第26章 招き猫の病
「招き猫病と名付けられたこの病気は、依然として調査は進んでおりません。国立医学研究所の発表によると……」
「本当、嫌な世の中だ。っと、もうこんな時間か」
石山准。異少課の上司は、アパートの中で服を着替えていた。
最近のニュースは碌なやつがない。なんか嫌になる。
「さて出るか」
「あっ!准〜」
隣の部屋から出て来たこいつは博士。異少課でも時々使ってる発明品を作った凄いやつ。どっから技術力が出てくるのか分からないけど俺に分けて欲しい。そしたら金稼いでギャンブルもっと出来るってのに。
本業でどっかの学校で先生やってるんだっけな。発明一本で食ってけるのに、先生楽しいから止めたくないんだと。
「あ、そうだそうだ!僕新しい発明品作って、ジャジャーン!招き猫病検査装置〜」
「名前の通り、あの招き猫病を検査すると?」
最近招き猫病なんて病気が流行してる。ここんとこ連日ニュースでは症状だの発症を疑うことなど医療保険の話など、そんな話ばっかり。本当疲れる。
「うん。詳しい説明は端折るんだけど、これを着けてスイッチONにすればその人が招き猫病にかかってるか、かかってたらどれぐらいの重さなのかが分かるわけ。なんか使えないかなって作ったんだ〜1本あげるから職場で使ってみて」
「なら遠慮なくもらっとく」
貰った機械を鞄の中にしまって、いつもの警察署への道を歩く。
「おーい」
「あ、石山さん。なんか用です?」
「実はな……」
朝アパートで起きたことを適当に話した。
「てなわけで、これ使ってみないか?」
「やっぱりいつもの博士だな。何世界初の凄いもの作ってるんだが。本当に何者なんだよ」
「招き猫病?」
「あれ翔知らないのか?招き猫病ってのはかかると周りの人が幸せになるけどその代わりにかかった人だけは熱や酷い頭痛が起きてかかった人だけは不幸になるみたいなやつだよ。周りに幸せを招くってのと症状が進むと三毛猫のような斑紋ができるみたいでそう呼ばれてる。」
「招き猫病ってどういうのなんだろう。本当に病気なのかな。だって、不幸だの幸運だのおかしいよ」
「まあそれは良いとして、これ使ってみろ」
「じゃあ俺から……陰性と」
「陰性だな」
「私陰性でした」
「私も」
ここにいる4人、それぞれ試したけど全員が陰性。検査機器が反応しなかった。まあ良かった。
招き猫病は未知の病。対策だの何もかも無くて色々と怖いんだよ。
「すまんすまん。生徒会の仕事が思ったより時間かかって」
「凪、これ使ってみてくれ」
「これは?」
「いつもの博士が作った招き猫病の検査機器。石山さんにプレゼントしたやつなんだと」
「じゃ使ってみて。赤く光ったな」
「え?」
確かに赤く光ってる。ついでに貰った説明書によると赤く光ると……
「軽度の招き猫か。よし、一旦帰って安静にしとけ。今病院行っても有効な治療法も不明だかとりあえず風邪などの薬出されて終わりだろうから」
「え?あ、はい……」
「凪……」
「じゃあ私も、お兄ちゃんの看病とかしないと」
「じゃあ二人帰っとけ。病気なんだから無理するな」
病気なのに無理して悪化させるな。未知の病なんて悪化させずに終わらせるに限る。
元異少課の3人、佐藤美崎、姉川紬、成健心。この3人は今スマホを使ってグループチャットをしていた。
異少課を辞めてから学校が違うのもあってあんまり会えてすらいないものの、この子達は普通に仲良しなのだ。
異少課3人組(3)
佐藤美崎:最近流行りの招き猫病ってあるじゃない?
佐藤美崎:あれって幸運だの不幸だの科学的におかしいことだらけで、もしかしたらあれって健心のと同じあの魔族のせいなんじゃないかなって
姉川紬:美崎も?私もちょっと気にはなっていたの。
佐藤美崎:やっぱり?普通の病気には見えないよね。でもあの魔族ならこんなのを流行らせるのもお茶の子さいさいだろうし
成健心:あの魔族が……。俺を風邪にしたあの魔族が。
佐藤美崎:それでそれで、この病気のこと調べたらあの魔族の今いる場所とか分かるんじゃないかなって。場所さえ分かれば倒して、病気を食い止めれるでしょ?
佐藤美崎:それに、倒すことで健心の病気も治るかもって
姉川紬:確かに病気の根源があの魔族だとしたら倒して治せそうだけど……そんなに都合よく場所分かるかな?
佐藤美崎:やってみなきゃ分からないじゃん!それに、健心の病気が治るのなら、小さな確率にもかけてみたいから
姉川紬:その気持ちは私も。あの病気で苦しむ健心は見たくないから。
成健心:本当ありがと二人共。
佐藤美崎:とりあえず私は純のいる探偵事務所行って、純にも手伝ってもらうね
姉川紬:久しぶりの異少課みたいな活動だね
数日後
「こんな感じでいいか?すまんが時間なかったら雑なとこあるぞ。もうちょっとやれれば良かったんだが、こっちはあいにく別の依頼やらがあって無理なんだよな」
「ううん。いいよいいよ〜。むしろこんな時に話聞いてくれてありがとう」
「依頼料の分は働いた」
探偵事務所から資料を持って、美崎は出ていった
家に帰った美崎は資料を開き、中身を見る。
「んーと?なるほど」
そして美崎はスマホを手に取り、グループチャットのアプリを開く。
佐藤美崎:純から場所を聞いてきたよ〜
成健心:ok。
佐藤美崎:それで、私達だけであの魔族のとこ行くと前みたいに返り討ちに遭うかもじゃん?だから、誰か戦える人と一緒に行ったほうがいいんじゃないかなぁって
姉川紬:恋はどう?恋なら手伝ってくれるよ。良い子だから。
佐藤美崎:恋はね、別の依頼があって数日ほどそっちに取り組むらしくて、誘えなさそう
成健心:となると、異少課の誰かがいいかな。戦闘能力も込みで。
佐藤美崎:うん!それで今の富山県の異少課の子達に頼もうかなって
成健心:今の富山県?
姉川紬:岐阜県の子達とか、そういう関わったことがある子たちのほうが良いのでは?
佐藤美崎:実は頼もうとしたんだけど都合が悪いからって断られちゃって。それで富山県の子達かなあって。あそこ私一回行ったことあるんだ〜。石山さん経由で頼んだら多分受けてくれるよ!
姉川紬:なら、美崎に任せようかな。やってきてね。
佐藤美崎:大丈夫!あの石山さんだから多分受けてくれるよ
数分後
佐藤美崎:大丈夫だって。最近あんまり騒ぎも起きず平和だから適当に使っていいよって言ってた
成健心:流石の石山さんだな。この適当さ久しぶりに見た気がする。
佐藤美崎:今からー……は無理だから明日3人で異少課行こっ!資料のこともそこで話すね
佐藤美崎:明日10時に警察署前で待ってるから
「根高先輩も繁も大丈夫なのかな」
「繁は学校には来てるみたいだから大丈夫だと思うけど、凪はな……ここんとこ数日間休んでるよ。まだ病気治らないみたいで」
「招き猫病って薬も何もまだ作られてないから、自然に治るのを待つしかないんだっけ?たち悪。俺の学校でもぼちぼち感染者が出てきたらしいし……」
異少課の部屋。ここ数日は凪が病気で家に、そんな凪の看病をしに繁も家にいるのでこの3人しかいない。
「おーいお前ら、明日来てくれ仕事だ。佐藤から共同でしたいことがあると」
「佐藤って……えっと……」
「佐藤美崎さんです?」
「そう。お前らの前の異少課だった佐藤だよ。前にここに来てたことあったよな?そいつだ」
「師匠覚えてます?記憶が……」
「翔さん。異少課内に罠色々と仕掛けていた人です」
「あ、思い出した」
印象に残る人だったけど流石に名前までは覚えて無くて、結びつけるのに時間かかっちゃったな
「そういや前の異少課の3人でくるんだと、起こさんだろうがめんどいことするなよ」
「しませんよきっと。ってか佐藤さん以外の元異少課の人って初めて会うのか」
「そうてすね。どんな人なんだろうな」
そして翌日
警察署前で3人が集合し、そして異少課の部屋の扉を開けて、中に入る。
「あ、どうも初めまして」
「いやいや。そこまで畏まらなくても」
「とりあえず自己紹介しよー。私は佐藤美崎。よろしくね」
「成健心。まぁよろしくな」
「私は姉川紬。困ったことあったら頼っていいのよ。異少課のことも関係ないことも」
「神代新です。一応今の異少課のリーダーやってます」
「私は波山愛香です。今日はよろしくお願いします」
「俺は大木翔だ。とりあえずよろしく頼む」
名前をそれぞれ言って、そして本題の話へと進む。
「それで今日はどんな要件で?」
「ちょっとまってて、えっと……あったあった。それで、じゃあ始めよう〜」
純達から貰った資料をバッグから取り出して、そして話を始める。
「最近流行りの招き猫病ってあるじゃない?」
「招き猫って、凪がかかったやつだよな」
「うん。そうだよ」
「前来たときより少ないなぁとは思ってたけど、招き猫にかかってたなんて……尚更やらないと」
「それで、私達は招き猫病が昔私達が戦って、それで倒しきれなかった魔族。『イラネス』の仕業だと思ってるの」
イラネスのところを強く言い張る。健心も紬も、その名前には顔をしかめたりして反応する。それほど彼らにとって敵なやつ。それがイラネスだった。
「イラネス?」
「イラネスは病気を流行らせる力を持つ魔族。しかも異世界から来た魔族なだけあって非科学的な病気を生み出すからなおたちが悪い。そのとき俺がやられて、それからずっと原因不明に急に激しい苦しみが襲ってくる病気にかからされたんだ」
今までも何度か、旅行なんて楽しい時にも襲うのが、嫌らしさをもっと高めてる。そんな悪質な病気。
「だから私達に取ってイラネスは敵なの。そしてほら、今回の招き猫病も不幸や幸運って非科学的なとこが一緒で、イラネスが噛んでると本気で思ってるの」
「それで私は純達、知り合いの探偵の子に頼んで調べてもらった。そして調べてもらったものがこれ。私達は今からそこに行ってイラネスを倒しに行くけど、私達だけじゃまた倒せないかもしれない。だから頼みたいの。敵を倒すのを手伝ってほしい。お願いします」
「私からもお願い。イラネスは絶対倒さなきゃだから。」
「そんなそんな、頭下げないでください」
年下の異少課達に頭を下げて頼むほどに、そのイラネスは敵だった。
「いいですよ。魔族を倒すのは異少課の務めですから」
「元から手伝うつもり聞いてたしな」
「うん。断るなんてしません」
「ありがとうな」
「「ありがとう」」
美崎がお礼を言うと、その後健心と紬が同時にお礼を言った。
「それで、これがそいつがいる可能性が高い場所の一覧だって」
富山県の地図、そこにいそうないくつかの場所に赤丸がされていた。
他の資料によると富山県の招き猫病のデータからどこから流行り出したのかを推測し、その同心円の中心の位置に赤丸をしたらしい。
「用意ができ次第、それぞれの場所にいって探すつもり。今の間に何か聞きたいことある?」
「皆さんの武器の力、共有してほしいです。知っておくに越したことないので」
「そうだねー。でまず私は……」
佐藤さんの罠作り、成さんの炎舞、姉川さんの治癒。それぞれの力を教えてもらう。お返しとばかりに俺達の力も教えて……。
「さて、行く?」
「準備どう?」
「俺は大丈夫ですよ師匠」
「私もかな。瞬間移動でそこまで連れて行くのもできますよ」
「イラネスはかなりの強敵だからね。イラネスはその力でこの世に存在しない病気を作り出して発症させれる。くれぐれも注意して戦ってね。私の治癒でも病気は治せないから」
「俺の二の舞にはなるなよ。本当にきついんだから」
自分の経験を思い出しながら、虚ろげにそう健心は言った。
それから赤丸の場所に瞬間移動してそこで調べて……を繰り返す。見逃しがないように丁寧に丁寧にイラネスの痕跡がないか調べる。
調べるうちに昼になり、結局それっぽいものも出てこず、最初かなりあったやる気もいくつか削がれていたそんな頃、ようやく見つけた。
「来て来てこの足跡、あのときのイラネスのにそっくりじゃない?」
「どれどれ?……確かにこんなだったような気が……あぁでもあんまり覚えてないな」
「私もこれがイラネスのだったと思うよ。3人共がそう言ってるんだから、そうなんじゃない?」
「この足跡、辿っていきますか」
山奥の森の中、やっと見つけた痕跡を頼りに、イラネスを探す。足跡をずっと追って。
「あの小屋にイラネスがいるの?」
「可能性は高いだろうね。足跡のこともあるから」
足跡を追っていくと、森からちょっと開けた場所にある小屋へと辿り着いた。
「ここらへんは特に足跡があるよ。本拠地なんだろうね」
「それでどうしよっか。ここにいるのが本当にイラネスか確認しないとーとは思うけど」
「私の瞬間移動で一度中見てきましょうか?危なくなったらすぐここに戻ってきますので」
「それ私も行くよ。ちゃんとそれがイラネスか確認しないとでしょ?瞬間移動二人同時に戻すのお願いして良い?」
「2人ぐらいなら問題ないですよ。今までもやってるので確実です」
愛香が瞬間移動して、そして小屋の横へ二人を出す。
壊れかけた壁から、気づかれないようにそっと中を覗く。壊れかけの机の奥、そこに動く影を見つけた。
ハンドサインで戻ることを伝える。この距離じゃあヒソヒソ声も聞こえるかもで、バレるのは避けたい。瞬間移動で逃げたとしても、警戒心を高めさせてしまうから。
ハンドサインに気づき、そして愛香の瞬間移動で戻る。
「お疲れ。どうだった?紬?」
「ちゃんと見てきたよ。やっぱりアレはイラネス。顔つき体つき特徴の何もかも、前見たイラネスの記憶にそっくり」
「本当にイラネスが……。絶対に倒して健心を……」
「ちょっと落ち着け美崎。大丈夫か?」
イラネスがいるとかなりの確率で確信していたとはいえ、こう直にいると伝えられると動揺してしまう。イラネスが因縁の相手なのだから。
「ねえ健心?健心の火使えるかな?」
「見た感じ使える。あの小屋が燃えてしまうかもだけど……少なくとも周りの森までは引火しないって断言できる。そこら辺調節するから」
「じゃあ私が落とし穴作って落とさせて、何にもできない間に火なんかで一方的に倒す。これでどう?」
「なるほどな。ありだな」
「でしょ?」
卑怯だの何だの言われそうだけど、イラネスは絶対に倒さなきゃいけない。病気のためにも。そのためなら、卑怯者にもなるのが彼らだった。
「ってあれ!もう出てる!」
「えっあ本当だ」
「確かにあれはうん。イラネスだね」
隠れながら作戦会議をしていると、小屋から出てきたイラネスを見た。
その姿は白髪の老紳士のようで、人間のようにも見えるけど背中に付いた黒い翼がそれを違うとさせてくる。
「空飛ばれると厄介よ」
「行くか。戦いながら色々と作戦出すから」
「瞬間移動しますね!」
「痛くなったらすぐ言ってね」
作戦会議も中断され、すぐ戦闘へと移る。絶対に倒さないととう強い使命感を持ちながら。
「ほう?」
「急に襲うなんてマナーがなってないですね」
「あんたに言われたくはないな」
瞬間移動でそいつの後ろに移動すると、すぐさま強い炎をイラネスに浴びせる。
ただそれが着弾する前に少し移動して避けて、そして後ろに向いて聞いてくる。
「何がしたかったのですか?」
「倒すんだよあんたを。私の友達を傷つけたあんたを」
「友達を?どういうことです?」
何かしてくるでも無く、ただ目を見て話をしてくる。初めてのタイプの敵で戸惑う。
「招き猫病。知らないとは言わせないよ」
「招き猫病……?はて?」
「病気を流行らせる魔族だってわかってるからね。不思議な病気、招き猫病を流行らせるのなんて、簡単でしょ」
招き猫病?私には良くわかりません。その招き猫病も」
……本当に何かおかしいような。
「あの……」
「埒が明かないね」
「話すだけ無駄か。しらばっくれて」
「やりましょう。招き猫病に苦しむ人々のためにも、健心のためにも」
「神代先輩、どういうことなんでしょう?この感じ本当に違うのかも」
「でもあっちは確定してるんだろ?」
「だとしても……」
元異少課組が絶対に倒さないといった気持ちが出ているのに対し、現異少課組は少し悩んでいた。
「これでどう?」
健心が火を使って技を使い続けるが、そのまま見切って避けている。そんな状況を見ていた美崎が足元に落とし穴を作り、穴の中に落とした。
「健心こっち!」
「あぁ!」
「全く……落とし穴なんて作って……」
だが、イラネスは翼を使い落とし穴に落ちずに近くの地面へと着地する。
「私の話を聞いてほしいのですが」
「碌な話しないくせに」
恨みの籠もった目でイラネスのことを美崎は見てた。
「早く治して。止めて招き猫病と健心の病気を。それぐらいして」
「だから何度も仰ります通り、どちらも知らないのですが……。そのため止めろと言われても、私にできることなど一つもありませぬ」
「じゃあ解決なんてできないよね。ちゃんと治して初めて対話になるってものじゃないのかな?招き猫病に健心の病気を先にしたのはそっちなんだから」
どちらもがそれぞれ主張をし、そのそれぞれが相反することだから、結果話が何も進まない。
まだずっと火やらで攻撃をするも、ずっと受けたまま。防御のための行動はしても、攻撃はしてこない。この状況をずっと見ていると、気持ちも揺らいでくる。
「あの!本当にこの魔族が、成さんを病気にし町に招き猫病を広めたイラネスなんでしょうか?だって、それにしてはさっきから防戦一方で、戦う素振りを見せてないですし……」
声掛けようか悩んでいると、愛香が言おうとしていたことを全部言ってくれた。さっきからずっと気になっていたそのことを。
「私も紬も、確認した。イラネスだって確認したんだ。一人ならともかく、二人が一斉に間違えるとは考えづらい。本当にこいつがイラネスだよ」
「勿論俺もイラネスだと思う。昔出会ったイラネスの特徴とそっくりだからな」
「だから、そんなこと言われても……イラネスというのも分からないんですから」
「じゃあ名前なんなの?」
「私はディジスという名前の魔族です。魔族については……説明しなくても良さそうですね」
「ディジスねー。適当な偽名使ったってことかな」
「本当、信用してもらいたいのですが。私そこまで信用ないのですか?」
「はっきり言ってない。町全体を混乱にしたやつの話すことを鵜呑みにしろなんて無理だろ」
「詐欺は良くないですよ。心につけ込んで操ろうとするのは、酷いことなんですよ」
諭すような言い方でディジスに話すけど、ディジスがそのことをちゃんと聞いていたかは定かではなかった。
とりあえず、結局心は変わらず、ディジスのことで揺れ動いていた。
「話が平行線です……できれば戦いなんてしたくないんですが……あ、そうだあなた方。特にそこのお嬢さん。お嬢さんは私のことを信用してはくれませんか?」
そこのお嬢さんとは愛香のこと。多分さっき本当にこの魔族さんか病気を……といってディジス側に立ったから頼ってきてるのだろう。
「え?あ、あの……私は……分からないです」
「敵だよ。容赦しちゃだめな敵。健心達病気の被害者のためにも」
俺も愛香と同じ、本当にこの魔族が悪いと疑わずやっていいのか悩んでしまってる。
そんな病気を流行らせた非道な魔族にはあまり見えなくて。でも先輩3人が全員同じと言ってるのなら同じなんじゃないかとも思って。
「なんでさっきから避けるだけなんだ?反撃を撃ってくるぐらいできるだろ?なんでしない?」
「反撃しないに越したことはないけれど、でも何か隠してそうで不気味に感じるね」
「火闇雲に使っても避けられるだけか。他の作戦……」
元異少課組はずっと戦い続けてる。こっちが色々と考えてるけどそのことを気にせずに。最初からイラネスとそう決めつけている。
「私もあまり傷つけたくはありませんので」
さっきから質問にちゃんと答えてくれる。律儀と言うかなんというか。
「やっぱり、勘違いしてるんじゃ。昔見たってだけなんでしょ?3人揃ったとしても、昔の記憶じゃそこそこ似た魔族でも同じって思うんじゃ」
「そんなことはない。病気を作る力があるって自白したんだから。能力まで都合よく合ってるのはおかしいでしょ?」
「本当にたまたまあってしまっただけのように思えます……」
「………」
やっぱりどうなんだろ。
「やっぱり、有無も言わさず無理矢理倒すなんて駄目ですよ。勝手に悪だと決め付けて倒すなんて」
「決めつけるも何も健心の病気も招き猫病もやったんだよ。これ以上被害が出る前に倒して……」
「本当に同じなんですか?先輩方3人が同じと言っても、完全に同じとは言えないんです。同じ種族の違うものって可能性はあるんです。過去のことだから大体で覚えたんですよね?なら、種族としての特徴だけで同一と判断してるかもなんです」
「お、おう……」
「愛香……なんか……」
元異少課の3人に愛香が大きな声でそう言った。あのおとなしい愛香がこんなことを……ってなって驚いている。愛香は提案しても強く言うことはあまりできないと思ってた。
「いや……それでも」
「確かに私怒りで前見えていなかったかも。ごめんね」
「……」
なにか言いたげな美崎、素直に自分のことを謝った紬、少し考え込んでいる健心。
「それでも、地図の場所にいたこととか、病気を作る力を持ってることとか、偶然にしては出来すぎてる。あんた、イラネスじゃあないとしても、イラネスのことを知ってるんじゃないのか?」
「いや、本当に知らないのですよ。そのイラネスという魔族の方を」
「どうだか。あと俺はまだあのイラネス本人だって疑ってるから。さっきのはあくまで可能性だし」
匿ってるとか、ここらへんにイラネスはいそうで。
「でもあいつ、さっきから健心の火でも攻撃を避けただけで抵抗もしてこなかったんだよね。もしかして本当に別人なのかも……だったら私、もしかしたらとんでもないことを」
「誤解が解けたようで何よりです。そんなに気を落とさなくても良いのですよ。私は気にしていませんから」
「あ、ありがとうございます」
「本当に?」
「本当ですよ」
「何も悪くないのに火で襲われて、それでいて気にしてない?普通に考えて襲われたら抵抗しそうなもんだが?逃げずにずっと避けて、怪しいけれど」
病気にされた本人、健心は未だにかなり疑ってるみたいだった。
「そんな事言われましても……」
「ディジスさん。招き猫病とか、イラネスのこととか、何か知りませんか?」
「そういえば……」
ディジスは森で見た影だとか、最近起きた謎の事故なんかを話してくれた。直接的なイラネスの情報ってわけではないけど、もしかしたら関わってそうな出来事を。
ただ、途中誰にも見えないような方向で、口元が緩んで不敵な笑みを浮かべていたことには、誰も気づいてはいなさそうだった。
「招き猫病が流行った日に大きな影を見たとかは関係ありそうじゃない?イラネスがここに来て病気を流行らしたのかも」
「ゴホッゴホッ」
「健心!とりあえず座らせて……」
「健心のこと手伝って。あの病気が出たみたいだから」
健心が急遽大きな咳をして、そしてその場に倒れ込む。あの病気の症状と同じ。
「うっ……ぐっ……」
「健心……」
目の前で苦しんでてもなにか出来るわけでない歯がゆさ。嫌だ。
「あ、れ?」
「愛香、おっととと……どうかしたか?」
「あ、なんか急に立ちくらみが……」
「立ちくらみ?えっと……なんか微熱出てない?」
移動しようとしたら何故か愛香が立ちくらみした。愛香も何かの病気か?
近くにいた翔が愛香のことを支えて、愛香のことも適当な地面に座らせていた
「フフフ……ハハハハハ!」
「なんか知ってるの?このことを」
急にディジスが高笑いした。ディジスにみんなの視線が集まる。
「こんなに簡単にことが運ぶとはね。ハハ。結局騙されちゃって」
「どういうこと。何をしたの?」
「何のためにデタラメな無駄話をして長引かせたと思ってるの。ここらに撒いた招き猫病に、かかるとこを見たかったからに決まってるでしょ」
先程までの温和そうなのはどこに言ったのか。外道な悪魔の顔でそう話してきた。
「あーそうそう。イラネスだってのは合ってたよ良かったね。ディジスなんて適当に考えた偽名に引っ掛かって別人説を唱えたのは笑いを堪えるのきつかったよ」
笑いながら自分達に事実を伝えてくる。性格の酷さをこれでもかと伝えてくる。
「健心大丈夫?」
「ああ。許さな」
「話してる最中だってのにさ」
健心は何とか通常に戻ったよう。健心の病気が今たまたま発動したのは偶然のよう。愛香が招き猫病にかかったのを見て本性表したところか。
さっきのを聞いて一時的に戦わない状態にあった健心が、その立場を戻して火を使う。
だが、その火を普通に避ける。そして翼をはためかして空を飛んだ。
「飛んだ!?」
「空じゃ、届かない……」
「火何発打っても当たんねーな。避けんのが早い」
「それより、あの女の子の世話してみれば?まあ、招き猫病が簡単に治るなんて思わないけど。じゃあ、これで。見たいもんは見れたさ」
「待て!」
「追うの?」
「……駄目。悔しいけれど、あの速度で空飛んでるのを、私達は追いつけられない」
空を飛んでここから逃げていくそいつを目で見て、更に強い憎しみを向けていた。
「はぁ……はぁ……」
「愛香?」
「うん……私……」
少しして、座って休んでた愛香が立ち上がって目を元異少課の3人に向ける。
「ごめんなさい!私、簡単に騙されて……」
「私が、簡単に信じなければ……名前が違うのを重視して別人と考えて……」
「愛香、俺も……」
「確かに騙されやすいとか、すぐ信じるのとか、警察としては致命的だな」
俺が愛香のことを自分も思ってたからと庇おうとしようとしたが、その言葉は成さんに阻まれる。
「警察は正義を元に悪を消し去る場所なんだから、そこの判断をミスったら過去の事実でさえ関わってしまう。分かる?」
「……はい。分かります」
「健心の言ってることは棘があるけど、本当は大事に思ってるからね。そこまで心配しなくてもいいよ。次から気をつけようね」
紬が健心の言ったことに補足する形で伝えた。
「ぐっ……うっ……」
「愛香……」
愛香が瞬間移動で警察署内に戻し、とりあえず6人全員で異少課の部屋にいる。
愛香は酷く苦しんでる。さっきから熱も酷い。
早く何とかしないととは全員が分かってる。
でも警察署に着いてから愛香はずっと酷くて、とてもじゃないけど瞬間移動なんてさせられない。というかできそうにない。
「おっ、まだ帰ってなかったのか。ちょうどいい。買ってきたたこ焼き食うか?」
「石山さん!そんなことより……」
石山さんが外から帰ってきた。石山さんに今までの経緯をとりあえず説明して、そして最後に
「私達はイラネスを倒さないといけないんです!連れてってもらえませんか?」
「ちょっと待て一気に言うな理解ができん。招き猫病?……中度から重度か……」
この前貰った招き猫病の検査機器。愛香に使うと反応して、重い状態であると伝えてきた。
「……パトカー今すぐ出す。どこに連れてけばいい?」
「この場所で、さっきいた場所で戻ってきてるかも」
スマホを取り出して、行くべき場所を伝える美崎。それを見て石山さんは無言で頷いた。
「でも愛香のこと……」
「警察署の誰かに頼む。何度も戦って負けた強い魔族が相手なんだろ?戦力は多い方がいい。パトカー駐車場の端にあるから先乗っとけ。看病頼んでから行く」
「了解しました」
割と適当な石山さんが、たまに見せるちゃんとした顔だった。
「乗ったな。念のため全員これしとけ」
「招き猫病の検査機器。なるほどあの場にいたから」
スピードをできるだけ上げて、サイレンを鳴らしてパトカーは大きな道を南下して山の方へと行く。イラネス討伐のために
「軽度の招き猫病か。正直俺は休んでてもらいたいんだが、そうはいかないんだろ?」
全員で検査をした。そうすると全員が軽度の招き猫にかかってることが発覚した。あの場にいたんだもの。
「はい。私達はイラネスを倒さないと。療養なんて待ってられません」
「だろうな。軽度なら戦うのも許す。ただ中度になったらその時点でそいつは戦闘禁止だ。少しでも疑わしいことあったら休め。無茶したらぶっ飛ばすぞ」
「はい!」
パトカーの中に強い返事が響いた。石山さんがさっきからちゃんとまともで、なんかおかしいもの食ったのかって失礼なことを考えてた。
「これ以降は無理だな。よし行ってこい。」
山の方へと近づくに連れ、道路はどんどん荒れていく。これ以上行けないとなった場所でパトカーから降りた。
「さてと、行きますか」
「もう絶対騙されるんじゃないぞ。イラネスは信用ならないんだ」
「戻ってる。いいぞ」
「作戦考えよ。今度こそ完膚なきまでに打ちのめす作戦を」
さっき戦ったあの場所、戻るとイラネスを見つけた。さっき空飛んで逃げていったけど、結局ここに戻った。ここが住処だったってことなんだろう。ちょうどいい。
「少なくとも逃さずに。逃げる前にすぐやるか、逃げようとしても逃げられない状態にしてじわじわやるかは考えないとだね。あんなやつ絶対負けそうになったら逃亡するもん。羽使って」
「火で燃やす。そうだ電気は?電気の技で痺れさせて逃さないようにとかできない?」
「うーん……」
考え込んで、最後に「あんまり期待出来なさそう」とやんわり断った。さっきは電磁を使うことなく終わったから電磁効くか分からないし、痺れさせても逃げられるかもしれないから。確実性は持ち合わせてない。
「逃げること考えなければ、防御役回復役攻撃役とバランスいいパーティなんでけどなぁ」
「美崎の落とし穴に落として、上ってくる前に上から徹底的に攻撃して上がらせないのは?」
「それいいかも。最初からやると倒し切る前に対策されそうだから、最後に」
「……うん!私が最初隠れてみんなで結構削って、結構削れてきたら私の落とし穴で落として逃げる前に一気に畳み掛ける。これで行こう」
「美崎キーパーソンだからね。頑張ってね」
「こっちは任せとけ」
話し合い、作戦は決まった。さて実行に移そう。
「と、準備もできたっぽいか。321で行こう。3,2,1」
奥の方を向いててこっちは見えてないイラネス。茂みの中から一斉に飛び出して、走ってイラネスの元へと行く。
「この火で!」
「電磁、効け!」
「じゃあ俺も、空気球を」
新が電磁で、健心が炎舞で、そして遅れて翔が空気球で狙う。こちらに気づかず避けることもできず、全部がイラネスにクリーンヒット。ちゃんと削れてたらいいな
「はっ」
「それっ」
「またお前達か、わざわざ戻ってくるなんてご苦労さん。……止まろうともしないのか」
「そっちが卑怯をするならこっちも卑怯をするまでだ」
敵が言葉を発している最中に攻撃する。というのはゲームや漫画の世界だと卑怯と言われるようなこと。だけれども、ここは現実世界。それに、あっちが卑怯な手を使って騙して病気にした。卑怯には卑怯で返す。
「痛っ……」
「戦うのもできない病気を流行らせるだけのものだと?残念ちゃんと爪で引っ掻けるんだよね。どう?痛い?」
「健心!これで大丈夫?」
「うんうん。ちゃんと痛み引いた」
イラネスの爪で引っ掻く攻撃をくらっても、こっちは回復技が使える。長引かせることはできる。
「まずは一人、その盾を持つ者からさ」
「ちょ、おわっ、これ、強い、耐えて、見せ」
一人、翔にターゲットをロックオンして、爪で引っ掻くを繰り返す。今は全て何とか盾を巧みに使い、盾が外れないようしっかりと持って、全ての攻撃をいなした。
「ちょっと、くるな……」
ただこれだけでも体力は多く使う模様。こっちは長引かせられない。
「電磁もあんまり効かないか」
「あんまり怒らせないほうが、身のためだ」
不敵な笑みを浮かべながらイラネスは喋る。不気味というか不快というか、そんな感情を抱いた。
攻撃自体は一辺倒。爪の切り裂き方に多少違いがあると言っても、爪で切り裂くといったことは変わらない。
ただ何か、長い時間かけるのは駄目な感じがしてならない。
「うっ……ふっ……」
「鈍くなってる鈍くなってる。どう?」
攻撃をくらってる翔の動きが鈍くなってる。最初に比べて盾で攻撃を捌くのが少しゆっくりになってきてる。
多分これは疲労からくるものじゃなく病気からくるもの。このイラネスならそうだろうなと。
「急いだほうが良いみたいだな」
「私治癒使うけど、あんまり効果はないみたい?」
「はぁ……はぁ……」
火と剣で相手の体力はどんどん削れていると思う。でも割と体力あるタフな部類なのかそんな素振りが見られない。
「こんなもので守れやしない。そろそろ限界なんだろ?」
「まだ……まだ……」
でもこの感じ、翔のほうがイラネスよりも早く倒れかねない。治癒があると言っても無限に打てるようではないみたいだから
「攻撃しながら避けるのは可能?」
「完全に避けるのは無理ですけど、大半なら避けられます」
「……よし。一旦盾を休ませて、そこそこに動けるまで俺達が盾無しで戦う。どうだ?」
「翔はこのまんまじゃ倒れそうですから……そうします。」
盾無しの危険度は分かってるけど、このままじゃ早かれ遅かれ倒れて同じことになる。ならば翔のことも考えた最善策をとる。
「よし分かった。気を引くのは任せろ」
大きな火でイラネスをの視界を遮る。健心に釘付けになって翔のことは眼中から消えるぐらい。
「翔、一旦森の方で休んどけ。倒れられたら困る」
「ふぇ?あ、分かりました師匠」
治癒技じゃ何ともならない、自然治癒できるのかもわからない。でもできるだけ対策を取りたい
「ははっ、ふははは」
「思った以上にきついな……」
「治癒はまだ使えるよ。でもね、あんまり喰らわないでほしいかな」
「こっちに来るな。燃やすぞ」
翔を休ませてる間はさっきとは比べ物にならないほどかなりやばい。攻撃を見て避けれるほどの弱い攻撃じゃないもん。
「やるしかない」
着実に体力は減っていってる。今そんな素振りが見えてきた。先は長そうだけど……。
「おりゃぁ!」
この剣でイラネスに傷をつける。イラネスを痛めつけて鈍くさせて倒す。
「うわっ……健心……」
そんな戦いの中、1人遠くからその様子を見ていた彼女、佐藤美崎。
作戦のためとはいえ、1人ここで待つだけなのは少しばかり心にきてた。健心らが爪の攻撃を受けると特に。
「私も行こうか……駄目だ駄目だ」
助けに行くという考えはすぐ捨てる。私は作戦の要、私がいると悟られたら最後の落とし穴にちゃんと落とせないかもしれない。
うん。
「私はここで見てないと、ずっと見ていて、タイミングよく落とし穴を作って落とさないと」
イラネスは絶対に倒さないといけない悪だから、そのために助けに行かないとといったことは我慢した。
「後で焼肉屋さん行こうっと、健心と紬と3人で」
少しの笑顔が見えていたけど、すぐにここの状況を思い出して真面目な顔に戻していた。
「ぐぎゃぁぁぁ!よくも……」
「これ、大ダメージ入ったってこと?だよね?」
「だろうな。よし」
戦いをしてしばらく、ついにイラネスに大ダメージが入って悶え苦しみ始めた。
同じところを執拗に狙うとその場が弱くなって、最終的にはそこを突破できる。
剣でそこを切り離せた。そして悶えている今がチャンスだと、剣や電磁や炎で一杯攻撃した。
「良くも私をやってくれましたね。そんな分際で」
何か言ってるが無視、応えたところで何も変わらないのだから。あと悪と話したくない。
「そろそろ、かな」
隠れてずっと様子を窺っていた美崎は、イラネスの残り体力が少ないことを感じ取っていた。言動、動き、そんなものから意外とそういうのは分かる。
「あ、うん」
よく見てみると、紬が右手でサインを送ってた。YESを表すサイン。つまり、今やっていい。やるべきってこと。
「絶対に落ちるように場所を決めて、ここに決めて、後はタイミングを見計らって、今!」
間違えてイラネス以外が落ちてしまわないよう、そしてイラネスが必ず落ちるよう、ちゃんと考えて落とし穴を作った。
その落とし穴は見事に、イラネスを落とした。急に穴が出来てそこに落ちて、さぞ驚いていることだろう。
「落ちたってことは、よし、行くぞ!落ちてる間に全て決める!」
イラネスの体力もかなり少ないことを悟って、もうそろそろ美崎が仕掛けてくれるかなと感じていた。今美崎がやってくれた、イラネスが逃げる前に倒す!
落とし穴を上から見ると、地面に這いつくばってピクピクしている。酷くお似合いの姿だ。
今すぐは動けないだろう。また動く前に、恨みを込めた一撃を。
「燃やし尽くせ」
最大の火力をもって、穴の中に炎を巡らす。さっきまでのとは比べ物にならない。穴の中だから炎が簡単に回って、イラネスの体をずっと覆う。
「一応、電磁を……」
「師匠、空気球って使ったほうが?」
「翔もう大丈夫なのか?あと空気球は炎が酷くなるからダメ」
「分かりました。あともちろん大丈夫。少し休んだら疲れてたのも少し取れた」
火力が強すぎてこの中には入れない。遠隔攻撃で何とかできないかとちょっと模索していた。
「健心?どう?」
「健心……。治癒使うね」
隠れていた美崎、後方にいた紬もここに来た。でもそっちの話があまり入って来ないほどに、ずっと穴の中で燃えるのを見ていた。
「倒れるところを見ないと」
それは義務感というか、でもやらないといけないと、感じていたことだった。自分を長い間酷い目にしたそのものが苦しむのを、近くでずっと見ていたかった。そんなぐらい、ちょっとおかしくなってたよう。いつもはならない不思議な感情を抱いていたよう。
「なるほどなぁ。わざわざこのために隠れてたなんて」
「お前……」
声が聞こえて、炎の穴の中から翼をはためかしてイラネスは出てきた。
倒せなかった。このまんまじゃ逃げられる。なんとかしないと
「燃やし尽くせ」
周りのこととかはあまり気にせず、ただ強力な火力で火を当てる。それでも、火を当てても、羽ばたくのを止めて落ちるなんてことはなくずっと飛んだまま。
「もっとやりたい。ちゃんと苦しむとこまで見てみたい。なのにさぁ」
「電磁、やっぱり……剣は届かないし……」
新は電磁の技を使うも、その技はやはり効いてない。ちょっと痛みを与える程度。
「何か、何かできるのはないの?」
「美崎、私も考えるね。空を飛ぶものを落とす罠を」
美崎の罠もどの罠を作るべきなのか分かっておらずあたふたしてた。紬も美崎の考える手伝いをしていたけど全然進んでない。
「はぁ。残念、じゃあまた、お疲れさん」
悪意を顔に見せてここから飛んで逃げようとしている。逃げられちゃう。
「燃やし尽くせ!」
逃げないよう、火でずっとやってる。何度も何度も。
「空気球!落ちろ!」
「はっぁ!?」
もう無理だ。なんて諦めていたら、翔が空気球を飛んでいるイラネスへと当てた。
空気球は言うなれば強風。急に来た強風に翼かよろめき、声にならない叫びを上げて地面へと墜落した。
「今のうちに!」
新は急いで落ちた場所へ、そして剣でイラネスを攻撃。
「燃やし尽くせ!」
健心は新に当たらないように火を、そして
「私落とし穴作るね、だから離れて」
美崎が落とし穴で地面に落ちたイラネスを落とし、そうして
「燃やし尽くせ!」
またしても、健心が同じように最大火力をぶつけた。イラネスの身体を火で包んだ。
「ぐっ……よく……も……」
落とし穴の中からは、最後のあがきみたいなそういう声だけが聞こえて、そうして火の音しか聞こえなくなった。
炎は段々と小さくなっていき、やがて消えた。
中に残ったのは、地面に倒れてピクリとも動かない、イラネスの死骸。炎により黒く燻り、どう考えても生きてはいない。
「良かった」
「良かったね、健心」
「うん。本当に……」
「泣いてる?はいこれ」
「ありがと」
紬から受け取ったハンカチで目からほろりと流れてきた嬉し涙を拭く健心。戦いに負けて、健心が病気にかかった日からの恨みとかそんなのが、やっと報われたような、晴れやかな気持ちになっていた。
「これで、愛香は助かる?」
「そう思いたい」
そう。イラネスを倒すことでこれ以上イラネスが新しく病気を流行らせることはなくなる。でも、すでにかかってしまった招き猫病が大丈夫なのか。そこが分からず不安は残る。
「一旦帰ろう。石山さん待たせてるから」
ともかく、ここにこれ以上いても意味がない。帰って愛香のところに戻って、大丈夫なところを見ないと。
「乗ったな。イラネスはちゃんと倒せたか?」
「うん!健心が火でやってね、死んでるのも確認した」
「おう。テンション高いな。当然か」
パトカーの中、石山さんとの話をしながら警察署へと戻る。
石山さんは元異少課組がいた頃から異少課で働いていた。元異少課組がイラネスによって異少課を辞めてしまう事になったのも、全て近くで見ていた。気持ちもかなり分かってる。新や翔よりも。
「そういや思ったんだが、異少課に戻るのどうだ?異少課をできなくなったのはイラネスが成にかけた病気のせいで、イラネスを倒してその病気も無くなれば戻るのもありじゃないか?」
「あぁ……ごめんなさい。私高校の部活動が忙しくて、ちょっと無理そうですね」
「私もそうだな〜。それに、単位がギリギリで、異少課いたら楽しそうなんだけど、流石に留年かかってるので」
「俺も戻るのはな。もう異少課が新しく変わったんだ。後輩に任せようかなって思ってな」
そう言って、健心は隣にいた新の肩をポンと叩いた。
「でも、なんか困ったら先輩頼れよ」
「うんうん。私達お姉さんを頼って良いんだからね。全然迷惑じゃないから」
「いつもは無理だけど、偶になら呼んでほしいな。異少課にいるのはやっぱり楽しいから」
元異少課組の3人、全員異少課に戻ることはしない。それは今の異少課の新達に託してるように見えた。
石山さんが運転するパトカーは警察署へと着いた。警察署の異少課の部屋へと急ぐ。
「愛香!」
「おーうるさいな。ちょっと静かにしてあげてよね」
「あ、で愛香は?」
「ほら」
異少課の部屋にいたのは石山さんが愛香のことを頼んだ警察の方。その方に優しく注意され、そしてその方はソファを指指した。
「zzz……」
ソファにいたのはスヤスヤと無邪気に眠っていた愛香がいた。苦しまず、安らかに眠る姿。さっきまで焦っていたけれど、この姿を見ると焦りもなくなって心が落ち着いた。
「少し前まで凄い苦しんでいたけれど、突然苦しくなくなったんだって。急に平常に戻ったからちょっと驚いたよ。そしたら座ってたソファで眠ってね。疲れてたんだろうなぁって」
愛香を起こさないよう、小さめの声で愛香のことを伝えてくれた。愛香を見てくれたことなどに対し、俺、そして翔は「ありがとう。」といった。
「愛香本当に苦しんでいたのが嘘みたいですね」
「本当。ちゃんと直ったってことだな」
「愛香目覚めた?」
異少課の部屋で静かに目覚めるのを待っていた。その間凪から「急に苦しいの直ったけど何かしたのか」ってメールが届いたり、「私達はここにいなくてもいいかな。」って言って元異少課の3人が帰ったりした。
「私……はぁ……先輩方がどうにかしてくれたんですね。ありがとうございます」
「本当に全て治ったってことでいいか?」
「そうですね。熱も気持ち悪さも全部感じてませんから」
「まあね。結構頑張ったからなぁ」
「倒したんですね。イラネス」
「苦戦したけど、何とか倒せたよ」
「こんな感じの戦いでな……」
翔が今日起こったイラネスとの戦いを愛香に聞かせた。愛香は熱心にその話を聞いていた。
「ありがとうございます。翔さん。神代先輩」
そうしてもう一度、イラネスと戦った2人にお礼を言った。
「繁からメール来てる。……良かった」
繁からのメールは凪の招き猫病が治ったこと。ちゃんと平和な異少課の日が始まることに嬉しく思ってた。
「ねぇ、健心どう?ちゃんと治ったんだよね?」
「ああ。こんだけの日時ありゃ今まで1〜2回は起きてたけど、全然起きてない。普通そのもの」
「健心本当嬉しそう。私にも嬉しさ伝わってくるな」
事件が起きた日の後日、3人は電話で話し合っていた。あれから数日は経っている。
「そうそう。あの後で純のとこ行ってお礼もかねて純と恋と3人でミック行ってきたんだ〜楽しかったよ〜」
「そうなの美崎?私にも言ってほしかったなぁ。純に頼んだからイラネス見つけられたんだから」
「ごめんごめん。あの日仕事あって夜遅くまで2人共帰れなかったらしいからさ、別の日に行ったの。わざわざ呼び出すの引けちゃってさ〜」
「健心、私達2人だけで探偵事務所訪れるのどうです?」
「いいなそれ。お礼言わないとな」
「ああもう〜私だけ仲間はずれなのやなのに〜」
「言ってくれなかった罰ですよ」
言ってくれなかった美崎に対するささやかな嫌がらせ、それを紬は健心と共謀してしようとしてた。
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