第21章 輝きと影の文化祭

10月、少し肌寒くなってきた今日この頃。

最近は任務が少なく、平和に過ごしていました。

「そういや最近ちょうどいい気温ですね。」

「分かる。秋真っ盛りっていうか。もうちょっとこの心地いい気温が続いててほしいなあって。」

「暦上は9月から秋だけど、実際のところ暑いんだよなぁ。」

平和が続いているので、こんなにのんびりしています。現在凪繁が近くのチェーン店でちょっと食べてるみたいで、ここには初期勢の3人がいます。

アンダス団の情報が最近全然出てないけど、もし無くなったのならそれはそれでいいかなと。そっちのほうが平和だし。俺的には逃げられたとか、復讐できなかったとか、そういうもどかしい気持ちもあるにはあるけど、やっぱり平和が一番。

「本当お願いあるんだけどいる!?」

のんびりしていると、扉を激しくノックする音と声が聞こえた。確かこの声は……

「川崎さん。お久しぶりですね。」


とりあえず座ってもらって、話したいことがあるらしいので話してもらう。この感じ、なんか嫌な、大事が起きるような、そんな感じがしていた。

「それで、どうかしたんですか?川崎さん?そういえば山井さんはいないんですね。」

「個人的な用だから純様をわざわざ呼びたくなくてね。でそれでお願いがあってみんなに頼みに来たの。他の人達にも頼もうとしたんだけどなんでか時間的に無理やら他にしたいことがあるやらで全員に断られてね。それでまだ頼んでない人誰かなと思ってたらここに来たんだ。」

あれ、なんかさっきの嫌な予感なんか外れそう。他の人にお願いしたってことは魔族関係とは別のことのはず。

「川崎さんとか山井さんとかには結構世話にみんななってるしな。鍛錬のときとか悪夢のときとか。めっちゃ変なやつとかじゃなかったら受けるよみんな。」

「ありがとう。それで頼みたいことなんだけど、近頃……今週の土曜日に私が通ってる光幸高校で文化祭があるの。それで、みんなにカメラ渡すから、2時から始まる純様が入ってる演劇部の演劇『ロミオとジュリエット』をとりあえず全部録画してほしいの。お願い。」

俺達より年上だというのに頭を下げてお願いしている。初対面の時から山井さんLOVEを見せつけてきたけど、俺達の友情とかを超えたもっと密接な関係。尊敬とか相棒とかの関係なんだろうなと感じてしまう。

あと、最初の予想は大外れで全くもって大事じゃなかった。本当に個人的な理由だった。

「私達に頼むってことは、川崎さん自身でやるのは無理ってことですか?」

「本当そうなの。私としても見たいよ生で。ほら、スポーツとかって後で放送されるけど生で楽しみたいじゃん。あれだよあれ。なんだけどね、その時私の新聞部の展示の仕事が入ってるの。変わってもらおうにもみんなクラスの出し物や大会の練習でその時間私しかできなくてね。本当神様呪いたい。」

「ああ、それはまあ、ご愁傷様です。」

いい言葉は全く思いつかなかった。


「まあ今週の土曜なら俺はいいですけど。」

「俺も。というか基本的に土日は暇してるし。」

「私もその日なら大丈夫かな。文化祭とか楽しそうっ。」

「おぅ……一人で良かったんだけど……ま、ありがとう。じゃあその日の1時半らへんに新聞部の展示場所に来て。その時にスマホ渡すから。ちゃんと撮ってね。手ブレとかやめてね。」

その後、高校の場所とか色々な情報を話した。まあでも最終的にホームページ見てといって終わった。

「じゃあね〜。またなんか依頼したいことあったら事務所の方まで来てね〜。探偵といっても結構色々な依頼受けてるからね〜。」

カメラで撮ってくれる人を見つけた喜びが仕草に表れている。ルンルンルンと上機嫌に部屋を去っていった。

「久しぶりにあったと思ったらこんなこと頼まれるとはね。」

「繁や凪先輩にも伝えますか?」

「あぁ流石に伝えとくよ。凪には登校時普通に会えるし。あ、てか今思い出したけど、凪多分来ると思う。学校で高校の文化祭のチラシ見て、凪が繁と行こうかなって考えてたときあったんだけど、その高校名が確かこの光幸高校になってたはず。」

「あ、じゃあいつもの5人で楽しめそうですね。」

「良かったですね。師匠。」

まあ人は多いほうがいいと思うし良かったのかもな。3人で回るのが嫌なわけじゃないけど、どうせなら5人出回りたいなぁって。


「ってなことがあったんだけど。」

「昨日そんなことが。てか光幸高校って俺が繁と行こうとしていたところじゃん。」

次の日の登校時、いつも学校に一緒に行っているので会うのは簡単だった。昨日起きたことを凪に伝えておいた。

「それなら俺がやろうか?俺と繁は普通に行くしそのついでにカメラで演劇を録画するぐらいやるぞ?」

「まあそうなんだけど、どうせならみんなで行こうかなってね。翔も5人で楽しめそうって言ってたし、愛香も文化祭楽しそうにしてたし、かくいう俺もそれなら行こうかなと考えてたところだし。」

他4人が行くなら俺もなんか行きたくなる。なんかそういうのあるよね。仲間はずれにされたくないとかそういうやつ。

「じゃあ、後で繁にも伝えとくよ。」

「よしっと。」


放課後、二人が暮らす家にて

「そうだ繁、今週の土曜日の文化祭だけど」

「何?」

繁は本を読む手を止めて凪の方へ体を向ける。

「実は斯々然々で、みんなと一緒に行くことになったけどどう?」

「いいよー。それにしてもわざわざ頼むってよっぽど川崎さんは山井さんの演劇見たいんだろうね。」

「俺が繁のことをずっと見ていたいってのと同じ感じだよ。」

ちょっと言い方がまずい気もするが繁は全くもっておかしいと思っていなかったので問題はない。


一方、場所は光幸高校の体育館へと変わる。

「じゃあねー解散!」

純は部活動を終えて、帰路についていた。

「そういや純って誰か見に来るの?私お母さん達が来ないでって言っても見に来るらしくて……恥ずかしいんだよね。」

「私……誰も見には来ないな。親とかもいないから。」

「そっか純の親って遠く住んでるんだっけ。あれ、でも恋ちゃんは?恋ちゃんは見に来るんじゃない?いつも純と恋ちゃん一緒にいるイメージあるもん!」

「恋も無理らしいぞ。部活の展示が時間被ってるんだと。」

「そっかぁ残念。なんか、見られたくないけど見てほしいっていう、なんかモヤモヤする気持ちあるよね。」

そもそも見られたくないとは思わない純には、あまり伝わらなかったようだ。


高校の正門前には第17回光幸高校文化祭と書かれた看板が置かれている。正門から見える場所にも屋台がちらほらと見える。

「パンフレットどうぞ。」

受付でパンフレットを受け取って、とりあえず学校の校舎内へと入った。この高校は中心部にある偏差値がそれなりに高めの普通の高校って感じでその分生徒数、クラス数が多い模様。その上多分全ての部活動が一つのものを開いていて、そのせいでかなり多くの出店?屋台?まあそういうやつがあるようだ。これは楽しくなりそう。

「まあとりあえず昼にしませんか?これ以上経つと混みますよ多分。」

「賛成。」

「いやでもこういうのって美味しさそこそこ量そんなに多くないのに割高だからなぁ。」

「そういうこと思っても言っちゃだめだって。あと、こういうのって割高でもなんか特別感を味わう的ななんかそんなやつになりがちじゃん。海行ったとき海の家の焼きそば食べたくなるあの現象。」

伝われ。


「2階で選挙メイド喫茶『選当』やっていまーす!ぜひ来てくださいー!」

「家庭科室で天使執事喫茶『天昇』やっています。他より安く提供してますよー!」

「デスゲーム系カフェテリア『鬱』現在空いてますよー!」

集客のために看板もって歩いている人たちの声が聞こえる。ザ・文化祭って感じがしてなんかいい

「この3つかな。異世界系コーヒーショップの『冥土』はドリンク専門って感じみたいだか。それか外の水泳部の屋台で焼きそば買うか。」

高校の敷地内、文化祭に参加して昼を食べるとなるとそこらへんだろう。いやどれも個性的すぎやしないか?どんな店だよ全部。

「私は抹茶があるらしいから選当行きたいかな。」

「俺も。生にメイドさんを見るのはたまんなさそう……ウヘヘッ。」

「おい大丈夫か?すっごい下心ないか?」

翔め……。いやあのメイドを生で見るのに必死になるのはいいとしても、それは隠そうとしようよ。なんだ?ここではどうせもうバレているから隠すのも無駄ってことか?そうだけど見てる側のこと考えてほしいな。

「俺と繁は基本どこでもいいぞ?」

「俺も。」

「じゃあ決まりですね。行きましょう選当に。行くにはそこの階段で3階に行く必要あるっぽいですよ。」

抹茶食べれるからかなんか気分いいな。てか最近抹茶好き愛香を見てなかった気がする。なんかこれを久しぶりに感じた。


「えーっとここかな。その選挙メイド喫茶って。」

選挙メイド喫茶なる全くもってよくわからないジャンル。ふと気になって本当にそんなのがあるのかネット検索したけど全くもってちゃんとヒットしなかった。

「メニュー表は普通だな。若干外で食べるより高い感は否めないけど。」

外の看板に書いてあるメニュー表はメニューの数や値段の違いはあれどもそこはまだ普通だった。

どんなことが起きるのだろうと気になりながら、彩られた喫茶へと入っていった。


「ごめん純お客様が来たから対応して。私今片付けで手が離せないから。」

「分かった。」


「私達の演説へようこそいらっしゃいました。本日は演説をお聞きなさってくださi」

純は目の前の人をふと見る。そして固まる。

今来た客の顔を見たことがある。うん。2度見したけど勘違いなんかじゃない。異少課の子たちだ。

いやなんでここにいる?偶然か?なんかこの子たちのことだし文化祭のチラシをどこかで見て何となく行こうってなってもおかしくない。

とはいえ……やはり必然なのではないか?誰かが仕組んだ可能性。恋か?理由は分からないが恋が私がシフト入っているときに入って何かしてほしいって頼んでいたとしたとした可能性。これだな。後で恋を問い詰めるか。

「あ、こちらのお席にどうぞ……。」

よし逃げよう。演劇しているときならともかくこれしているのはあまり見られたくない。

わざわざ追い打ちかけては来ないはずだ。

「なんか演説って、選挙喫茶ってそういう感じだったんだな。」

「なんかさっきの人聞いたことある声じゃなかったですか?」

「そうか?少なくとも俺は聞いた覚えなかったけど。」

「メイド服っていうんだっけ?あの服可愛かったなぁ……。」

「じゃあ繁作ろっか?頑張りゃあれぐらいなら作れそうだし。」

元忍者だからか愛香がちょっと感じたけど、他の4人は全くもってさっきの彼女が純だと気がついていなかった。愛香も少し気にはなったが翔とかに気の所為と言われ勘違いかなと思っていた。接客用の高い声だったし、こんなメイド服をいつもクールな探偵の純が着ているところを想像できなかったこともあるだろう。

だから、純は気に病む必要は今のところなかった。だが、純はそのことを知らない。

「料理どれにする?」

「これ知らないな。これにしよう。」

「抹茶のスイーツは確だから……。」

メニュー表を手に、色々と見て楽しんでいた。

「ごめん私先生探して物取りに行ってくる。純接客任せた!」

「あ、ちょっと。」

なんでこんなことになるのか。やっぱり何かおかしいと感じていた。

実際は本当にたまたまだったのだけれども。


「もはや誰か仕組んでんだろこれ。」

私がこの子達の接客をしなければならない状況に否応無しになってしまっている。しかも私はやりたいとは思ってない。むしろやりたくない。それでもこうなるということは、誰かが意図的に起こそうと裏で画策しているに他ならない。

そうなると一番可能性があるのが恋だ。確かに私とこの子達二人に関係があるのは恋以外にも美咲とか石山さんとかがいる。でも、今の私以外の店員が先生の用事でいない。そういった状況を作り出せるのは恋しかいない。恋ならそういった適当な理由をでっちあげていなくさせることをクラスメイトに頼むことは容易にできる。恋だな。確信した。

本当にたまたまなのだがそれには純は全く持って気がついていなかった。


「すみません注文いいですか?」

「はい。ご要望はいかがになさいますか?」

「当選の………以上でお願いします。」

「はい。ご要望承りました。では、私を応援して、私が当選できるよう応援お願いしますね。」

茶化すでもなく普通に接してくれてるのはありがたい。このまま終わりたい。

「注文入りましたー!」


「お料理が完成しました。こちらがこのお客様に……はい。こちらで全てですね。ご要望は叶えれました。これも私に清き一票を投じてくれたおかげです。謹んでお礼申し上げます。」

まぁ……あんまり声に出して言いたくはないけど普通の味だな。文化祭のもんだしこんなものだというのは分かり切っていたことだけど……

「あの……私あなたとの公約を叶えますから……だから、私に清き一票お願いしますね。」

「あ……はい。」

「………」

気まずさに耐えきれず、純は離れて行ってしまった。

「ごちそうさま。」

「じゃあ次行こー。」

「財布財布……。」

さっきのことはコンセプトだからだと後で気づいたものの、有耶無耶になっていたのでそのままなかったことにしようとした。

それぞれお金を払って、店の中から出ていった。

「あぁぁぁー!」

客が誰一人いない店内。純は小さな声で叫びながら顔を壁にくっつけていた。もうヤケになってあの子達を接客していたが、さっきの最後にやれとマニュアルに書かれていたことをやったときのあの子達の反応でちょっと色々な思いを抱えていた。

あの子達私だと気がついてないよね。お願いだからそうして。

「たっだいまー。いやー重たくて時間かかっちゃったよーっ。」

「ちょっと!ちょっとなんで私に接客やらせたの!おかしいでしょなんでいなくなるの私行ったら良かったよね!」

もう色々とあったせいでいつものクールな純とは明らかに違う感じになっていた。

「純ちゃん!?いつもの純ちゃんらしくないなぁ。あ、でもコレはコレでいいかも。写真撮って恋ちゃんに送ろうっと。で、何があったの?」

純が事情を語る間、その娘は後ろ手でスマホをカメラモードにし、音の出るところを指で抑えて音をなるべく消してバレないようにその写真を撮っていた。

「あお客様だ。純ちゃんごめんまた今度ね。」

そして後で、その写真を恋へと送っていた。

純は無駄に負わなくていい傷を負ったようだった。


11時半。この喫茶店でのシフトはこれで終わり。はぁ、なんか色々と疲れた。

来ていたメイド服を脱いで次の人へと渡して、制服に着替えて店を出る。

「恋のとこ行くか。問いただしに。」

*シフト終わったけど恋どこにいる?*

スマホの連絡アプリで尋ねると、一瞬で既読がついて、すぐに返信が来た。早い。

*私今1-2の映画の取材終わったところです。休憩スペースで昼にしませんか?*

*オッケー。じゃあまた。*


「あ、いたいた純様〜。」

先に来て弁当を食べていると後から恋もここへと来た。隣の席に座って弁当箱の封を開けている。

「この30分で取材を全てやるのは流石に無理でした。でも文化祭なんて新聞のネタの宝庫だからなぁ。頑張らないと。」

「そこそこに取材ノート埋まっているように見えるが、新聞ってそれぐらいじゃだめなのか?」

恋は今の間ちょうどいいと部活動の取材に行っていたよう。本当に部活熱心だな。

「これ全部使えるわけじゃありませんからね。取材しても新聞にならないものもよくありますから。だからできるだけ多く取材はしないといけないんですよ。」

新聞に関しては私は全く知識がない。そうなんだなぁと、色々な知識が増えていった。

「やっぱり純様のシフト風景を見るのもやりたかったんですけどね。10分ほど見たし満足ってことにしましたよ。取材やってって頼まれてもいましたしね。」

「あ、そうだ話変わるんだが、恋あの子達呼んだよね?」

そう。これは問いたださないと。なんでやったのか私にはよく分かってない。

「あの子達?」

「あの異少課の5人。」

「あ、呼びましたよ。あれ?なんで純様知って……あぁ、今日出会ったってことですか?」

「出会ったことってですかって、恋が(カフェに)来るように仕向けたんだろ?なんでわざわざそんなことした?」

「私は確かに(学校に)あの子達呼びましたけど……あの……私があの子達に頼み事したんです。私部活のせいで純様のこと見れないから、録画してくれないかって。もしかして、だめでしたか?」

なんかちょっと齟齬が起きてることにはふたりとも気が付かない。

「いやなぁ。私にそういうのは言ってほしいんだがな。」

「あー……ごめんなさい。流石に嫌でしたか?」

「そんな盗撮みたいなことされたらなぁ。てか、やっぱりあの子達分かってたのか………。」

そうして純は無理やりにでもさっきのことを忘れようとしてた。

ずっと本当はあの子達が純を純だと気がついていない勘違いには気が付かない純であった。


「割と頭使ったな。ってか繁大活躍だったな。」

「繁こういう謎解き得意なんだよな。ひらめき能力が高い……という感じ?」

喫茶店を出たあと映画見たり、クイズやったり、占いをしたりたいったところである。ついさっき脱出ゲームのところをやったところだ。

こういうところの本格的なやつよりは難易度抑えめになっていると思っていたら普通に難易度の高い脱出ゲームだった。繁が色々と問題解いていて繁が大活躍してた。

「えーっと次々はと、あそこかな。謎解きスタンプラリーの場所は。」

チラシを頼りに進んでいく。そうしてその教室へと入った。謎解きスタンプラリー会場という看板が置かれている。

「あ、はいお客様ですね。どうぞスタンプラリーの台紙です。あそこにあるヒントから台の場所を推理してそこでスタンプを押してくださいね。地図は正面玄関の壁にあるのでそれも利用してやってくださいね。景品も用意していますので。」

「はい。」

スタンプラリーの用紙を全員分受け取って、壁にあるスタンプの場所の謎を解き始めた。

「とりあえず全部撮っときますね。」

1番目のスタンプの場所はギザギザな屋根の場所。まずはここに当てはまりそうなのは……。

「音楽室かな。」

「音楽室か。」

繁と凪がほぼ同時に答えた。

「あー確かに。」

「音楽室の屋根ってギザギザしてるイメージあるかも。」

なんか理由はわからないけどそんなイメージはある。

「撮り終わりましたよ。」

翔のも撮り終わったので、とりあえず音楽室へと向かいながら他を考えることとした。

「258-56 12-45-78963 12369-456-789 12-45-78963 14-25-36987。声に出したとしても全く分からないな。」

1問目は謎解き要素というか知識だったような気もするが、2問目はガッツリ謎解きである。

しかも、全然分からない。

「この感じ空白で次の文字になる感じかな。」

「それは有り得そうだよね。12-45-78963が2つあるのも同じ文字だからな感じはする。」

「あぁてか音楽室着いたな。そしてスタンプあるからこれは合ってたみたいだな。」

1と大きく書かれたスタンプを紙に押した。


「あ、俺分かったかも。」

「分かったの翔さん?」

音楽室でスタンプを押していた後ろでそんな会話が聞こえた。翔のところへと集まる。

258-56 12-45-78963 12369-456-789 12-45-78963 14-25-36987の謎、俺も解けないかと考えては見たが全く解けなかった。

「この数字スマホのこれを表していたんだよ。」

そういって、スマホの入力画面の設定を数字にしたやつ。つまり

1 2 3

4 5 6

7 8 9

  0

を見せた。

「そしてその数字の順番通りに線をつなぐ。-は次の画、空白は次の文字を表している。すると」

 |   ーー |  ーー﹁ ーー | | | |

 |ーー ーー |  ーー --| ーー | | | |

 |   _____ 」 _____ | _____」 _____」

「ほら、答えは図書室。のはず。」

「おー。」

というわけで図書室へと向かった。図書室の前、そこにスタンプはあった。

「2個目ゲット〜。」

「翔よく分かったな。」

「たまたまですよ師匠。」

さて次の問題に移ろう。次のは文章になっていた。


理由なく今日は家を出た。家の隣の歯

科医に何故か襲われた。そんなところで寝

室で目を覚まし、これが夢だとわかった。


「縦読みで理科室だな。」

「あ、本当だ。」

トントン拍子に理科室へと進んだ。

理科室のスタンプを押して、次の問題に進む。

「えっと、あるなしクイズか。」


ある      ない

山梨      山口

クリアファイル 下敷き

一期一会    千載一遇

汗っかき    暑がり


選択肢のうち、あるものの場所に行け

1 書道室 2 武道場 3 視聴覚室

4 カフェテリア 5 資料室 6 3-2教室


「山梨とクリアファイルと一期一会と汗っかきってバラバラすぎやしないか?都道府県と事務用品と四字熟語と体質。共通点あるか?」

「そのものの性質よりその文字列の共通点がある気がする。」

「前や後ろになにかつけるってわけじゃなさそうだな。一期一会に付けて何かになる未来が見えない。」

今まではすんなりと行けていたが、今回は少し唸っていた。

「あ、分かった。」

その唸りを壊したのは繁だった。

「えっとだから、答えは2の武道場かな。」

「理由教えて。」

繁があるの共通点を話し始めた。


「山"梨"、"クリ"アファイル、"一期"一会、汗っ"かき"。あるの方にはすべて果物が入ってるの。だからぶどうが入っている武道場が答えってわけ。」

「なるほど。」

答えを聞くとなんでこんな簡単なのだろうと思ってしまう。なんで分からなかったんだろう。

「で、武道場ってどこ?」

「とりあえず玄関行こう。」

「あれじゃないかな。この窓から見えるあの建物。」


「弓道体験やってます是非やってみてください!」

「違ったな。」

場ではあったが弓道場だった。弓道場あるんだこの学校。

「武道場だと思ったんですけどね。」

仕方ない。玄関まで戻るk……。

「ねえ君たち、弓道体験やらない?」

「いや俺たちは間違えて来ただけで……。」

「大丈夫今空いてるしすぐに終わるし簡単だから。弓道って楽しいんだよ。やろうよ。」

「いやあの……。」

圧がすごい。

「女の子でもできるよ。弓道部にも女の子はそこそこいるからね。部長もクールな女子だから。」

「へぇ……。」

愛香もしかして興味持ったりしてる?気のせい?

「まあここまで来たんだからやっていこ。弓道体験なんてできるとこ他にないよあんまり。」

「私やってみたいかも。」

「弓、俺もちょっと気になるかな。」

「じゃあやる?繁と凪どう?」

「俺はどっちでもいいよ。」

「私も。でも私もやりたいかな。」

というわけで弓道体験をやることになった。

「翔って弓触ったことあるの?」

「ないですね。狩りをするのに弓使えないかと前に調べたことあるんですけど、弓を使った狩りはまず日本だと違法らしいですから。」

「あ、そうなんだ。弓使って獲物を仕留めているイメージあったけど。」

「実際仕留めるなら罠を使うか猟銃ですね。弓は火力の問題がありますから。」

なんか知識が増えた。


「はぁい弓道体験ですねぇ。靴脱いでこっちに並んでねぇ。」

言われるがままに移動する。

「おぉ。前にも見たけど上手いな。」

「幼い頃習い事でやらされましたからね。そう思うと割と教育熱心ですねお母さん。そのおかげでピッキングやら無駄に変な知識覚えちゃいましたから。まさか覚えた知識が活きるときがあるとは、思ってなかったですよ。」

「あれ、この声って……。」

「神代先輩も気が付きました?多分あの人ですよね。あの人達ここの高校の生徒だからたまたま出会っちゃったんですね。」

勘違いかもと一瞬疑ったけど気のせいだった。やっぱりこの声は……。

「山井さんに川崎さん。」

「……君たちか。」

たまたま弓道体験をしていた二人と出会った。山井さんがなんかげんなりしてる?

「君たち、ここに座ってぇ前の人が終わるまで待ぁっていてねぇ。」

「あ、はい。」

とりあえず座って川崎さんが弓を射っているのを見ていた。ちょっと山井さんと少しばかり話をしたかったけど山井さんが口の前に人差し指をおいて静かにするよう伝えてきたので黙っていた。

バシュッ

「ふぅ……。」

「いやすごいね。3本とも中心の円に当たってるよ。もしかして弓とかやってた?」

「子供の頃に習い事で習ってたから、それのおかげだね。」

「弓道部に入るのとか興味ない?部員が不足しててさ。」

「あ、私新聞部に入ってるから。そこも部員不足に悩まされてる部活だから、弓道部には入れない。ごめんね。」

「あぁね。ごめんごめん。」

「君たちの番だよぉ。一人ずつやっていくから最初の人こっちに来てねぇ。」

「あ、じゃあ俺からやりますね。」

一番先頭に並んでいた翔が率先して名乗り出た。

「じゃあな。」

「また後でね。」

川崎さんが手を向けながら弓道場から出ていった。


「えぇっとねぇ。弓はこんな感じに持ってぇ。そうそうそう。」

「それで弓を打つとき、心を沈めて……。」

15分ほどして、全員の弓道体験が終わった。結果は繁が割と上手くて翔と愛香が普通より少し上。俺と凪はどっちも下手といった感じだった。

これ思ったよりも難しい。まずまともに狙いが定まらない。なんで3人共ちゃんと射れるの?そして狙い定めたところで当たらない。1度ズレたら全然違うところに飛んでいく世界だと改めて気がついた。


「で、玄関戻るのか?それともここら辺にありそうと探すか?」

「探すって……あ、そっか。そういえば武道場探してたんだっけ。」

とあることやってる最中に他のことやるとやってたことを忘れてしまう。今の俺のことだ。

「戻る?」

「そんな距離でもないし戻ったほうがいいんじゃないんですか?急がば回れです。」

急がば回れか。割と当たってるかも。

「ここからだと、そっちが玄関だな。」

弓道場から玄関へと5人で歩いていった。

「その間に次の問題でも考えよう。」

「お、そうだな。えーっとこれだな。」

翔がスマホで撮った写真を見つめていた。


問題を見つめながら、校舎横を通っていく。中を通るよりこっちのほうが近い気がしたのである。

こっち側の方は出店もなく誰もいない。素の高校が見えていると言ったらいいだろう。

「で、この謎は何なんだろうな。」

「うーん……。」

本当謎の一つ一つが難しい。こういうとこのって難易度低めなやつかと思ってたんだがな。ま、簡単すぎるのよりこっちのほうが楽しめるからいいんだけど。

「近寄るな!貴様のせいで………。もう姿を見せるな。来るな!……この野郎…。」

「ん?何か聞こえてこない?」

「文化祭だから騒がしいのはおかしくないんじゃない?確かに何か聞こえたような気はしたけど……。」

「校舎の中の音がここまで漏れてるんですよ。ほら、上に窓ありますから。」

「うーん……。」

なんか物騒な感じに聞こえたんだけどなぁ……。

「あ、ここってこうやって解く?あ、でもそれだとしてもこれが分からないな……。」

声が気になるところではあったが、謎解きの方の話をしながらまあそのまま進んでいった。

「あ、こっち通れないのか。」

「残念でしたね。戻りましょうか。」

進んでいると、前にあったのは敷地外を示すフェンス。こっちはそもそも道が違ったよう

そうして戻ろうとした矢先。

「ぐはっ……。おい、お前ら……。」

「……っ!」

「やっぱり聞こえた。しかも結構やばそうな声。」

「こっち側から聞こえたから……あっちにいます!この声を発している人。」

さっきよりも大きな声ではっきりと聞こえた。しかもこれは普通の会話とは思えない。そしてこっちはなにもないプール。これはなにか嫌な予感。

「師匠。行ってきます。」

翔が先駆けていった。そのあとを俺たちは追っていった。

「ひゃぁ!」

何かまた聞こえた。声も近くなってる。

「翔!翔……。大丈夫ですか?」

見通しの悪い通路を通り、やってきたのはプールの横。そこに、翔と倒れていたここの制服を着ている女子高生らしき人がいるのを見つけた。

「出血らしきものは見当たらないけど……。」

「保健室は確かここからだと……連れていきますか?」

「早く運んだほうがいいと思う。えっとだから……。」

頭が回らない。倒れている人を見つけたらどうすればいいんだっけ。保険の教科書で習った覚えはあるけど何も出てこない。

「息はあるね。倒れた原因が分かれば対処しやすいけどさぁ。」

「AED探したほうがいいですか?」

「息あるし脈拍もあるからAED必要ない!」

てんやわんやだ。


「っぁ……いてて……。頭たんこぶできてないかな……。」

「あ、目が覚めた。」

てんやわんやしていたが一瞬に冷静になった。

「ひゃぁっ!って……よく見たら知らない人……学校の制服も着てないし……ひとまず良かった……。落ち着け私の心臓っ」

「倒れてましたけど大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫。ちょっと急に人が現れて、びっくりしちゃって、コケたときに頭を壁にぶつけて、気絶しちゃってたみたい。心配してくれたの?ありがとう。」

「あれ、人に驚いて気絶って……。」

4人共翔の方を見る。

「翔倒れたところ見たんじゃ?」

「うん。見ましたよ。俺が近寄ったら悲鳴あげて倒れて、壁にぶつけたところまで。」

「はぁっ……。」

流石にため息も付きたくなる。あんたが元凶だったんかいとか。ってか気絶したとこ見てたなら教えてくれよ。過ぎたことを言っても意味のないとは分かってるけどさ。

ってかあのとき聞こえた声は翔に驚いて倒れたときの悲鳴だったのか。

「なんか……ごめんなさい。」

見かねた愛香が謝ってる。俺も謝ろうとしてた。翔も悪気ないとはいえ……。

「だ、大丈夫だから。謝らなくて、いいよ。私のほうが、ごめんね。迷惑、かけちゃって。心配、させちゃって。」

「あれ、でもじゃああの声って何だったんだろ。ほら、最後に聞こえた声は翔のせいで起きた悲鳴だってわかったけど、その前のあの物騒な声。」

「そういえばそうだねお兄ちゃん。」

「あ、それ多分、私だね。ちょっと、ね。」

「あ、そうだったんですね。」

凪は目の前の女性に笑って答えた。いい笑顔。

「あ、そういえばこれ。倒れたときに落としてましたよ。」

翔が紙の束を持って渡していた。

「え、あ、ありがとう。これ失くしちゃったら、本当に詰んじゃうから。持っててくれて、ありがとう。」

「どういたしまして。ちらっと見えたけど、いい話でしたね。」

翔、その何も考えずに言う癖、良いといえばいいがやめたほうがいいと思うぞ。その癖で友達無くしかねないぞ。


「アハハ……。これ、劇の台本なんだ。いい話って、ことは認めるけど、私が書いたわけじゃ、ないからね。言っておくけど。」

「へぇ劇。」

「うん。さっき聞こえた声も、私がここで、ずっと劇の練習、してたから、それだと思うよ。物騒な、シーンだったから。」

「劇ってことは、もしかしてお姉さんも演劇部員ですか?俺たちの知り合いにここの演劇部に入ってるらしい人がいるんですよ。」

翔、そこまで遠慮せずに聞けるのはある意味凄いぞ。

「あ、う、うん。あ、あの、私のこと、言わないでね。その人に。誰かまでは、わからないけど。」

「あぁ、山井純さんですよ。今日ここに来たのもそれの関係って感じなんで。」

まあそうだな。間違ってはいない。もとから行く予定だった凪と繁を除けば来たのは川崎さんの個人的欲求……お手伝いだから。

「山井純さん……あの演技が上手い人。絶対、言わないでよね。もう会わない君たちならともかく、これから学校で出会う人に、このことがバレたくないから。」

「言わないですけど、なんでそんなに言われたくないんです?ここで練習をしてたことなんて、バレたらまずいってことです?」

「翔、その辺でやめとけ。初対面の人相手にお前はなぁ……。」

翔が興味持ったのかグイグイ聞いていき、若干彼女は押され気味になっていた。そんなところに助け船を出すかのごとく凪が翔の話をぶった切って戒めた。

「いや、大丈夫、だよ。私、もう会わない人には、そこそこはっきりできるから。あと練習をバレたくない理由は、ただ緊張しちゃうから。私、見知った人の前だと、極度に緊張しちゃうから。だから、緊張しないように、練習してただけ、だから。でも、それがバレたら、『部活動外でも熱心に練習してたなんて』って、私の評価が上がるかもしれない。だから、嫌なの。緊張しゃうの。期待されないほうが、緊張が少なくて済むの。失敗してもいいって、気楽になるの。」

緊張は意外とバカに出来ない影響がある。ヤーキーズ・ドットソンの法則というものによると、適度な緊張効果は良い結果を出し、緊張が少なすぎたり過剰すぎたりすると結果が悪くなるらしい。

つまり、そんなに緊張に恐れる必要はないのかもしれない。だが、考え方の問題でもあるのがこの状況をより複雑にしていた。


「なんか、難儀ですね。」

「いや、ね。だから、黙っててね。」

「緊張、しないといいですね。」

「う、うん。」

効果的な解決策など思いつかない。俺に言えることはただそれだけだった。

「そういえば、君たちは劇、見ない…よね?」

最初は大事なことに気がついてしまった顔、そしてそれはもうお願いをしている顔になっていた。

「あ、いやどっちとも……。」

「見、見ないですよ。その時間他に行きたいところがa」

「劇見ますよ。あれ、見るんじゃないの?カメラで撮ってきてって頼まれたんじゃ……。」

このとき、翔が馬鹿正直という割と良くて駄目な感じであると気がついた。

凪が誤魔化して、愛香がことを察して平生を装ってそうであると伝えていたところ、しかしそれを愛香以上の平生さでぶち壊していった。

「来るの?来ないの?」

割と涙目になりそう。そうだよな。来てほしくないだろうなともうわかっていた。こんな話をしてくれたのは、もう二度と会わない人だったから。そんな人が自分の演技を見に来ると思うと、確かにもう会わないだろうが、緊張は増えてしまうだろう

「来ます。」

状況の過酷さを理解してない翔がキッパリと答えた。


「あぁ……」

心の声が漏れてしまった。翔……。

「あ、そうなんだ……うん。いや、だ、大丈夫だよ。」

露骨にテンションが下がってる。元から高い方ではなかったけどさっきまでのやつよりは圧倒的に下に見える。

「あの……あ、何でもないです。」

緊張してますか?と聞こうとしてしまっていたが直前で踏みとどまった。駄目だこれは聞かない方がいい。やぶ蛇だ。

彼女の手は無意識に震えていた。その理由は、もう分かってる。想像が容易につく。

「ほら、もう行ったら?こんなところにいて、こんな知らない、私の話を、聞いても楽しく、ないでしょ。」

それはもう帰って、私の前から消えてというのを優しく言ってるに過ぎなかった。知らない人なら、もう会わない人なら、と思って話していても、これは緊張を増やしてしまうことにようやく気がついた。

「じゃあ、俺たちは。スタンプラリーの途中だったんでもう行きますね。」

「ホッ……。」

今、安堵の声が漏れていた。ある意味の喜びが声になっていた。

「劇頑張ってくださいね。緊張に負けないでください。」

「劇が成功しますように。」

繁と愛香は最後に祈りの意味も込めた言葉を発していた。さてと、元に戻るか。確か今玄関に戻ろうとしていた最中だったから……。

「あ、ふと思ったけど、こんなに練習するからかえって緊張しちゃうんじゃないですか?」

「え?」

「ふぁ?」

まさかの翔の発言に驚いた。翔、もう黙っててくれと言いたい。

今終わるところだったじゃん。これ以上緊張を増やさないであげて。絶対増えちゃうから。

「文化祭ですよ。練習するのも大事ですけど、まだ時間あるんですから、文化祭楽しんだらいいんじゃないですか。練習漬けだと疲れちゃいますよ。リラックスリラックス。」

「……うん。」

「ほら、翔行くぞ。」

これ以上変なことが起きないように翔を連れて行く。ただその時気のせいか、彼女の最後の言葉が少し高く聞こえたような気がした。


「リラックスか……。やっぱり、必要かな。」

台本を畳んで、スマホを取り出して、ぽつりと言った。

『今シフト終わったよ〜。』

12分前と表示されている通知をタップして、返信のところに指を置き文字を入力していった。

『少しの間回らない?』

右側にある、送信の矢印にタップした。手の震えはもう収まっていた。


「よしこれで最後か。長かったなぁ。」

「問題数の多さからしてガチでやりに来てましたね。」

プールで演劇部の生徒と会った後、その後も途中少し回りながら謎を解いて行っていた。そしてそこそこの時間を経て、ついに全てのものを集め終わった。

「これで最初の場所に戻ればいいと。」

「景品なんでしょうかね?実用的な景品なら嬉しいですね。」

「お菓子とかじゃないか?お金的に考えると。」

そんな話をしながらスタンプラリーの会場まで戻った。

「お、全部押されてますね。よくできましたね。謎解きを作る係の人が張り切りすぎちゃって問題数を過剰に作ってたんですけど。」

「あ、やっぱりそうなんですね。」

なんか多いなとは感じてたけどやっぱり普通より多いらしい。

「じゃあこの中から景品として5個選んでください。」

景品は駄菓子セットだった。薄々そんな予感はしてた。こういうところの景品は基本お菓子だなと。

「これ美味しいんですよね。」

「これ初めて見るな。じゃあこれ取ってと。」

「この味知らない。どんな味がするんだろう。気になるなぁ。」

割と皆駄菓子好きなんだなと感じていた。

駄菓子って懐かしい感じがする。子供の頃駄菓子店行ったことが頭の中にふと浮かんできた。


時刻は1時半。祭りをかなり堪能していた5人だが、当初の目的は忘れていなかった。

「もうこんな時間だから新聞部のとこ行きませんか?」

「1時半ぐらいに来てって行ってたよね。」

恋がいる新聞部の展示場所へと向かった。恋からスマホを借りて、恋の依頼である純の演劇を録画するために。

馬鹿馬鹿しいとか言わずに見返りも求めず、鍛錬の時とかに世話になったからという理由でこの依頼を受けた5人は、かなり誠実に感じる。


「あ、皆。本当にありがとう。はいこれ。私のスマートフォン。ロックは消してるはずだから。あ、演劇終わったあとは体育館の前に私いるからそこでスマートフォン返してね。」

川崎さんのテンションがいつもより高い。

「オッケーです。」

「2時から演劇始まるから、もう少ししたら体育館入れるからね。」

よくよく考えれば、恋は恋でスマホをよく貸せるな。割と信頼しているということなのか、それともスマホに関わるリスクより純様の演劇が見れるリターンを取っただけなのか。

「あれ、ここって俺の学校じゃ。」

「え?あ、本当だ。」

ついでにさらさらっと置かれてある新聞を眺めていた。ここの展示では今年の新聞が月ごとに分かれて置かれている。

「あ、君たちそこの生徒だったんだ。私の、というかここの生徒って結構中央中学校から来てる人が多くてね。それで中央中学校に関する記事そこそこ書いてるんだ。取材で中学校に入ったりもしてるんだよ。ネタが多くて本当ありがたいね。」

「へぇー……。」

確かにネタは多そう。教師は変わった人が多いし生徒会長が色々と変えようとしているし。それに他と比べて変なイベントや部活動がある。……俺の中学校大丈夫か?


「それではこれより、演劇部より、『ロミオとジュリエット』を開演いたします。開演中は……」

2時、そこそこ前に新聞部の部室をあとにして、今体育館の中で体育座りをしている。

カメラのセットも完了。ちゃんと確認したけど動画撮れているし音も入っている。でもずっと持ってるのはちょっと辛そうだなとは思う。

席はそこそこ後ろの方、というのも、前は1つ前の吹奏楽を見た人がそのままそこで演劇も見ているといった感じだったのだろう。

体育館内の照明は落とされ、観客席も静まり返り、舞台の膜が開けた。


演劇は除々に進んでいく。普通に上手いなぁという簡単な感想が出てきた。どこがどう上手いか、といわれたら説明はできないが、まあ上手い。というかふと思った感情になんでかと説明するのも野暮な感じは否めない。

現在、演劇はロミオが舞踏会に出るところである。ここまで山井さんもあの人も出ていない。

『舞踏会の夜、ロミオは仮面を付けて舞踏会に参加していた。その家の一人娘、ジュリエットをロミオは見つめていた。』

「あそこにいるのは……あの野郎だな。」

あ、あそこにいるのは……あ、やっぱり山井さんだ。何役かは分からない。ロミオとジュリエットを知らないから。

「叩き殺してやる……。」

「お前、何を考えてるかは分からんが、めでたい宴会の席を汚すようなら、お前を勘当することも考えないとな。」

「は、お父様。申し訳ありませぬ。」

なるほど、なんか少し分かった。山井さんの役はロミオを殺してやりたいほど憎んでいると。

てか山井さん上手っ。そんな素振り見せたことなかったから余計に上手く感じる。何というか、本人みがあるというか……臨場感が出ているというか……。まあとりあえずすごい。

そういえば山井さん探偵だった。探偵だったら情報を得るために騙ることもあるだろうから、そういうので自然に身についたんかな。

ロミオとジュリエットが恋に落ちている間、特に理由もなくセリフがない山井さんの方を見ていたのだが、座り方なんかで高貴さの中にある粗暴さが感じられたり、ロミオを殺してやろうと心の中で復讐心が燃えているのが伝わってくる。いや本当に伝わってくる。凄い。無言でここまで伝えるのはもう才能だと思う。


物語は進み、ジュリエットがバルコニーで、ロミオが庭でそれぞれ語り合うシーン。有名な「おおロミオ、あなたはなぜロミオなの?」というフレーズも流れ、ロミオとジュリエットの結婚式も起きた。そして、その後、ロミオは街の中を幸せそうに歩いていた。

「お前こそが!」

「やる気か?ならば!」

歩いていたロミオは、大きな喧嘩の音を耳にした

「本当の狙いはお前だ。」

「な、穏便にはできないか?ここは往来だ。和解しよう。平和に。行けるだろ?」

「情けない。ロミオ、君はそこまで落ちていたか。おい、ティボルト。その勝負、受けて立とう。」

また山井さんの役が来た。そういやあの人の役って……見逃したかな。それともまだなのか。

「なぜ止めた、そのせいで俺はやられたんだ。お前ら両家ともくたばってしまえ。」

「お前だな。お前のせいで!」

「ぐっ…ゴホッ……ゴホッ……ッ…。」

山井さんの役、ティボルトがロミオの友達を殺し、それに怒ったロミオがティボルトを殺す。

この頃のやつってすぐ殺したがるな。……いや、現代も同じようなもんか。

そして、死ぬ演技も上手い。スパイとかやってないか?と感じてしまうほどには。


更に演劇は進み、ロミオは殺した責任やらで街を追放されて、ジュリエットがロミオは追放されたことを知って悲しんでいた。そしてジュリエットが結婚嫌だからって薬飲んだりロミオが毒を購入したりして最後の死んだと思われているジュリエットの葬儀シーンへとなった。

「ジュ、ジュリエット、ジュリエット……なんで、逝ってしまったのだ。もうすぐ、私の妻になるところだったのに……。」

あ、ようやくいたプールで会ったあの人。こっちもそこそこ上手い。いや、そこそこなんて使うのは失礼とか、そんな感じはするけど、まあ心の中だから。ってか、さっきの山井さんが上手すぎたんだもん。

役はパリス伯爵というジュリエットが親のせいで嫁がされかねなかった男の役。山井さんもだけど性別違うよな。演劇だとよくあるのかこれぐらい?分からない

そうして花を供えている途中、急にロミオがここに現れて、ジュリエットの横で死のうとする。

「近寄るな!貴様のせいで………。もう姿を見せるな。来るな!……この野郎…。」

「どけ、邪魔。俺はジュリエットの横で死ぬ。」

伯爵が剣を抜いたが、ロミオが邪魔になると思い伯爵を殺してしまう。うん、割とクズではロミオ。勝手に親友身代わりにした挙げ句呑気に歌歌いながら歩いていたメロス並にクズでは?

「ぐはっ……。おい、お前ら……。」

「パリス様!」

それからは有名なシーン。ロミオが短剣で自殺して、仮死状態から戻ったジュリエットがロミオのことを見て結局死ぬというところ。

そして、血が流れたことで、両家は和解できたという締めくくりで演劇は終わった。

やっぱり現代の価値観と合わないな


ブーーー

「次のスケジュールはカラオケ大会となっております。予選を勝ち抜き、選ばれた8名の生徒が全力で熱唱します。15時からとなっております。」

幕は下り、暗くなっていた体育館の中は蛍光灯が付いて明るくなった。

「よしっと、撮影完了。大丈夫かな。ちゃんと撮れているかな。」

終始カメラの方を見てたわけではない。ほぼ演劇に釘付けになっていた。カメラ画面など見ずに最初にここら辺でやればよく映るところを見つけて、そこのポイントでスマホを腕で固定していたにすぎない。

「大丈夫ですよ師匠。あの川崎さん多分撮れてなかったとしてそんなに怒りませんよ。頼んできたのあっちなんですから。性格がすこぶる悪くないと怒れませんって。」

確かに頼まれた立場だしそれにこれのための対価をもらったわけでもない。ある意味慈善。それを抜きにしてもそんなに怒らなささそうな温厚な感じは出てるけど……

「まあでも、正直怒られるかどうかより、頼まれたからにはちゃんと職務を完璧にこなしたいっていう気持ちが大きいから。」

これは共感できる人も多いんじゃないか?

「まぁそれに気づいてももう二度と取り直せないんだし、なら調べないほうがいいんじゃないか?分からないであやふやにする。責任とかを考えるときによく使う手口。」

「お兄ちゃんもそうなの?」

「偶にはやるよ。あっちの世界よりは頻度減ってるけど。」

「今度使おうっと。」

3人は3人でわちゃわちゃ話している。俺は翔と話している。つまり全員が話し合っている。

「とりあえず出ましょう。次のやつ始まるとしばらく出られなくなりますよ。」

「そうだな。今出る人……そこそこいて混んでるな玄関。」

「まあまあ、仕方ない仕方ない。」

そりゃあ体育館だものこの半分が残ったとしてもかなりの人の出入り起きるわな。

混み合う中、なんとか体育館から出ることに成功した。

「さてと、これを届けて、その後どうする?」

「結構見れたから俺は満足かな。繁どう?」

「私もお兄ちゃんと一緒に楽しんだんだよ。同じ気持ちだよ。」

「私は家に帰りたいかな。何かあるわけじゃあ、ないんだけどね。」

「どっちでも。」

「…じゃあ届けて解散ってことにするか。」

事実上の全会一致である。

「あ、いたいた。どう?ちゃんと撮れた?」

「多分バッチリ撮れてますよ。」

借りていたスマホを川崎さんへと返した。

「うん。本当にありがとう。私の個人的なことに付き合ってくれてね。また何か困ったことあったら呼んでね。」

そんな話をして川崎さんと別れた


一方、体育館の更衣室では、演劇部の皆が衣装から制服にへと変えていた。

「純どうだった?私ちょっとやらかしちゃってさ、さっきまで覚えていたのに急にセリフ飛んじゃったんだ。だからアドリブでやったんだ。次の海がそのノリで続けてくれてよかったよ〜。」

「あ、そこ飛んでたんだ気づかなかったな。アドリブ能力って大事なんだな。」

「うんうん。で、純はどうだった?私純のこと出番的によく見れてないからさ。」

「練習どおりってとこ。普通にやれたね。」

純が演劇部の友達と話している。普通に楽しそうである。

「いや良かったぞ君たち。よく練習したんだな。」

「部長!お疲れ様。」

「アドリブだとはな。さっき聞こえてきたが。アドリブは確かに意外と使えるからな。だが、ちゃんと台本を覚えないと劇は進まないからな。アドリブしてそれを次が修整できりゃいいんだ。できないようなアドリブはやるなよ、劇がめちゃくちゃになっちまうから。」

「オッケー部長!」

「分かりました。」


「はぁ……はぁ……はぁ……。まだ心臓が、バクバクする…大丈夫だった、よね。変なこと、してないよね。」

更衣室の端っこの方でぶつぶつ言っている彼女、羽麗福和が新達がプールで会ったあの子である。

何とか演劇を終わらせられたものの、彼女は未だに冷や汗がドバっと出ていた。

「汗大丈夫か?凄いぞ。タオル貸そうか?」

「あ、いえ……、あ、いや、使わせて、もらいます。」

同じ演劇部員の誰かから貸してもらったタオルで顔を拭く。

「はい、ありがとう、ございます。」

「いやいや、いいよいいよ~。タオル間違えて2枚持ってきてたから。それに、暑いのは分かるからね。衣装って言う名の厚着だもん。私も汗でビチョビチョよ。」

「は、はぁ……。」

そもそも彼女は緊張だの以前にコミュニケーションに難がある気がする。少なくとも平均よりは下、それだけは見ただけでわかる。

「じゃあね。」

「あ、海!今純と話してるんだちょっとこっち来いって。」

「うん今行く!」

「あ、心臓の鼓動、収まった気がする。」

話が終わると、さっきまで緊張のせいかなんかでバクバクしていた心臓が、いつの間にか正常時へと戻っていた。

「時間が立ったから?リラックスしたから?何でだろ。ま、いいかな。」

脱ぎ終わった衣装をまとめて、彼女は更衣室のドアを開けた。

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