教団の信者になっていたら、教団を壊滅することの邪魔をされちゃう」

吹が本当は隠れて潜入してるとかならともかく。そんな事吹のやつが単独ですると思えないんだよな。俺はともかく丹には話すだろ吹の性格的に。やっぱり捨てていいなこの考えは

「上手くいかないなどれもこれも」

「ダメ元で建物内探し回るか。ここで何もしないよりは有意義じゃないか?」

「一旦ここいても何も起きそうにないし、とりあえずやってみるか」

どうなるかな。アホみたいに証拠の資料そこら辺の机の上に放棄してたりしててほしいな。敵がアホならそれで問題ない。


「入れ」

「そこで大人しくしてろ。後で処分は決定する」

一方、外から吸血教の集会の様子を見ていた凪と羅紗。教団の奴らから英澄は不意打ちされて気を失わされ、凪も捕らえられてしまう。急過ぎたのもあって、一応持っていた銃も使うことはできず。後ろ手を拘束されたまんまじゃどうすることもできず、言われるがままに連れて行かれた。

「おーい、大丈夫か?」

「痛た……。もう何があって!」

「かくかくしかじか」

「なるほどね。やっぱりこの教団悪いやつだったのね。こんなところに英澄行っちゃうなんてああもう!」

「このまんまじゃ危険だから何とかしないと何だが、さてどうするか」

「スマホは?」

「さっき手荷物は基本的に奪われた」

助けを呼ぶなんてできない。大声で誰か読んでみたりもしたけど聞こえてないのか何も変わらない。2人だけでここから脱出をしないといけない。

この場所はあの建物から少し離れた場所にあるとある建物。その部屋の一室に2人で閉じ込められていた。勿論部屋の鍵は閉められている。

「鍵を開けるのは無理そう」

「早く脱出して、英澄をあんな所から助け出さないとなのに!」

「あの窓しか出られそうなものはないか。っと!」

「足場さえあれば届く?私机持ってくるね」

この部屋ででられそうな唯一の場所。そこが壁の高いところにある細長い窓。でもジャンプしても届きそうにない。

「うっ……あともう少しなのに」

そこら辺に置かれていた机、重いのを2人で何とか動かして、窓の下へと移動させた。

だが、そんな状態でジャンプしてももう少し足りない。かと言ってここらにあるものをかき集めた所で足場になりそうにはない。

「何かいけないか?」

「うん。私も頭使うんだけど、あぁもう私もそこまで頭いいわけじゃないからどうしよう」

脱出する方法を頭を使って考えてみる。何とかなる方法はあるはずだ。必ず。


「肩車……そうだよ肩車!肩車すれば1人は出られるよ!」

「2人このままってよりは脱出の話は進むな。よし、分かった」

あくまで1人、2人共を脱出させられる完璧な作戦ってわけじゃないけど、単純な算数で0.5は0より良い。

「私重たくない?体重そこまでだと思うけど……」

「いやそんなに……っと、届くか?」

「肩踏む……はぁっ……とぉ……うん!私出られたよ!」

「はぁー良かった……うーっ……」

ただの肩車だし、乗せたのが重たいってわけでもない。でも単純に凪は運動能力高くない。これだけでも体力をかなり消費してしまう。

「何かないか探してくる」

彼女がこの部屋の鍵とかを探してくることを祈りながら、部屋の壁に寄りかかって疲れを癒やしていた。そんな凪だった。

「にしてもここそんなに悪いとこだったか。スマホを取り返し次第110番通報しないとな。これは言い逃れ出来ないだろうな」

完璧に被害を被った。結構乱暴に入れられたから探せば証拠出てくるだろう。ならさっさと警察呼んでこれを終わらせる。

「英澄も助けないと」

元々英澄のためにここに来た。あの英澄も騙されて信者になってるだろう。元の英澄にしないといけない。


「あれこっち行き止まり。遠回りだなぁこれ。何とか越えれる?無理かぁ仕方ない」

あの部屋から脱出した羅紗この建物に再度入ってあの部屋の鍵を開けるのが第1の目標。

英澄を早く助けないとというのはわかってるけど、だと言ってもこのまんまで教団をぶっ潰せる力はない。まず助けてから、潰すのはそれから。

「あ、何これ石像?」

建物中に入ろうと外を壁沿いに走っていると、離れに謎の石の像を見つけた。名前を見るとヴェンポイ様。教団の奴らが信じている神様を象って作ったんだろうなってことは分かった。

「っとと、そんなことより入口入口。早く何とかして英澄を助けないと」

その石像への興味を完全に無くして反対側にある建物の入口の方へと走っていった。

「やっぱり開けるのに鍵必要みたい。鍵無くても開けるだけはできるなんてのじゃ

ないみたい」

「やっぱり入った時の記憶を思い出すとそんな感じだったけど、そうか……しゃあないすまない鍵を探してみてくれ。どっかにおいてないか床とか隙間とかも」

さっさと脱出したいがやはり無理。面倒くさいことこの上ない。


「バレたらだめだよねここの人に、隠れて証拠を探すんだよね」

ホール内、あちらが部屋から脱出していた頃、証拠を探すために動こうとしていた。

「トイレ行くふりして一旦ホールから出よう」

「よしっ、証拠見つけやるか」

「わくわくしちゃ駄目なんだろうけど俺ちょっとわくわくしてる」

こんな事させて吹のこと絶対怒ってやろ。こんな怪しいとこにホイホイ着いてったことを怒ってやる。


「廊下に人いない」

「部屋の中、ここから見える感じは人いないね」

「その部屋から探すか。俺見張りするからその間に探しといて」

1人の誰か来ないかを見張る役と2人の部屋内に何かないか調べる役。見張り役はここまでわざわざ着いてきたそいつがやってくれるから中は丹と2人で調べる。

「絶対何か裏があって、それならそれっぽい証拠がどこかにあるはず。警戒が低いうちに見つけないと」

「日用品しかおいてないな。そっちどう?」

「ない。本とかを調べてるけどただの関係なさそうな本」

気合が入りすぎてるように感じる丹を横に、部屋の中を調べる。ここを潰して救うために


その後も

「これ、んぁーなんか違うな」

「うわお金凄。これ献金だよね?信者騙して金も巻き上げて、ひど」

「信者はこの感じ洗脳されてそうだな。でもそれの証拠がな。この金もあくまで自主的に出した金って扱いだろうからな」

結局証拠らしきものは全く見つかってない。強いて言えば保管庫に厳重に保管されていた教祖の部屋の鍵を持ち出したぐらい。

「ここは何かありそう」

建物の一番奥の部屋がその教祖の部屋。鍵のかかった扉をさっき手に入れた鍵で開けて、中へと入る。ここだけ鍵がかかってたのも何かここに隠してますっと遠回しに言ってるようなものだろ。絶対何かあるなここに。というかあってくれじゃないと吹をこの宗教から切り離す方法が見えない。

「うわー広いねここだけ」

部屋の奥は丹に任せて手前の本棚を調べる。既製品の本は今回無視して中段ぐらいのノートを手に取る。

「幹部用マニュアル。これは何か書いてありそう」

適当に取った1冊のタイトル、そのタイトルから絶対何かこの吸血教の裏を書いてるだろ。末端の職員ならともかく、幹部クラスになったら大抵裏側を知って裏側の維持やらのために働く、そういうもんさ。

「ん、これ……ちょっと来て丹」

「うん。あと奥側は家具が置いてあるぐらいで別にそれっぽい物はなかった」

「あぁそうそれは良いとして、ここ」

マニュアルの目次から遷移したページを見せる。そこに書いてあった事実を。

「ヴェンポイ様は神ではないが実在する。ヴェンポイ様は謎の生命体で、人の血を要求する代わりに強大な力を分け与えてくれる。その力を元により多くの人を影から支配するのが私のするべきことである」


「あったあったこれでいける」

「おー助かった。見つけてくれてありがとな」

部屋に閉じ込められていた凪だが、羅紗が建物内に置いてあった鍵を持ってきたことで脱出することが出来た。

「そんなことより、早く英澄を助けに行かないと。さっき取り返したスマホで警察に電話したから、まだ何とかなるかな」

「一旦この建物から出るか。見に来るかもしれないから」

「そうだこれ取り返した荷物」

光線銃やら薬研やら、異世界の武器も盗まれていたが何とか取り返せて良かった。あと財布も。これがないと異少課ではお話にならない。

「出口こっちで、うん大丈夫そう。でもこっちからだとあの建物の正面通ることになるから、反対側の裏の方が良いよね。こっちの方までは人は来ないかな」

建物の裏側、さっき肩車して羅紗が出たあの窓がある場所の方へと移動する。そっちに行って敷地の端のほうから道路に出ようという作戦だ。英澄のことを今すぐ助けたいというのはあるんだけど、今から行くのは危険すぎるというか、警察に任せたほうが安全だろうって話だ。

薬作れば教団のを全員眠らしたりして無力化されるのもできなくはなさそうだけれど、時間かかる素材が無さそう一般の信者も被害を受けるなんてことを考えるとやるのはあまり得策じゃない。


「あっそうそう。ここになんか石像があって」

「石像?あーこの感じ教団が掲げる神様かその類だな」

「こんな偽の神様まで作って何がしたかったんだろうこの教団。こういうのでよくある金かな。信者騙してお金を稼ぐのは割とよくあるから。よくニュースになってるから」

「偽の神様だと?」

「あれ誰っ?あれいない?教団のが来たかと思ったのに」

「声だけは聞こえたのに」

なんか急に聞こえたどちらの声でもない声。でもあたりを見渡しても人っ子はいない。本当に誰の?

「まあいいさ。それで今日の分の血は?イッヒッヒ。早く出してみせろ」

「せ、石像が」

「動いてる」

あの石像が動いて近寄ってきた。声もその石像から聞こえてくる。

「石像だと?ヴェンポイ様と言えよ」


「ヴェンポイ様……」

「そうそうそれでいいさ。それで今日の分の血は?そういや初めて見るやつだな。なんだ?吸血教の新入りか?」

「うん。そう。すみません上の方が忙しいらしくてあまり上手く教えてもらってないもので。良かったら教えていただけませんか?」

「えっ?あ、そうなんです私達。仲が良かったものでここに入れてもらったのですけど、みんな忙しくて言われるがまま何も分からずここに来たんです」

凪の意図は教団のものを装ってこの教団のことを聞くこと。とりあえずこれは石像じゃなく教団が崇めてるヴェンポイ様本人で、教団のことに深く関わっているのは分かった。

ヴェンポイ様とやらは魔族だ一般の警察が何とかできないかもしれない。

羅紗も自分の意図に気づいて乗ってきた。生徒会でこういう変なことによく巻き込まれがちなのもあってこういう事が起きても適応できてる。

「なーんだそうか。ちゃんとそこら話しとけってんだよ。って騙されねーぞ。さっき偽の神様だの信者騙すだの。合ってるけどこっち側じゃなくて敵側が言うことだろ。お前は誰だ?」

そういやそう言ってた忘れていた。話が急に進むと少し前のことも頭の中から消え去ってしまう。

「だんまりかよ」

どうしよこの後。どうやっても良いように転ぶ気がしない。敵側だってバレてるのが痛い。逃げてみるか?

「逃げる?」

「頑張ってみるけど、うー?」

ここにいたら嫌な感じはする。警察が来るまで話を引き延ばすのも一応アリだけど、これ怖いんだよな。

「1,2,3な」

「こそこそ何話してる。こんな目の前でこそこそ話とはいい度胸してるな。そこは素直に認めてやるぞ」

「1,2,3」

何か話してたけどそれは良い。全力で走って逃げる。

「待てって。目の前走って逃げるなっての。怪しいやつ来てそいつが急にどっか行ったらもやるだろ」

「速っ。逃げるのは無理だったか……」

石像だから全然動けない可能性に賭けていたけど実際は普通に動ける。逃げていたけど後ろから手を掴まれた。

嫌な予感。戦うか?でもこの武器じゃな。光線銃持ってるからといってそもそもアタッカーじゃないんだよ。

「ヴェンポイ様。吸血教が崇める神で、そこの教祖に力を授ける代わりに信者から血を集めるっていう。ちゃんと覚えていな?」

どうしようこの後。


「人間というか、やっぱりこの世界のじゃないよね」

「ちゃあんとそこまで気づいてたんだ。そうだよ。詳しくは話さないんだけどね。長いから」

「血を手に入れるために吸血教の奴らと手を組んだってことだな」

もう良い作戦は思いつかないから、せめてもの抵抗でできるだけ引き延ばす。幸いまだこちらに直接的な攻撃は仕掛けてきてない。

ではポケットに入れてた光線銃を握っている。

「いや……それは……最終手段だな」

魔族ならば魔王の兄である俺のことを知ってる可能性はある。それを明かしてこの場を切り抜けるといった作戦はないわけじゃない。

だけどここにもう一人いる。いくら生徒会の仲でもそのことは言えない。

本当に最終手段。どうしょうもなくなるまではこれを使わず何とかする。

「ごちゃごちゃうるさいな。それにちょっと違うんだよな。吸血教と手を組んだんじゃない。手を組んで吸血教を作ったんだ。血を得たいのと力が欲しいの」


「おしゃべりはおしまい。さあてそろそろ始めるか?見た感じさっきからずっと右手で何かを握ってる。何を握ってるんだい?」

ちゃんと読まれてる。小手先の誤魔化しが聞くようにも思えない。

「どうだこれで」

「やっぱりそう?ちゃんと見せるのは気に入ったぞ。それで、やらないバトル?このまま逃がすってわけにも行かないからさ。面白いバトルにしようぜ」

何か、嘘つかなくてまだ良かった気分。でもバトルに結局なるのか。俺の1人でできる気しないんだよな。

「俺がやる。だから羅紗には何も手を出すな」

「出さない出さない。1人でやろうか。準備さえできたら話しかけな」

準備と言っても何をすれば。とりあえず羅紗を遠くに避難させて。

「やるのか?」

「やるな」

勝負か。勝てる気しないが。なんとかするしかない。


「うわー」

こちらは教祖の部屋。見つけたマニュアルの内容、ヴェンポイ様が実際にいて血を欲し、教祖が力を手に入れて影から支配しようとしていることを読んで絶句していた。

「これ、妄想が肥大化したなんてわけじゃないよな。だとしたら良かったけど」

「神様騙って影から支配するとか何様のつもり。本当に甚だしい」

「その力で吹のやつもこの宗教の一員的な感じになってるってわけか。信者から血集めてそれを使って。だから吸血教なんて名付けたのか。行為を正当化するために」

血を取る行為が宗教としての行為と聞きゃ怪訝そうな目もする。でも吸血教なんて名前ならその名前に則った行為であると納得はできる。

「信者勧誘の方法とか信者に洗脳する方法とかも書かれてる」

「これこそ決定的証拠だよ。教祖倒しに行こ」

「あの教祖ほっとく訳にはいかない。やってる行為が普通に犯罪超えてるし、野放しは危ない」

「まあな、警察呼ぶとするか。うん?」

スマホに手をかけて110をしようとしてたんだが、その手を丹にがっしりと掴まれた。こんなことするようなタイプじゃないのに。余程なにかしたいことがあると?

「どうかしたか?丹」

「警察は今はダメ。だって人の血の代わりとして強力な力を持ってるんでしょ?じゃあ警察呼んで逆上したら被害が増えちゃう。それに……」

言いたいことはあるのに何か言えていない。もどかしい。

でもすっと言うことを決めたのか、モゴモゴしていた口をちゃんとした形の口へと変える。

「ここ、自分の力でぶっ壊したないなって。ブラッドを洗脳したところだから」

「わかったわかった。危なくなったらちゃんと警察呼ぶぞ。そのときに呼んだところで意味ないかもだけど」

「良いんだ、こんなことして」

「前言っただろ?丹はもっとわがままになっていいって。丹が本当にやりたいことならそれがわがままでも応援するから」

「勿論俺も俺も。あんまり頭で考えるのあれだからさ、やりたいことあるならそれに従うまで」

「ありがと」

はにかんだ丹の笑顔に良いなと感じたそんな時だった。


「教祖以外はとりあえずいいか。とりあえず教祖はぶっ飛ばしておかないと」

マニュアルを読む感じ教祖以外の幹部には力を与えてはいないよう。教祖に一転集中する形でやってた。つまり教祖以外はただの人間。警察で何とかできる人間。

「とは言ったけど、この3人で大丈夫?俺電話するから応援呼んだほうが良いんじゃない?」

「頼む。搦め手と回復技と防御で戦うのはな。アタッカー欲しいな」

トゥルルルル……

電話をかけたものの、どこも色々とあって行けなかったり繋がらなかったりだった。

「全滅」

「こっちも。こうなったら俺達3人だけでやるとするか」

「でも攻撃できる?」

「一応この警棒でできなくはないけれど……やっぱり駄目だよな。」

ここ3人じゃ本当に攻撃役がいなさすぎる。

「ブラッドがいれば良いのに」

「そうだな。ブラッドの洗脳さえ解ければ」

何か解く方法ないのか?


「駄目だ。マニュアル読んでも洗脳解く方法書いてない。こういうのは書いてあるもんだろ」

「一度洗脳させたら解く意味ないからってことか。本当良くない」

「あ、ねぇ洗脳させる方法は?それは書いてあったよね。そこに戻すヒントないかな」

「一理あるな」

実際の洗脳は全然分からないけど、ファクションとかで洗脳を解くって話だと、洗脳した手順の逆をやるーとか、洗脳に使った不思議な石とかを破壊するとかだよな。

「えっと。特殊な宝石を洗脳したい対象に向け対象に注目させ、その状態で洗脳の呪文を唱える。そうして洗脳させることでその人のために行動し、その人のことを敬まう従順なものとなる」

「従順なものとか、俺達皆自我を持った人間だって言うのに」

「でもその特殊な宝石を破壊とかしたら、洗脳、解けるんじゃない?」

「うーん……ありそうだけれども」

可能性には縋ったほうがいいか。分からないもの何も。

「あ、特殊な宝石ならネックレスにして教祖がいつも持ち歩いているって」

「ってことは、バレないように近づいてネックレスを取り上げるってことか」

「ネックレスか、取るのムズいなそれ」

ネックレスて首にかけてるから、取るにはネックレスの紐を切るか頭通して取るか。

「とりあえず教祖のとこ行こ。作戦決まったのにここにずっといるのは」

「分かった、丹。とりあえずこれ持ってく」

教祖の部屋から鋏とハンマーを貰っていく。何か都合よく入ってた。


「教祖が1人になったときが狙いどきだな」

ホール的な場所。さっきまで各部屋を調べてたってのにまだやってる。

「ブラッドは?いた」

「ちゃんと祈ってやがる。はぁ」

本当こいつが洗脳されなきゃこんな面倒いことならずに済んだんだがな

「昼となりました。ヴェンポイへの祈りを終え、血肉をこの身体へと欲しましょう。今日もいつものように聖水と聖なる食料を販売してあるので購入して、身体へと入れてその身体から悪しきものを祓いましょう」

「あっちょっとちょっと。教祖のやつ動いてる今なら行けるかも」

ホールから教祖はどこかへと行こうとしていた。その様子をホールの裏側からちゃんと見張り、その近くへと移動していった。


教祖のやつは1人で建物から出て外を歩いている。今が一番のチャンス。

「とりあえず強風で目眩まし。その間に後ろからネックレスに不触かけてあいつが触れないようにして奪い取る。分かったな」

俺の武器の力『不触』。一定時間触れなくなるってのはそれを使えなくなるってのと同じだから。面白い能力だなぁって気に入ってる。近距離に行かないと使えないのがちょっとアレだけど。

「勿論分かった」

「えっと俺は」

「丹は一旦待機。ネックレス壊したら洗脳解けてるか見に行って解けてたら吹呼んできて」

あいつ俺の頼みだと話長くなるんだよ。あいつ丹の頼みならすぐ聞く早く戦わせられる。


「これで!」

「おっと……か、風強っ。何で急に?」

作戦決行。強い風に飛ばされそうなぐらいでこっちは見向きもしてない。

絶対気づかれないよう静かに、足音も立てずに後ろに近づく。風のビューって音が少しの音をかき消す。

そして近くに来て、そこで不触を使った。

「ふぁ?お、お前!」

「さぁっと、こんなもの!」

いくら風が吹いてても首に着けていたものが地面に落ちたらそりゃ気づく。俺の方を向いてきたがもうおしまい。遅い。

持ってたハンマーを地面に置いたネックレスの宝石目掛けて振り下ろした。

ガラス質が割れるようなパリンという音。ハンマーを持ち上げて残っていたのは、バラバラの破片になった宝石だった。

「誰だお前!良くも俺のを……」

「粉々に壊してやったさ。よくも洗脳とかしてくれたな」

「俺も許さない。師匠も絶対許さないこんな事」

風を吹かせるのを止めて目の前に来た。盾を構えて守ってる。丹はもう建物に戻ってた。

これで洗脳解けろよ。解けなかったらただじゃ置かないぞ。吹。


建物内、ホールへと戻った丹。ホール内はざわめいている。

「ブラッドがいるのは、あそこ」

さっき居た場所、ブラッドは大きく動かずその場所に留まっていた。そのブラッドの所へと大量の信者を掻き分けて進んだ。

ブラッドは行く途中で出会った女の子英澄と何やら話してる。その会話を遮って、丹はブラッドに声をかけた。

「ブラッド!」

丹の言葉に、ブラッドは振り返って丹の方を向いた。


「丹!?あっいや……ふっ、我の元へと来たか。ただ我は相反する下賎の民の卑劣な攻撃により記憶の欠片を破壊された。丹、この謎の場所、どこか分かるか?」

「曖昧なものよ。何故我とブラッドが同じ空間へと集められたか。考えるだけで胸が疼く。しかしこのままだと問題がある。早く家に帰りたい」

ブラッドに英澄。従姉妹の彼女達はどちらも中二病。今切羽詰まってる状況なのに面倒くさい。

「!ここになんで来たのかとか何してたのかとか覚えてないの?」

「我も思い出そうとしているのだが、やはり壊されている」

「吸血教って分かる?」

「吸血教?吸血とな。吸血鬼の我にふさわしい場所じゃないか。丹、その場所のことをもっと我に教えるが良い」

ここがどこかとかここまで来た方法を覚えてないだけだと確信はできなかった。

だけど、いくら何でも吸血教のことを忘れてるとなると、多分そういうことだ。洗脳されているのならそれを忘れるはずがない。

洗脳されているときのことが、洗脳が解けたことで忘れてしまった。だから吸血教のことを忘れてしまった。そういうことだった。

「ブラッド聞いて、実は今……」

丹が今までのこと、ブラッドが異少課を休んでまで吸血教の元へと行ってたこと。吸血教は血を集めて人間を支配しようとする犯罪集団であること。今日向と富山県異少課の大木翔さんが戦っていること。それらを全部ブラッドに伝えた。ブラッド、そして隣にいた英澄は丹の真面目さに飲まれてただ静かに言うことを聞いていた。

「それでブラッド。俺達じゃちゃんと攻撃できる人がいないからその教祖を倒すことができない。だからブラッド、教祖を倒すのに手を貸して。お願い」

「ふっ。我のことを洗脳するとはいい度胸をしてる。我を怒らせるとどうなるのか、その身を持って味あわせてやる」

「ブラッド、頑張ってね。ここで待ってる」

「分かった英澄。期待しておれ」

ブラッドは完全な一般人英澄を巻き込まないようにこのホール内に残して、丹と一緒にホールの出口へと向かった。

「ところでさっきの人」

「我をこの世に産んだものと近しい年代の、同じ血を通わしたものの子供だ。我も懇意にしている」

「従姉妹ってことかな」

「そうとも言うな」

そしてホールの外、今戦いが起きた場所に連れて行った。

「ブラッド連れてきたよ!」

「日向よ。我の洗脳を解くのに尽力したとはお主もなかなかやる」

「馬鹿なこと言ってないでさっさとしろ。戦え。お前のせいでこんな事なったんだぞ反省しろ」

あんまり素直な感情は伝えられない2人だった。


「おーっとおーっと。へぇーそんな銃」

「っと……そっちの攻撃避けないとだな。これぐらいならまだ」

「まあこれぐらい避けられないと面白くないしね。ジャブだよジャブ。と言っても、こりゃいい勝負になりそうだ」

こちらの凪vsヴェンポイ様のバトル。正直これはかなり凪側が不利だ。戦えるのが凪しかいない一対一のバトル。薬研は持っているのに使うことができない。薬作ってる間に狙われて終わってしまう。戦いに使えるのは光線銃のみ。

「うわーこれはちょっと」

敵の牙を使って噛みつこうとする攻撃。ジャンプやらを駆使して避けられないほどでもないが、ただ体力を使う。凪は前線でビシバシ動く新や愛香と比べたら体力が無い。

「もうちょっと楽しみたかったけど、そろそろ本気で行こうかな。本当に負けちゃってーなんて笑えね」

こいつの能力は現状見た感じイラネスとかそういう今まで苦戦した魔族よりは低そう。血を対価に力を渡すこと。それが自分の力だとしたら戦闘系の能力を持ち合わせてないということだから。ただ1人なのがネック。


このまま続けても勝てるかどうか予想がつかない。やはりこれ、魔王の兄と言って強制的に戦闘を終わらせる。これにしたほうが良さそう。

羅紗をさっき遠ざけたから、この近くにいない。周りを見渡しても誰もいない。

「ちょっと待て。話を聞いてくれ」

「ん?どうかしたの?これで止めて不意打ちしかけるとか逃げるとかしないよね?そんなことされたら容赦しなくなっちゃうよ」

「そんな事じゃない。見てろ」

久しぶりに誰かにこの姿を見せる。同じ魔族だというのなら俺のことを知っていてくれ。

学校、警察署、任務中。このことがバレないよう基本ずっと着けている帽子を今脱いで、その中にある猫のような耳。それをそいつヴェンポイ様に見せつけた。

「その耳、ほうそっちも人間とは違うってわけか。さっきも人間にしてはおかしなジャンプ力してた。いやー謎が解けた」

「お前も魔族なんだろ?」

「そうだな。知らん間に連れてこられて、ここで勝手に生きてるってことさ」

「俺の名前は根高凪。あの世界の魔王根高繁の兄で、城内で色々な仕事をしている偉い人だ。戦うのをやめたほうが身のためだぞ」

凪はあんまり権力の行使とかをしたくない。権力を使ってしまうと対等という立場が崩れて、やがてちゃんと平等なものにはならなくなる。

だけど、今は状況が状況。魔王の兄という立場、それを今存分に使わせてもらう。


「魔王の兄ね。真偽ってのはまあ置いといて、まぁ嘘じゃあないんだろ?魔王の兄だなんて、そんなもん嘘で名乗るもんじゃあないだろうね」

「嘘の神様名乗ったやつが言うのか」

「言えてる。とりあえず信じるってことだ。そっちとしてもこれがいいんだろ?」

まあここでそれが嘘だーって話になるよりは。話の手間が省けるというやつ。

「魔王の兄として、このバトルを中止させること、そして吸血教を終わらせることを要求する」

「たとえ魔王の兄だとしてもいくらそれは飲めねえなあ。何でそんなものを飲まないと?」

権力に屈するような奴だったらすぐ終えられたけど、話は一筋縄ではいかないみたいだな。

「それは……」

「まあ何言われたって応じる気は無いな。元々血を集める道具としてしか吸血教にもほんのり愛着が湧いたみたいでな。終わらせたくないってことさ。ここでバトルしないと、結局吸血教終わるんだろうし。吸血教のこと知って、それで何もしないなんてないんだろ?」

「交渉決裂か」

「そうそうそうそう。物理の枷ならともかく、権力の見えない枷ならそんなもん無視してやろうかなって。面白いもまだできてないもんね。さてと、準備終えられたか?」

「まあな」

「じゃあ続きと行きますか」

結局、凪とヴェンポイ様のバトルへと戻ってしまった。戦わずに済ませる方法はそれを使えず終わってしまった。


「よくも俺の夢を破壊しやがってこのクソガキが!」

一方、洗脳が解けたブラッドが加勢しに来たこちらのvs教祖戦。

「我を良くも下賎の民のくせして傀儡にしようとしたな。その罪万死に値す」

「神様名乗って悪いことするとか、それで自分の思い通りにするとか、本当に酷いと思う!」

全員この教祖に対して敵意丸出し。やったことがやったことだし、許すかっての。

「俺に歯向かうとはいい度胸だ。全員打ち倒してぶち殺してやる」


「さあ爆破しろ!光を纏いし槍よ!」

「これぐらいか。ならいける。さっきの闇討ちなんて卑怯な真似、もう俺には通じねぇ」

吹がとりあえずいつもの詠唱をして光槍を使ってる。あの詠唱はいらんと思うが。

百歩譲って異少課の部屋とかで中二病なのはまだいい。だが戦闘中も中二病で行くのはやめてくれ。状況を見ろ状況を。

「はははっ。燃やせ燃やせ」

「熱っ!いやまでもまだこれぐらいなら。すっごい熱いけど!」

「治癒使うから、少しは緩和できるはず。だけど、無茶はしないでね」

「火か。火か。引火とか考えてないのか危ないな」

血と取引で覚えたんだろう手で狙った場所に火を起こす力を使って教祖のやつは攻撃してくる。

今のところは盾でこっちまでは火がこずに何とかなってるけど、いつまで持つか。持たなくなったらきついぞ。

なんかいいこれ、不触の力の使い方ないものか?さっき役立ったけどこれバトルで使いづらいんだよ。使えるのが局所的とかいうか。

「ゲホッ。大丈夫丹?」

「大丈夫任せて」

火がおきても煙を吸い込んでしまわないよう。その話を今のと当てはめる。煙を吸って倒れるなんて駄目。


「行っちゃった」

ホール内、吸血教の洗脳が解けて元信者が今色々と騒いでてうるさく揉めているこの場所。

この場所でブラッドと同じく吸血教の洗脳を受けていた英澄はホール内で暇になっていた。

「我今何をすべきか」

「あれ?」

ぼーっとホール内でおきてるイザコザを眺めていた。そう見てるとその奥、ホールのガラス窓を超えた場所に見知った顔を見た。気になったのもあって待ってるってさっき行ったことも忘れその子の場所へと向かっていた。


「大丈夫かな。大丈夫、だよね」

戦いの場所から少し離れて、凪から避難してと言われて今適当な場所にいる羅紗。

羅紗は凪がそういう力を持ってて戦うことができるってことは知ってる。前に聞いたから。

心配ではあるものの、心配しすぎるのも良くないと思い気持ちを変える。

「私、私……」

隠れてるだけで何もできない。せめてなにかの仕事がほしい。

今のバトルに関することでも、今後に関することでも。

「やはり羅紗か。なにゆえこの場所に?」

「あ、英澄。私達は英澄のために来たの。英澄が生徒会の仕事サボってまでどっかに行ってるなんて普通じゃなかったから。今まで何してたの」

「あ、あの……分かってないんだけれど。洗脳されて無理やりここの信者にされていて……」

迷惑かけたなんてなると流石の中二病英澄もしょぼんとしていた。洗脳されていたとはいえ迷惑かけたのも事実。

「ごめん」

「はいはい。今後は安易に近づかないこと。今回は良かったけど、本当に洗脳されたままだったりしたんだからね!」

「う、うん」

怒ってる羅紗。凪とこの2人がこんなことに巻き込まれたのは英澄なので本当に怒っていた。巻き込んだ分と心配かけた分とら。

「あと仕事溜まってるから。今日まで休んだ分。これからちゃんとやるってこと。分かった」

「それはうん!我の力を見くびるな!絶対全部やってみせる!」

「やる気だけはいいよね。頑張って」

その後、さっきブラッドに丹が話した洗脳やらの吸血教の裏側などを羅紗に話す。さっき横にいたから聞いたやつ。

「そんなことが」

「うん。それで私の従姉妹が。強い強い従姉妹がここの教祖と戦ってる頑張ってる」

「ここが崩れるのならいいかな」

こんな宗教。本当になくなってほしいと願うのは、かなり多くの人が同じく思っていたことだろうと感じた。


「痛みならだけど、熱さは慣れてないから」

「我がこんなものに負けるなど笑止千万。人は人らしくその無力さをその心に刻み、歯向かわず束の間の平和を噛み締めていればいいものを」

「本当吹は言ってることはともかく頼りにはなるな。能力だけは高いからな言ってることあれだけど」

こちら教祖様とのバトル場所。この教祖のやつを全力でぶちのめしている。

「クールタイムは開けたみたいかな」

「そうなの日向?でもえっと……」

「何に使うかだな。考えずにクールタイム待つのはあれだしな」

少しずつ戦闘は進んでいそうだけど決定打にかける今の状態。少しずつ少しずつ体力を減らしていくやり方は長期戦になってしまうのであんまりやりたくない。長期戦だと火の熱さが


「ふと思ったんだけど、洗脳させるのにさっき壊した石使ってたよね」

「石?それは何だ?」

「吹は知らんか。吹らを洗脳させていた石。それ壊したことで洗脳解いた」

「ほう。そのような方法で」

「だから、今あいつが使ってる火の技も、もしかしたら何か使ってるんじゃないかな。俺達が武器使って特別な技を使うみたいに」

「それさえ分かれば俺の不触で何とかできるかもってことか。ナイス丹」

「ナイス!」

「えへっ。可能性の話だけどね」

証拠があってそれを証明できたなんて話じゃ全く無いけど、言われて見れればそうかもしれない。納得はする。

ありそうならそれを使ってみよう。俺の不触が今ろくに使えてないのもあるから


「俺をここまで怒らせるとは、もうどれだけ謝っても許すもn」

「こっち話してるんだからうるさい黙れ」

「……」

悪者が戦いの中で言うようなことを言おうとしたら全部言い終わる前に黙れと言われ絶句していた。本当にこっちはお前の対応策話してんだ静かにしろ。どうせどうでもいいことしか言わねえだろ。

お前がなんで人間支配したいかとかどんな理由あったって興味ねえ。そういう動機は刑務所にぶち込んでからニュースで聞く。

「話を聞けってんだガキ共!」

「熱、ゴホッ……大丈夫みんな」

「俺は平気かな。熱いってだけで」

「俺後ろいたから大丈夫だけどブラッドは?もろくらって無かった?」

「確かにここは熱い。それに煙たい。それでもゴホッ……我の力d」

「一旦戻れっての。学校で避難訓練したことないのか」

あんな火の中で戦い続けるとか自爆行為だろ。何やってんだ。死ぬ気か。

「何をする我n」

「変なプライドやら何やらで命消すな馬鹿なのか!お前死んだら丹とか能戸さんとか。お前の友達とか家族とか。自分の命の価値を知って大切にしろ!」

無為に命減らすこととかアホの所業だろ。そんなプライド命賭けてまで守るもんじゃねえだろ。

「あ、うん……」

「俺もそう。誰も死んでほしくないな」

「丹。我を思う者を悲しませるなど、我も吸血鬼としてまだまだだな。日向よ。悪かったな」

分かってくれりゃいいんだよ。あとはちゃんと学べよ。分かったからってこのこと学ばずにまた命粗末にしたら今度こそぶっ飛ばすぞ。


「そういえばさっきなんか使ってるの、見えた?」

「あいつがか?我は近くからそいつを見ていたが、何かを使ってるようには見えなかったな」

「そうか」

洗脳の時みたいに何らかの宝石かなんか使ってるならそれに不触かけれるのに、分からないんじゃな。

「いやでも、先程から火を使うたびズボンの右ポケットに手を突っ込んでる。何やらそこに奴の源を隠しているのかもしれぬ」

「えっそうだったの?俺見てなかったな。盾のことしか考えてなかった」

「よく見てたな」

「そのぐらい我には容易い」

確かに右ポケットにずっと手を突っ込むのは怪しいな。バトル中にポケットに手突っ込むなんてよほどのことないとやらんよな。絶対なんかあるだろ。火を起こすもの入ってろ。一歩進むから。


「やってみるか。いやな」

さっきネックレスに不触かけたときより難易度が馬鹿みたいに違う。まず戦い中で流石に警戒してるだろうから近づくのがまずムズい。警棒たけじゃ心もとない。

そして何よりどうやってかけるか。あっちがポケットから取り出すならまだ何とかなりそうだけど、ポケット内だとまあ難易度が。

かけるためにポケットから取り出すかそうでなくてもポケットに手突っ込んでそれ握るかしないとかけようがない。だと言って戦ってる相手のポケットに手入れるのって大分無理あるぞ。立ってて動いているから手入れるのも一苦労だしかなり密着することになるから近接攻撃をもろに喰らうことになるし。

相手取り出してくれりゃあ楽だけどそんな方法何も思いつかない。

「一応空気球も」

「光の槍よ!」

一定時間怯んだりしないかな。なんかそういうのゲームとかであるじゃん。

勿論そんなことないって分かってるけどさ。


「空気球の風使えないか」

空気球の風なら何とかなる可能性あったけど起きなかった。その大きさこれ以上できるんかとか知らんけど、あんま期待はできないな。

「光の槍よ!」

槍は槍でただの攻撃だよな。光の槍だからその光で目が眩んでとかないな。そんなことしてないし。

「治癒巻いておくから」

丹のは、まず無理だな。治癒技で何しろと。

「なんかいい方法……そうだ。逆転の発想。もし失敗してもクールさえ明ければまたこの作戦できる。試す価値アリだな」

なんやかんや。何とかいい方法ないかと頭巡らして思いついたのがこの方法。

ポケットの中に触る方法は思いつかない。なら逆だ。ポケットの中の媒介になるものじゃなくてそのポケットが付いたズボンに不触をかける。そして不触の効果で触れなくなったズボンを奪い取ってポケットの中身も手に入れる。

行ける。ポケットの中に火の技を起こす媒介があるという前提だけど。今すぐやろう。


「分かったよ」

「俺もちょっと手伝うぐらいなら」

「我がここにいる。その策を必ず成功へと導いてみせよう」

作戦はみんなに伝えた。さあやろう。

作戦の成功率を高めるために遅延させるならまだしも、無駄な遅延は意味なんてない。さっさとやってみせる。

「光の槍よ!」

「もうちょっと右の方いいかも。見えてそう」

「これで皆を」

吹が技使って相手の気を引き、バレないように大きな盾の後ろに隠れる。丹が全員に治癒をかけて近接で攻撃をくらってしまったときの対応をする。

スタッ。スタッ。

盾をもって少しずつ近よっていき、それにともなって俺も近づいていく。できるだけ移動時間を短縮させて……。

「よしっ!」

「光の槍よ!」

吹の攻撃タイミングに合わせて走り出す。特になにか起こるのもなく目の前まで近づき、そして奴のズボンを握りしめた。

「お前、いつの間に!離れろ!」

「日向!」

「いってーんだよ。これでどうだ!」

近くに言って拳も届く位置になったから。全力で一発ぶん殴られたが、そのかいもあってズボンに不触をかけて、奴の足をすり抜けてズボンを無理やり取った。

ここだけ聞くと変態みたいだな。いや違うぞ。

「あ、おま!」

「やっぱりな。これで火起こしてたってことか。これさえなけりゃ火使えないんだろ?」

そして奴から走って盾の後ろ側、こっちの陣地へとズボンもって戻ってきた。

ポケットの中には案の定、赤色の石が入っていた。その石を高々に掲げて挑発する。

勝ち目がないと思うのなら自主投降しろ。無駄に被害を増やすな。

これさえ使えばこちらも火を使えそうだが、こんなとこでやれるか。普通に火事になる。まず何で使ってるんだアホなのか。

「あ、えっ!ふぁっ……ふぁぁー……!」

「ブラッド?」

あ、目の前の奴はズボンを脱がされてパンツしか穿いてない状態。異性の吹には刺激強かったか。あいつ全然そういう話題に対して初だからな。

「貴様ら良くも!こんな恥をかかせて!」

「恥かくようなことしてるやつが恥名乗るな」

やべっさっき殴られたので頭が痛い。治癒で引いていってるけどそれでも。時間かかるな。

「大人しく投降しろ。自首しろ。こっちに勝つ方法は残ってない」

「自首だと?こんなガキどもに?誰がするか!吸血教教祖様を舐めるんじゃねえぞクソ共」

「交渉決裂か」

なら仕方ない。徹底的に潰して何もできなくするまで。


「徹底的に痛めつけよう。吹、お願い」

「言われなくても。我を愚弄した罪は重い」

洗脳やら支配やら。やってることがもう。全く同情できない。それでも自主に応じるなら平和的解決で終わらせようともしてたのに。

「光を纏いし槍よ!」

「くっ……ッ…ッ…」

さっきからこっちを眺めてる。でもさっきまでと違って火を起こそうなんてしてこない。

やっぱりこれが火を起こすものか。戦う術を持たないってのに降伏せず戦い続ける。「ねえ、日向どう?さっきの」

「ああ、丹のお陰で全快したよ」

ちょっと痛いの残ってるけど、全然。全快の範疇だよこんなもん。

「チッ……こいつら……」

「凄んでるな」

目つきが凄い。めっちゃ恨んでるんだろうな。恨ましとけ。勝手に恨めどうぞ同情なんてされねえから。

「我は寛大だ。ここで汝が己の非を省み大人しく我らに捕まるというのなら、これ以上の痛みを起こさずに済ませよう」

吹も言ってるんだぞ。いい加減終われよ。無駄だってわかってんだろ

「こんなとこで、こんなところで」

「こんなところで、捕まってたまるか!」

何か怒りながら、教祖のやつはバッグの中から何かを取り出す。バッグから他のものも取り出して何かして、そしてそれを投げた。

あの形、火の付いた導線……爆弾!?

そして爆弾は高さ的に落ちるのは俺の後ろ……

「丹!逃げろ!」

落ちる場所に近いのは丹。後ろ側から治癒を行っていた丹のちょうど近くにそれが落ちる。

俺も走って逃げたが、丹、間に合え!

「危なっ!」

「えっ!ぐっ……」

ドーン!

思ったより小さな爆発。爆弾と言ってもそれほど小さいやつだったみたい。

「丹!っておい!お前!」

「ははは……」

「えっ……えっ?えっ!?」

「大丈夫か?」

丹の元に駆け寄る2人。そしてそこで見たのは。

奇跡的に無傷だった丹と、丹のことを抱き抱えて地面に伏して、服をボロボロにして背中に傷を追った吹の姿。

さっきは逃げてて見れてなかったけど、丹のことを助けようと、ここが危険だと分かってるはずなのに丹を抱いて逃がして、丹を守ったらしい。

「吹、お前!」

「丹は?」

「丹はお前のおかげで無傷だよ。だがお前が」

「えへ、助けられて良かった」

無茶しやがる。さっき命の大切さ説いたばっかだったのに。

今んとこ意識はある。さっさとこの戦い終わらせて病院に運ばないと。

よくも。

許さないという強い恨みを込めて、奴の身体を目で見た。

「今なら逃げられる、これを使えば!」

そんな中、逃げるためにまた爆弾みたいなものを、今度は自分の足元に投げた。

そこから白い煙が大量に出てきた。つまり煙幕だ。

「えっ?ゴホゴホッ」

「おま!っ……」

再びそこを見たときには、そいつはどこにもいなかった。逃げられた。


「結構いい勝負だよね。どっちが勝つとしてもおかしくもない。こういう拮抗した戦いが一番面白いんだよ。どっちが勝つのか分からないハラハラ感があってね」

「そうかもしれないな」

こちら凪の戦い場所。いい勝負ってあっちは言ってるけど正直凪が不利。体力が。

起死回生の一手がほしい。このままやるだけじゃなんとも微妙。何かこの状況を打破する一手が。

薬さえ作れれば色々悪いことできそうだけど、やっぱりこんなとこで出来ないな。一瞬離れようにもそこいるからどこ行ったかとか分かるよな。

「うーん……」

戦いながらいい方法考えてるけど。弱点とか突くぐらいか?だとして弱点ってなんだよってなるんだよな。

がむしゃらに光線銃当ててるけど戦況を進めてるようには見えない。

「これくらいならね。終わった?じゃあこっちのターン」

「くっ……当たりそうで……」

牙を何とか避けているけど、すっごい疲れる。パフォーマンスが低下してるな。

「ほえー……よく避けられるなぁ」

こっちを見て感嘆の声を上げてるヴェンポイ様。運動は苦手だけど子供の頃からそういう最低限の防御術とかは教えられてきたから。その時の知識が凄い役に立ってる。ただ体力が追いつかない。

「なんか長引かせるのもあれだから、どっちも全力出して早く終わらせよ」

「っあ、これ……」

本気の牙攻撃。それの対応だけに手一杯で攻撃なんてできる気がしない。何も考えず適当に銃を撃ってその一部が当たってる図。殆どは虚無に当たってる。

「これ、ヤバいかも」

今までよりも特にヤバい。攻撃の差が明確。

かと言ってこっちが易易と負ける訳にはいかない。

なんとかしてみせる。


「あの牙さえ無ければ……」

ヴェンポイ様の攻撃は多少の差異はあれど全て牙を使った攻撃。それさえ無ければ。他に代替の攻撃手段を持ってる可能性は少ないながらあるが、だとしても弱体化できることに代わりはない。

「あ、そうだ」

思いついた打開策。光線銃であの牙を撃つ。

あの牙が弱点なら尚更、そうでなくても牙を撃てば牙攻撃を容易にはできなくなるはず。

右手を痛めている状態で右手で殴ったら、万全なときよりもそのパンチは弱くなるだろう。それと同じ理由だ。


「くっ……」

「おぉっ!ようやく当たったー。これで進みそうだよなぁ。全部避けられてちゃね、なんか違うよね」

策はできたものの、牙を狙うことは至難の業だった。

ヴェンポイ様は攻撃の時を除いて牙を見せようとはしない。牙を狙い撃つには、攻撃してくるときに構えて撃つしかない。まあムズいよこれ。撃とうとしてたら時間的に攻撃を避けられない。狙いを澄ませる。

何回かしてようやく一発当てれた。この感じ、あの牙は弱点でもあったみたい。運が良い。


「お互い、あと一発といったところかな。ひりついてきたね。盛り上がるよこれは」

「ふっ……そうか」

あれからも同じ感じに牙をくらい牙を撃ちを繰り返して、そしてどちらもが体力をギリギリにしたこの状況。

俺も凄い疲れてる。俊敏な移動や頭を使う射撃やら、そんなのをずっとやっててその疲れが凄い溜まってる。

あっちも何度か牙に攻撃した。牙の攻撃速度や威力も最初と比べて目に見えるほど落ちている。これはいい。

今はそれぞれの目を見て睨みを効かせている。あと動かない所で疲れを少し取っている。

「さあて、最後を始めよう?」

「望むところだ」

牙で攻撃される前に攻撃する。一発勝負。失敗は許されない。

光線銃に手をかけてそれを前に向ける。相手が動き出すまではこの状況。こっちからは何もできないから。

「ハッ!」

今回最後となる攻撃を今出した。その結果は……。


「ははっ。やられちゃったか」

最後だからって何か捻りがあるわけでもなく、一発の光線を攻撃時に見せた牙にぶち込んだ。その光線を貰ってヴェンポイ様は地面へと倒れた。

「の割には元気そうだな」

「元気って。なんかもういいかなって。負けたなら潔く負けを認めないと」

見下ろしてる凪と倒れているヴェンポイ様は目を合わしている。ヴェンポイ様はこのまんまじゃ終わりだということは誰の目にも明らか

「こんな世界に来て、帰る方法もわからないで。あっちの世界が恋しくなって悲しんで。帰りたいと思って頑張ったのに帰れないと、もういいやってなるんだよ」

「帰りたかったと?あの元の世界に」

「うん」

俺も、繁を連れて元の世界に帰らないといけない。ここの居心地の良さは言い表せるものじゃないものの、あっちにだって俺や魔王の繁を待つものは沢山いる。いつかは戻って務めを果たさないと行けない。

だといいつつ、異少課に入って情報が手に入るかとも思ったのに、未だそんな情報は皆無。

「魔王の兄だっけ?じゃなくても、帰ったら伝えて。俺の家族に、俺は死んだと。事故にあって死んだと。死んだら自力で伝えれないのが不便だね」

ヴェンポイ様が家の事家族の事と話し始めたもんだから、慌てて出した紙にそのことをメモしていく。決して忘れてしまうことのないように。

「本当にここで果てていいのか?今から薬作れば間に合うかもしれんぞ」

「薬?いいかな。吸血教を最後まで見たかったけど、吸血教はすぐに壊される。そうでしょ?」

「悪いが、こんなに被害が出ているものを見逃す訳にはいかない」

「だよねー。それ以外に未練もない。帰り道もわからない。諦めても罰当たらないよ。ね?」

助けれるし、改善する余地があるのなら、助けるという選択肢も吝かではない。でも彼自身がそういうのなら、その選択に従うしかない。人間でいう尊厳死のような状況だ。

「じゃあ、寝よ」

「お疲れ様」

「お疲れ」

そうしてヴェンポイ様は瞼を瞑る。閉めた瞼がもう一度開くことは二度と無かった。

「終わったな」

仰向けに倒れるヴェンポイ様のことを、少しの間まじまじと見つめていた。


「治癒かけてるけど、どう?」

「丹のお陰でちょっとずつ痛み取れてる。ありがと、丹」

「うん。あと、ありがと。助けてくれて」

「大事な仲間を守れなくて、何が吸血鬼だってね」

微笑みながら丹に向けて言ったブラッド、その顔を見た丹は

(あれ、何だろこの気持ち……ん?モヤモヤする……)

何か不思議な気持ちを抱いていたようだった。

「あ、じゃあここは丹に任せて後始末をと」

「それなら俺に任せて」

「いいのか?仕事多そうだが?」

「いいよいいよ。言いたいことありそうだし、3人でいたほうが。警察相手も同じ職場の俺のほうがいきやすいから」

「じゃあ任せる。よろしく」

吹に色々と言いたかったのバレてたか。最初勝手に尾行に着いてきたときは何なんだと思ったけど、今回のことで後で訪れてお礼言わんと。

「なら我の従姉妹、名を有形英澄という……。そいつに我は今日帰ったと伝えてくれ。急で悪いがな。我が元に戻るのに多くの時間がかかる」

「よしわかった」

ブラッドからその英澄の情報を得た翔はホールの方へと戻っていった。

「にしても吹は……いや。丹を助けてくれてありがとな」

命を大事に的な小言を言おうとしたけど、今じゃなくていいな。今やらんといけんのは身体を張って丹を守った少女への感謝や称賛。

実際これなかったら丹が代わりにこうなる、もしくはもっとな事になったかもしれないから。だからってもっと身体を張るようなことにはなってほしくないが。

「我に礼などいらぬ」


それからしばらくして、警察が来たりしてこの件を色々と調査やら被害者への聞き込みやらなんやらしてて、そんな中

「我、全快也」

「全快したところで言うけど、本当吹は自分の命の価値低くし過ぎ。前も自分が凄い頑張って戦ってそして病院に入れられたんだから。他人の命も大事だけど自分の命も大切にする。約束して。いつかおっ死なないか心配だから」

流石に怪我して痛い状態で言うもんじゃないと黙ってたが、快復したというのならちゃんという。

「我、あまり傷つく他人を見たくないのだ。それならその代わりに自分がと思って、考えを無視したことをやってしまう」

「本当、努力して」

神様、こんな吹がおっ死なないよう、どうか見ていてください。

「じゃあ帰るか。丹、帰るぞ」

「えっあっうん。分かった」

「ん?」

何か丹は丹で様子変だな。何かあったか?

ちょっと疑問は浮かんだけど、とりあえず警察署から元の石川の警察署へと戻った。


ヴェンポイ様を倒して一段落した凪。とはいえ休むわけには行かない。まだやらないといけないことはそこそこある。

「さて」

ヴェンポイ様がもう動かなくなっているのは確認した。ヴェンポイ様の骸の後始末とかも考えたけどそれは警察任せに。とりあえずそれよりやらないといけないことを思い出す。

「呼びに行こ」

戦いが終わったので戦う前に被害を受けないよう避難させた羅紗の元へと行く。

「あ、警察。何とか警察来る前に終わらせて良かった」

近くの道路を見るとパトカーが数台止まっていた。さっき羅紗が携帯電話で呼んだ警察だろう。

戦いの被害が増えてしまう恐れがあったけど、何とかなって良かった。ここらで起きた件の後始末をお願いしないと。


「あれ?翔?」

「ああ凪。何でここに?」

驚いたことに避難した英澄を探す最中、翔と出会った。

「俺は……」

「そうなの。で俺は……」

2人はそれぞれここに来る経緯やら、ここでおきたことやらを相手に話す。どちらもが敵と戦っていたなんて事実に2人共驚いていたらしい。

「こう被るとはな」

「凪もいたら戦い少し楽だったのかなー。あ、でもそうしたらそっちがだめになっちゃうか」

「そうそう。今有形英澄っていう石川のブラッドこと日柱吹さんの従姉妹を今探してるとこなんだけど。従姉妹とここに来て洗脳されたんだって」

「それあれだね。俺がここに来た理由のと同じ。俺と同じ生徒会の子だね」

「やっぱり?だと思ったんだーだって言ってる情報が当てはまりすぎて。繋がってるね凄いね世界って」

世間は狭いとか言う奴か。ま狭いのかもな実際。いやどうなんだろ。

「そっちにも話とこうかな、場所は分かってるんだよな」

「こっちこっち。こっちでさっきまで一緒にいたんだって」


翔に連れられてホール内へと入った凪。

「ここにいたのか」

「終わりましたか?」

「ああ。疲れたけどまあ何とか終わらせたな」

英澄を見つけ、そこに羅紗も見つけた。2人でそこそこ一緒にいたみたい。

「で、英澄今の状況わかるか?」

「そこそこ分かる。この羅紗から聞いた」

「ここで起きていたことは話したよ。だけど戦いとかのことは全く」

「なら……」

凪が今までにおきたことを掻い摘んで話した。

「良かった……」

「やはり平和こそ至上」

安堵の声が2人から漏れていた。


それからというもの、やってきた警察に起きていたことの顛末を全て伝えた。羅紗と英澄は帰った。用事があるって言って当初やる予定だった買い物を羅紗に任せてしまった。英澄も掴んで2人で買い物に行ったよう。

そしてそれから。まず吸血教の幹部や職員は全員洗脳行為及び詐欺などに関わっていたということで逮捕された。幹部が完全に逮捕されたと言うので今の吸血教は完全に倒れたということでいい。

ヴェンポイ様のことは警察の魔族のことをできるだけ秘匿するという方針でそんなものは存在しなかったと、ヴェンポイ様は教祖がでっち上げた架空の神様という形に決着した。

教祖は今警察が行方を追っているが今現在掴めていない。教祖と戦った石川の3人が顔などの情報を提供してこれから犯罪者として手配するらしい。早く捕まれ諸悪の根源。

石川県の3人は普通にやる情報提供とかをやってそして傷が治ったので石川の方へ帰ったみたい。


「そんなことが……」

「英澄が宗教にハマって、抜け出せもしないような感じだったんだから」

「その節においては我とて多大に感謝している」

その後、生徒会での集まりでみんなに英澄に起きたことを報告した。

「それにしても、何でそんなところに?まず何で行っちゃったの」

「吸血と名を記していた。なら吸血鬼の我が行かないとと思ったまで。ちょっと、痛い!」

「痛くないよ痛くないよ」

「やめて迷惑かけてごめん謝るから許して」

事件に巻き込まれた羅紗が英澄のことを手で握って怒りをあらわにしている。理由のショボさが怒りに拍車をかけていた。

「はい。英澄のことも聞きたいこと多いけど、それより生徒会の仕事。また後でにして」

「えー。別の日にしない会長」

「えーじゃない。ちゃんとやるよ怜音」

夏休み間も生徒会の仕事は終わらない。買ってきた道具を取り出して学校で二学期に予定するイベントの準備を進めていった。


「ただ今戻りました」

石川県の警察署へと戻ってきた。まずは仕事の報告。能戸さんのいつもの部屋で終わった報告しないと。

「おか、あ、あーようやくだ〜。本当ありがとう。いなくなった日柱見つけてくれたんだよね?」

「おい吹お前は事情あったってのは分かるがちゃんと能戸さんには謝っとけよ。能戸さん上にどやされてたんだから」

「その点は、誠に申し訳なかった」

「ちゃんと終わったよね?明日からまた同じことしましたなんてないよね?信じていいよね?」

「多分もう事件は解決したからしないですよ。実は……」

今日起きた色んなことを簡単に話す。魔族関係の仕事じゃなくてただの尾行の仕事だったのに結局一仕事みたいになっちゃったな。巻き込まれて仕事させられるのはここで働くと仕方ないことなんかな。

「ブラッドを怒らないであげて。ブラッドは教祖から洗脳されていておかしな行動取らされていただけだから。あと俺のことも最後助けてくれたから」

「正直もう上を説得しないでいいのが。上はこっちの状況全然見ずに勝手な話するからね」

「本当に心中お察しします」

「仕事も終わったし部屋で休んでいて。今回の件が解決したこと上に伝えてくるから」

やっぱりこういうの見ると前線で戦うわけじゃないけど能戸さんもこの異少課に必須級だよな


「そうだ俺行かないと行けないとこあるから」

「分かった丹。じゃあ」

「どこに行くか我は知らぬが、我はここから汝に幸あれと願おう」

いつもの部屋。丹がどっか行って2人っきり。聞きたいこと聞くか。

「にしても、何でお前はそんな危なっかしいんだ。前も俺達がいないときに大怪我して病院に運ばれたんだろ?自分の命をだな」

丹がいるときならあんまり言うべきじゃないかなとは思ってたけど、たまたま丹がどっかいったのもあってこの質問。いつか死にそうで本当怖いんだよ。

「だからあんまり人が苦しむのを見たくな」

「俺だって吹が傷つくの見たくねぇっての。丹なら尚更だろ。自分が全ての痛み受けりゃそれでいいって論、考え直したほうがいいぞ」

「頑張るのだが、我は自らを御せぬ。直感に従い行動してしまう」

こういうのムズいんだぞ。一概に悪いなんて言えねぇ。吹のお陰で丹が助かったのも事実。だけどやっぱりそんな考え方違うなと思っちまう俺だよ。

「じゃあせめて生きろよ」

良さそうなアドバイスなんて思いつかん。生きろって簡単なことしか言えない俺だった。

「まあ」

「わかったのか」

俺も適当に言ったもんだったけど。何かが分かったのならそれはそれでいい。

「お菓子いるか?」

棚に置かれたお菓子の箱を取って、半分を吹に渡した。勞いの意味を込めて。


「クソっ!あいつら……」

あの場から逃げ出した教祖は警察が探してる中何とか監視カメラのない路地を通って彼の隠れ家へと逃げおおせていた。この隠れ家は誰にも見つかるはずがないと鷹をくくっており、ひとまずここで休憩をしていた。

「しかし……あの吸血教ももう使えないか。大規模までできたというのにあのガキ共のせいで」

自分が悪いので責任転嫁である。あの子達に全く罪はない。

「やっぱりいた」

「誰だ!」

家の中に突如聞こえた声。その声の元の窓近くを見るとそこにいたのはまさかの丹だった。さっき用事があると言って2人から別れてきたがこんなところへとやって来ていた。

「なるほど。ここまで来たってことか。だが1人で、うぐっ!?」

「静かにして」

さっきのように戦おうとしていた教祖だったが、一瞬で丹にねじ伏せられた。今は何もできていない。

「お前、どこでそんな」

「静かにしろ。次言ったら歯折るよ」

そう言う丹の目は本気の目。教祖はそのことが本当であると本能で気づき、本当に何も言えなくなっていた。

「あんたらが勝手に神様名乗って偽の宗教で詐欺まがいのゴミなことやってたの俺本気で怒ってる。神勝手に名乗るのは駄目だよ。そんなこと分かってたよね?」

ただ何も言えず、教祖は首を前後に高速で振っていた。床に緊張の汗が溜まっていく。

「どう言うこと。答えろ!」

丹が教祖の首根っこを掴んで強制的に言うよう脅す。いつもの丹とはどことなく違う雰囲気が出てる。

「あっあっうっうっ……」

「言えねぇのか」

失望、軽蔑、そんな全てが混じった本気のゴミを見る目で見ながら、教祖の首根っこを離してまた床に伏せさせた。何も動けないようにした。

「それと、あとブラッドから助けてもらったときに抱いたもやもやした気持ち。これもなにか分からない。これらで相当苛立ってんだよ」

「こっちはお前如き殺すぐらいどうってことねぇんだ。勝手におっ死んだことにしていいんだ。だがな、何か今は警察送りにさせたい。世間的にずっと逃げてるなんて報道されるのが気に食わん」

教祖は内心ほっとしていた。というのも、さっきのだと殺される可能性もあったから。警察に送られるとはいえ、まだまだマシだと感じていた。

「かと言って、そのまんま警察行きも嫌だ。今から大怪我させる。死にはしないから安心しろ。あと、警察に捕まっても俺のことをバラすなよ。牢屋までいって殺すのもわけないぞ」

必死に助けを願う教祖。だがそんな教祖に対して慈悲をもたらさず教祖に痛みを追わせていく。ありとあらゆる方法の攻撃を何もできてない教祖に浴びせていた。

「……」

「脈はあるか。このくらいにしとくか。さて警察。この怪我で行けるか?まあいいか。さて匿名にして」

「あ、あの○○町の……で気になるのでなんとかしてもらえませんか?」

「よし帰るか。ここにいた証拠は隠滅しておかんと」

毛髪やら、丹がやったというありとあらゆる証拠をこの部屋から排除し、それが終わったら丹は石川の方へと帰っていった。


「新しくできた博物館について……」

石川県異少課で小型テレビを見ている。テレビをつけながらダラダラしていた。

「次のニュースです。先日起きた吸血教洗脳事件で指名手配されていた犯人が今日昼間、匿名の通報により捕まりました」

「えっ?」

「嘘……」

ブラッドと日向はニュースを聞いて色んな驚きを見せている。それに対し丹は知っていたから何も言っていないし驚いていない。

「ブラッド、お茶菓子これでいい?」

「うむ」

いつものようなブラッドを慕う男子を見せていた。

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