第22章 少女達の警察業!
「あ?なにこれ?」
ある日の異少課にて、石山さんがまたよくわからないものを持ってきた。
「技術班……というか同じアパートの博士が暇つぶしで武器開発したっぽくてな。それをちょっともらったんだ。」
「久しぶりに技術班のこと聞いた気がする」
技術班は名前だけの謎部署。その博士に仕事を送るのが仕事。
「その博士さんって、本当に何者?」
「暇つぶしで武器開発……よく分からないな」
「いや割と普通だぞ。大抵新しいものの開発してるからな。それで失敗してはアパート壊して大家さんに怒られてる。」
「訳がわからない。」
なんでそんなことしてるのにアパートを追い出されないのか分からない
「そんなことより、ありがたく使わせてもらいましょうよ。」
「ガムテープ剥がすね。」
ダンボールの中から出てきた武器はピストルのような形をしていた。
「割としっかり武器だな。」
「使い方とかはないんですか?重大な注意事項とか聞いていません?石山さん?」
「そういや言ってた気がするな。少し実験した感じ普通に武器としては使えるとか。ちょっと色々とやったから魔族とかにも効果あるようにしてるとか。でも耐久性だけは本物を再現できなくて使い過ぎたら使い物にならなくなるとか。」
「一旦試してみません?」
「それは気になるけどどこで試す?いい場所あるか?」
それはそう。流石に実験してあるし今まで博士から送られてきたものそれ以上の能力は無かったけど……。
「あ、そうだ魔族退治の任務あるからそれで試してきたらどうだ?一回倒したことあるやつだから最悪何とかなる。」
「あ、じゃあそうします。」
というわけで任務にやって来た。退治するのはツイナ、最初の頃愛香と倒した覚えがある。
基本的にそんな強くはない。初見でさえ愛香が簡単に倒したはず。
「誰打ちたい?」
「これを将来的に使いそうな人にすれば?」
将来的に使う人……一番使ったら良さそうなのは……。
「一番使えるのは私かな。」
「でも繁って使えるけど、いつもその銃で撃ってるからピストル使うことはないんじゃない?それに、このピストルとその大きな銃じゃ使い方も変わっちゃうんじゃ……。」
そんなこんな話を少し経て
「俺か。銃は一応少し使ったことはあるけど……本当に少しだぞ。」
凪が試すこととなった。銃の扱いに慣れてるでいったら繁だけど、実際の繁はこのピストル使わなさそうだからな。そうなると一番これを使うのは、自衛能力に乏しい凪って結果になった。
凪だけは相手に攻撃する手段がない。後方に基本いるとしてもたまに敵が来るかもしれないと考えると、凪にも自分を守る術があった方がいい。
「じゃあ撃ってみる。一応皆後ろに下がって。後ろにいれば流石に大丈夫。後ろ向きまで飛ぶピストルなんかを送ってきたんならとりあえず石山さんぶっ飛ばす。」
「ほーい。」
標的のツイナは俺たちに気づかず、呑気に池で魚相手に暴れている。
何かしたってわけじゃないが危ないってのが一つ、そして生態系の維持とかも相まって倒す。
「よし。」
ピストルのトリガーに手を当てて、ツイナに目掛けて撃った。ピストルの銃口から飛び出たのは弾…ではなく強い光線だった。そしてその光線がツイナへと命中した。
そしてその光線が命中した地点で小さく爆発した。ツイナにそこそこのダメージが入っている。
「かっこいい……光線銃って男のロマンって感じしません?師匠?」
「まあ男のロマンかは分からないけどかっこいいはかっこいいな。」
「やっぱりこれお兄ちゃんに使ってほしいな。お兄ちゃん最近俺だけあんまり役に立ててないとか言ってちょっと思い詰めてたみたいだから。そんなことないって言ったのに。」
そうなの?凪そんな素振り見せてなかったのに……。
俺も繁と同じく凪役に立ってると思うんだけどなぁ。この前の海も、後で凪のお陰で武器取りに戻れたんだし。
凪を尊敬することはあっても役に立ってないなんておもうことはない。異世界から来て、生活するために食堂で働きながら帰る方法を探している。家事が得意で気配り上手。凪に悪いところ見つけようとしても全く見つけられない。それぐらいの善人なのに。
「そうなんだ繁。でも確かにそうかも。そんな強くない相手との戦いだと大抵私と神代先輩と繁の誰かが倒しがちだから。回復とかバフ・デバフは、弱い敵相手だとそんな使わないのがね。」
あぁ……それは確かに。翔も凪と同じく攻撃系じゃないけど、凪は翔以上に仕事与えられることが少ない気が。翔は空気球が使えるけど、凪はそれさえできないし
「使ってみた感じ、真っ直ぐに連射できる光線を打つって感じだな。一発の威力は控えめだけど、連射力でそこまで気にならない。結構使えそうな武器だな。」
「それ凪が使っていいと思うんだが、みんなどう?」
3人とも頷く。
「いいのか?じゃあ遠慮なく。頑張って使いこなすな。」
声には出さないものの少しばかり凪が嬉しそうな顔をしていたのを、横から少し見ていた。
任務を終えて異少課へと戻る。
「どうだった?感想とか伝えておきたいんだけど。」
凪が石山さんに話しかけられたので、凪をあとにして俺たちは先に戻った。
「普通に使いやすそうって感じでした。博士さんにお礼伝えておいてください。」
「おけ。あ、そうそう話変わるんだが、そういや異少課宛に郵便物届いてたぞ。ほら。」
石山さんから凪へと封筒が渡される。
「じゃあ俺はとりあえず今日するべき仕事は終えたということで今から競馬調べてくるから。封筒の内容知らないけど俺呼ぶ必要あったら呼べよ。いつものとこいるから。」
「はぁ……」
「石山さんから封筒預かって来たぞ。ほら」
凪はテーブルの真ん中にその封筒を置いた。宛先は異少課ではなく、波山愛香・根高繁となっていた。
差出人の欄には静岡県異少課 若木露里と書かれていた。
「愛香、ほら。2人で読んどきな。」
人の手紙をジロジロ見るのは良くないと、凪は窓の方に体を向けた。
「ありがとうございます。よしっと。」
封筒を丁寧に開けると、中から1枚の手紙が出てきた。
手紙にはこう書かれていた。
[寒さが厳しい季節となりました。いかがお過ごしでしょうか?それで、12月27日から29日の3日間、私のお祖母様が所有する山小屋にて、異少課の女子達でパーティーを開こうと思います。女子達と限定したのは、山小屋の大きさの関係で全員呼ぶのが無理であるのと、女子達だけのほうが話しやすいだろうとの理由あってのことです。目的は同じ職を持つ人が仲良くなることです。ゲームやその他のイベントを用意しております。参加される方は、12月20日までに参加される旨を静岡県異少課にお伝え下さい。]
「えっと……どうする?」
「う~ん、私は行ってみたいかな。お兄ちゃん、12月27日から29日静岡県の山小屋で行われるパーティーに行ってもいい?」
「パーティー?まあ特に何もないし行ってもいいけど……俺も行こうか?」
「主催者の都合でお兄ちゃん行けない。女子だけのパーティーらしいから。」
「あ、うん……。」
凪はちょっとしょぼくれていた。さっきまで嬉しい顔してたのに。感情の変化が早い。
ここでしょぼくれるのは、最近はそんなだったとはいえ妹大好きだった凪らしいといえば凪らしいが。
「行くついでに静岡県で良さそうなもの見つけたら買ってくるね。」
「私もどうせ暇だから行ってみようかって思ってるけど、まあ親に相談してからってね。」
「うん。分かった愛香。」
そして次の日
「伯母さんに聞いてきたけど全然問題ないって。」
「良かったね愛香。」
「うん。伯母さん優しいから良いって言われそうだなって感じてたけど、やっぱりちゃんと言われるとアレだね。」
ともあれ、二人共参加という形となった。
「じゃあ参加される旨を伝えに来てくださいだっけ?今から行こう。忘れないうちに。」
「あ、待って愛香ー。」
仲良さそうに二人は部屋から出ていった。
愛香達が手紙を見る少し前、静岡県の異少課にて。
「ふんふふーん。」
「どうしたんだお前?なんか気分良さそうだけど。近くの子供誘拐とかしてないよな?」
「陸ちゃんひどーい。誘拐なんかするわけ無いわよ。誘拐なんかしたら女の子怖がっちゃうわよ。女の子が怖がる姿より、笑ったり楽しんだりしている姿のほうがいいんだから。」
「お前、その発言半分ぐらいヤバいこと言ってること自覚してるか?」
静岡県の異少課の二人、露里と陸が話をしている。露里は気分良さそうに机に向かっていた。
「そうじゃなくて、一昨日漫画で可愛い幼女達が旅行に行って同じ部屋でいろんなことやってるのを見てね、いいなって思ったのよ。その話をお祖母様としてできないかなぁって話てたら、お祖母様が所有している山小屋でパーティー開いていいって言われたから、色々な異少課の女の子を読んでパーティーを開こうとね。それで今、その招待状を書いてるところなの。」
「……変なことやるなよ。お前のことだから特に言うけど。お前のせいで静岡県の異少課はヤバいなんて評判広まったら俺被害受けるんだけど。」
露里の幼女好き、マジでヤバいことにはならないだろうが結構なヤバいことには何度もなる予感しかしない。
「だから酷いよ陸ちゃん。……少しぐらい評判落ちてもいいわよね?」
「お前な。そっち軸に考えてる時点で終わってるんだよ。」
評判を落ちても構わないはもう言い逃れできない。
「じゃあ、陸ちゃんも来る?一人くらい増やしてもいいよ。」
「日にちは……よし、行くか。主に監視のために。」
「あ、その日女装して来てね。それが必須事項だから。」
「やっぱり行くの止める。監視を放り出してでもそれはやだ。」
女装は色々と問題でしかない。個人的にやりたくない。絶対にやりたくない。
「えーっ……。陸ちゃん女の子にならないの?女の子にしたら可愛いとずっと思ってるのに。」
「嫌だって。なんで幼女だけじゃなく女装男子までストライクゾーンなんだが。」
ストライクゾーンずれろ。もっとまともな感じにずれろ。
「さ、招待状書こうっと。みんな参加してくれたら嬉しいな。」
「俺は不安だ。」
露里は富山県異少課だけでなく、新潟県、岐阜県、福井県、長野県、石川県にもほぼ同じ手紙を送っていた。愛知県と山梨県に送ってないのは単純にどちらも男しかいないからである。愛知県の唐栗は男なのかと言われれば答えに困るが女である確率と同様だ。ってかむしろ話し方とかからすると男っぽい気はする。
それぞれが手紙を受け取ったとき、こんな反応をそれぞれ示していた。
新潟県
「ウチ宛の封筒?誰からやろ。」
封筒を受け取った蓮葉は、差出人の名前を見ようとする。そうして見ると、宛先の欄を見てしまった。
宛先には蓮葉の他、菊花の名前も書いてあった。
「菊花お嬢様の名前まで……そういえば、あんまり伝えてなかったな。お嬢様……。」
あのときの辛い出来事を、悲しい現実を、なんとか立ち直っていたというのに、また思い出してしまった。
目から流れ落ちる涙を、制御することはできず、少しの間じんわりと涙を流していた。
「ウチ、ダメやな。こんなん見たら、お嬢様が悲しむやんか。」
手で流れる涙を拭いて、無理矢理にも気持ちを落ち着かせた。
封筒を開けて、中の手紙を読み始めた。
「そなら、参加するしかないやがな。伝えんといかん。お嬢様が死んでること。もうこの世にいないこと。」
露里が予想できるわけない辛い決心を、ここではしていた。
岐阜県
「おーい玲夢、なんか封筒届いてるぞ……。」
zzz……。
誰もいないように見える異少課の部屋。しかし沖はソファを見て、そこにいると確信した。
「起きろ。」
「起こさないでっていつも言ってるじゃん。眠らしてよ〜。わざわざ透明になって眠ってるんだから。」
「単純に寝すぎなんだよ。で、封筒届いてたぞ。」
寝ぼけ眼を擦りながら、玲夢はソファに横たわっている自分の姿を現した。玲夢が眠る定位置である。
「ここ宛に?起き上がりたくないから読んで。」
「いや、お前宛なんだけど。ちなみに差出人は静岡県の若木露里だと。」
「あ、そう。まあいいや読んで。」
「読んでって、俺宛になってないから読みようが。」
「だって封筒に私しか読んじゃだめーとか書いてないんでしょ〜。ならいいじゃん。」
「わかったよ。」
割とこれが大事である可能性を考えると、このままだと玲夢は読まない気がする。なら伝えておくだけやっといたほうが良さそう。
「えーっと寒さが……下さいだと。参加どうするんだ?」
「パス。正直寝てたい。そんなとこ行ったところで寝る。じゃあここで寝たほうがいい。」
「まあそうだよな。一応参加しないこと伝えてくる。」
「あ、いいんだ。いや寝てないで行けよとか言わないんだ。」
「いやー、お前のことだし行かなさそうだなって思ってたし、参加するかしないかって本人の意志じゃん。強制するのもどうかなって。」
zzz……。
「寝るなよ。話してる最中だったろ。」
福井県
「姉さん。私達に封筒届いてるよ。」
「何?見させて。」
福井県の白子と黒子姉妹はすぐに封筒を開けて中身を確認した。
「楽しそう。私行きたいな。黒子はどう?」
「私も。お母さんに電話してみるね。」
黒子はお母さんにすぐ電話する。すぐに許可をもらった。
「良いって。早速伝えに行こ。」
「分かった。じゃあ静岡県に行こっか。」
長野県
「無理だな。このスケジュールだと。」
「どうした?」
「いや、パーティーの招待状送られてきたんだけど。アタシ帰省の予定入ってるから普通に無理だなって。」
「へえ、じゃあ俺代わりに行こうか?」
「いや、無理そうだぞ。女の子だけのパーティーだから。」
「じゃあ俺女の子になろうかな?」
「やめろ。なんでそこまでして行きたいんだよ。」
新潟県
「パーティーか。我も集まりに参加して、共にサバトを起こそうとするか。」
「うるさい中二病。」
「中二病じゃないっ!」
「そうだよ。ブラッドは中二病じゃないから。正真正銘の吸血鬼なんだから。」
「はぁ……。」
ため息も出てしまう。吹の悪影響受けるなよと何度も祈ってる気がしてしまう。
「まあ良い。貴様らにも伝えておこう。我は27日から3回目の陽が落ちる日まで、静かなる場所で宴に参加してこようぞ。」
「あーはい。」
「楽しんできてね。ブラッド。」
12月27日、パーティー1日目。
「みんなもう揃ってるの?ごめん遅れて。」
「私が準備に手間取ってた。それを姉さんは手伝ってて……ごめんなさい。」
「高貴なる我を待たせたこと。常ならばその命持って償わざる所、寛大なる我が特別に許してやろう。感謝するが良い。」
「やっぱり可愛いわ。皆本当に。あぁ、異少課に入っててよかったわ。」
静岡県の異少課前に皆集まってる。遅れたとか言ってるもののまだ集合時間2分前。遅れたって訳では無い。
ただ普通に皆律儀なのだ。
「後は南菊花さんただ一人ね。ねぇ、いつ頃来そうか分かる?」
「あぁ。いや、もうこれで全員揃ってる。なぁすまん皆。ちょっと悪いけど、ウチの話聞いてくれんか。割と大事な話やから。」
どことなくシリアスな雰囲気に、おしゃべりしていたみんな黙りこむ。そして蓮葉は重苦しいその言葉をゆっくりと伝えた。
「皆に伝えてなかったけど、ウチのお嬢様……南菊花は、もう死んだ。ウチを庇って崖から落ちて死んだ。」
急な告白に、本当に静まりこむ。誰もこんなことを伝えられるなんて思ってない。
蓮葉としてもあまりこのことは言いたくなかった。今まで伝えていなかったのもそれが原因だ。でも伝えなくてはならない。と、この前の手紙が届いたとき、気がついたのだ。
「それは、ご愁傷様です……。」
「こんな話してゴメンな。でも、これは伝えとかなきゃと思ったから。大事だと、思ったから。」
言葉に詰まりながら、ただそう蓮葉は伝えた。
「分かった。その話は終わりにしよう。君としても、この話でパーティーを終わりにしたくない。そうだろ?」
沈黙を打ち破ったのはブラッドこと吹。相変わらずの物言いだが、今回はいつも以上に意図的にやってるフシが見えた
「そや。ただこれを伝えときゃならん思っただけや。」
「ならば暗くなるなどもってのほかさぁて刻が少しずつ動いている。時は金なり。宴へと移るべきだと我は思うがな。」
「あ、そうね。うん。」
場の雰囲気も少しずつ戻っていった。ここにいる女子には真面目が多い。固まったのを変えるためには、普通ではないものが必要なのだ。
「えっと、パーティーの内容については後から言うわね。それで中部地方の各県の異少課全員に招待状は送ったけど、長野県の名村ちゃんと岐阜県の観音ちゃんがそれぞれ用事で来れないって行ってたわ。だから、ここにいる人でパーティーをやるってことね。」
さっきの雰囲気に多少引きずられながらも、いつもの雰囲気を取り戻しつつある。雰囲気を変えてくれたブラッドは自分で思っている以上に役に立っている。
「何か質問ある?」
「なさそうね。何かあったらまた私に聞いてね。じゃあパーティー会場へと行こうかしらね。」
「これで、最後と。」
愛香は露里にパーティー会場の場所を色々と教えられて、難なくその場所へと皆を瞬間移動させた。
ただ人数が多く全員を一気に移動させようとすると事故が置きかねないので、2回に分けて送るといった方法で瞬間移動した。
瞬間移動は本当に楽だ。山の中のこんなところにも一瞬で着ける。
「我が参加する宴には小さすぎる建物だな。まぁ人族にしては良くやったほうだと褒めてやろう。我は寛大だからな。」
「あんまり人のことを悪く言うのウチよーない思う。下げてから上げるんやなくて素直に褒めてあげりゃええやろうに。」
先に来ていた蓮葉と吹がちょっと話をしていた。
「じゃあ鍵開けるね。」
そして露里が山小屋の鍵を開けて、皆を中に入れた。
この7人のパーティーが始まろうとしていた。
「山小屋にしては内装オシャレだな。」
「気に入った。確かにここは我の宴にふさわしい部屋だな。」
「うわぁぁ。こんなオシャレなところで暮らせたらどんなに楽しいんだろうなぁ。」
「うん。分かるよその気持ち。私も同じ気持ちだから。」
「何かお金持ちの綺麗な家って感じ。山小屋だよねここ?」
「気になるものが多いなぁ。」
6人とも入って思い思い感想を出していく。殆ど同じことを違う言葉で言ってるようだが。
それほどまでに、山小屋だというのにここはお洒落だったのだ。パーティーの飾り付けというわけではないだろう。それで家具とかをここまで多く置くのならそれもそれでお金持ちのやり方だけど。
「こんなかわいい子達と2泊3日……まさか本当にできるなんて……お祖母様に感謝だわ。」
ただ一人自分の欲に忠実なパーティーの主催者もいる。
「それじゃあ、パーティー始めようとしよう!」
「「「イェーイ!」」」
一方その頃、とある場所にて。とある会議をしていた。
「本当に異少課にことごとく止められてるな。」
「本当困ったねぇ。今のところ大事な情報は漏れてないけどぉ、このままじゃ組織壊滅も時間の問題じゃなぃ?」
「はぁ……。本当にイライラする。人材を盗られるわ計画を中止されるわ物資を奪われるわ……。このままじゃネウス様のための仕事が……。」
「流石に考え方を改めるべきでは?今までは大事にならないように、こちらの手駒がバレてしまわないように基本的にこちらから絡みはしないといった考えだったけど、流石にやっていいと俺は思うぞ。現に一人俺殺ったし。」
「それはそうねぇ。あのときめちゃめちゃ怒られてたから思い出したわぁ。」
「まぁそれはいいとしてもな、正直俺はいいと思うぞ。そもそも今までの立場に疑問抱いていたからな。」
「賛成は賛成だけど、でも殺ったら他の異少課に色々と行動起こされちゃう諸刃の剣よねぇ。一気にやるのは無理があるしぃ。」
「でも一人殺ったんだぞ。それで行動起きてないなら大丈夫なんじゃないか?」
「まあでもあれは魔族との戦いで崖から落ちて死亡したからな、俺たちの仕業とは気づかれなかったんだろうな。そういえば殺るならいい情報があるぞ。実は今月の27から29,中部の異少課の女子達が山小屋に集まってパーティーを開く。しかもその山小屋は位置的に全く人目につかない。どうだ?」
「いいわねぇ。そこで殺しても、事故に見せかけるのは楽そうだわ。山小屋だから殺したあと死体を山から捨てて落下死に見せかけたらいいかしら。」
「それは本当だな。」
「俺を誰だと思ってるんだ。異少課のスパイだぞ。新鮮な正しい情報に決まってるだろ。」
「それではそういうことで今回の会議は終わりとする。」
「「「アンダス団に栄光あれ。」」」
まあろくな話じゃないことだけは確かだった。
某所で怪しい会議が行われ、割と危険な状況にあることは誰も知る由もなく、女子達はパーティーを楽しんでいた。
「我がどちらに隠し持つか、お主にわかるかな。」
「じゃあこっちかな。おっ、あがりと。」
「なっ、我が隠し持つものを見抜くとは。お主もまた透視術の使い手だとも言うのか。どうだ、我の下僕になる気はないか?」
「お断りや。ウチはもう、誰かに仕えることなんかせん。本当に誰にも仕えたりせん。」
最初のババ抜きが今終わった所だ。ちなみに罰ゲームがかかってる。ブラッドが結局最下位になったところだ。
「よし終わったわね。それじゃあ、罰ゲームということで……。」
「なんだ!何だその目は!嫌だ。我を誰だと心得る!あぁぁ……。」
露里が有無を言わさずブラッドを奥の部屋へと連れて行った。
「なんか話でもしようや。っと言っても、適当な話題なんて思いつかんけどな。」
「じゃあ自己紹介やってみません?できれば詳しく。私達は会うのがスポーツ大会のとき以来だから、もうちょっと詳しく説明したほうがいいんじゃないかな。」
あれからかなりの年月が経っている。あんまり覚えてなくてもしょうがない。むしろ当たり前。
「それいいね。でもどうする?あの2人が帰ってきてからにする?」
「じゃあそれまで考える時間ってことにしよう。」
というわけで、自己紹介を考えることとなった。
「はぁっ!こんなものを……。我を誰だと思ってる!最高の吸血鬼ブラッドだぞ!死罪にするぞ!良いのか!」
「ブラッドちゃん。嫌かもだけど、罰ゲームだからね。ちゃんとしないと、この部屋から出さないわよ。」
「罰ゲームの内容何だったんだ?」
聞こえてくる言葉から、蓮葉はポツリと呟いた。
「くっ……こんなの……。屈辱だ…。」
「いぃ……。いぃ……いぃよぉ……。最高だよ似合ってるよ……。」
なんか気になることがずっと聞こえてくる。まじで何なんや罰ゲーム。
「あいつら本当に何やってんのや?大丈夫か?なんかそういう卑猥なやつみたいな感じなってないか?同性だからいいのか?いや同性でもあるよなそういうの?」
「うーん……本当に気になりますね。でもそんなに焦らなくてもいいんじゃないですか。あと、自己紹介思いつきましたよ。」
「じゃあ私の自己紹介ちょっと考えてくれない?いい感じの説明が思いつかなくて……。」
なんか流されとる。ウチがおかしいんか?いや違うよな?
もしかして、この子達純粋?純粋そうやな。そういうことか。
「我はこんな服など着たくもないのに……。」
「大丈夫似合ってるから。可愛いわよ。」
「我はかわいいよりも強くて恐れられるものだぞ!かわいいなんてそんなこと吸血鬼が言われるものか。」
奥の部屋から出てきたのは罰ゲームでメイド服を着た彼女。さっきまでの面倒くさい中二みは結構消え失せていた。
「メイド服だー。似合ってるよー。」
「うん。でもできるメイドさんってより、例えるなら主人公と幼い頃から一緒の、親しみやすいメイドさんって感じ。」
「止めろー!我は親しみやすいなんか駄目だ!吸血鬼だ人の血を吸うのだ怖がれ!」
他4人が褒めちぎって、その度に中二病としての心が反抗していた。
面白いやん。ふっ。罰ゲームやもんな。助けんくてええよな。
蓮葉は微笑ましいものを見る目で
「それじゃあ今日中はこの服でね。」
「え?今日中?もう終わりで良いだろ!」
「罰ゲームだからね。そんなにすぐに終わったら面白くないわよね。」
「あ、そうだ助けてくれそこのお主我をー!」
おっとウチの方に来た。じゃあ、ここはそうやな……。
「メイドとしての作法、あとで教えようか?簡単に分かりやすく教えるからね。」
うん。追い打ちをかけよう。
「あ、ああ。」
あー頼みの綱が切れたんやなこれ。終わったってひしひし伝わってくるやんけ。おもろかったんやし、流石に助け舟出そっかな。
「せやせや。ウチ達の話で皆で自己紹介しようって話になったんや。な、皆考えよや。皆座って。」
これでええよな。
あれから少し経って、2人も自己紹介思いついたということで、くじで順番を決めて自己紹介が始まった。
「じゃあ1番から順番ね。」
「私は六道黒子。福井県の異少課で働いてる。白子と双子で12歳。白子に本当に助けて貰いっぱなし。私とも白子とも、仲良くしてくれたら嬉しいな。」
「次は私。若木露里16歳。好きなことはかわいい女の子を写真に収めること。みんなかわいいから、色々とカメラに撮らしてほしいわね。私のお願い聞いてくれる?」
なんだろう。なんか一瞬悪寒が走ったようや。気のせいやよな?うん。そうそう。気のせい。そうだそうだ。
「私は波山愛香13歳。富山県で繁達と一緒に働いてるよ。あと抹茶が本当に大好き。良い抹茶の店とか知ってたら後で教えて。瞬間移動使って買いに行くから。」
「えっと私だね。名前は六道白子。黒子姉さんとは双子で12歳。姉さんと違って私は頼りないけど、仲良くしてね。」
「私は根高繁。13歳。家事ができる優しいお兄ちゃんがいるよ。お兄ちゃんと比べると私は駄目だなぁっていつも思っちゃうのが弱点。お兄ちゃんとちゃんと並べるぐらいに何かを磨きたいんだけどね。」
「我はブラッド。高貴なる吸血鬼。我が力を示そうと異少課に入ったということだ。血を吸われたいやつはいるか?我に血を恵め。さすれば我の下僕にしてやろうぞ。」
中二病ずっとなんか、流石に自己紹介のときはやめるかと思ったんやが。一部中二病が混じってるのなら少々イタいやつだったんやが、これはかなりイタいやつになってるんやが?これ大丈夫やが?
「いや中二病としての自分じゃなくて実際の自分を説明せんと。」
「お主もあいつと同じく我を中二病なる病気の患者と愚弄するか。愚か者よ。天罰が下るといい。」
はぁ……。
こりゃため息も出るやん。
「まぁええ。ウチは西蓮葉。新潟県出身。元々はウチを子供の頃助けてくれた南菊花お嬢様のメイドをやってたんや。最初異少課に入ったんも菊花お嬢様が入ろうとしたから付き添いで入ったって感じや。メイドやり始めて何年も経ってるからメイドとしての能力だけは一流やと自負してるんや。」
ひとまず全員自己紹介終わったみたいやな。一人よう分からんかったやつもおったけどな。
そんなこんなで1日目の夜へとなった。
ウチもメイドとして食事作ったりするんやけど、昼食べた料理がウチが作るのと同じぐらい美味しい料理やった。郷土料理?かは分からんけど、何の料理か分からん料理もあったから、後で何て料理か聞いてみるか。
午後は自由時間。なんかあっちの方で写真撮影やっとったんやけど、それを遠目にあのブラッドにメイドの作法教えてたんや。途中で他の子たち、根高とかも聞きにきてて、なんか楽しかったなぁ。ブラッドは多分聞いてないんやろうなーとか考えとったら割と聞いててびっくりやったな。中二病要素取り除いた、中身は真面目な普通に良い子なんやろな。
「ただのイタいだけのやつやないやん。」
ちょっと見直したやん。
「じゃあ皆の寝る場所だけど……。」
夜ご飯の鍋をみんなで食べてる途中若木から寝る場所の説明となった。
「1階5部屋2階5部屋から選んでね。基本的にはどこでもいいわよ。」
そうして見取り図、といっても5部屋隣に並んでいるものが上下に2つあるといった感じのものを配られた。
それぞれの希望を聞き、数分ほど考えた結果、このような部屋割となった。
| | |ブ|白|黒|
|蓮|露|愛|繁| |
「じゃあ部屋も決めたということで。ってか先決めとか良かったわね。自分の荷物最初のときからここに置きっぱなしになってるから、それ後で各自自分の部屋へと持っていってね。」
「はーい。」
「おいお主、我の荷物を運ぶ許可をやろう光栄に思え。」
「ウチ光栄に思えないから許可いらない。」
ブラッドのあしらい方も覚えてきた。このスタイルはブラッドがブラッドをやめるまでは変わりそうにないな。
それにしても、ブラッドのいる石川もう2人いるけど、さぞ大変やろな。意思疎通がほんまめんどいやろ。お疲れ様や。
鍋も食べ終え、荷物を部屋へと運び、風呂に代わり番こで入ってさっぱりしてきた。
決めた部屋に入ってベッドに寝転がり、ぐっすり眠りに落ちるのを待つだけや
そんな山小屋の中とは別に、山小屋を遠くから見下ろすものが一人。
「ハックション!……寒っ……。はぁ……。こんな寒いなんて聞いてないわもうイライラする……。」
12月の27日、そして山小屋。まぁ寒いのは当たり前。
「見た感じ人はいるな。ちゃんとあの情報は正しかったと。」
そこにいたのは今日の朝頃、某所で会議を行っていたメンバーの一人。異少課のスパイ経由で手に入れた情報をもとにここにいる7名の子たちを殺害しようとしている。
とりあえず悪。そしてアンダス団のものである。
「ライトが消えるまで待つのかぁ……ハァクション!イライラする……。」
寒いのならば日を改めてほしい。中止にしてほしい。そうしてもらえば良かったのだが、その声はこいつには届くわけもなかった。
11時の何分か、
「さてと、写真も整理終了。やりたいことも終わったから、私も寝ようかね。明日の朝起きれなくなっちゃうわ。欲を言えば寝顔の盗撮したいけれど……そんなことしたら私のポリシーに反してしまうわね。」
最後まで起きていた露里が部屋の電気を消して、ベッドに横になった。
その様子を遠くから見ていたあの男、その男は今夜の計画をこれまで念入りに練っていた。
「よく考えてみると、ここにいるのは多分9人。流石に俺が普通に強い言ったって束になってかかられると普通に負ける。本当戦隊ヒーローの怪人には同情するわ。あんなの基本的に怪人1人を5人ほどのヒーローが襲いかかってる。卑怯じゃんあんなの。正義名乗ってさ。」
「だから寝ている間に殺るって卑怯な作戦考えたけどさ。よく考えたらそこそこにきついな、持ってるものだとどう使っても1人ずつ殺るしかない。だけれども、殺ったときに悲鳴出されて他のやつ起こす可能性あるな。リスクは軽減しといた方がいい。」
「そうだ。あいつらの武器奪っちゃえばいいんだ。奪うだけで起きるなんてことはないだろ。奪ってしまえば全員が束になって襲いかかったとして何も起きない。せいぜい少し鍛えた拳で殴る程度。完璧だな。」
少し時間は過ぎて
「ようやく部屋の電気消したか。流石に30分待っちゃ全員寝てるよな。イライラするな……。ま、重大な仕事だ。」
30分後
「zzz……。」
最後まで起きていた露里も普通に眠ってしまった。起きてていれば防げそうだったけど、普通に眠ってしまった
「さてと、行くか。」
そしてこの男が活動を始めた。
「ここの窓でやるか。」
正面は鍵がかかっており、裏口も鍵はかかっていた。まあここまでは予想通りだった模様。
持ち物の中からバーナーを取り出し、1階のみんなが寝ている部屋とは逆側の部屋の窓をバーナーで炙る。
そうすると、なんと数十秒で、ガラス窓が割れてしまった。しかも、大きな音も立てずに。
焼き破り、という泥棒の手口である。
そうすると一度男は離れ、2分ほどしてまた割れた窓のところへと戻る。
「よし、起きなかったな。ここで起きられたら面倒だったが。」
割ったガラス窓から窓の鍵を開け、そうして山小屋の中へと侵入した。
音を全く立てずに、山小屋の中を移動していく。手練としか言いようがない。持ってきた懐中電灯を頼りに、するすると移動していく。
この山小屋自体高価なものが置かれて入るのだがそれには目もくれずにその武器を盗みに行っている。職務に忠実とでも言おうか
(望遠鏡で覗いた感じ、人影はこっち側に固まっていた。そういうことだろ。)
女の子達が寝ている部屋へとどんどん進んでいき、ついにその部屋の廊下へと辿り着いた。
(誰もいないのか)
今いるのは繁の隣の部屋。そして、
(お、いるじゃないか。そして……これだな。)
繁の部屋に入る。繁は深い眠りに入っていてちょっとやそっとのことじゃ起きそうにない。
荷物入れの中に入っていた繁の銃を手にとって、それを自分のバッグの中へと入れた。
(まずは1つと)
そのまま隣の部屋へ隣の部屋へと入り、同じように盗む。
無駄のないテキパキとした動きで、時間もかけずに盗む。
1階で寝ていた蓮葉、露里、愛香、繁はもう盗まれてしまった。そして足を2階へと進めようとしてる。
(これは後で研究職の輩にでも渡しとくか。)
少し考え事をしながら、階段を音をたてずに1段1段上っていた。
「うぅ……寝たいのに……。」
次々と盗まれる中一人、起きていた人がいた!勿論その犯人の男のことじゃない。それとは別に。
数分ほど前、露里が寝てから窓が焼き破りされるまでの間に彼女、ブラッドは目を覚ましていた。
何で目を覚ましたかというと気配を察知したーだのそんな高等テクニックなんかじゃない。理由は単純明快、変な時間に目が覚めてしかも寝たいのに寝ようとしているのに全然寝れず枕とか布団の場所とかを変えたり色々と試すも全く効果がなくしかも何かをしてるわけでもないから時間が流れるのがめちゃくちゃ長く感じる現象である。
盗人は2階の部屋を右側から順に開けていく。2つの誰もいない部屋を確かめて、ついにブラッドが今いる部屋へと足を進める。
隣の部屋が開く音はブラッドにも聞こえていた。ただそんなもの興味がないというか誰かが部屋から出てトイレでも行ったんだろうというか今はそんなことより寝たいの一心で無視していた。でもそれでも、流石に今いる部屋の中に入ってきたら気付くはずだ。
(おっ。2部屋誰もいないからここじゃない別のところにいるのかとでも思ったが、たまたまだったということか。)
ブラッドが起きていると気づかずに、盗人は部屋の中に入ってきた。
部屋のドアが静かに開けられる。そして中へと入っていく。
ブラッドは毛布にくるまって目を瞑っていた。ブラッド自身寝ようとしていたので大きくも動かず静かにじっとしている。そのおかげが、実は起きていることには気が付かずに他の部屋と同じことをしようとしていた。
静かに行動しているとはいえ忍者ではない。流石に同じ部屋に入れば気付ける。
(ん?)
なんかガサガサというかなんというか、そんな音が聞こえる。しかも、近い?
「しゅぐうぇっ!誰!」
「っ!」
瞑ったままの目を開けて部屋の中を見ると、そこにいたのは知らない男。その事実に眠りかけの眼は朝日を浴びるよりも強制的に覚まさせられた。
寝転がっていたのに飛び上がって、声にならない叫びを上げた。こんなに叫んだことあるのかってぐらいの叫び。
(なんで起きてんだよイライラするってかそんなことどうでもいい!どうする?実力行使するか?いや今の叫びだと起きてくる。ここに来るのも時間の問題か?ギャンブルだな。)
こいつが考えてるように、他の子達もうるささに少しずつ起きかけていた。
「うぇっ!」
下から愛香の悲鳴が聞こえた。荒らされていることに気がついたのだろう。
(よし。逃げるか。誰かが来る前に。)
「あ、ちょっ!」
男はドアを全開に開けてすぐに逃げ出した。
泥棒かなんかだとブラッドは思っている。なんにせよ、逃げる前に捕まえなければ。
ブラッドが気がつくのが早かったからこの部屋は荒らされずに盗まれずに済んだ。そしてその盗まれなかった彼女の武器をすぐに手に取り、廊下へと急ぐ。
「下か!」
2階の廊下には誰もいない。下にいると思い、誰かを呼ぶのもせずに1階へと階段を走って降りていく。
「とうっ。くっ……。」
そのブラッドの予想とは違って、その男は隣の誰もいない部屋の中に逃げていた。そしてブラッドが2階の廊下を見ているときに窓を開けて飛び降り、体を傷ませながらも山小屋からどんどん離れていった。
「どこに行った!出てこい!」
投槍を構えて、山小屋の中にもういないあの男を探すブラッド。逃げられた可能性も考えながらも、あくまで可能性。隠れてるかもとすべての部屋の電気を付け、隠れられそうなところを調べている。
ブラッドにしては珍しく中二病の入ってない物言い。眠りそうになっていたときに急に起こされてすぐ今に至る。中二病モードに変化する暇もなかった。その前のほぼ無意識の眠りかけ状態のときの物言いが、そのまんま出ていた。
ブラッドがここまで怒ってるのは、ブラッドにしかわからない。最も、ブラッドにもわからないかもしれないが。
1階の部屋、愛香は先程のブラッドの叫びで寝ていたところを起きさせられた。その時は男を見て急激に目を覚ませられたブラッドとは違って割と寝ぼけ眼だったのだが、叫びが聞こえた2階へと行くときに荒らされた部屋を見ると、寝ぼけ眼ではいられなかった。
「うぇっ!」
2階に聞こえるほどの大きな声、ブラッドの叫びといい勝負、いやそれには負けるだろうか。
「どうするどうするどうする?」
こんな部屋が荒らされる-泥棒に入られることなんて愛香の人生で初めての経験である。どうすればいいのか分からずアタフタしていた。
「えっと、とりあえず盗まれたもの把握する?嫌でも先に警察呼んだほうがいい?」
心の考えが外に漏れていることにも気が付かないほどに、愛香は慌てていた。
2分ほど慌てたまま何をするべきか分からず何もできていなかったが、一旦誰かを呼ぼうと隣の繁の部屋へと行った。1人だけじゃどうにもならないと悟った。
「すぅ……。」
「そんな……。」
繁の部屋も同じように荒らされている。そんな事実に愛香は余計に何も考えられなくさせられた。
「あっ繁!起きて!」
今が何時だろうがどうでもいい。そもそも愛香はそれを知らない。
深い眠りでブラッドや愛香が叫んでも繁は起きずに寝ていた。そんな繁の体を強引に揺らして目覚めさせた。
「ごめん……もう朝?最近全然起きられなくて。」
「いやそれはいいから!そんなことより大事件起きてるから!ここ見て!」
「えっ?な、何があったの?地震?」
繁は自分の部屋の惨状に一瞬声を失う。地震であってほしかった。それならまだ……。
「地震じゃないと思うよ。私達の他誰も地震に気が付いてないみたいだし……。本当に地震だったら誰か気づいて起こしに来るはずでしょ。そして何より、鞄のチャックが開けられている。これきっと、泥棒だよ。」
「泥、棒。うん。」
泥棒の話はたまに聞いたことがある。前の世界でたまにお城から盗みを働こうとしたのがいた。大抵捕まっていたけど。被害に遭うのは初めて、どうしよう。
「どうしたらいいと思う?」
「とりあえず、みんな起こそう。あ、でも先に警察を呼ばないと。繁はみんな起こしてきて。」
「わかったよ。愛香。」
繁と愛香が部屋から出、愛香が警察を呼ぼうとスマホを取りに行くために一旦自分の部屋へと戻ろうとしていた。
「あ、何かあったの?」
廊下にて六道姉妹と出会った。彼女達はブラッドの声、そして愛香の声に驚いて愛香と同じくこの時間に目を覚ましていた。そして2人共ブラッドの声が聞こえたブラッドの部屋へといったらそこは誰もいなく、不思議に思いながらもう一つの悲鳴が聞こえた1階へと降りていた。
「あ、実は……。」
愛香は泥棒に入られたかもしれない。部屋が荒らされていた。といった内容をかいつまんで伝えた。
「泥棒に入られるなんて……。」
「大丈夫?怪我とかしてない?できることあったら力になるよ。」
優しい2人は泥棒の被害にあった2人のことを心配して、手伝いを申し出た。
「ありがとう。今から私は警察に電話するから。」
「姉さん。何すればいいかな。」
「漫画とかだったら、盗まれたものを確認するとかかな。でも現実の泥棒なんて遭ったことないから……。」
それから3人でまだ眠っている露里、蓮葉を起こしにいった。2つの部屋も同じようにあらされていて、その度に悲しい気持ちになっていった。特に自分は被害にあってなかった六道姉妹が。
「あ、スマホある!」
一方愛香は自分の部屋にて、まさかの鞄の中に入れてあったスマホが盗まれておらずあった。なんで盗まれてなかったのかとか今はいい。ロックを外し電話ボタンを押し110へと電話をかけた。
「あ、圏外……。」
しかしここは山小屋、悲しいことに圏外であった。電話は繋がらなかった。
「ないな本当に。盗まれたものは武器ってことで良さそうやな。」
「我が捕まえてれば……我がそのにわかの事に至極の応をできぬうちに雲隠れとは……卑怯な……。」
全員を起こして、山小屋の中を探し回っていたブラッドとも出会って、ブラッドから泥棒が来て捕まえようとしたが逃げられてしまったことなんかを聞いた。
ちなみにブラッドはようやく中二病モードへと戻った。少し経って頭が落ち着いたのと、他の人の前になるのが理由だった。割と逆なような気がするけど生粋の中二病のブラッドなら仕方ない。
それから泥棒がいないか探して、でもいなかったからもう逃げたという話になって、盗まれたものを確認していた。
盗まれたもの、それは私達がいつも使う武器だった。1階にいた4人の部屋から武器だけが盗まれていた。
「これだけが盗まれたとなるとかなりやばい状況やな。盗みの目的はこれやろ。そして何より、ウチ達がこの武器を持ってるって知ってたことやろ。」
「なんで私達が持ってるって分かったんだろう。」
「どこかの任務のシーンを隠し見たのかな。ありそう。」
そうなってしまうと考えようがない。任務回数はそこそこに多い。でもそれに覚えがあるかと言われたらない。
「盗んだってことは私達と敵対してるってことよね。でもそんなの……アンダス団が絡んでるの、あるかしら。」
「我も同意見なり。何も繋がらぬ1人もありうるとはいえ、わざわざこんな僻地まで到来するなると、ただの1人には思えぬ。」
結局どうなのかも分からない。今考えたところで結果なんて出なかった。
「一度帰ってこのこと伝えたほうが良くない?異少課にとってかなりの事件だよ。」
「私もパーティーやる予定だったけど、流石にこんなことになったら中止にしないといけないわ。早く帰りましょ。」
「帰るって、私の短剣が……。瞬間移動が……。」
「あっ。」
今忘れていたことが蘇った。そう、ここへ来るとき瞬間移動を使ってここまで来ていた。ここから街まで遠く歩いていくのは現実的でない。
割と状況は思った以上に深刻だった。
「……。」
最終的な結論として、若木さんの家族が、帰る日になっても帰ってこなかったら何かあったと来るだろうという結論で終わった。
私はなんか虚無感に陥っていた。泥棒に入られて一時的には気が立っていたが、それが終わって急激に気分が下がってた。
「私、返ってこなかったらどうなるんだろう。異少課……できないよね。そうだあの銃を使えば……でも1つだけ。博士に作ってもらうの頼んだって時間かかりそう……何より、数年前から使い続けてたあの短剣が……。」
愛香はどんどん下がっていった。
「愛香もやらないの?トランプ。」
リビングの方では露里、黒子、白子、繁の4人でトランプをしていた。少しでも気持ちが落ち着けばいいなと露里が提案していた。
「うん。」
特にあまり考えず、ただ繁が誘ってきたからそれに肯定した。何かを考える気力はあまり残っていなかった。
「そっちはなんかあった?」
「我の目を持ってしても、ただの自然にしかならぬ。痕跡は白き自然の結晶に依り虚空へと葬られた。」
蓮葉とブラッドの2人は雪の積もる寒い中、山小屋から外に出ていた。ここらへんは他に建物はなく、他に人が来るとは思えない。だから、泥棒の痕跡を見つけられるのではないかといったところだった。
特に足跡、ここは山小屋、山の中にある。この季節の山は深く雪が積もるものだった。
そんな積もった雪なら足跡が残っていてもいいものだが、事件が起きてからそこそこに時間が経っている関係で、降った雪に消されていた。
雪が降る中、洞窟の中に籠もるものがいた。
「しくじったな……イライラする……。」
その男は盗んだ4つもの武器をその場所に置き、ライターに火を灯していた。
「一度帰ったほうがいいのか?いやな……こんなチャンスは滅多に回ってこない。欲出るなこれ。俺が確かめた部屋は7個、1階と2階が同じ構造とすると行ってない部屋は3つ。1階は見た感じ他に部屋があるとは考えづらい。2階に部屋がある可能性はあるが、まああそこの10個ってのがいいとこだろう。となると、相部屋を考慮しなければ最大で3つ。」
懐から手帳とボールペンを取り出して、洞窟の壁に手帳を押し当てて今のことを書き始めた。綿密に考えている。
「最大で3つか……。最悪バレたとて強行突破できるな。だが一度入られている状況、素直に入らせてはくれないな。あぁもうイライラする。」
「もっと奥まで行けば、あの野郎の痕跡が……。」
「ちょっとちょっと、あんまり外いると風邪引くんや。戻ったほうがいいんやないか?」
「我に風邪など軟弱なものは効かぬ。それに、時が多く流れるのなら、その間にあの野郎は彼方へと逃走する。」
雪が降る中、まだ2人は泥棒の痕跡がないか探していた。
「ウチは心配なんや。なんでそこまで拘るんや。そりゃウチやって盗まれて気が気でないけれど、自分の武器盗まれてないんやろ?そこまで固執するのが疑問に思ったんや。」
「ならば、貴様は目の前で取り逃した、すぐ武器を構えてさえいれば捕まえられた。探すときにもっとよく探してれば捕まえられた。そんなやつを捕まえるのに固執するなと?我は誇り高き異少課、武器を使い魔族の脅威を打ち破る者、そんな我らが悪人に安々と大事なものを盗まれて終わりでいいとでも?」
怒るような、重たいような、よく言い表せられない言い方で、ブラッドはいった。いつもの中二病もほぼ出てない。その事実に自分自身は気がついていなかった。それほど怒りが籠もっていた。
「……そうやな。ごめんな。」
蓮葉の脳裏に、お嬢様が映っていた。
まぁまぁな時間探していた。ブラッドはよっぽど悔しくて怒りで、蓮葉はそんなブラッドの姿に感化されて。
「ちょっと、これ見てや!こんなとこウチらは来てない。つまり、そう言うことや。」
蓮葉はこの何もないただの雪原、誰も通らないような場所。そんな場所にあるはずのないものを見つけた。泥棒の、皆を傷つけた元凶の痕跡。足跡だ。
「奇遇にも我も同じ考えを持つなり、良くやったぞ勇敢な者よ。」
「勇敢って訳やないけどな。それより、早う追いかけないといけんのやないか?また消えるかもしれんのやぞ。」
「あぁ。我の目から逃れられると思うな。我ら異少課を侮辱してただで済むと思うな。」
怒りのこもった声でそう放ち、そのことを聞いた蓮葉は声に出して応答するといったわけではなかったがコクリと頷いていた。
足跡がある方向へと、辿っていく。足跡は山小屋のある方向とは反対方向へと向かっていく。この先にやつがいる。
「この槍が悪を貫く」
ブラッドは泥棒に盗まれずに済んだ自分の投槍を両手で持っていた。いつおきてもいいように。
「今思ったんやけど皆に伝えてからのほうが良くないか?2人で捕まえるのは割とキツないか?」
「問題ない。と言いたいところだが念には念をだ。一番駄目なのは見つけたものの逃がすのを許すことだ。我はそんなことになるなら自分が許せぬ。他の者の力を借りてでも捕まえる。皆を呼びに行ってこい。」
「呼びに行ってこいって、一緒に一度戻るんやないんか?」
蓮葉はそう考えていたが、ブラッドの考えは違った。
「我は先に進む。今は一刻の時間さえ惜しい。いつ逃げられるかなど分かったものじゃあない。姿を目視し、逃げるなんて愚かな真似をしないかを見張る役割が必要であろう。2人で帰るなど、全く持って得策とは言えぬ。」
「なるほどなぁ。よし、ウチに任せとき。すぐに皆を呼んでお前を追いかけてやるんや。本当、無茶だけはするんやないぞ。」
「我は人に言われなくとも我のことを知っておる。」
「あそこか。」
足跡を辿っていたブラッドは少し遠くに洞窟を見つけた。視認できる足跡はその洞窟へと向かっている。遠くの足跡まで見えるわけじゃあないがブラッドはそこの洞窟にいるとほぼ確定した。
洞窟内がほのかに明るい、火を焚いてるかのように。
「簡単には逃さんぞ。我の手によって成敗してやろうぞ。正義の鉄槌を下そう。」
ブラッドはどんどん洞窟の近くへと進んでいった。
洞窟の入口のすぐ近くにて、ブラッドはバレないよう顔をあまり出さないように、岩の隙間から洞窟内を覗いていた。
「あぁもうイライラする……。」
(人はいるな。あれが我らを襲った盗人に違いない。)
今にもぶっ飛ばして縛り上げて盗んだものを奪い返したかったが、そんな自分をぐっとこらえた。
(まだだ。我はまだ言ってはならぬ。二度と失敗などという恥を見せてはならぬ。もうじき援軍が我の元へと馳せ参じる。それまではしばらくの待ちとしよう。)
「やはりあと3つを確実に奪うなら……。そうか、いい方法があるじゃないか。人質を取ればいいんだ。あの正義感の塊みたいなやつらは、人質を使えば簡単に言うことを飲む。武器を取り上げて、そこで全員殺す。……不備はないな。」
あまりにも胸糞悪い。ここは現実、フィクションではない。
(っ……。)
そのまんまブラッドはずっと見ていた。腸が煮えくり返るような思いが強く湧き上がりながら見ていた。
「本当に我が正義の鉄槌を下さねばならぬな。」
キレかけている。ブラッドは槍を掴む手の握る力がかなり強くなっていた。
(今の声、誰かいるな。聞こえたのは一人、だが正確な人数は不明と……。状況から推測するにあっちの奴らだろうな。あぁイライラする……。)
ブラッドが少し出してしまった声、ブラッド自身はそのことに気がついていなかったが、運のないことにそいつは気づいていた。ブラッドはバレていると気がついていないが本当は気づかれている。状況的にはきつい。
(隠れてるな……このまま外に出るのは駄目だな。他に仲間いたら簡単にボコられる。先手を取るか?いやそれも変わらないな。人数不利をどうにかすることはできない。幸いあっちからは動こうとはしてこない。そもそも何人なのかもわからないのはきついな……。そうだ。この洞窟を使えばいい。入り組んだ洞窟を使って一瞬見失わさせてそのスキに敵の人数を探るとするか。)
今は1人しかいないから何とかなっている。どうかまだバレませんように。蓮葉が連れてくるまでは。
(奥へと移るか。洞窟を抜けて柵のない自由な世界へと羽ばたこうというのか。そんなことをされたら終わる。羽ばたく前に捕まえて贖罪の檻に入れなければ。)
ブラッドはその男の策略にまんまと引っかかってしまう。
(1人だけか。拍子抜けだが好都合だ。こいつさえ倒してしまえばいい。)
(ここからじゃ奴が見えぬ。もう少し近う寄るとするか。)
ブラッドがバレないように音を殺してそうして男の近くに来た途端。
「うぁっ!」
「まぁ持ってるだろうなとは思ったがやはり持ってたか。サクッと終わらせるか。」
冷たい目でブラッドのことを男は見ていた。男に慈悲なんてものはない。打ちのめすことに対する抵抗もない。
大きなハンマーを持って男はブラッドへと近づく。先程の奇襲攻撃は偶々場所が少しズレて直撃を免れたものの、見た感じ1撃喰らうだけで結構やばそうな代物である。
「っぁ……。バレてたの……。」
倒れて地面を転がりながらもすぐに立ち上がり、距離を取る。
「さあ爆破しろ!光を纏いし槍よ!」
今にも逃げようかとも考えたが逃げたところで大の大人の脚力に勝てるなんて思えはしない。ここで勝負付けるしか……。
遠くからブラッドの武器の力『光槍』で攻撃していく。遠距離攻撃だったのが幸いで敵にもろに刺さりそうだった。
逃げも隠れるのも難しい洞窟内。爆発による広い範囲攻撃。条件はかなり好都合だった。
「痛いな……。明日も仕事あるんだぞイライラする……。」
「仕事なんて行かさせない。警察の厄介になれ。悪いことをしたならそれ相応の罪と罰を受けろ。」
大きなハンマーだからか動きは遅い。これはいけそうとブラッドが感じ始めて、ちょっぴり油断し始めていた。
(駄目駄目!全力でやらないと。油断したものは皆すぐやられてるんだから!)
でもそれに気がついて、自ら自らを奮い立たせて、油断なんかしないようにしていく。
「やらかしたな……。」
走って近づいてくるものの光槍によって一時的に止め、そしてその間に後退する。といった行動を3回ほど繰り返し、今洞窟から外へと出たところである。積もった雪に足を取られないように気をつけないと……。
今のところ、そいつから攻撃を最初以外一度も受けていない。何だかいつもとは違う感じがする。防御はするものの攻撃をしない……できない……。
「まだ来ないのかな。」
ここに着いてからまぁまぁ時間が経っているような気はするが、まだ蓮葉達は来ていなかった。まあこの調子なら私だけでもだi
「獄炎。」
「は?え?熱い熱い熱い!」
今まで使ってこなかったのに武器の力を使ってきた。しかもかなり強い。
周りに6本の火柱が立ち、その火柱を源として中心にいるブラッドのところへと火が流れるかのように移動していった。
「熱い熱い熱い!誰か!水!」
火が自分の真下から出てくるあまりの熱さ、その痛みは耐え難いほど。
そんな様子を、笑い声は出さないものの悪い笑みを浮かべてその男はブラッドを見ていた。
「ヒィヒィ……何とか消せた……。」
「今まで使ってこなかったなら終わるまで使わずにいれ!」
「うるせぇ仕方ねえだろあんな密閉空間であの大きさの火使ったら事故るんだよ。これでカタつけようと思ったらこのことに気がつくし……あぁイライラする……。」
「で?何で我らから力の根源を盗むなどした?ただの泥棒じゃあなかろう。」
今までは力の許す限りドンドンとやってきたけど、あの攻撃を見てしまうと策を変えざるを得ない。
あれはハンマーによる近接攻撃しかないと思いこんでいたからやれたのだ。よくよく考えたらそれ自体愚かなものだ。あの見た目からして、工具店で買ったようなハンマーでないことぐらい分かっていたであろう。それならば我らの武器と同じく、異界より流れしものに違いない。
ならば、我らと同じく力が使えるのだ。力に多様あり、全く持って使えないものもあり、とはいったものの、使わなかったからと言って考えない理由にはならない。
「お前話しづらいな。」
どんどんと近づいて来る。今のところ何とかなってるとはいえ次にあの力を使うものなら、流石の我でも終わるかもしれない。
ならば我がするべきは一つ。できるだけ引き伸ばし、援を待つ。我がここにいる限り、逃げようとはしないだろう。逃げるものなら我の光槍が背中を貫く。
「何で盗んだって聞いてる。」
「イライラするな……。意味のない説明ってのは。手塩にかけて育てたやつを奪われる程だ。」
「さあ爆破しろ!光を纏いし槍よ!」
「あぁイライラする……。」
それか次使われる前に倒すか。ただそこそこに投げるのにあまり攻撃をくらったように見えぬ。防衛のためになんか付けてる可能性がある。
どちらにせよ、あまり効果があるようには見えぬ。
「そもそも何でここにいることを知ってる?ここに来ることをお前に伝えた覚えはない。」
「誰が言うかよ。」
「ほらっ……あそこ!ってもう始まっとる!?」
「姉さん。私行くよ。」
「うん。私はバレないように後ろから回り込むから。あともしできたら盗まれた武器探してくる。だから、お願いね。」
少し離れたところにて、ついに蓮葉が呼んできた子達が来た。蓮葉は他の子たちよりもかなり息を切らしている。走って帰って、そしてここまで来たんだ。息ぐらい切れる。
「私達も行かなきゃ。」
「やめたほうがいいわよ。武器がない私達なんて敵うはずないわ。足手まといにしかならないわ。」
「そや。ウチらにできることはバレないような位置で応援することだけや。もし、武器が見つかったんなら話は別やけど、そうにしろそれまではここで待機や。」
露里・蓮葉は今の状況をちゃんと見て、行こうとする愛香を無理やりにでも手で掴んで止める。今までの経験から、何だかもう学んでしまったそう。危険だと。どうしようもないと。
「皆……。」
止められる愛香を横に、繁は何を考えればいいのかわからなくなっていた。できるのはただ目の前で起きる戦いを眺めることぐらいだった。
「獄炎」
「ゴホッゴホッ……熱い熱い熱い!」
2回目のそれ。さっきと同じ嫌な痛み。焼ける痛み。さっきの攻撃よりも痛い。当たりどころが多分……。
「ちょっと!お願い!」
何か聞こえる。炎の音の中に微かに聞こえる。
「えっ!……はぁっ……消えた?」
何があったのかはあまり分からない。ただ少しの急激な寒さが起きて、そして火が全部消えた。
「ありがとうございます。一人で戦ってて……これからは、私も戦います!覚悟しててください。」
「来ちゃったか……イライラする……。」
ようやく来たんだ。少し遠くを眺めると、皆がそこにいた。
「さぁ……我らの力とくと見よ!」
力一杯そいつに向けて放った。
「行くよ!」
1人が2人になると、精神的にもぐっといける感が増す。単純に攻撃性能が2倍、HPも2倍。その他色々。
「あいつ、あのハンマーが強いけど移動速度は雑魚に等しい。だかたまに必殺技の要領で獄炎っていうめちゃめちゃ強い技打ってくる。」
「分かりました。やりますね!」
黒子は自分の武器、パチンコで攻撃をする。パチンコが着弾すると、その場所に寒い雪が降りしきる。
さっきブラッドの周りの火を消したのと同じ技である。これは属性的有利が働いていた。
火の大技ぐらいしか攻撃手段が今のところない。そしてそれはこちらの力で消すことができる。
強いと確信した。
「ここまでくると流石に、避けてないときついなイライラする……。」
相手も今までと違って避け始めた。といっても少しは当たってる。少しずつ削っていって持久戦に持ち込めば行けそうだ。
「獄炎。」
「熱い……ですけど!」
3度目の獄炎。打とうとするのと同時にパチンコを地面に打って、火を雪で相殺する。
「やっぱり、できた!」
「我から賞状をも与えようぞ!」
2人とも勝てそうって気分になってきた。このまま行けそう!
(これはかなり相性が悪いな。どうする?ゴリ押しで近づくか?いや駄目だ。近づくこうと思えば近づけるがその後の戦い用の体力が残らないな。となるとこれ以上戦うこと自体まずいな。逃げたほうがいいな。体ボロボロだが逃げ切れるか?少なくとも武器に関しては無理だな。あの袋小路に入ったら今度こそ詰む。攻撃できない時点で詰む。欲かいて失敗したなこれは始末書ものだな。)
相手もただ単にやられようとはしない。往生際が悪い。
相性の関係もあって戦いを続けることよりもどうやってこの場から離れるかを考えていた。
(運に頼るのは好きじゃないんだよな……。)
その場の状況はそいつにとってはかなり悪い。かと言っても逃げるのもきつそうではあった。
走って逃げれば大人なんだし女子ふたりに勝てるのでは?なんて思ったりもしたようだがそれもかなり分が悪い。遠距離持ちの敵に背中を見せること。自分の脚力が高いわけではないこと。雪で動きづらいこと、全てからしてあんまりと感じていたようだ。
戦闘に関してはかなり知恵が回るみたいだ。だからといっていいもんは浮かんでない。知恵なんてそんなもんだった。
(仕方ないなこれは。確実を求めたところで何も変わらない。攻撃くらって体力減って終わるだけ。それなら期待値的に考えて一か八かに出た方がいい。ここから車が止められているところまで4,500m。車に乗ってもエンジンかかる前に攻撃される。そこに行くまでにそんなに振り放すのは無茶だ。)
冷静に分析していた。ボロボロの身体で冷静に考えられるのは凄いと思う。何でこういう強い能力を持つやつは大抵ろくな性格してないんだろうか。
(そうだ。地形を活かせ。見失わさせて、近づかせて、不意打ちで戦闘不能にする。これしかないんだ。)
(あの雪のやつで若干視界を遮れる。獄炎を同じタイミングでやって……。)
「なかなかしぶとい……。もういい加減諦めてよ!」
何度目か分からないパチンコをその男へと打った。
「獄炎。」
そのタイミングで獄炎を使ってくる。
「熱っ…」
「はい。これで消火……あっ、いつの間に!」
「追うぞ。我を怒らせといて我から逃げれるなどと思うな。」
消火活動をさせたり雪で視界が若干悪くなったりしているスキを狙って敵のいる真反対の方向へと逃げていった。近くの岩や山の縁を使って視界を遮るように逃げている。
「爆破しろ!光を纏いし槍よ!」
逃さないよう、ブラッドが逃げようとする方向に槍を投げるも、それすらお構いなしに逃げていく。今どこにいるのかも見えない。あの岩の奥を逃げてるはず。
走って追いかけた。悪いことをして普通と同じ生活をするなんてことがないように。
その男は岩陰から息を殺してその機会を伺っていた。これを外したら最後なんだなとは考えていた。
場所的に同じ作戦を使える場所はない。開けた一本道。
「誰が逃がすかっ!」
「はぁ……はぁ……。」
(一人は息が切れてる。もう一人の方を不意打ちで殺すまでは行かなくても気絶させれば、いける。頭を狙うんだ。頭に当てるんだ。慎重に、丁寧に、確実に、一度で終わらせるんだ。)
無用心に、策に乗せられているとも知らずに、ブラッドはその曲がり角を曲がった。
「ふっ!!」
ハンマーを振りかぶって待機していた男は、狙いを寸分も狂わすことなくブラッドの脳天へと強いハンマーの打撃を与えた。
「がはっ!っっ……。」
一瞬何が起きたか分からなかった。右へと曲がったと思ったら目の前が真っ暗になって、感じたことがないほどの痛みを感じて、前を見ていた視線はいつの間にか虚ろに空を向いて、目の前が白くなって……。
「いや、駄目だ。欲張るな。捕まるなどあってはならぬ、」
目の前でその男が喋る言葉も、途中から何も聞こえなかった。そこで意識がプツリと切れた。
「ブラッドさん?ブラッドさん!」
目の前でブラッドさんが倒れた。走るのが速いブラッドさんを後ろから追いかけていたら、倒れた。
1,2秒ほどしてブラッドさんのところへ駆け寄って、呼びかけてみる。何をすれば?倒れている人を見つけたら何をすればいいんだったっけ?
保険で習ったのに、思い出せない。さ
「ブラッドさん、大丈夫?」
必死に聞かせる。何か反応を見せて。痛くても口元を少しでも動かして。
普通に倒れたのなら2,30秒も経てば起き上がるだろうが、ブラッドは起き上がろうとすらしなかった。できなかった。
「ブラッドさん!」
「ど、どうすれば……皆を呼んでくる。」
「お願い!なるべく早く!助けてあげて!」
ブラッドが倒れた場所では、様子見をしていた繁もブラッドのそばに来て二人でアタフタしていた。
どっちも応急処置とかの知識がなかった。何が最善とかも全くわからない。
こんなことをしている間にあの男はもう逃げてしまっていた。許さない。
倒れたブラッドに気を取られて、そっちの対応をしている間に見えない位置へと行っていた。
場所は変わって、元々男がいてブラッドが隠れながら様子を窺っていたあの洞窟内部。
「あ、あった!良かった……。取り返せたよ。取り返せたよ。本当、良かった……。」白子は少し安堵して、でも現実へとすぐに戻る。
「早く皆のもとに戻らないと……。あ、でもバレないようにしないと……。」
「とりあえず洞窟を出て……うんしょ。あれ?黒子は?どこ?」
ここにさっきまで戦ってたよね、どこに行ったんだろう……。大丈夫だよね?
「うん。まずはこれを届けてから。だね。」
黒子のことは心配だけど……今はこれを届けることを優先しなきゃ。今やっても何も変わらないし、何より私は異少課、警察官なんだから。
もしかしたら見えない位置にいるんじゃ……とも思ったけど、でもやっぱりいなさそう。
「白子ちゃん!それ……」
「全部ありました!」
皆取り返せてよかったって安堵したり、嬉しそうにしたり、早く手伝わないととしてたり……皆色々な感情をしていた。
「ありがとうな。さて、こんなことした野郎においたをせんといかんな。」
「小さい子達を曇らして、ちょっと報わせないといけないわね。」
それぞれの武器を皆に返す。そして私はいつものクロスボウを手に持つ。
「そうだ。黒子は?黒子あそこで戦ってましたよね?どこに行ったんですか?」
「落ち着いて落ち着いて。今はあっちにいるから。今繁がそこら辺にいるから、この足跡辿っていったらいるよ。」
「急遽逃げたのよ。それを追って2人共あっちの奥へと場所をずらしたのよ。」
「あ、そうなんですね。良かった……。」
白子はほっと胸をなでおろした。
「さあ、黒子の元へと行かないと!」
「ブラッド無茶するなって言ったんやがな。ちょっと怒らんといけんかもな。」
「かわいい女の子に戦いを任せて私だけ後ろなのは嫌なの。かわいい子を守るのが、年長者の役目なのよ。皆の姿を目に焼き付けるわね。」
「絶対にやっつけましょう!」
それぞれの決意を口に出して、繁が作った足跡を辿っていく。
気がついたら、我の面前には見知らぬ天井が広がっていた。
「あぁ、患者さん目を覚ましました!」
「ブラッド、ブラッド……良かった……。」
「……ここはどこだ?我には分からぬ。」
「ふっ。その口調、大丈夫そうやな。医者の方も後遺症とかは残らないだろうって言うとったやけど、やっぱり気になっとったからな。」
我の脳髄に宿りし記憶を蘇らす。あの野郎と戦ってて……。……あぁ。
「ここは病院なる場所か?」
「あ、すみません話したいのも山々でしょうけど先に検査だけさせてもらえませんか?起きてないとできない検査があるので……。」
「あ、ごめんな。」
聞きたいことも山ほどあるが、時が分かつのならばその流れに見を埋めなければいけない。
「幸い大きな後遺症もなかったので、今日中か明日かには退院できますよ。」
検査は1時間ほどで終わり、また無機質な部屋へと戻る。病院であることだけは確実なものであった。
「お疲れ様やな。」
「まだいたのか。何故いる。1時間もここに留まる必要など無かろうに。」
「色々と分からないことあるやろ?説明せんといけん思っただけや。」
ふーん……。
「まあ良い、説明するのを了承する。」
「まあどこまで覚えとる?」
「我が倒れたところまでだな。追いかけていたら我ほどのものが不覚を取り、倒されて頭を雪に埋めることとなった。」
「その後、武器が見つかってウチ達も加勢しよとしたら倒れてるのを見つけてな。危険な状態やったからとりあえず病院に瞬間移動してな、それから少しあって今こうなるってことや。そや、お金の問題ならあのお金持ちのお嬢様が建て替えたってことらしいから安心してええんやと。」
「武器見つかったんだ……良かった。」
そのブラッドの顔はかつてないほど安堵していた
「ところで、あの男はどうなった?」
妙な嫌な予感を感じる。触れてはいけないパンドラの箱かもしれぬ。たとえそれでも、我にはその箱を開く義務がある。
「……。」
数秒の沈黙。黙って言葉というコミュニケーション手段を介さずに伝えているように見えてしまう。
「覚悟はできている。」
「逃げたらしいんや。目の前で襲われたブラッドの対応してたら、もう見えない位置にいたらしいんや。ブラッドを病院に送り届けてるときにもしかしたらと思い近くの探索を少ししてたらしいんやが、見つからなかったって報告や。」
「……そうか。」
我が、不注意に飛び出してなければ、少し壁から遠くを動いていれば、違う結末だったんだろう。
「違ったらごめんやけど、落ち込んでるんやろ?落ち込むぐらいやったら、次にどうするか考えろや。落ち込んで自分を責めたってなんにもならん。責任から逃げないことも大事や。やけどな、責任に囚われないことも大事なんや。」
蓮葉は半分ブラッドに、半分過去の自分に伝えている、その言葉を呟いた。
「ふん。我が落ち込むなどするものか。まあ、教訓として我の心に刻んでやるとしよう。」
「本当、大丈夫そうで良かった……。」
「目の前で倒れて心配してました。」
一緒にいた異少課の子たちがそこそこに見舞いに来る。結構皆ブラッドのことを心配していたのだ。優しい子達である。
「……ところで、帰らぬのか?」
「あぁ、あとで帰るよ。」
「……そうではなくな。我が目覚めたときにいて、1時間ほどの検査後にもいて、今もいて……暇なのか?何故そこまで我に固執するのだ?我と関わったことなどほぼないだろうに。」
純粋に気になっていたことをブラッドは口にした。
「……何なんやろね。なんかほっとけないんや。色々と。」
「そうか。」
蓮葉は性格がいい。面倒見が良いというか……。でも、なんかそれとはなんか違うことが働いているような感じがした。
その理由は蓮葉自身にもわからない。半ば無意識に動く感情だった。
「今回は本当にやらかしたな……イライラする……。」
「なんかメール来てるな。」
時間は皆が倒れたブラッドをどうするべきか話していた頃、そこそこ離れたコンビニの駐車場に止まる一台の車の運転席にて。
「え?あぁ。なるほど。」
メールには、俺は電話番号を持ってないから伝えてほしい。至急。といった感じの言葉が書かれていた。
メールを読んで、とある人に電話をかける。
「もしもし。俺だ。それはいい。で、そっちに異少課の奴らが向かってるそうだ。大事な書類は全て燃やせ。そしてさっさとそこを捨てて逃げろ。……確実を取ったほうがいいだろ。そこの拠点がなくなるのは惜しいが……致し方あるまい。」
何やら別の場所でも、事件が起きているようだった。
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