第25章 知り合いだらけの中学校
冬休みが終わり、また中学校に行くようになった。個人的には学校はまあ好きだ。俺が未だに知らないこっちの世界のことを知れるから。
今日も1日授業終わり。今日は生徒会の集まりがあるので、いつもの生徒会の部屋へと向かう。
「あっ凪。よっ」
「悠、何かしてる?」
「ちょっとこっちの部活動の方もやらないといけなくてな。ほらほら、中学校説明会2月にあるだろ?部長として新入生に印象づけたいからさ。ところで、二人はまだっぽい?」
「あのクラス終わるの長引いているみたいね。気長に待とうね」
「すまぬ、一つ一つ丁寧に進む時を無駄にしてしまったようだ。」
「先生の話長い。面倒くさかった」
「玲音、先生も悪気があってやったわけじゃないだろうから、ここは許してやろうじゃないか」
少しばかりして、残り2人もやってきた。
面倒くさがりな会計仙仁玲音、中二病の書記有形英澄、庶務の根高凪、怒りっぽい副会長伊良皆羅沙、そして凪の友達の真面目な生徒会長紫尾悠の5人からなるそれが、中央中学校の生徒会である。
「よしっと、それじゃあ早速始めようじゃないか」
「早速だが、最近夜の学校に勝手に入って色々としている生徒がいると先生方の間で噂になってるらしい。教室の机が動かされていたり図書室の本がズレていたりと。生徒会としては、ほっとくわけにはいかないんでね」
「でもどうやってやるの?誰がそれをやってるかなんて分からないんでしょ?」
「素行が悪い人に目星をつけているらしいが誰かは分かってないと。許可取って実際に捕まえるしかないかなとは思ってる」
「それが一番確実に捕まえる方法だな」
こっちに証拠があるわけじゃない。犯人が誰かもわかってない。それ以外に良さそうなものはなさそう。
「夜の学校、我楽しさに物凄く興奮しておるぞ」
「夜にまで学校いくなんて面倒くさい。行かなくていいでしょ」
「もう玲音は。面倒くさがりすぎ」
「面倒くさいのは面倒くさいもん。やだ行きたくない」
「ちょっと玲音!一緒に来てよ楽しいよきっと!」
「えー……」
本当に二人正反対だな。でも仲は良いみたいだけど。
「でもそいつらがもっと危険なことしたら本当に大量の仕事やらないといけなくなるけど」
「分かった、そっちのほうが面倒くさいならいいよやるよ」
面倒くさいことが増えないように仕事はちゃんとやる。それが玲音だ。
「うんうん。じゃあねー」
「またです。川崎さん」
恋はいつもと同じように中学校に取材を建前に入っていた。いつも取材に協力してくれているとある部活の子達と別れの挨拶をして、中学校を去る。
「場所はわかったからいいかな。できればもうちょっと知りたかったけど、あの子達あんまり知らないみたいだからなぁ」
取材は建前、本当の目的はこの前偶然知った中学校の異世界で異少課達が色々とした件を探ること。
学校の怖い話特集としてそこそこの生徒に聞いたらその噂は知ることができた。
学校の東階段には1つ赤色の場所がある
そこを踏んでしまうと、神隠しにあってしまう……
噂のことからその場所が分かったことだけは大きな進歩であった。
「それに、窓の鍵も開けておいたから。」
学校に侵入しやすくするための準備、その部活の部室の窓の鍵を開けておいた。
「ってことらしいですよ」
「そうか、調べてきてくれてありがとな」
山井探偵事務所にて、今日調べてきたことを報告している。
「鍵開けてくるのも」
「勿論してきてまーす」
「そうか。じゃあそこから入って東階段、……これか。ここに行くってことだな」
「確認確認っと」
ネットで拾ってきた中学校の地図を元に、中学校に侵入するルートなんかを二人で共有する。
「ちゃんと成功しますよね。きっと」
「きっとな。祈っている」
夜、21時。生徒達は全員帰ってるこの時間。職員玄関前にて。
「面倒くさい眠い……」
「全く玲音は……分からなくもないけれど」
「本当にこんな時間に生徒がいるのか?どっから入ってきてるんだが」
「さてと、開けた。そうだこれ、懐中電灯。流石にこの誰もいない時間に電気点けたら近所の人から何か言われるだろうから」
生徒会メンバー5人。目的は夜間に侵入していると思われる生徒を見つけるため。そのために夜の学校へと入っていた。
「やっぱり夜の学校ってテンション上がるね!もう楽しい!」
「ちょっと英澄、テンション上げすぎよ。もうちょっと抑えて、夜なんだから」
「でも今は誰もいないでしょ?だからいいじゃない。テンションあげても。すっごい今ワクワクしてるんだから!」
「やめなさい」
「はっ……はい……」
前途多難そうである。
生徒玄関からズックを取りに行き、調査開始した。
「純様ここです。ほら!」
「恋、静かにね。バレたら説明がややこしいんだから」
「そうですね。ごめんなさい」
場所は変わってとある部室の窓の前にて。
「ここの部室を出て、左に行って右に行ってですね」
探偵達2人。目的は異少課が昔解決した七不思議の一つ。そのために夜の学校へと侵入していた。
「でも、流石にバレませんよね?この時間ですし」
「念には念を。目的達成目前で油断して失敗することはある。ここで見つかったら調べることも叶わなくなるかもなんだ。慎重に」
「そうですね。より一層気を引き締めました。ドア、開けますね」
「ああ、行くとするか。人影に注意しろよ。誰かいるかもしれないから」
こちらは結構慎重に、目的を遂行しようとしていた。
「さてと、ここから……よいっしょっと。いてて……」
「夜の体育館、暗くて誰もいなくて、少し寂しいなっ」
更に場所は変わって、体育館近くにて。
「さてと、場所分からないから探さないと。時間はあってるよね。もっと後じゃないと思う」
「確か体育館の鍵は事務室、すみません勝手に入りますね。後で必ず返しに来るので」
とある子1人。目的は現状不明。
体育館の壁にある小さな窓から小柄な身体を生かして入り、とある目的のため学校の夜の校舎へと行こうとしていた。
「呪われたSSR装備、これを付けた我が最強だ!そう思うだろ?」
「面倒くさい」
「ズック履くだけでこうなるの?」
生徒玄関前、外履きからズックへと履き替えた生徒会メンバー。
二手に別れようと、適当にグっとパーで分かれる。
その結果、玲音と英澄、悠と凪と羅紗の2つに分かれてやるということになりそうだが、なんかそれは嫌な予感
「そっち大丈夫か?」
「見くびらないでよね。隅々まで探して必ず見つけてやるわ!」
「おー」
「どうする?」
「この2人心配だな。仲良さそうなのは分かるけど、それ故暴走しそうで」
「やっぱりブレーキが必要ね。私行こうか?」
「うんおねがいしたい。」
やる気があるのはいいけど中二病が暴走しそうな英澄を玲音が止めるわけない。暴走してるのを見て面倒くさいと雑に流す気しかしない。
「えっ、羅紗も来るの?」
「私英澄といるから副会長来なくていいよ」
「玲音は面倒くさいだけでしょ。羅紗はともかく、玲音は仕事サボらせないからね」
「えー……」
他3人と分かれて悠と凪は学校内を探索する。
「凪ってそういや妹いるよね、やっぱり妹っていいもの?」
「いいよ!繁は可愛くてそれで……」
「妹の話になると凪はすっごくテンション上がるよな」
「そう?」
「ん?あれ」
「どうかした悠?」
「さっきあっちのコンピュータ室とかがある方で光が見えたような。ちょっと来て凪」
「分かった」
少し早足でそこへと急いだ。
「見た感じ、誰もいなさそうですね。先生も含めて、みんな帰ってそうです。こっちですよ」
窓から侵入した探偵2人は、懐中電灯を手に廊下に出て歩いていた
「さてと、うん?いや気のせいか?」
「どうかしました?」
「いや、いま誰かいた気がしてな」
「風ですかね?あるとしたら。っ!純様!」
誰かが歩く、足音が聞こえた。数は2人ぐらいか
「あぁわかってる。とりあえずトイレにでも隠れるぞ。懐中電灯は消しとけ」
「あ、はい純様」
言われるがままに懐中電灯を消し、横にあった女子トイレへと隠れる。トイレの個室へと二人で入り鍵をかけた。
「この時間に誰が?」
「分からんが、見つかったら色々とマズイことに変わりはないな」
小さな声で話していた。
「ここらへんに光が見えたはず」
「いないねでも。2階行った?」
生徒玄関からまっすぐ光が見えた場所へとやってきた凪と悠。流石に廊下の電気を付けてそこそこに長い廊下を見ていた。
凪はそこの階段を指さしてそこから2階に上ったと推測。この廊下は長い直線で奥が行き止まり。1階の通路を使って生徒玄関の方へと行くか階段で2階に上ってから通路を使って3年生の教室がある所へと行くかぐらいしかない。
「多分この近くで隠れてる。足音が聞こえない。俺達が来たのに気づいて咄嗟に隠れたんじゃないかとは思う」
「やっぱりさっきまで人がいたって考えるほうが自然みたいだな」
「いや、誰かがここら辺にいたのは確実。ほら、この部屋のドアが開いている。ここは俺の部の部室。今日部活に最後顔だけ出して終わったんだが、その時部屋の鍵を締めたんだよ。なのにほら、開いてる」
「てことは……」
その部屋へと悠は入る。
「やっぱり、今確認したら一つの窓だけ鍵が開いてた。ここから学校に入って部屋の中から鍵開けて廊下に出たんだな。このドア中から開ける分には鍵を必要としないから」
「もしかして、そこから誰か出たのかも」
「いや、それはあんまりなさそう。窓の鍵は開いていたが窓は閉まってた。俺達に気がついて急いで出たのなら窓を閉めてる場合じゃない。それに、部室が全く散らからず綺麗。急いでたのなら物を倒したりしてそう」
悠は自分なりの推理を展開していた。
「悠すごっ。俺の知り合いの探偵みたい」
「部室を訪ねてくる探偵の助手をやってるらしい高校生がいて、それを真似ただけ」
「どうしましょう純様。多分外にいるの凪君に悠君ですよ。」
「悠君?」
「純様に言ったことなかったですね。悠君は私の中学校の取材の際にお世話になってる部活があって、そこの部長さんです。生徒会長もやってるらしくて」
「知り合い2人、見つからないのが最善とはいえ、最悪見つかったら探偵の調査の関係だとか最もらしい理由つけてゴリ押すとするか。どっちも恋の知り合いなのなら話も聞いてくれるだろう」
「悠君も私が探偵の助手をしていることは知っているから、大丈夫そうです。それと純様、悠君は足音とかから気配を探るのに長けています。より慎重に行動したほうが良さそうです」
女子トイレの中、侵入した探偵2人は外の声を聞き、誰がいるのか、これからどうするかなどを小声で話し合っていた。
「2階か?やっぱり。奥の非常口は開いてなかった」
「コンピュータルームだとか技術室だとか、まあ無理だろうな。鍵閉まってたんだろ?」
「うん。最初から鍵持っててバレないように入ったあとに内側からかけたと考えても、まあないよね」
「時間もきついし、ゴロゴロって扉を動かす音が聞こえてきそうだからな。トイレ見るか」
「あぁトイレ。じゃあまずは男の方から」
男子トイレへ二人で調べに入っていった。
「どどどどうします純様!この流れこっちにも来ちゃいますよ」
「開けずにだんまりを決め込む。いや無理そうか。仕方ない。走って逃げる」
「はい。分かりましたっ」
扉をいっぱいに開けて、そして走って逃げ出そうとした。ここから離れて生徒玄関の方まで行けば、ギリ逃げ切れそうで。
「いたっ!」
「悠!?悠?隣の女子トイレ行ったのか?」
一気に扉を開ける音、走る音。隣のトイレから聞こえてくるその音が聞こえないはずはない。
「誰?」
悠は音が聞こえてすぐさま隣のトイレへと入る。その速さは隣にいた凪に消えるようにいなくなったと感じさせるほど。
そして女子トイレに入り、女子トイレの電気を点けた。
「うわっ!」
「って、川崎さん?」
「……」
純の思考はこの場をどう乗り越えるか、それでいっぱいだった。
凪も合流し、とりあえず廊下に出る。
「で、なんでこんな時間にいるんですか?」
年の差にも物怖じず、問い詰めるかのように悠は問う。
「いや、まず川崎さんは分かりますけどこっちのはどちら様ですか?」
「私は山井純。恋とは探偵と助手の仲」
「うん。二人で山井探偵事務所をやってる高校生なんだと」
「ちょっと待って、凪知り合いなの?」
「うんうん。とあることでお世話になってる探偵方だから。それより悠は悠でなんで川崎さんを?」
「川崎さんは高校の新聞部で、よく中学校に取材に来るんだよ。取材で俺達の部室にも良く来るからな。山井純さんの方は初対面。探偵の純様のところで働いていると川崎さんから聞いたぐらいで、もしかしたらその純様かな」
バレたのが知り合いだったのが不幸中の幸いとはいえ、この盤面はかなり危ない。
恋も手の平から冷や汗が出ていた。
「まあそれはいいとしてなぜここに?」
「あんまり詳しくは言えないけど、私達はある人から探偵として依頼を受けた。その依頼を解決するのに夜の中学校に入る必要があったんだ。だが正当な方法で入る許可を得るには時間がかかり、依頼者は都合によりできるだけ早く解決してほしいとのことだった。それで、悪いとは思ったが学校に侵入したというわけだ」
さっきから今までに咄嗟に作ったそれらしい理由。そして純は得意な演技で、それが本当かのように声のトーンや抑揚をつけて話した。
「依頼内容は言えない感じですか」
「守秘義務があるのでそこは言えない」
物言いで牽制する。こういうやつは優位に立てばより思い描く方向に話を持っていきやすい。
「どうする?悠?」
「探偵だってのも本当のようだし、何より俺も悠もお世話になってるのなら、その恩を返してみようと思う。写真を撮らさしてくれないか?生徒会の別のメンバーと別行動してて、そのことを伝えるから」
「ありがとな」
「ありがとう。悠君も凪君も」
何とか騙して、何とか許しを得た。やっぱり知り合いを誘導させるのは知らない人より楽。
悠がスマホのカメラで2人の写真を撮る。
「そうだ。2人って昨日とか一昨日とか、そこらへんのときにも夜に侵入したりしてます?」
「いやいや、私達は今日が初めてだよ。」
昼に恋が行ってはいるもの、夜の侵入は今日しかしてない。
「やっぱりか。となると探偵2人は事件とは無関係に学校に来ただけか」
「そうだろうな。俺達は……」
凪君から生徒会で学校に侵入して色々とやってる人がいるのでその調査をしていることを聞いた。
「それで、怪しい人がいたら俺達に報告してほしいです。俺達とこの3人の女子以外に学校にいる人をもし見かけたら」
「俺からもお願いしたい」
「うん。見かけたらね」
流石にここに本気を出すことはないけど、もし見たら報告しようか。見逃してくれた恩を返すのも含めて
「さて、私達3人で暗いダンジョンの探索を……」
「あー面倒くさい。雑にやっておわらせよー」
「話を聞いて!」
「私この二人まとめられるかな」
一方玲音、英澄、羅紗の生徒会の女子3人は3人で別の場所を調べていた。
「なにもないわね。もう少し宝箱がおいてあってもいいのに。ワクワクしないわ」
「ふわぁ……。学校で寝たら明日登校する手間省けるかな」
「あぁもう!玲音はちゃんと家で寝なさい。英澄はもう少し真っ当に……」
「うるさいぞ羅紗」
「もっと静かにして副会長ー。頭がガンガンするから」
「私怒られる筋合いないよね!」
玲音も英澄も個性が強い。お疲れ様である。
言うて英澄は声がそんななだけで行動は真っ当というか頑張りやな性格も相まってむしろ良いほうなのだが玲音はまあ酷い。
うるさくない代わりに行動を全く起こそうとしない。常に無気力。この世のほぼすべてのことを面倒くさいで一蹴する。
「玲音、羅紗。気づいたわ。この場に忍び込む不届き者は、芸術の都、美術室にいるってね」
体育館の近くにある美術室。芸術の都と言われるほどではない。
「ん?何で英澄?」
「我の能力(アビリティ)、天から舞い降りた天啓によってね!」
「勘?」
「そうとも言うわ」
「勘じゃない。もっとちゃんとした理由があると思ってたら。これ仕事よ。遊びじゃないのよ。やる気がある分いいけれどさ」
「でも今理由なく闇雲に探すのもあまり良くはないわよね?なら勘に頼ってみるのもありじゃないかしら?」
「えっ?そう?本当に?」
分からなくもないような気がするようなしないような。分からん。
「なら行くわよ」
「英澄、引っ張らないで。痛いから」
「あぁごめん。さあ気を取り直して行くわ」
「私まだ決めてないのに、引っ張らないで!」
前途多難
「これで開けられたっと」
体育館に小さな窓から無理やり侵入したとある子。事務室から体育館の鍵を探すのに少し手間取ったものの、体育館の鍵をやっと開けて出た。
「今日もいるねこの感じ。でも場所……うん……分からないかな。」
ぶつぶつ言いながら、校舎内へと足を進めた。
「美術室来てみたけど。誰かいる?」
「見た感じ誰もいなさそう?」
美術室は入るのに職員室にある鍵が必要。今そのことに気がついたのもあって、扉の窓から中を確認するだけに留めるつもりだった。
「いないこと確認したから帰っていい?」
「駄目よ。せめて自分の仕事はやらないと」
「ここにいると天が告げていたのだが……これは明らかにおかしい。もしや、誰かが我をはめるために罠を……」
「してないしてない。勘が外れただけでしょ。さっ、2階の方行きましょ」
羅紗は元の仕事へと軌道を戻そうと、そして玲音は早く終わらせることぐらいしか考えてなく、いずれにせよ二人共美術室からさっさと離れようとしていた。
「英澄、行くよ?」
「あれ、気にはならないか?」
ただ一人英澄は美術室をまだ眺めていた。
「あれ?」
「あの机。画用紙が置いてあって気になる」
「画用紙って、何か絵が描かれてるあれ?美術室ならあってもおかしくはないんじゃない?美術部の活動今日あったみたいだから」
「美術部なら尚更机の上に画用紙は置きっぱなしにしない。片付けるはず。明日美術の授業でどこかのクラスが使うかもしれないんだから」
「そう言われたら、確かに。だけど……」
おかしいといわれたらおかしいが、だとしてあの画用紙は何なんだろうという気持ちが現れる
「あの絵、出来上がっていってないか?」
「そんなわけ」
「本当に!ほらさっき空の色塗られてなかったのに、今鮮やかな青に塗られている!」
とは言われても羅紗には半信半疑。英澄の話だというのもあって信じてはいない。絵の詳細なんてちょっと見ただけで覚えないのもあって。
「英澄、うるさい。」
「うるさいって、本当に絵が塗られて」
「早く鍵取って入って正体掴もうよ。ここで無駄な話するの時間の無駄。面倒くさい」
「うっうん。一応調べようとは思ってるけど、英澄だから見間違いとかあり得るよなって思って」
「多分本当だよ。英澄嘘ついてないからこの感じ」
「玲音……」
一度職員室に戻って、美術室の鍵を取ってきて美術室の中へと3人で入る。
「この絵?うーん……。英澄の言ったこととは別に、やっぱりここにあるの違和感あるよね」
「やっぱりこれ夜のうちに侵入している生徒が仕掛けたいたずらなんじゃない?」
「そんな気もするけど、まずどうやってこの中に。鍵を一時的に借りてこのいたずらを仕掛けて鍵を返す……できなくはないけど」
「でもどうやってさっき目を離してたそこそこの時間で空を描いたの?そしてどこに消えたの?」
「窓は全部閉まってて、本当にどこに逃げた?どこにも出られない密室で、どうやって?」
「玲音何かある?」
「面倒くさくて全然作業してない」
「作業して玲音!」
「だって英澄と副会長がやってくれるから」
「投げるな」
「ココハサビシイ。アナタハダアレ。コッチニオイデ」
突然聞こえた女性の声。ここにいる三人の誰でもない、不思議な声。
その声が聞こえて、3人ともあたりを見渡す。ただ、そこに誰もいない。
「えっ。これ誰の……みんなのじゃないよね」
「ココニトラワレ、エヲカクダケ。クラクシズカ」
「ひゃぁっ!えっ誰触ったの!?」
「私も玲音も触ってないよ!どういう……」
「フタリメホシイ。ミルヒトホシイ」
声の主もわからない。だけどここにいることが良くないこと。何かがここにいること。
目の前で誰も触ってないのにものが動くポルターガイスト現象が起きたことで、それは確信に変わった。
「早く出よ!ここにいたらだめ!」
「行くぞ玲音!」
「うっ、うん」
「マッテヨマッテヨ。イッショニイヨウヨ。タノシイヨ」
もう何かを考えてる余裕なんてなく、ただがむしゃらに走って逃げ、そして適当にあった教室で身を潜めることとした。
「アレドコニ。ワカラナイナア。デテキテヨ。ワタシガサガスカラ」
「な、なんなったのアレ」
「分からないわよ。やっぱり幽霊だよね?」
「どうするの?早く帰ったほうが良さそうだけど」
教室に隠れて少し。心臓の鼓動は最高潮からは脱したもののまだ依然としてバクバクしている。
「そうだ二人にも伝えないと。……手が震えて全然打てない」
「貸して。私打つ……これでいい。」
「ありがと。玲音」
「あれメッセージある?えっと……この二人が理由あって学校に来ている。夜間侵入の犯人とは違うから見逃して。そんな場合じゃ」
色んな事件が一度に起きていて、本当にかなり厄介そうな状況だった。
「……悲鳴?」
校舎3階にてずっと何かを探していたとある子。その子はさっき生徒会女子組が美術室で起きた怪事件から逃げたときに出した悲鳴を聞いていた。
「何でこの時間に?とにかく急がないと。手遅れになる前に」
小走りになりながら近くの階段を降りて1階へと向かう。
「どこ……かな?確かこっちの方から聞こえてきたよね」
このとき彼女達はがむしゃらにもうすでに逃げている。彼女達と会うことはなかった。
「美術室のドアが開いてる……。っ……この感じ……」
そこら辺を探していると美術室のドアが開きっぱなしなのに気がつく。調べるためにとその近くにいくと、何かを感じ取ったようだった。
「これは絵。間違いない。さっきまでここにいた早く見つけないと」
美術室から出、あたりを見渡す。
「私がこっちの階段から来て会わなかったから、こっち?」
小走りでその子は学校をかけていく。
「えっと……」
4階にいてその悲鳴も聞こえない。純と恋は何とか七不思議の赤い階段へと向かった。
「赤色、まあこれか?」
「赤色っていってもかなり薄いですよ。淡いピンクでしょうか?」
「確かこれを踏んだら異世界に行けるんだよな」
「はい!純様一応手繋いで二人で踏みましょう。異少課の子達は一人が移動したあと他の子達が追いかけたらしいですけど、もしものためにも」
純はただ静かに頷き、そこにあった恋の手をゆっくりと掴む。
「温かいです」
「3,2,1で踏もうか」
「はい」
「3,2,1……」
カウントダウンの最後の数字が出て、二人はほぼ同時に前の赤い階段へと歩を進める。そして、二人はその赤い階段を踏み込む……
「あれっ」
「何も起きないな。いや移動してるのか?」
「でも聞いてた話とは違いますから、動いてないような気がします。前が余りにも変わらなさすぎて」
前の視認情報は先程から連続して動いている。流石に異世界に飛ぶなら少しぐらいズレそうなのではないかということだ。
そこそこたち、そして結論づける。
「元の事件からかなりの月日が経ってたから、その間に移動する能力が、失われてしまったのかもな」
「そうですか……」
「恋……」
「せっかく純様のチャンスだと思ったのに。これで終われたらどんなに良かったか……」
「まあまあ。」
「見つけられたら、純様のことが最後まで進むと思ってたのに」
想定を壊してきた現実にちょっと悲しげな表情を見せていた。
「できないもんは仕方ない。結局今までと同じやり方じゃないとということだな。恋、付いてきてくれるか?」
「はい!勿論。私も純様には幸せになって欲しいですから。不幸になってそのままは、あまりにも悲しいですから」
「ありがとう」
本当に恋は私には優しすぎて。それだから私もこの子といたい。そう思わされて。
私がここに来て出会った人はたくさんいる。クラスメイトや演劇部の仲間、美崎達や異少課の子達。だけど、誰も恋には敵わない。
私がいつかいなくなっても、恋には幸せになっててほしい。私の我儘に付き合ったお礼も込めて。
「純様、それでどうします?」
恋が呼んでる。こんな気持ちになるのは今じゃなくていいな。家で一人のときにでも思っておこう。
「これ以上いる意味もないからな。帰ってもいいが」
「帰りますか。悠君達に明日お礼言っておこ」
そうして、東階段を下へと降りていった。
一方その頃
「なあこれ」
「えっ?えっ!?」
凪と悠の二人は元々の任務である学校に侵入している生徒を探すために学校内を探索していた。ちなみに女の子達の悲鳴はその時の位置の問題もあり耳が良い凪も全然聞き取れていなかった。
そんな二人だが、生徒会のグループに英澄から送られてきたメッセージを読んで戦慄していた。
「美術室を探していたら姿の見えない幽霊のようなものに会って声をかけられて今追いかけられてる。会ったら何されるかはわからない。今3階の適当な教室に隠れている」
「幽霊」
「しかも襲われてるとなると悪霊か。これまた厄介にも」
「3階の教室探す?」
「うん。だがその幽霊には見つからないように。いくら俺が戦えるっていっても幽霊は倒せない。弱らせるぐらいなら出来ても消し去るにはそういう特殊な力が必要」
「なるほど。幽霊ってそういうものなのか」
「うん。そこそこに幽霊に会ったことあるし部活の仲間に幽霊を祓うこともできる神社の娘がいるから、その関係で幽霊はそこそこに慣れてるから。凪は幽霊大丈夫?」
「うん。幽霊を見たこともあるから」
「そうか。よし、行くか」
階段を使って3階へと向かう。
「ん?」
「どうしました純様?」
純と恋が階段を降りている途中、ふと純は足を止めた。
「いや……あぁほら。さっきから足音が聞こえてくるから気になった」
「言われてみれば確かに。さっきのあの子達か……あの子達が言ってた侵入した人かですかね。一応確認しましょうか」
「そうだな。探していた侵入者の可能性もあり得るからな」
「だったらあの子達に伝えてあげましょう。さっき見逃してくれたお礼にやってあげたいですから」
「そうだな」
恋が取材の際に悠君の部活に良くお邪魔する。その事もあって、そこの子達とは結構な仲になっていたよう。
「足音の感じ、近い?この階の右……あっ!いました!」
「追いかけるぞ」
足音が割と近い位置から聞こえてくる。階段から見える位置に懐中電灯を照らすと一人の走る女の子を捉えた。
校舎内を走っている女の子を追いかけ、そして言葉をかける。
「ちょっと何してるの?って二江ちゃん?」
「えっ?川崎さん何でここにいるんです?あっ、それより幽霊知りません?絶対この学校にいるんです!」
「?」
ちょうどそうして、純も恋と女の子の元へとたどり着いた
「どうだったか恋?」
「純様」
「初めまして。それですみませんけど、幽霊って……」
「幽霊?」
「あ、知らなさそう……すみません急いでいるのでこれで」
「何かわからないけど、困ってるなら手伝うよ。焦り具合からしてのっぴきならない状況みたいだからさ」
「……分かりました。でも悠長に話している時間はないので、探しながらでいいですか?」
「うん。いいよ。あ、純様どうします?」
「恋がそうするなら私は手伝う。恋の知り合いなんだろ?」
小走りで校舎内を移動しながら、その子と会話を続ける。
「私は吾田二江。神社の生まれで、生まれつき霊を見たりする力があるんです」
「うん。二江ちゃんは悠君と同じ部活に入ってて、私の取材のときに結構話すの」
「それで私学校で休み時間に悪霊の残り香みたいなものを見つけて、それで学校に悪霊がいると感じたんです。昼には見つからなかったから、夜限定でいるのかなと思って今日学校に侵入して探しに来たところなんです」
「それでさっき美術室でついさっきまで幽霊がいた痕跡を見つけたので、急いで探しているんです。誰かが巻き添えになる前に」
「分かった二江ちゃん。じゃあ手分けして……」
「あ、今思い出したんですけど、手分け意味ないかもです。幽霊って本当に思いが強く濃い霊気を出してるようなやつ以外は普通の人には見えないから……」
岐阜県のときに剣士の霊が恋にも見えたのはあいつがかなり強い霊気を出していたから。今回のような一般の悪霊なら、霊感なんてない恋がその姿を捉えるのは不可能。声などからそこらにいると推測するぐらいだった。
「霊感があったら見えると思いますけど……ないですよね」
「……多分?幽霊は見たことあるけど、あれは結構色んな人が見えてたから。」
「とりあえず手分けでも一緒でもいいから探しましょう」
事実生徒会の女子組が現在進行系で幽霊に追われている。誰かが幽霊に襲われていると分かっている。話もできるだけ最低限にしておくべき。
伝えることを伝え終わったら、彼女は幽霊を探すために走っていった。
「恋はあの槍持ってたよな?」
「これですか?もしものことがあるかもといつも持ってますね」
「よし、探して教えるのはできそうか。あ、いや伝える方法考えてなかったな……」
「追いかけるにも、どこ行ったかもうわかりませんね。適当に探すしかなさそうですかね」
「そうするか」
色々と話している間に二江は幽霊を探しに何処かに行ってしまっていて見えなくなっていた。
「ドコニイッタ。ハヤクデテコイ。タノシイトコロ。ツレテイク。」
「この声!こっちから聞こえたから……よし!早く行かないと!」
「これが幽霊の声か」
「そうだろうな。行くぞ凪!無事でいてくれよ3人共……」
「純様、この声って」
「あぁ。これが言ってた幽霊ってやつだな。その可能性が高い」
幽霊の大きな怒りの籠もった声。聞いたものに恐怖を植え付けるその声。
幽霊を探す二江、同じ生徒会メンバーの無事を願う凪と悠、そしてこれからどうしようか考えていた純と恋。それぞれのところにその声は聞こえた。
誰一人その声に怖がることなく、その声のところへ行ってその幽霊をどうにかしようとする。
「純様も行きます?」
「どっちでもだが、一応な。なにか私にできることがあるかもしれないから」
「分かりました純様。純様は私が守りますからね!」
「ひっ!ぐすっ……」
恐怖により教室から未だ出られない女の子達。幽霊の恐ろしさ、そして話す内容に、恐怖を感じずにはいられなかった。
「大丈夫?」
「わ、私……大丈夫だから」
英澄は怖さに涙を流していた。見つかったらどうるのか、殺される……そうまではいかなくても呪われるんじゃないか……そんな想像が頭の中を巡る
「英澄……面倒くさいから泣かないで。私達ここにいるから」
「だって……」
「大丈夫だから」ギュッ
「うん。私も」ギュッ
英澄の両の手を羅紗と玲音が握る。少しでも怖さを和らげるために。
「あ、ありがとう」
小さな声のお礼。少しは怖さが和らいでいるのなら何よりだ
「見つけました!大人しくするなら……」
一番最初に幽霊の元に来たのは二江。
「アタラシイヒト。アナタモイッショ。コッチニキテ。」
「痛っ……。やっぱり……。悪霊は無理矢理にでも成仏させます!」
近くの物を動かし、そしてそれが彼女を襲った。ちょっと当たって痛いらしいけど、でもこれぐらいならまだなんとかなる。
今までの状況からしても悪霊だと分かる。そして悪霊なら被害が出る前に成仏させるのが、二江のやり方だった。
「あ、悠左!あそこに人型の幽霊がいる」
次に来たのが凪と悠。幽霊が見える凪がここにいたのを見つけて連れてきた。
「俺の目には見えないけど、信じて良いんだよな。ってあれ二江?」
「紫尾先輩!とそれに……あ、それよりここに悪霊いるから気を付けて」
「分かってる」
「サラニフタリ。スゴイスゴイ。ミンナコッチニ」
「恋!右奥の渡り廊下に幽霊いる。それにさっきの子に生徒会の子達も。」
「分かりました!戦闘の準備もできています」
純達も遅れて合流。これで3つのチームが全てここに集まったことになる。
「川崎さん?ここは危険ですから離れてください!」
「大丈夫。幽霊がいること聞いてるから。戦うものも持ってるから」
状況が状況なだけに、何でここになんて悠長な質問はしていられない。そこらへんは目の前の幽霊を倒してからだ。
「ミンナコッチニオイデヨ!」
「ちょっ、大丈夫か?」
「うん紫尾先輩。でもこの幽霊今は成仏無理そう。抗う力が強くて。紫尾先輩。弱らせられる?」
「イヤダイヤダ。マダココニイル。ヤメロ」
「オッケー。聞こえてました?川崎さんも弱らせるの手伝ってください。凪は後ろの方で」
「純様幽霊見えましたよね。私見えないので場所教えてください!」
「分かった。」
二江、凪、恋の3人とそれぞれと関係がある悠がテキパキと指示を出し、従って戦う準備をする。
メインで戦う二人がどっちも幽霊が見えないこの状況。声を頼りに戦うスイカ割りのようなバトルが始まった。
「幽霊には幻惑効かないんだよな」
「オサエツケルナ。ジャマヲスルナ」
二江が今幽霊の行動を少し封じている。とはいっても安全ってわけでも簡単ってわけでもないから注意すべきことに変わりはない。
「恋、5歩ほど進んで右手、高めの位置に今いるから」
「分かりました!」
「紫尾先輩!右に避けて!」
「よしっと」
純が恋に、二江が悠に伝える役割分担。1人で二人に伝えるとどうやってもラグが発生してしまうというのがあってこうなった。見えない攻撃を避けるには特にこうしないと。
「やっぱり無理かかけるのは」
幻惑。悠君の武器の力だが、幽霊であるのに加え見えず場所も何も分からないからかけるのが不可能そうだった。
幸い悠君は素のステータスが高い。武器の力なくても結構戦える。技のことがバレた上でも愛香を倒していたぐらいだし。
「マダシナヌ。コチラヘコサセル」
「危なっ」
「うわっ!イテテ……」
そこらへんにあったものを手当たり次第に動かして攻撃。見えない攻撃とは違ってものが見えるから避けやすいとはいえ、数が数。速度も普通に速い。
「これ痛み止めの薬です」
「ありがとう。あぁ〜ちょっと引いたかも」
凪はこの前手に入れた光線銃が一応あるにはあるけど、こんな場所でぶっ放したら色々と被害が増えかねない。流石に使えないので薬を作るだけ。
「恋後ろに移動した。後ろ向いて右の奥」
「距離は?」
「向いてすぐ!」
言うだけで伝えるのの難しさを特に感じる。見たままを言っても全部伝えられない。
こんなの初めてだから慣れない。
「マダマダ。ココニイル」
「暴っ……れ……ないで」
幽霊の動きが激しくなっていく。
「恋、少し後ろ、しゃがんで。左に避けて」
「紫尾先輩右に。壁の方まで下がってこっちのほうに!」
「痛た……避けるの遅かったかなぁ……」
「まぁこれぐらいなら大丈夫だが。避けるのが」
勿論被弾も多くなる。見えない攻撃を避けるのなんてほぼ無理。それはわかってる。
「短期決戦。長引くほどこっちが不利だな」
「うん。見えないのがここまできついなんて」
「幽霊の位置は?」
「そこから真っすぐ前6歩。天井付近」
「よし」
場所を聞いて、そして移動して場所が変わってしまう前に行動に移す。足元の床を蹴ってジャンプし大きな一撃を入れさせる。
「恋、目の前で倒れてる」
「分かりました」
悠が入れた一撃に抵抗することもできずスタンした幽霊。そして恋は追い打ちをかけるかのように槍でついた。
「結構弱らせれてます!そろそろ成仏させれそう!」
「恋、起き上がってきたから気を付けて」
スタン状態も終わり、恋は反撃を喰らわないよう後ろに下がる。さっきので結構ゴリッと弱らせられたよう。
「マダ!ゼッタイ!タオレナイ!」
「幽霊の様子が……」
「気を付けてください!かなり怒ってるみたいですから」
少しのダメージで自分が終わると分かってるから、余力残さず使おうとしている。この場を乗り切るための策。
「これ、回復薬」
「投げるよー。受け取れ」
「はいっ。これ」
「痛みが取れていく。さて、やるか」
凪が作ってた回復薬を2人で飲んでダメージを回復させておく。残り少しを削る戦いがそして始まった。
「ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ」
「壊れてきてる……。もう、これは……」
ずっと同じ言葉を連呼するだけ、ガチホラーな状況。恋もこの調子にはちょっとひるんだが、ちょっとだけ。気合でその怯みを正常へと戻す。
修羅場を何度も潜った恋は、これぐらいどうってことないよう。
「ちょっと、これ……避けるのが」
ボルダーガイストとして動かすものの数も速度も異常。はっきり言ってきつい。
「くっ……流石にこの量だと、全部避けるのは反射速度移動速度諸々合わせて無理。いくつかは当たると割り切るしかない。頭に当たらなければ大丈夫だ」
「え?」
これからどうしようか考えていると、さっきと同じように悠君が飛び込んでいく。投げられるものを全く避けようとせず真正面から喰らっていく。顔に当たらないようにしてるとはいえ、体にはどんどん当たっていて、痛いだろうに。
「その先にいる!」
「これで!」
そして、振り下ろす。
「外した!?手応えが……」
「ワタシハシナヌ……」
「今右に避けてた!」
「じゃあこれで!」
一度は外したのを、聞いてすぐにもう一度。なんか避けれてたこの霊も、この速度にはなすすべもなく全て喰らう。特段弱らせるの強力な一撃を。
「これで!迷える魂……輪廻の環へと……帰って!」
弱ったところをすかさず、二江が言の葉を紡いで成仏させる
「イヤダイヤダイヤダ。ワタシハマ……ダ……」
「いなくなった……」
あれだけの力を持ったあの霊も、最後には片鱗残らず消えた。二江、純、凪。誰の目にもあの霊は映ってない。学校を脅かした悪霊は、今去った。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れ、恋」
「戦いも終わったから、凪。3人に伝えに行かないと。終わったってこと伝えて迎えに行こ」
「そうだな。皆さんありがとうございました。では終わったこと伝えに行ってくるのでこれで」
「あ、紫尾先輩……いや、また明日」
生徒会の2人は他3人に終わったことを。もう怯えなくて良いことを伝えるためにそそくさとこの場を離れていき、そこには純、恋、二江の3人が残った。
「そういや結局、あの幽霊何だったんだろうな」
「あ、それなら少しは。最近この学校を昔に卒業した画家の方が亡くなったみたいで、その方の思い出が強いからここに現れたのかなと。美術部の子の間では有名な人だったみたいです。だけど、一人で死ぬのが怖いとかそんな理由で、誰かを道連れにしようと悪霊に……といったところかなと」
「良く知ってたね二江ちゃん」
「こういう理由で悪霊になるのは多いですから。あと学校で夜に誰かが暴れてるなんて噂から、幽霊がいるんじゃないかと調べてましたから」
「じゃあ二江ちゃんってこの幽霊関係でここに来たの?こんな時間に学校に来てるなんて」
「はい。良い霊なら迷惑かけてると注意して様子見して終わり。悪霊なら成仏。そのままにしてると良からぬことになりそうでしたから」
流石の本職。幽霊関係のことは一通り知識を持っている。
「そういえば、何で二人はここに?川崎さんに、純様?さん?」
「山井純。恋とは探偵・助手の仲。あぁそれで……」
生徒会の子たちと同じ偽の理由を説明する。
「大変ですね。そうだ、なにかしてほしいことあったら手伝いますよ。幽霊退治の手伝いのお礼です」
「大丈夫だ。もう終わったから」
結局学校の異世界に行くこともできなかったから、本当にあとは山井探偵事務所に帰るだけ。
「そうなんですね。私も帰らないと」
そして二江ちゃんと別れ、そしてどちらも帰路につく。
「こんな時間だともうこんなに暗いですね。冬だから本当に真っ暗で」
「寒いな。中と違って外は冷えるったらありゃしない」
純と恋は帰路にて会話をしている。
「早く帰って寝ましょうか。明日早く起きられなくなりますから」
「ちょっとぐらいなら遅くまで寝てても大丈夫だろうよ。朝慌てるだけでいける」
「明日眠くなりそう。起きてられるかな。眠くなる歴史の講義あるのに」
「それにしても、無駄骨になってしまったな」
生徒会達も二江も、今日学校に来た目的をそれぞれ達成していたのに、この二人だけは達成できず、行くことさえできず出鼻をくじかれて終わった。
「幽霊のこともあったから確実に無駄じゃないですけど、異世界行けずに終わりましたからね。行けたら本当に良かったのに」
「悔いても仕方ない。また、他の情報を探そうか」
「そうですね」
彼女達は二人、歩幅を合わせて歩いていく。
「ここかな?」
「そうみたいね。」
学校内で凪と悠は女子達にもう終わったことを伝えに行こうとしてた。
「おーい。もう大丈夫だぞ。入るぞー」
「止めて!ちょっと待ってて!」
入ろうとドアに手をかけた途端。大きな声で英澄がそれを止めた。
「うん?」
「何かあったのかな」
「まあ、とりあえず待とうか」
二人は廊下の窓側の壁によしかかり、中から出てくるのを待つ。
少し前、部屋の中にて
「まだかな……まだかな……」
「どうする?もう外でちゃう?何とか見つからずに行けないかしらね。走れば何とか学校から出られるかも。どう?」
その問いに玲音は面倒くさいからか質問に全く答えず、英澄は小さく首を横に振る。
「英澄って面倒くさい」
「悪かったわよ面倒くさくて」
「いや、面倒くさいのはお互い様でしょ。二人共」
「うじうじしすぎ。もうこれでいい?」ナデナデ
「あっ……」
玲音が自発的に英澄の頭を撫でて、落ち着かせようとする。
「うんうん」
その横で、羅紗は二人を微笑ましそうなものを見る目で見ていた。
「おーい。もう大丈夫だぞ。入るぞー」
「!?止めて!ちょっと待ってて!」
「どうしたの英澄?せっかく来てくれたのに。これで帰れるかもよ」
「でも……お願いだから、今日のこと内緒にしてよね」
「大丈夫。ここ3人の秘密よ。英澄があんなに弱気になって……」
「言わないで!」
羅紗の口を無理矢理手で抑える。そんな英澄の顔はとにかく赤く湯気が出そうなそんな感じだった。
「誰かに言うなんて面倒くさい。やるわけない」
「うん!」
いつもの明るい英澄に戻ったみたいだった。
部屋から出て、幽霊を倒したことなどを凪と悠が伝える。
「ふっふっふっ。勝ちね!やっぱり生きてるものに死んだものは敵わないのよ!」
「結局その幽霊が夜に荒らしていたってだけで、夜に侵入してあらしてた生徒なんていなさそうなのよね?」
「そのよう。明日、明後日と見て何もなければそういうことだな。だから、今日はこれで解散」
「やっと終わった……」
「色々とあって疲れたー。ぐっすり眠れそう」
下駄箱で履き替えて、そして彼らも帰路についた。
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