第20章 魔法の海で警察業!
「何で皆分かってくれないの!」
とある場所とある部屋。そこである女の子は手を机に叩きつけていた。
「本当に、魔法はあるもん……。」
その女の子の部屋の本棚には、魔法少女の漫画がたくさん置いてあった。机の上には、ある漫画に出てくる正義の魔法少女のきれいな絵が描かれていた。
一学期も終わって夏休み。俺たち異少課の5人は、休みを取って海へと遊びにやってきていた。
ちなみに最近そんなヤバいの出てないしまぁいいんじゃないかって感じでゆるーく休みを石山さんは出してくれた。
「じゃあ先にあそこで着替えてなさい。はい、水着。私はその間に貴重品預けに行ってるから。」
「ありがとうございます保護者してくれて。」
「いいのよ。愛香の頼みだしね。」
保護者役として愛香の伯母さんが着いてきている。色々とありがたい。
とりあえず更衣室へと行って水着へと着替えた。
「いや水着作れないかやってみたけど無理だったよ。主に材質で。」
凪でさえ水着は作れないよう。水着ってあんまり家庭で作るものではないから当たり前なのだけど。というか一度作ろうと試してみたことが驚きだよ。
「まあ、無理だろうな。」
「水着そんなに高くなかったから良かったよ。最初作ろうと試したせいでわりとお金かかちゃったけど。いやー、まず作ろうとするの、貧乏性が出てるなって後で思ったよ。」
実際凪と繁で借家ぐらし、5人の中では一番お金に関することに敏感なのだ。貧乏性なのもいいと思う。
「やっぱり水着っていいよね……なんていうか……」
水着に着換え終わったので更衣室から出た。それなりにしてから女子達も出てきた。繁と愛香が出てきた開口一番に翔が言った言葉がこれである。
「先輩、どうですか?」
「あー、まあ悪くはないんじゃないの。」
繁がどうかと聞いてきたがそういうのはあまり詳しくない。適当に肯定することしかできなかった。
「でも、水着はいいんですよ!」
「翔、大丈夫か?」
主に頭が。
「大丈夫です師匠。いつもこんな感じですから。」
それはそれで嫌だ。
更衣室から戻っている途中……
「凪か?奇遇だな。」
「悠!」
凪が知り合いと会ったようだった。
「その恰好、海水浴ってとこか。用事ってこれね。」
「悠は?」
「生徒会の仕事。この近くの場所の掃除頼まれてな。」
どこかでみた顔だと思ったらそうだうちの中学校の生徒会長だ。そういや凪この前生徒会へ誘われたとか言ってたな。
「俺手伝おうか?」
「いいよ。凪には海水浴っていう用事あるだろ。何の用事もない暇な人がこういう土日のしごとはやるべきだからさ。」
「そう?」
「そう。」
「なら。」
掃除とか生徒会長もちゃんとした仕事やってるんだな。正直生徒会長の噂は変なやつしか聞かないから疑ってた。
「じゃあな。悠。」
「あ、ちょっと待って。あいや凪じゃなくて、そこの凪の横に今いる女の子。」
凪の横、愛香か。
「え、なんですか?」
「ちょっと話したいことあるから。大丈夫すぐ終わる。こっち来て。聞かれたくないだろうから。」
「愛香、先戻ってるな。」
愛香はここから少し離れたところで会話している。聞かれたくないとか聞こえたのでその意思を汲み取って近寄らず立ち去ることとした。愛香なら変なやつだったとして何とかなりそう。
「で、なんですか?」
愛香は初めて会ったはずの人にいきなり話があると言われて内心驚いていた。
「いや、あのときのでしょ。外居村で暴れてた。」
外居村。愛香が昔いた村である。そして暴れていたとは、里帰りのときのことを指しているのだろう。
「なんでそれを!」
否定するではなく質問する。否定したところで分かっていたような感じがした。ならどこで知ったかの情報のほうが大事に感じた。
「そりゃあのとき戦った相手だもの。」
「あ!」
言われて思い出した。あのとき幻覚を使って愛香を倒したあの人だと。
「ま、その力、変なことに使ってないよな。今は凪とか方土とかが止めてほしいと言っているから殺してないだけだからな。変なことに使うようなら正直殺しかねん。分かったな。」
そう言う彼の目は冷たい。言葉の喋り方も相まって恐怖を感じた。
「は、はい!」
「生徒会長〜。面倒くさいから早く終わらせましょうよ〜。いやですよ掃除なんてどうせしたって変わりませんって〜。」
「じゃあな。くれぐれも。」
そうして誰か、おそらく仕事の仲間のところへと彼は帰っていった。愛香はまだあの冷たい目が残ったままゆっくりと戻っていった。
「愛香、どうかしたの?なんか、落ち込んでる?みたいに見えるけど」
「え?大丈夫大丈夫大丈夫。私はいつもの私だよ。」
「う、うん。なら……」
繁が戻ってきた愛香の違和感に気づいたが、愛香自身が否定したのでこれ以上追求はできなかった。愛香からしてもあんまりあの村でのことを人に話したくもないので聞かれずに越したことはない。
「あら、着換え終わったのね。そうそう、遊んできてもいいけど、定期的に戻ってきてお茶飲むのよ。熱中症になったら危険だからね。」
海でも熱中症は起こる。そして熱中症は最悪死に至る。気をつけないとと深く感じた。
「じゃあ、先俺入ってまーす!」
「ちょ、翔。」
翔が準備運動もせずに行っちゃった。翔のことは放っておいて少しだけ準備運動をしてからゆっくりと海へと入った。
「ちょっと師匠。遅いですよ。」
「翔がはしゃぎ過ぎなんだよ。」
正論言われたからか翔は黙った。
「翔ー。」
泳げない凪と繁に愛香が泳ぎを教えているので、遊泳禁止ラインギリギリで泳いでいる翔のところへと行ってみた
「あっちで愛香が繁と凪に泳ぎ教えてて、それで俺はこっち来たんだよ。」
「そうなんだな師匠。じゃあ俺となんかやります?」
「まあそうだっ。ちょっ!」
目の前の翔から、水しぶきをかけられた。塩辛い海水をもろに被ってしまう。そんな翔はしてやったり顔。ちょっとしたイタズラをして「イヒヒ」と笑う子供のような。少し前に雪の城にて一緒に戦ったあのイタズラ好きの先輩さんのような、そんな顔をしていた。
「やったなぁー。」
「師匠、いい顔してmヴェフェッ。」
翔がやったのと同じように海水を手で掬ってかけてやった。あれ、これなんか意外と楽しい。水を掬って顔にかけているだけなのに。
「おりゃあー!」
「そりゃああ!」
ひたすらに謎に真剣に水をかけあった。その時間20分ほど。
ちなみに二人とも戦い歴が長いからか、めちゃめちゃガチの戦いとなっていた。戦略とかを生かしたり謎に心理戦が始まったり己の能力を過信しないように気をつけたりしていた。水をかけあうだけなのに。
「はぁ……はぁ……」
「やっぱり、師匠は師匠ですね。強いです。」
何度も言う。これは水をかけあっただけだ。
「なんでこんな楽しいんだよ。これ。」
分からん。
でもなんか、馬鹿みたいなことが無性に楽しくなる、あの現象なんだろうと俺は思う。
新がこういうバカみたいなことをできるのは、異少課メンバーの中だと翔の前だけだろう。
「じゃあ師匠。泳ぎません?せっかく海に来たんですし。いやただ泳ぐだけもなんか味気ないですね。そうだ、あそこまで勝負しません?」
「俺クロールしかできんぞ。絶対負ける。断言する。」
なお翔は泳ぐのは普通な新と違って泳ぐのは得意だ。
「あぁ……じゃあ、ハンデ付きでやりましょう!師匠はあそこから泳ぎ始める。これでどうです?」
「ならいい勝負になるかもな。分かった。やってやるよ。」
その後、1時間ほどの間泳ぎ対決やらなんやらしてた。対決の結果は割といい勝負で4:6であった。
「神代先輩。翔さん。熱中症なりますよ。休憩です。」
「お、もうそんな時間か。」
入ってから2時間経っている。自主的に休憩を取るべきだ。熱中症になりかねない。
3人は沖から浜へと戻り、伯母さんがいる場所へと向かった。そこには伯母さんと、繁と凪がいた。凪と繁はバックの中からペットボトルを一本取り出してゴクゴクと飲んでいる。
「あら、あなた達も飲みなさい。熱中症なるわよ。」
「ほい。これ。」
凪からペットボトルを受け取り、中の水を飲む。弁当の保冷剤のように冷えていて、心身が引き締まった。
熱中症対策に水分補給もしたところで、また海へと戻っている。だが時間の関係か、海はいつの間にかかなりの人がいた。泳げないほどではないが、ちょっと危ないような……。
「あっち側空いてそうだしあっちで泳ぎませんか?」
「いいな、それ。ここじゃちょっと泳ぎ教えるのに支障が出てしまいそうだし。」
少し中央から離れた端の方、ゴツゴツとした大きな岩がいくつもある地点へと歩いて行った。
「痛い痛い痛い!止めて!」
「アハッ!アハッ!」
海岸のとある場所、偶然にも新達が向かおうとしていたところ。その場所で、赤い髪の女の子が背が同じくらい、少し大きめの男の子に枝で手や足を叩かれている。女の子は逃げ出すこともできず、縮こまって頭を丸めて泣いている。どれぐらいの間こうなっていたのかは分からない。
女の子の手や足はあざになっている。足からは血も出ていた。でもそれでも、男の子は叩くのをやめない。ずっと笑いながらいじめをしている。
「ちょっと、何してるの!」
そんな彼女に助けが出される。助けに来た彼女の名前はそう。愛香だ。
「愛香?ちょっと!」
「大丈夫?」
異少課の愛香と繁が男の子を捕まえて、もう悪さできないようにする。凪は女の子の怪我の様子を見ている。
「なんで悪s?え?」
「愛香?あれ?え?どういうこと?」
なんで女の子をいじめていたのかを問い詰めようとしていたら、男の子は何故か消えてしまった。まるで最初から何もいなかったかのように。その足元に持っていた枝だけを残して。
「神代先輩。翔さん。これ、どういうことなんです?」
「いや、分からない」
「いつの間にか消えてしまうなんて、神隠しとか、そういうやつが考えれるけど……。」
俺に話を振られたが俺だって何も分からない。少し考えた。でも分からない。
「あ、あの……ありがとう……ございます。」
女の子はか細い声で怯えながらお礼を言った。
「あ、ああ。」
でもそんなことより消えたことのほうが気になる。本当にどういうことなんだ?愛香なら瞬間移動させることで擬似的に消すことは可能だけど、消えたとき何も持ってなかったはずだし。勝手に発動したとも考えにくい。「ねえ。あの消えた子達のこと、なにか知ってる?」
「あぅ……えっと……。あの……。私が……私が悪いんです……。」
女の子に愛香が何か知らないかと聞いてみたところ、女の子はか細い怯えた声で返してきた。
「ほい。薬。」
「ありがとう……。ございます……。」
凪が痛みを和らげる薬を完成させたのでとりあえず飲ましている。何も疑わずに薬を素直に飲んでくれた。
「あの男の子は……私が……魔法……で生み出しちゃった……ものだから。」
「魔法?」
「はい……私……魔法使い……なんです。誰も……信じて……くれなかったけど……。」
泣きそうな、涙をこらえた顔で、女の子は自分のことを語った。
「魔法ね……。」
「魔法……。」
子供の言葉だと聞き流してしまうかもしれないような空想のもののようだが、実際俺達が経験したことから、意外と非現実なことでも現実にあると実感できるようになっている。
「じゃあ男の子が消えたのは?」
「初めての……よく分からない魔法を唱えたら……男の子達が出たんです……。消えたのは……分からないけど……魔法が……切れたんじゃ……ないかと……。」
男の子が消えている以上、信じてもいいのかもしれない。
「ねえ、魔法って、他にも使える?」
「……はいっ!」
愛香のその一声には、さっきまでの泣き顔怯え顔とはうってかわって、笑顔になった。高い声が耳に入る。
「見ててください。あの海を。」
今はハキハキと喋ってる。感情が落ち着いたのだろう。
「オーシャリウム。」
ボロボロになった服のポケットから小さな杖を取り出して、杖で小さな円を描きながら詠唱を唱えた。
「え?」
そうすると目を疑うように、その海の目の前の所だけが急にきれいに光っていた。太陽光の反射とかプリズム現象とかそういう科学では説明がつかない。そんな光り方をしていた。
「きれい……。」
皆思わず魅入ってしまっていた。
「なーるほど。」
まぁ信じるよ。こんなものを見させられたら。いや、今思ったのだけれどこの魔法はその杖の武器の力なのではないか。
と言っても、だからなんだと言われたら……うーん。何ともならない。それがそうだとして、悪いことに使わないのならいい。包丁は人を殺すことができるけど、だからと言って全ての人から包丁を奪い取ったりはしないのとほぼ同じ理論だ。
要は、どんな思いでその力を使うかが重要なのだから。
「やっぱり……。」
そのことを一応皆に共有しておいた。皆
「じゃあ、ね。」
「あ、あの……。」
「何?」
もうこれ以上することもないと別れようとしたのだが、その女の子は小さな声で呼び止めた。
「あの……私を……助けてくれた……から。私……恩返し……したい。」
相変わらずの話し方だけれども、しっかりと自分がしたいことを伝えてきた。
だからとはいえ、恩返しを受けるのは何か気が引けてしまう。助けるのは当然だとかそういう理由もあるのだけれど、一番は何より、こんな小さな子が言っているからてある。こんな小さな子に恩返しされると、かえって罪悪感を感じてしまう……のは俺だけなのだろうか。
「あのね。私達は恩返しされるようなこと、してないんだよ。」
「いいや!私がいじめられてるとこ助けてくれた!」
「う〜ん……。」
愛香は色々なことで考え込んだ。
「どうした方がいいと思います?」
ちょっと離れたところで会議をしている。恩返しを受け入れるか突っぱねるかの話し合い。
「受けていいと思うけどな。少なくとも受けさしてくれるんなら受けたほうがいいだろ?」
「でもな、『あんな子供に恩返しされるのは、なんだかなぁ。』と思うな。俺達がしたことってそんな大したことじゃないし。」
凪と翔で意見が割れている。翔は恩返しを受ける派。凪は恩返し要らない派。ちなみに愛香と繁はどっちなのかまだ分からない。俺も……どっちとも取れない中途半端なところにいる。
「いやでも、こっちからしたら大したことじゃなくても、女の子側からしたら大したことなんだよ。いじめられているのを止めてくれたんだから。それに、さっきの聞いたか?あの声の喋り方。要らないって言ったところで強引に恩返ししてきそうな雰囲気だったぞ。あぁいう子供は、助け合いの精神というか、まぁそういうのを絶対にやらないとって思い込んじゃってるから。」
「……確かに。」
俺も納得した。なんか翔にしては珍しく。
「二人はどう?」
「恩返し受けていいと思う。」
「うん。」
というわけで、恩返しを受けるという結論に至った。なぜこんなことのために会議を開かざるを得なかったのだろうと後で思った。
「わかったよ。恩返しに何するの?」
「うん!あ、私のことはカメコって呼んでね。気に入ってるんだそのあだ名。それでね、恩返ししたいから、私に付いて来て。」
そう言うと、女の子は水の中へと入っていった。一番近くにいた繁が慌ててその動きを止める。
「ちょっと、何してるの!」
「え?」
女の子は何で怒られているのか分からないとでも言いたそうな顔で、助けてくれた繁のことを見ていた。
「あ、そういうことね。大丈夫。海の中でも平気な魔法かけたから。皆安心して入っていいよ。海の中でも呼吸とかできるから。」
「ちょっと待って。」
安全のため、顔を完全に海につけてその中で呼吸して見る。理論は分からないが、本当に海の中で呼吸することができた。
「本当に呼吸できて……。」
「いかないの?」
「う、うん行くよ。」
いじめられているのを助けたらお礼に海の底に連れてってもらえる……凄く浦島太郎みを感じてしまう。いじめられているのが人じゃなくて亀だとかそういう細かなところを除いて大まかにみるとほぼ確実に浦島太郎と同一になる。浦島太郎の最後みたいにならないよな?とちょっとビクビクしていた。
「こっちだよー。」
カメコに連れられて、海水浴場のネットを超えて海の中を進む。
海の中でも水があることを感じずに自由自在に動ける。息もできる。これがその子の力の一つなのだろう。不思議な体験だ。
「こっちこっちー!」
少しして、海底にある洞窟へとカメコは潜っていく。そして俺達もその後を着いて行った。
「ちょっと通りづらいな……。」
「繁、壁にぶつけなかった?気のせい?」
「気のせいだよお兄ちゃん。」
水中なのに会話もできる。本当に不思議な体験をしている。
そのまんま1分ほどで洞窟を抜けると、カメコの目的地へと着いた。
「着いたよ。こっちに来て。」
「おぅ……。」
カメコの呼び声が聞こえないほどに唖然とする。そこは海底の洞窟の奥深くだというのに、小さめの町が形成されていた。道も家も素材とかデザインとかは見たことないが、そういうとこを抜きに見ると地上の町と変わらない。
ここは海の中であるはずなのに。
「こんなところにも町があるなんて……。やっぱりこの世界の技術力凄いなぁ……。」
「世界が違えば常識も違う。だからこんなのも当たり前なんだろうけど、凄いわ本当に。」
「いや、この世界でもこれ普通じゃないから。」
これがこの世界では常識という誤った価値観が付与されそうなので慌てて訂正する。
「え?」
「うん。」
「こっちだよ!早く早く!」
「うぉっと。」
呆然としていたが二度目の呼び声が聞こえてハッとする。訳分からないことだらけだが、とりあえず恩返しは早く受けようと。
「ねえ、ここって、どういう場所なの?」
「ここ?ここは龍空の町だよ。あのね、私達みたいな地上の……とは違うような人達が暮らしているんだ。」
竜空。偶然と言って良いのか、浦島太郎に出てくる竜宮城に似ている。なんか怖さを感じた。
それはそれとして、この町はなんでこんなところにあるんだろう。こんな海底洞窟の奥に町を作らないと行けなかった理由。襲われたのか、はたまた資源の関係か、それともここでしか行けないなにかがあったのか。色々と考えが出てきて面白い。
「ここが私の家だよ。」
「おじゃまします。」
おじゃましますと言っても、その声に返答はなかった。今の家の中には誰もいない。
「じゃあ、恩返しの準備してくるから、その部屋で座ってて。」
カメコに案内された部屋は、一面に魔法関係のものがあった。本棚の本は魔法少女ものばかりだし、机の上には魔法陣が描かれている。壁にはいくつかのゲームの魔法使いが使いそうな杖がかけられていた。
「カメコ、本当に魔法が好きなんだろうな。」
翔が本棚にあった魔法学の本を手にとってポツリと言った。
「あ、できたよお料理。恩返しのつもりで作ったんだけど、口に合うかな。嫌いだったら言ってね。」
この家に入ってからそんなに時間が絶たずに、体感的には20分ほど。それなのに、持ってきた料理は品数も多く、そのどれもが凝った見た目をしている。よく作れたなぁとかんしんしてしまう。
「この短時間で作ったの!?凄。」
「普通に教えてもらいたいな作り方。最近料理マンネリ気味でちょうど新しいレシピ欲していたところだから。」
料理部部長でもあり、警察署の食堂でシェフとして副業をしている凪が食い気味に聞いてる。愛香の抹茶愛ほどではないけど、凪の料理愛も高いよな。
食べてみたが味も美味しい。メインの海鮮料理からスープや野菜料理までが、どれも素材の味を活かしていて凄く美味しかった。なんか凪のとは違うそんな美味しさだった。
ガチャ。
ご馳走になっていると、玄関の鍵が開く音が聞こえた。
「あ、お帰り。」
「ん?何お客さん?」
長い髪の女性が入ってくる。見た目的に……カメコの姉かな。
「あ、はい。」
「私が魔法をミスしちゃって襲われてたところを助けてくれたの。だから今恩返ししてるんだ。」
「…………。」
その言葉に何か沈黙して考えているような素振りを見せていた。
「こっち来て。あ、お客さん達は恩返し受けといていいから。」
その女性はカメコを連れてその部屋から出ていった。多少気になったが人の家庭に首を突っ込むのはいけないことだと感じたので言われた通りご馳走のほうを進めようとした。だけれど、声が大きいからかそれとも場所が近かったからか、話す声はこの部屋までも聞こえてきた。
「あのね、とりあえず助けてくれたからって恩返ししすぎ。助けてくれたから答えなきゃーってそんな考えになっちゃうのは分かるよ。だけどさ、本当にちょっとしたことしただけであんなご馳走を食べさせられたらどうなるか分かるの?私だったらちょっと罪悪感感じちゃうよ。」
「いや……でもちょっとしたことでも私にとっては大きなことだから……今までのも、勿論今のも。」
「恩返しするなとは言わないよ。だけれどさ、恩返しの量をやってくれたことに合う量にするとか、恩返しするハードルを上げるとか、そういうことやったほうがいいよってわけ。」
「う〜……わからないよ何なのか……。」
カメコへとちょっと厳しくでも優しさがところどころに見えるような、そんな感じで伝えていた。
正直これに関しては割と同意してしまう。実際俺達もあのときめちゃくちゃ迷って最終的にここへ来ることとなったのだし。
親切にされたら必ず恩返しとか考えてるのなら、申し訳ないけど面倒くさいという感情を持ってしまう。本人には善意しかないのでかえって面倒くさい展開になるよくあるパターンだ。
「あと、今日のあの子達には何をしてもらったんだっけ?」
「えっと……私が魔法をミスって作り出した男の子にいじめられていたところを助けたから……。」
「そう。でもね、きついことを言うけど、魔法なんてこの世にないの。魔法は、誤認や見間違いや噂に過ぎない。それは除いた魔法は一応あるけど、それは科学で証明できることを魔法と勝手に言ってるだけ。分かる?」
「嘘!魔法はあるもん!」
「じゃあ、さっきの魔法のミスで作り出したものに襲われたこと。襲われたはともかく、作ったこともなんかあって消えたのも質量保存の法則に反するの。」
「でも……。」
「でももない。魔法が〜とかを初対面の人に伝えないでね。魔法とか言われても困惑するだけだから。理解した?」
「あ、はい!」
甲高い大きな声が聞こえた。
「ても、質量保存の法則とかが何かわからないけど、でも、魔法はあるんだって!本当に私魔法使えるもん!」
「一人でいるときにその病気発症させてもいいけどさ、他人巻き込むなって話。それにさ、私分かるよ。何年かしたら黒歴史なるって。そんなやついるんだもん。」
「病気って何!私病気じゃないもん!」
「そうだよなー。中二病患者が自分が中二病だって言わないよなー。」
「中二病?何かわからないけど、それじゃないもん!」
「まぁもういいよその話は。そこ重要じゃないのよ。とにかく、その空想妄想ワールドに他人を巻き込むな!あんたが良くても他人は迷惑なことだってあるの!分かった!?」
かなり強い口調で一喝した。
「うん……。」
さっきまでの感じからその口調に怯えたのか一変して急にしおらしく理解の意を示した。
「どうなんだろうな?これ?」
「どうとは?」
「魔法の話。魔法って本当にあるのかそれともないのかって思って。繁が一回魔法使ったことあるけどさ、そういう魔族が使うものとしての魔法じゃなくてこっちの世界での魔法というか……あれ。何か全然伝えられてない。」
わざわざ部屋から出て俺達に聞かせないようにしたのだと思うのだが、大きすぎる声のせいで聞こえてしまった。無視しようとも何故かなんか印象に残って結果全部の話の内容が分かってしまう。翔がその内容に関係する話をしてしまう。
「あるともないとも言えるんじゃない?分からないんだし。」
「そういうものか」
愛香の当たり前のような的を射た意見に皆納得した。こんな波乱万丈の人生送ってるとより納得できる。
そういう話をしていると、扉が開いて2人が部屋へと入ってきた。
「ほうら、謝って。迷惑かけてごめんなさいって。」
「あ、あの……ごめんなさい。迷惑かけて……。」
「いやいや、迷惑だなんてそんな……。」
「ま、皆そりゃそう言うよな。どっちでもいいからさ、とりあえず謝罪の言葉は受け取っとけよ。本当悪かったな。魔法なんぞの話に巻き込んで。」
「いやあの……魔法、本当にありましたよ。」
これ言ったあと失敗したと気がついた。これだけ聞いてたのなら返しが普通におかしい。聞こえてしまっていたからこういう言葉になると。さっき、聞こえなかったことにしようと決めたのに。
「本当か?気遣いの嘘とかはいらないからな。ここで嘘つくとこいつが舞い上がって変なことなりそうだからな。正直に。」
「正直に言います。魔法ありました。すうっと消えていきました。」
「そうか。」
ただ端的にそう言って、彼女は部屋から去っていった。信じたのか信じなかったのか、それは分からない。
「あ、あの……。お姉ちゃんなの。私の。ちょっと相談に乗ってくれる?」
「何?さっきのこと?」
「うん。お姉ちゃんと私の仲は良い方なんだけど……。お姉ちゃん私の魔法を全く信じてくれないの。魔法はあるのに……。恩返しをあんまりするなとも言われたけどそっちは納得できたからいいんだけど、魔法があるのに魔法は嘘なんて言われて……。」
「お姉さんに見せるのじゃだめなのか?」
「見せたよ。だけど無理矢理科学で説明しようとしたり幻覚呼ばわりしてきて……。」
なるほど。
要するに、お姉さんは科学第一、科学で証明できないことはないと言うわけか。
これ……無理では。実際に見せてそれでもだめなら、無理では本当に。考え方自体が変わらない限り。
「ところで、その杖ってどこで手に入れたの?」
考えていると愛香がさり気なく俺も聞きたかったことを聞いた。これが拾いものだったら異世界のもの説が高まる。
「これ?友達のハマちゃんから貰ったの。拾ったものだって言ってて、私が良いなぁって言ったらくれたの。」
これ、本当に異世界のものだな。90%以上の確率でそうだと思う。
そっちはいいとして、相談の方。いい方法あるか?
ずうっと考えていると、凪が良い案が思いついたのか声を上げた。
「その魔法があることを分からせるのって、そんなに大事なことなのか?」
「うん。だって、魔法は本当にあるのに空想妄想呼ばわりされるし……。」
「でも、魔法みたいなオカルトって、信じる人もいれば信じない人もいる。そういうもんじゃん。悪いけど、無理してその考え方を変えるのはおかしいと思ってな。」
凪の意見も合っているようにも聞こえるし間違っているようにも聞こえる。もう分からない。
「いや……でも。」
「万人すべてを納得させる方法はない。諦めたほうがいいと思う。」
「はい。」
しょぼんとした声でいやいや納得するように彼女は小さく頷いた。
「この世に魔法だの、科学で説明できないことなんてない。ありえない!」
上の部屋では姉が独り言をつぶやいていた。この感じ、魔法があることを認めるのはとても難しそうだ。
「ごちそうさまでした。」
いやー美味しかった。何度も言ってる気がするがやったことと恩返しの内容があってない気がする。でも、これをわざわざ言うのは野暮だろう。
「恩返しこれで終わりなんだけど、皆今すぐ帰る?それなら私あれもう一度やるけど。」
「えっと……。」
ちょっとどうするか考えていると
「私街の観光したいなぁ。」
「俺も俺も。帰るのそれ終わったらじゃあ駄目か?」
珍しく愛香と凪が提案に逆らってまで帰る前に町の観光をしたいと言い出した。こういう発言はなんか翔の役割だと思っていたフシがあるのだけど。愛香も凪も(愛香は抹茶が絡んでいないときに限る。)自分の個人的なしたいことを口に出さないというか、皆に合わせる……というような感じだったから、なんかこういうの新鮮だった。
「分かった。じゃあ帰りたくなったらこの家へと戻ってきてね。」
「ありがとう。」
という流れで、町の観光をすることとなった。
この町自体はそんなに大きくないので、1時間もあれば見て回れそうな感じがする。観光というわけで施設に入ったらこの限りじゃないけど。大きさなんかの理由で2つの班に分かれて観光することとなった。俺や翔や繁もこの町のことは気になっていたので観光についていく。凪と繁の班、愛香と俺と翔の班に分かれた。
「やっぱり、お姉ちゃんは魔法を信じてくれないんだ……。」
先程までご馳走が並べられていたその部屋で、一人で落ち込んでいる。
「皆も無理だとか諦めろって言ってたし……でも……。」
これがもう少し大人だったら無理なことと理解して諦めれていたかもしれない。たとえそれが本当でも虚構としなければならない社会の不条理を知ってさえいれば。でも、こんな子供がそんな汚れた社会のことが分かるわけない。本当のことは本当、信じてもらわないと、そういった感情になっていた。
「でも、どうしたら信じてくれるんだろう。そうだ、もっとすごい魔法なら。でもすごい魔法って……、そうだ、あの漫画で言ってた。一番難しく素晴らしい魔法は『死者蘇生』だって。」
これはカメコの大好きな漫画のこんなシーンがある。主人公の仲間の一人が悪との戦いで大切な人を亡くしてしまう。その悲しみに明け暮れ、自室にボロボロになった死体を持ち帰り、日夜死者蘇生の魔法を研究する。その子の元を主人公が訪れたときには、その子のきれいな部屋は綺麗にされている腐敗した死体と大量のゴミとなっていた。その後主人公がその子に「もう止めて。」と言った後にその子が答えたセリフがこれである。
「死者蘇生は難しい魔法、下手したら世界で一番難しいかもしれない。だけど、でも、私は止めない。だって、死者蘇生って世界で一番素晴らしい魔法だから。これさえあれば、襲撃で死んだ民間人も、戦いの途中で命を消した戦士達も、そして勿論ほまも。だからね、私はやるの。レッド・ブレイドによる被害者を、“本当に”0にするために。」
そのシーンの影響もあって、死者蘇生の魔法をお姉ちゃんに見せようと考えていった。
「お姉ちゃんも死者蘇生なら、流石に科学がどうのこうの、言わないよね。」
「どこかにあったよね。死者蘇生の魔法のやり方……。」
分厚い本、タイトルに魔法書大全中の巻と書かれているその本は様々な魔法のやり方が事細かく記載されている。カメコの魔法の大部分はこの本に書かれていたことを試したらできた。
「あった。死者蘇生の魔法。286ページ……。うんうん。えーっと……。」
目次で見つけたその魔法のページを開く。そのページから5ページに渡って小さな字で死者蘇生の魔法のやり方らしいものや注意点なんかが詳しく綴られていた。
「えっと、材料にろうそく10本、大きな紙、サインペン、供物の肉、皿。紙とサインペンはここにある。肉は冷蔵庫に1パック380円の牛肉があるからそれでいいかな。ろうそくってあったかな……。」
その後、物置にてろうそく10本を発見した。材料は揃った。
「まず、サインペンで図形を書いてと……。」
カメコはひたすら準備を進める。サインペンで紙に図形を描き図形の頂点にろうそくを立てて火を付ける。皿に生の肉を盛り付けてその中に置く。これで準備は完了である。
「注意点注意点。肉の量が少ないと蘇生する肉体を作れずに失敗します。じゃあもっとおいたほうがいいかな。」
冷蔵庫からあと2パックを持ち出し、皿に追加で盛り付けた。
「で……次はと。」
魔法のひとまずの準備が終わり、魔法書をどんどん読みすすめる。無駄に難解な書き言葉を意味を調べながらすすめる。着々と理解は進む。
「その人に縁のある場所で行いましょう。心で強く願うことによってその人が生き返りやすくなる。あ、でもやっぱりずっと生き返らせれるってわけじゃないんだ。生き返ったものは1日が経つと忽然と姿を消して、もう二度と同じ人は呼び出せなくなる。」
一回一日だけ蘇生させることができる。この魔法書の中でさえ、完璧な蘇生など存在しないよう。それがあればどれほど良かったか。本当の意味で理不尽な死に遺族も死亡した人も悲しむ嫌な結末を変えられる。
大事な人を理不尽に亡くした新とか愛香とかは、すがってしまいそうなほど。
二度とという文に一瞬気持ちが揺らぐ、たった一度だけのを今やってもいいのか。今じゃなくてもっと後にしたほうがいいんじゃないのか。心からそういう考えが喋ってくる。
「でも……でも……。」
長めの葛藤。正直これをやらないといけないというわけではない。ただこれが最高の魔法だと思ったからこの魔法を見せたいだけ。魔法があることを認めてもらいたいだけ。だから、ただやめるといえばやめられる。
こんなにも葛藤するぐらいなら、やめればいいのに。やりたい理由も弱すぎるし。と外野の人ならそう言うだろう状況だ。
「いや、やる!」
その聞こえてこない外野の声とは違い、やるという道を選んだ。そうしたい理由も勿論ある。お姉ちゃんに魔法があることを認めてほしいというのも勿論ある。当初の目的はこれだった。でも、今となってはもう一つの目的ができている。そっち側の目的が本命となっていた。
一方その頃、町の中を新達は観光していた。
「地上とは違った建築とかが行われている感じ。やっぱりいいなぁ。」
海の中の町は地上の町と変わらないと最初来たときに思った。でも、やっぱり色々と違うところは発見できる。
「なんか分かる気がするね。俺山の方で暮らしてるから分かるんだ。山の方の人達と平地の人は全然暮らし方が違うね。師匠は井戸とか使います?あんまり使わないでしょ?」
「むしろ井戸とかないな家に。」
「井戸ね。子供の頃のあの村にはあったなぁ。今はないけどね。」
町中の井戸って結構少ないよなぁ。田んぼとかのところで見るぐらいしか思い出せない。
愛香の故郷も確か山の方だったんだっけ。愛香は翔と違って今は普通に町中に住んでいるけど。
一方こちらの2人は
「いやこういう技術とか本当に凄いなぁ。この技術あれば住めるところ結構増やせるな。土地なんかどんだけあってもいいからなぁ。本当、この技術貰いたいぐらいなんだがなぁ。」
凪が珍しく興奮しながら色々な技術を見て回っていた。主に建築技術や海の中でもちゃんと生きられるようにする技術とかを。
「お兄ちゃん?」
「あぁすまん繁。もとの世界帰ったらこの技術使いたいなぁとね。」
「うん。私も。私も魔王だから、そういう技術積極的に取り入れないとだし。」
そのまんま道沿いに歩いていると、図書館のような建物を見つけた。
「入ってみるか。色々と技術に関して分かるかもしれないし。」
「うん。」
図書館と言っても普通の図書館に比べて割と小さい。使う人がこの町の人だけだからだろうか。
「お、これ読もうっと」
凪は適当に図書館を見て回っていたときに見つけた地域の歴史書を読み始めた。
「私は……。」
図書館の中をざっと見てみる。私もお兄ちゃんと同じくこの町の技術を学ばないとだから……あ、これかな。
繁が手にとったのは町の職人とかにインタビューしたものをまとめていた本。絵や図やイラストがなく、難しい言葉がしょっちゅう使われているその本を読み始めた。
そんな中、カメコは死者蘇生の術を始めようとしていた。部屋にいたお姉ちゃんを呼んで、縁のある場所―この家で準備をしていた。
「本当、何があるの?」
「これを見れば、魔法はあるって認めるから。見てて。それに、もうすぐお父さんに会えるよ。」
「!?どういうこと。」
めったに見せない厳しい表情でカメコを見る。
カメコがこの魔法をやらないと行けないと思うその理由がこのお父さんである。お父さんはいい人だった。お母さんが仕事でいつも夜遅くに帰ってきて朝早くに家を出るので、お父さんが専業主夫として家事をしていた。そんなお父さんも、何年か前に事故で死んでしまった。
会いたいと思って当然である。まだ子供の彼女には特に。
「あんまりそういうの、良くないよ。魔法をやることは構わないけど、亡くなったお父さんを利用しようとするのは。」
二人ともお父さんの子供であることに変わりはない。なら全て同じと言わなくても、お父さんに対する尊敬とか、そういうのは同じぐらいある。
魔法をカメコが言っているだけの戯言だと思っている彼女にとって、自分の妄想のためにお父さんを使われるとなんかモヤモヤするというか、少なくともいい気はしない。
そんな姉の言うことを無視して、本に書かれていた死者蘇生の魔法を手順通りに進める。魔法はある。お父さんにも会えると語っているかのような背中を見せていた。
「カメコ。」
「死した者よ。今一度その御霊を天より……。」
お姉さんが言うことを無視しているというより、聞こえてないようにも見える。急に謎の言葉を言い始めたカメコに、「え?何?」「何してるの?」「大丈夫?」などの声をかけていたが、その声にも無反応で杖を握りしめて魔法を唱えていた。詠唱を途中でやめたら魔法は失敗する。失敗した魔法は大抵ろくなことにならない。そう、今までの経験で悟っていたこの魔法は絶対に失敗できなかった。死者蘇生なんて大きな魔法、失敗したときの被害も大きいに決まっている。それに、失敗したらお父さんに会うこともできなくなる。
「……さて、今一度この人世に戻らさん!」
詠唱を最後まで終えると、握りしめていた杖が淡く輝く。供物の肉はいつの間にか消えており、火をつけたろうそくは風もないのにその火が消えていた。
魔法が起こった。
「………」
何も言えない。呆然と立ちすくみ、その場で目の前で起きていることを見続けていた。ろうそくが急に消えたことについては科学で説明できる。杖が輝いたのも電気とかそういうので説明できる。でも、肉が目の前で消えたことは、今のどんな科学でも説明することはできなかった。
数十秒が経ち、天井から人間のようなものがゆっくりと落ちてきた。この人間は洞窟の天井から、空からどんどん落ちていってやがてここへとたどり着いてた。家の天井だの洞窟の天井などといった物体を全てそれが最初から無かったかのようにすり抜けて。
「お、父さん?え?え?なんで!?なんで!?」
お姉ちゃんは驚きやら懐かしさやら嬉しさやらそういう感情が全て入り混じった言葉で言い表すのも難しい顔をしていて、カメコは魔法が成功したという安堵が一番に、次にお父さんの顔をもう一度見れた嬉しさが顔から溢れんばかりに出ていた。
死者蘇生、科学では一切説明できない。だから、これは他人であるとしか言えない。でも、その顔はどう見ても記憶の中のお父さんの顔だった。写真でしか見れないその顔だった。
「お父さん!私だよ!」
脳の処理がまだ追いついていないお姉ちゃんを横に、カメコはお父さんに精一杯の歓喜の声で話していた。でも、その声に何の反応も示さなかった。喋らなかった。
「ヴァァァァァ!」
「痛っ。お父……さん?」
「ちょっ!カメコ!」
目の前で起きたことをカメコは信じることができなかった。"お父さん"がカメコのことをいきなり手を振って突き飛ばした。カメコはバランスを崩し、後ろの壁へと激突した。
おかしいおかしいおかしい。お父さんなら絶対にそんなことをするわけがない。お父さんは優しい人だった。怒ることはあっても、こんなことにはならなかった。
「ヴァァァァァ!」
「来るなこのっ!」
訳分からないことの連続に何もできなくなっていた彼女もカメコが傷つけられたことに居ても立っても居られなくなった。お父さんだろうが違かろうが、悪いやつ。人を傷つけようとするやつだっていうことだけは分かった。そうなったら、やることは一つだった。近くに置いてあった座布団や枕や箱を力一杯投げつけていた。大きな掛け声も出しながら。
「本当、何なんだよ。って、本当に何なんだよ。」
"お父さん"が落ちてきたのと同じように、たくさんの人のようなものが家へと落ちてきた。
「何者だ?」
質問をしても答えようとはしない。ただ襲いかかろうとしているってことだけは動きから読み取れた。
「本当、何なんだよ。」
科学の枠組みを外したとて全くもってわからない。その数はどんどん増え続けていた。
「カメコ、逃げるよ。」
そこら辺にあった物を手当たりしだいに投げつけながら、まだ気絶しているカメコを背負って家を飛び出した。
家の前には、数人の人が野次馬のように集まっていた。大方、家へと落ちてくるものを見て気になったから集まってきたといったところだろう。
「なんか家に向かって落ちとるけど何があったん?」
「みんなを避難させてください!よくわからないけど、とりあえず危険ですから!」
「おん。わぁった。まーせとき。」
「みんな逃げて!図書館の方向に!」
避難をしてもらうよう叫ぶ。分からないけどこうしたほうがいい
「結構綺麗だったね。特に学校の綺麗さ。」
「文化が違うと何もかも違うな。それが面白いんだよな。」
「海外旅行ってこんな気持ちなのかね。」
前方では新達が雑談しながらカメコの家を目指していた。勿論、家で起きた事物を彼らは何も知らない。
「君たちも!図書館の方行って!」
「え?なにかあったんですか?」
「説明は行きながらするから。」
わからないまま、4人+1人で彼女が連れるがままに移動していた。
「そういえばあと2人いなかった?」
「今2チームに別れて観光しているんです。」
「そっちにもあとで助けてもらってくれ。」
ずっとカメコを背負ったまま、必死に頑張っていた。
「嫌、何!?」
「来るな!来ないでくれ!」
「っ……。」
後ろの至るところから悲鳴が聞こえる。でも後ろを向こうとはしない。後ろで何が起きているか見たくない。
私が行っても無駄だと分かっている。こんな選択を取らないといけないきつさにホロリと涙を流していた。
「悲鳴が聞こえるよ!助けに行ったほうがいいんじゃない!」
「師匠、俺は行きます。自分の近くで人が苦しむのが嫌なんで。」
「うん。」
だけどそんな考えを3人は知らない。3人ともこれが危険な状況だと分かっていない。私が説明し忘れたのが悪かった。
「やめっ!戻りなさい!行ったらダメ!」
大きく声を出しても聞き入れてくれない。ならば、力ずくにでもやらないと。まだこの距離なら。
カメコをおぶっているにも関わらず、助けに行こうとする新達よりも速いスピードで追いかける。
「ダメ!」
その曲がり角を曲がったら、見えちゃう。悲鳴が、わけ分からないものが。振り絞った大きな声で叫んだけれども、その言葉は誰の心にも響かなかった。一人の声よりも、一人の困っている人のほうが大事だと、そう3人とも考えていた。
「えっ……何……これ。」
「つっ……」
新達の眼には、人間のようなものが人を襲っているところが映った。襲われている人はひどい外傷を負っている。
「魔族関係だなこれは。」
襲っているやつは人間のようには見えるけど、動きが人間にはできない動き方をしている。関節があり得ない角度に曲がっている。
「持ってる?武器?私は持ってないけど……。」
「俺も。」
「あ、俺もだ。」
「………。」
いつもならここで戦いに行く。だけれど、重大な事実が露呈してしまった。そもそも、今日は海水浴に来た。全員水着である。ラッシュガードをちゃんと着ていたので街の観光をしても誰も疑問に思わなかったけど……。皆急に襲われることが多いから武器が携帯可能サイズに変更できることを活かして休日だろうが学校だろうが武器を持っていっていたけれども、それでも今は持っていない。そもそもポケットもないし、海で泳ぐのに武器をずっと持っているのも無茶だし、持っているわけないのだ。
「どうします本当に!?」
「ほら、説明しながら行くよ。危ないから。」
今から戦うと言いたいところでもあるけど、武器を持っていない俺達にできることは何もない。なんと言おうか迷っているうちに、手を引っ張られていた。
「……というの。」
連れてかれながら、あれがなんであるかを少し知った。急に家に来たことぐらいしかちゃんとした情報が無かったが。彼女にとっても訳わからないものである以上、情報を手に入れることなんて夢のまた夢であった。
「ここまで来れば、多分大丈夫かな。」
3人を連れて家から一番遠い場所、図書館へと着いた。
「はぁ……はぁ……。」
図書館に入ると、カメコをずっと背負いながら走っていた疲れが急にどっと出た。そこのソファにカメコを下ろして、私もソファに座った。
「着々と避難できてるぽいな。」
あの悲鳴がまだ耳に残る。多分今後しばらくは残り続けるだろうな……。
図書館に避難した人の不安の声がどこからも聞こえる。私も同じぐらい不安だ。
あれは何なんだ。未知の動物だろうか。何もわからない。
「何があったんだ?急にいろんな人がここに来たけど。」
「凪!繁!避難できてたんだな。」
新達は図書館の中をウロウロしていた。凪や繁のことが心配だったが、二人は図書館の中で普通に本を読んでいた。強い心配の気持ちは今安堵へと変わった。
「避難?とりあえず俺達は結構前からずっとここで本を読んでいただけだけど……避難って何があったんだ?」
どうやら本当に知らないようである。
「あの……カメコのお姉さんが言ってた話なんだけど、」
愛香がカメコのお姉さんの話をそのまま伝えた。
「ところで武器って持って……」
「水着だから持ってはないな。」
「私も…。こんなことになるとは思ってなかったから。」
まぁそうだよな。愛香達と同じだった。
「なるほど、これは……酷いな。」
「お兄ちゃん。うん。あれって……何なんだろう。」
図書館の窓からそのもの達を見つめる。そのものたちの数は軽く200は超えそうだ。1つ1つがそんなに強くは見えないが、数の暴力で来られるときついかもしれない。そしてそもそもいつも使っている武器がなく、こちらの攻撃力は限りなく低い。
「お兄ちゃんあれ!あそこって、地上へとつながる場所だよね!?」
「えっと……本当だな…。」
繁が指さした方向には、来るときに通った洞窟へと繋がっている場所的なところがある。そこを一部が通り抜けようとしていた。
「水で死ぬことを祈るしかないな。」
万が一地上まで来れたらと思うとゾッとした。
「こうなると、帰って武器取ってきて戻るのは無理があるな。ここからあそこまでバレずに行くのは、あの数なのと出口付近に数体いる時点で無理だ。」
唯一の出口も通ることができない。完全に孤立した。
このままだといずれ食料が無くなる。何らかの原因で自然消滅……必ずしもないとはいえないが実質的にないものだな。何らかの原因ってなんだよってとこもあるし。
「やっぱり、繁の火雨か俺のやつを使うしかないようだな。」
「いいの?バレたりしない?」
「命かかってるからいい。バレたところでこの村から外へと情報が出ることはないからいい。もしそんなことがあるのなら、今まで誰もここのことを知らなかったのが不自然なほどになるし。」
「うん。分かった。」
火雨。繁が武器を使って行う「魔弾」とは別に、繁が武器なしで行うことができる魔法。それが魔弾である。強いのだが、恋の技ほどてはないにしろ、肉体にかなりのダメージが入ること。あと効果範囲が広いから意図しないところで被害を生みかねないことや空から日の雨を降らす関係上屋根がある室内とかでは全くもって使い道にならないなどデメリットも多い。正直魔弾のほうが使いやすいのであまり使うことはない。
あと魔法を使うには帽子を外す必要があるらしく、それで他の人にこの耳がバレてしまうというのもある。
「俺達倒しに行ってくるから。」
「いや待って、どうやって?」
当然の質問に、さっきまで言ってたことを返す。
「ほら、俺達魔族だから、武器がなくても魔法は使えるから。」
「ちょっと心配だな……。繁、危なくなったら帰ってきてよ。」
「うん。分かったよ愛香。」
「頑張ってよー。」
「俺達がいっても足手まといか。ちょっとこれは二人に任せるな。」
色々な言葉を交わして、二人は図書館を非常階段から出た。
繁が前を、凪が後ろを見ながら見つからないよう慎重に移動していく。バレないように少しずつ倒していく奇襲作戦である。
「前に何もいない。ここは安全だよ」
「後ろの遠くにいるな。気づかれないうちに倒しとくか。」
兄妹だからか、抜群の連携を見せたのだった。
「ところで、このあとどうすればいいの?」
「やっぱり各個撃破だな。裏から回って無防備なところを一つずつ倒すって感じがいいと思う。」
この数を一気に相手にしようとすると勝ち目はほぼない。ボコボコにされる未来しか見えない。やはりちょっとずつ数を減らしていくのが一番いいと思ってた。それなら、戦いが2対大勢じゃなく2対少数となる。時間はかかるが、この方法が確実に倒すことができる。少数ならば最悪ミスったとしても逃亡したりしてリカバリーが効きやすい。そう、このときまでは思ってた。
「でも、火雨ってそんなに何度も使えないけど、大丈夫なの?」
「あっ。」
この瞬間、凪は自分がやらかしていた事実に気がついた。
「やべっ。魔弾と勘違いしてたそうだった。」
今の作戦、魔弾ならできる。でも、火雨ならできない。数回やったところで自然回復を待つ必要がある。
「お兄ちゃん?」
「ちょっと待って考えさせて。」
凪は家の塀に寄りかかって、目をつぶって考え始めた。目をつぶったほうがなんかいいアイデアが出るような気がするという経験則である。
「お兄ちゃん……うん。わかったよ。」
繁はお兄ちゃんが自分のやらかしを取り返そうと考え込んでいることに気がついた。なら私にできることはと考えた。お兄ちゃんは考えるときよく目をつぶる。今も目をつぶっていた。なら、ここにあれが来ないか、それを見張るのが私の役目だと気がついた。
それから数分がたった。
「よし。これだな。」
その間運良く敵がここに来ることはなかった。おかげでこれを考えつくことができた。
「お兄ちゃん思いついたの?」
「うん。これが一番成功する可能性が高いと思う。確実じゃないけどな。」
繁は顔を引き締めて、その作戦を聞いた。
「バレないように最初来たときに通った入口付近まで来て、そこで火雨使ってそこら辺にいるやつを倒す。そしたら一度地上に戻って武器取ってきてここに戻る。あとは、あいつらに武器渡して全員で残りを倒せば、勝利。」
「おー。」
思わず感嘆の声が出る。確かに言われてみればそれが安全で確実だった。どうやってこの限られたものだけで敵を全滅させるかと考えていた。
「じゃあ行くか。ここを右に行ってと。あ、いやこの奥いるな……。」
ここまで来たのと同じように、敵にバレないような道を通ってその場所へと向かった。
「ここだけ偏ってるな……。」
地理的な問題なのだろうか、そこはよくわからない。まあでも、逆に火雨により多くのを巻き込んで倒せると考えるとむしろラッキーなのかもしれない。こんだけいると、火雨を使っても何らかの要因でやっつけられなかったものが出てきてしまいそうで不安にもなるが。
「そこの家の二階から火雨打つと良さそうだな。ここなら打ったあとの休憩を敵にバレずに行える。」
「じゃあ、入ろっか。誰かいるか一応見ておくね。」
こんな大惨事だからだろう。鍵もかけずドアを開けっ放しに避難してくれていたことが役に立った。
家の中に既に侵入している可能性もあるとは思っていたがそれは杞憂に終わった。
「ここなら良さそうだな。」
柱さえもなく、その場所を一望できる。普通に立っているのに、敵は全くと行っていいほど気がついていない。本当にいい場所だ。
「じゃあ、撃つよ。」
泳ぐときでさえ脱がなかったあの帽子を脱いで、自分の猫耳をさらけ出す。そして、警察署でホクと戦ったときとほぼ同じあの言葉を詠唱する。
「炎の精霊よ、我に力を授け、その者共に降り注げ」
大きな爆音が響いた。
「はぁ……。」
「繁はこうなってる。でも、なんでなんだよ!」
確かに轟音は鳴り響いた。でも、そうだというのに、そこでは何も起きなかった。大きな炎も、それが落ちる様子も見えなかった。
繁は確かに疲れている。轟音も聞こえた。ならなんで……はっ!
そのとき、凪の脳内に電流が走った。凪は気がついてしまった。この謎が起きた要因が。
「最悪だ。気がついときゃ良かった。そうだ。よくよく考えれば当たり前だ。」
「ここは、地下だ。海の底だ。空から降り注ぐ炎は、海に落ちて消えたんだ。」
凪の火雨が海に落ちたという予想は正解であった。実際に繁が火雨の詠唱を終えると海上に大きな炎が生まれ、それが海へと落ちて炎が消えていた。
で、今一番解かなければならない問題は火雨の後始末じゃない。火雨が実質的に使い物にならなくなったこと、それが大事だった。
「繁は疲れてるし、疲れが取れたとてこれ以上できることはないな……。なら、こっちをするしかないな。いやでも……これ使ったとてな……。」
凪が悩んでいることを簡単に示すと、今繁が疲れているのでその繁を今すぐ動かすのは難しい。繁の疲れがいつ取れるのかも分からない。そして、凪の魔法でどうにかしたとて使ったら凪も繁と同じように疲れてしまうだろう。体力がそこまで多くない凪ならなおさらだ。となると、今すぐ魔法を使ってもだめだ。武器を取りに行く人がいないと。
「これは、一度帰らないとだな。」
繁をここに残していくのはちょっと思うところがある。でも、俺がここにいたとしてなんとかなるのか?ここにあいつらが来たのなら、俺が背負って逃げても繁を逃がすことはできない。なら、ここに俺が残る意味もそんなにない。
「繁、よく聞いてくれ。今から俺は……。」
俺が魔法でなんとかする。そうして誰かに武器を取ってきてもらう。という旨を繁に伝えた。
「じゃあ、一度図書館にいる皆を読んでくるな。」
「うん。」
「来たら隠れてやり過ごせよ。じゃあな。」
家を出ると、来た道を視界に入らないように走って戻っていった。
「ちょっと来てくれ。説明は行きながらする。」
図書館の中で窓の外をずっと見ていた3人を見つける。3人は後ろから聞こえてきたこの声に驚き後ろを振り返る。
「え?凪なんかあった?全部倒し終わった…ってわけじゃないよね?」
「息切れ起こしてませんか?少し休んだほうがいいんじゃ……。」
「あれ、繁は?」
持久力がそこまでない凪が町の端から端まで全速力で走ってきたのだ。図書館内で3人を探す時間があったのだが、それがあっても息はまだ整っていない。
「いや……そうだけど、とりあえずこっち来て。繁置いてきたからあんまり時間かけたくないから。」
「あぁ……うん。」
とりあえず図書館から出た。本当は走っていきたいが、身体が待遇の改善を訴えるストライキを決行している。息切れが凄くて身体が疲れを訴えて走ろうとしない。
仕方ないので、せめてもの速歩きで繁がいる付近まで向かった。
「ということで、3人で武器を取ってきて他のを退治してきてくれ。繁や俺の武器は正直どっちでもいい。魔法使ったあとの回復にどれくらいかかるのかわからんからな。」
「それは分かりましたけど、魔法使えば本当にそこらにいるものを倒せるんですよね?」
「多分な。全部倒せるかは分からないけどめちゃくちゃ減らせるから、残りからバレないように移動したら上に戻ることはできるはず。あぁあと、多分武器さえあれば基本的に負けないとは思うが、一応気をつけておいてくれ。」
やはり完璧は難しいようだ。0に近づけるのは割とできても0にすることはできないというよくあるやつだ。
「大丈夫だよ。楽観的に行こ。何とかなるから。そう思っていたほうが気が楽なもんだよ。」
翔が愛香のちょっと不安になっているのを見抜いたのか、その不安を解消させようと言葉を送っていた。
「よし、あそこの家に繁がいる。ドアが開け放されてないから誰も入ってないと思うが……。」
「お邪魔します。」
家が荒らされたような形跡はなかった。でも安心はできない。2階からベランダへと出る。
「あ、お兄ちゃん。」
「ほっ……良かった。」
繁はお兄ちゃんに気怠い体を起こして笑ってみせた。
「やっぱり、まだ戦ったりするのはきつい感じか?」
「うん……。普通に動くのなら大丈夫だけど、戦闘は厳しそうかな。でも後衛だからできなくも、ないよ。」
「まぁなら休んどいたほうがよいかな。一応武器は持ってきてもらうこととなってるから、自分でこれはいけると思ったら戦いに行ってもいいからな。あと多分、俺が使い物にならなくなるから皆怪我とかは気をつけてよ。当分の間は薬作れないから。」
凪が繁との会話を終えて、いよいよ戦いへと入る。
「もう一度言うぞ、俺があそこら辺の敵を倒すから、敵の数が少ないと思ったら地上へと行ってくれ。」
「うん。」「オッケー。」「分かりました。」
とりあえず防止を脱いで、今の繁と同じ猫耳を露呈させる。
「よし、やるか。」
家を出てできるだけ近くの物陰からそこの様子を見ながら、タイミングを伺う。
「よし、今なら行けそうだな。これなら、」
自分が行けると感じたその時に、繁のと似ている詠唱を始めた。
「水の精霊よ、我に力を授け、我にその集いを授け給え。」
詠唱を終えると、凪の元へと謎の水の球が届けられた。それは家並みの大きさを持ち、そしてその温度は90度ほど、正しく熱湯だった。
「おりゃぁぁ!」
そして凪は、その熱湯の球を手の動きで操作して、その群れへと当てた。
「ぐぁぁぁ!」
大きな町のある洞窟に、数多の悲鳴が響き渡る。自分の身体が全身火傷を起こしている事実に耐えられない声。ここにいては危険と逃げようとする声。
でも良かった。ちゃんとこの技が効いて。
なんでこの魔法を今まで使わなかったか。もう想像できるだろう。メリットがデメリットに釣り合ってないのだ。攻撃をできる範囲は広いし、上手くハマれば大ダメージを与えられる。
だけどこの魔法で生む水は90度程度の熱湯なのである。人間でさえ、90度の熱湯に触れたら火傷するが、それで死ぬかと言われたら答えはNOだ。更に魔族の種類によってはノーダメージというのも割とある。それなのに、疲れて割と長い間激しい動きができなくなる。じゃあ薬作りに専念して他の人に任せたほうがいいとなるのだ。
「さてと、ここならいいだろ。あとはよろしくな。」
安全のためにと残りの体力で近くの家へと入ってその中で床に寝っ転がった。
「凪が水の球?を打って、あ、逃げたりしてる。」
「今が好機ってとこだな師匠。」
「あそこにいるのが、あ、逃げた。今なら行けそう。」
家の中で様子を窺っていた3人は、凪が魔法を使い、そこら辺にいた奴らが逃げたり動けなくなったりしているところを見ていつ出るか話していた。
「じゃあ、今から行こう。」
家に繁一人を残して家から出て、急いでその場所へと向かった。その間わずか15秒。凪の魔法によってそれどころじゃない奴らはそれをちゃんと見逃していた。
「よし、ちゃんと息できる。行くよー!」
そこから出て行きの道を逆に進む。道はなんとなくだがちゃんと覚えていたのが幸いだった。
海水浴場のネットが見えてきた。近くなっている。ネットめがけて進み続けた。
ネットを越えて、そしてついに水の終わり、海水浴場へと着いた。
「あれ、誰もいない……。」
「え?あ、本当だ。みんなどこに行ったの?」
町へと行く前はあんなに賑わっていたというのに、今はその面影を見せていない。砂浜に様々な物は残っているのに、それを使う人間が一人もいなくなっていた。みんな帰った……のか?分からない。
「師匠、なんかこっちの様子も気になるけど、今は町のあれを倒さないと。そういった作戦なんですから。先ロッカー行きますよ。」
翔に言われてはっとする。そうだ。こっちでもなにかが起きたのかもしれない。でも、そのかもしれないより下で現在進行系で起きている確実なものをどうにかするべきだ。
翔の後ろを追っかけて、海の家の貴重品ロッカーに向かった。ロッカーのダイヤルを回して、中においてあった武器を一つ一つ取っていった。
疑問は全然解けてない。何があったのかという好奇心、俺達がやらないといけないという使命感、妙な胸騒ぎから感じる嫌な予感。色々な感情が交錯しながらも、今やるべきことを済ませようとしていた。
「でも、やっぱりこっちも気になります。ごめんなさい私、こっちで何が起きたか調べてきます。何も起きてなければ瞬間移動使って町に戻ってきますから。」
「よし分かった。俺もそれでいいと思う」
「一人で全部やろうとするなよ。一人じゃ無理だと思ったら瞬間移動で逃げてこい。」
気がかりなこともあり、愛香だけが一時この場に残って何が起きたかを探ることとなった。何も起きてなければいいのだが……
「じゃあ送りますね。」
時間の関係もあって、愛香の瞬間移動で二人は街へと戻る。戻った場所は洞窟の出口、少し前に凪が水球を使ったあの場所だった。少し前はここらへんには全くといっていいほどいなかったが、今は元と同じぐらいの数になっていた。
「俺が空気玉でこっち側吹き飛ばします。」
「じゃあその間にこっち側にいるやつ倒すから、それ終わるまで近づかせないことってできる?」
「心配無用です!」
初めて会ったときからかなりの時が経っている。二人のチームワークもかなりいいものとなっていた。
新は電気で痺れさせてその間に切り刻む方法。いつもの方法で数を減らしていった。
「これ、数は多いけど一個一個はそんな強くないっぽいな。」
「こっちとしてはいい感じですね。弱いやつは数で一気に畳み掛けないと負けようがない、そして近づく前に二人がプチプチと潰していくと。」
「まあ、そんな感じだな。」
「よし、これで最後と。」
最後に翔が一体を飛ばしたことで、この範囲にいるやつは全滅させることができた。
「一回渡してきますこの武器を。」
「頼むな。ここらへん見ながら待ってる。」
復活するかどうかわからないけど復活したときのことを考えて二人がいる場所にその武器を起きに行った。
「繁?ここに銃置くな。」
「凪も疲れてるなぁ。はいこれ。」
凪に薬を作る道具を渡したところでこの場所でできることはとりあえず終わらせたはずだ。
「愛香!逃げたんじゃなかったの?」
「ここで何があったの?教えて。」
場所変わって地上にて。愛香がちょっと調べていると伯母さんに出会った。元忍者の伯母さんは忍者が使う武器の一つ、くないを持っていた。十中八九、何かあったに違いなかった。
「あれを見てない?知らない?ちょっと待ってみんなどこにいたの。みんなで逃げたんじゃないの。」
さっきの愛香の質問に答えず、厳しい口調で色々と問いただす。でもその厳しさは、家出して心配かけた子供を叱る親とか、そんな感じの厳しさだった。
「あの、実は……かくかくしかじか。」
簡潔に、みんながあの町にいることとかを伝える。よくよく考えれば割と長い間あの町にいた。観光とかしちゃってたけど、伯母さんはめちゃくちゃ心配していたんだろうなと自分の勝手な行動を省みていた。
「なるほどね。全く、心配するでしょ。行くなら私に少し伝えてから行きなさい。いい?」
「はい。」
愛香はしょぼんとした声で肯定の意を表した。
「で、何が起きたかね。海から変な何って言ったらいいかな……ゾンビ?みたいなのが数十体現れてね。それが海水浴客襲っちゃうもんだからみんなで逃げたんね。それで、私はくないで現れたやつを倒して、また現れるかもしれないからとここで海の様子見てたってこと。ところで海から現れたんだけど、何か知らない?その海底の町で何かあったとか見てない?」
「あ、それなら……かくかくしかじか。」
町に多分同じようなやつが大量にうろついていることを説明した。それで、私は3人で武器を取りに一度戻ってきたことまで説明した。
「なるほどね。なら、早く行ってあげなさい。愛香行きたそうな顔してるわよ。大丈夫、こっちは私がなんとかするわ。私確かにあの村を抜けてかなり経つけど、忍者の腕は全然劣ってないわよ。」
「分かった。じゃあ、がんばってね。」
愛香も瞬間移動を使ってあの町へと戻っていった。
「頑張り。愛香、みんな。」
優しい声で、伯母さんがそう言っていたのは、誰にも聞こえてはいない。でも、少なくとも愛香には伝わっててほしいものだ。
「愛香来たか。」
「地上で起きてたこと伯母さんから聞いてきたよ。」
愛香は地上にまであの何かはわからないやつが来ていたこととかを2人に伝えた。
「へぇー。あそこ通ってたってことかな。まあでも良かったね伯母さんが戦えて。ってか伯母さん戦えたんか。」
「うん。ちょっとね。」
「ああ、なるほどそういうことかな。」
「うん?どういう?」
「……まあ師匠、そこはいいから。」
翔は愛香が忍者の里みたいな村出身であることを思い出した。そんな愛香の伯母さんも忍者なのでは。というわけだ。完全に合ってる。
「まあそこはいいか。今町の敵倒しているところだから、愛香も手伝ってくれ。町全体って広いよ本当に。」
「分かりました。神代先輩。」
「あ、お兄ちゃん。」
「繁。動けるようになったか。今3人が町で敵倒してるよ。クライマックスってとこかな。」
今回の敵、武器さえあればそんなに攻略は難しくない。今回の要点はどうやって武器を手に入れるか。武器さえあれば、もうそれは大量のあれを少しずつ処理していくだけ。実質的にクライマックスだ。
「お兄ちゃん私どうすればいい?動けないお兄ちゃんを守ったほうがいいかな?」
「いや、いいかな。いやでもなぁ。じゃあこの近くにいる敵倒し頼める?」
「うん。分かった。」
そういって繁はこの辺にあるできるだけ高いところを探して、そこへといって銃を構えた。
「やっぱり他の人が戦ってる傍ら、俺がこんなふうにかなり長い時間休むのは、不本意にしろなんかあれだなぁ。」
多分3人は突破口を作ってくれた凪が一番活躍したと思っている。先程の論だと要点は武器を手に入れること。そしてそれは凪あってだった。
凪もそのことは割と分かってるだろう。まぁ気持ちの問題だ。これ以上は何とも言えまい。
「あーいたいたいた。」
敵をすべて倒したか町を目視している最中、後ろから繁の声が聞こえた。見ると凪と繁がこちらへと来ていた。
「凪に繁、大丈夫?」
「単純に疲れるって感じだからね。十分な休息さえ取れば大丈夫だよ。完全復活ってやつ。」
そんな心配してたってわけじゃないけど、やっぱり無事な姿を見るのはいいものだ。
「俺も魔法使えたらなぁ。なんか楽しそうじゃん。」
「いや、空気球使えるじゃん。武器の力って魔法を簡単に使わせるってやつだよ。」
「あぁそっか。となると俺はもう魔法使いってことか。」
翔が普通に会話しながら町の目視をしている。戦闘の緊張感とかはもうないな。
「よし。ここもないと。」
「全滅させられたってことですよね。神代先輩。」
最近のバトルでは結構きつめだった気がする。
「そうだな。よしっと伝えに行くか。」
「あ、でもどうやって伝えますか?普通に全部倒しましたよっていいます?でもそう言って信じてもらえますかね。」
「じゃあ俺に任せてくれ。そういうの俺実は結構得意だぞ。民を導いたりするのにそういうの使うからなぁ。どうする?俺達のこと伝える?」
「私としてはどっちでもいいかな。」
和んだ雰囲気の中、彼らは図書館へと戻っていった。
「みんな町を脅かしたあの魔物は、もういなくなったそうじゃ!」
「おおっー!!」
図書館の中に歓喜の声が広がる。絶望が終わり希望となる音である。
「やっぱりこういうの見ると私も頑張ったかいがあるなぁとか思わない?」
「うん愛香。私もわかるなその気持ち」
図書館からは徐々に人が減っていく。自分たちの暮らしているいつもの日々に戻ろうとしていた。
少し時間は遡る。いつ頃かと言われると、新達が地上で武器を取っていた頃。
場所はあの図書館の中、入口付近のソファである。
「あ、ようやく目を覚ましてくれた。起きて、起きて。」
目が覚めると、泣き顔のお姉ちゃんが私を見ていた。なんでか私のことを過剰に揺さぶってて、ちょっと頭が……。
「んぁ……お姉ちゃん?」
ここは、図書館?うん。本がたくさん置かれた棚があるし、間違いなさそう。
私寝てたんだっけ?あれ?ってか、私図書館なんか来たっけ?ここ1ヶ月来てなかったはずだけど。
「はぁ……良かった。大丈夫?痛いところとかない?お医者さんに診てもらったけど、背中とか膝とか傷まない?」
「え?痛くない……よ。」
何があったんだっけ、今日のこと思い出してみよう。
確か私はおもてなしをしていて……。
「カメコ、カメコ、カメコ!」
カメコが思い出そうと今日を振り返ると、それが進むにつれて反比例の如く顔を青ざめていく。
死者蘇生の魔法をして、でもそれに殴られて……。
「そうだ、お父さんは?」
「お父さん?あんなのお父さんじゃない。あのときカメコを襲って。よく似た別人だったんだろうね。世界には同じ顔の人が3人いるんだっけ?それだったんだろうね。」
あくまで別人と考えているよう。お父さん本人だとは考えていない。死んだ人が蘇生されることがないと信じ切っているのか、あれがお父さんだと信じたくなくて、意図的に自分の考えに蓋をしているのか。
「でも、なんで図書館に私が?」
「カメコが気絶している間、色々とあったんだよ。聞く?」
「うん。」
カメコはあの魔法が原因だと信じている。状況的にもそう考えるのが一般的なのかもしれない。
ならカメコは知っておかないといけないのだ。自分のせいで、どうなったのか。あのお父さんは結果どうなったのかを。
淡々とした物言いで、これまでのことを説明した。たくさんの人のようなものが降りてきたこと。街が悲鳴に満ちたこと。ここが人を守る拠点となっていること……。
「うっ……。」
「カメコ?」
お姉ちゃんが話をすればするほど、カメコに罪は降り積もる。
もう信じたくない。自分じゃないと胸を張って言いたい。でも、でもそれができない。
自分がやったことである限りは。
「まあ、ざっとこんな感じ。それにしても何なんだ。天から大量に降り注ぐなんて、普通に考えておかしい。いや、たしかそんな現象あったな。ファフロツキーズ現象、だったっけ?」
ファフロツキーズ現象とは、簡単に言うと空からありえないものが降り注ぐ現象。あの現象は未だに解明されてはいないが、今回のもその現象だったのではと考えていた。
とはいえ、そもそもそれだとしてもあいつらが何なのかとかそういうものには一切触れてはいないのだが。
もっとも、カメコはもう言っていることは頭に入っていないのだが。
「やっぱり、魔法が失敗したんだそれでこんなことに。私魔法よく失敗するのに、それでも諦めずにやって。失敗するかもしれないのに。一番素晴らしく一番難しい魔法だったのに。」
「だから、魔法なんてないんだって。魔法だの何だの今はいいから、それより他のことを……」
「魔法はあるの!それで私が失敗したの!」
魔法がないと否定するお姉ちゃんに対して強く反論する。
でもそれは魔法があるって認めて、それで私が失敗してこんなことになったのも認めてほしい。そんな気分になっていたからだ。
カメコはドMってわけじゃない。でも、いっそ罵ってほしい。そんな気持ちを抱いていた。
ちゃんと自分を罰してほしかった。
「そんなわけ無いでしょ。たまたま。自分が勝手に悪いって思い込んで、いい加減にしなさい。魔法なんて妄想でしかないんだから。」
お姉ちゃんらしい、強く妹を諌める口調に、思わずカメコもたじらってしまった。
この言葉が出るということは、お姉ちゃんは本気で魔法なんてないと考えていそうだ。
そのことに気がついたとき、またカメコは悲しい気持ちになっていた。
「帰るか。」
「あー伯母さん待ってるよね。」
凪が説明し終えて戻ってきた。これ以上やることも多分ないだろう。
「あ、でもカメコちゃんにさよなら伝えに行く?」
「そういやさよなら伝えられてなかったか。というか正直バトルとかしてたから記憶から消えてたわ。今回色々と凄い戦いだったから。」
今日の戦いを振り返りながら、ちょっとカメコを探してみようと図書館へと戻ると、ちょうど出てくるカメコとお姉さんと出会った。
「君たちか。出会えてよかったな。」
「あ、はい。そうそうカメコにさよならとありがとうと伝えに戻ってきました。」
「なるほど、カメコ、おもてなしで連れてきたあの子達だよ。話しな。」
「あ……の……。」
あれ、カメコってこんな感じだったかな?と一瞬思ってしまったけど、よくよく考えれば俺達のように慣れている人じゃなければ町が襲われるのを見たら誰だって落ち込むものか。
こう考えると俺達よくやれてるなと自画自賛してしまう。自賛なのか?という問いには答えない。
「カメコ、おもてなしありがとう。」
「「ありがとう。」」
「ありがと。」
「ありがとな。」
「じゃあ、またね。俺達は地上に帰るから。」
普通に考えてお礼を言われて嫌な気持ちになるやつはいない。でも、今のカメコだとちょっとあれというか、なんか自分を締め付けるというか、そんな感じをしてしまった。
このお礼は関係ないことだと分かりきっている。それでも、今のカメコにお礼を言われるのは、ある意味拷問のようなのだ。
そんなことは露知らず、新達はカメコの元を離れて、あの地上へと通じる場所へ向かう。
「さてと、家に帰ろう。家壊れたりしてるとこも直さなきゃだし。やることたくさんあるよ。」
その言葉も届いてはいなそうであった。
「本当カメコ大丈夫?怖かっただろうけど、もうないからね。」
頑張って元気づけようとしていると分かっても、カメコは元気にはなれなかった。
海の中の町でのお話は終わり、俺達は地上へと戻ってきた。
いつもならこの時間でも海水浴客がちらほら見えるらしいが、あんなことがあったあとだと流石に誰もいない。
そこら辺の砂に残った跡が、ここらで起きたことを伝えているようだった。
「おかえり。みんな無事でよかったわ。」
「ここで戦ったんですか?愛香から聞いたんですけど。」
「ふふっ。そうね。あなた達いつも町のために頑張ってるんでしょう?本当凄いわね。」
「あれ、なんでそれを」
「伯母さんには昔私が説明したからね。伯母さんは口が固いから問題はないよ。」
「ちょっと君たち、まだここにいたの?早くここから出なさい。」
ちょっと話し込んでいると、後ろから警備?の服を着た人がやってきた。
「ここでなんか危険な動物の目撃情報があってね。だから今日から数日はここ使用禁止になるから。さ、帰った帰った。」
まあそうなるか。
俺としてもこれ以上遊ぶのはちょっとあれな感じがしたし、帰ろうかなっと。
「はい、今から着替えてらっしゃい。」
着替えを終えて、今愛香の伯母さんが運転する車の中にいる。もう海は見えない。
「海よかったな。」
「ちょっと海というか……町観光って感じがして、私本当の意味で海は楽しめなかったような気がするなぁ。」
「次山行きません?俺案内しますよ。」
「泳ぎちょっと身につけたいな。」
それぞれが思い出を振り返っている。本当忙しい一日だった。
海で助けたら恩返しされて、そこでバトルになって、武器がなくて、町中駆け巡って。
「大変だけど、楽しかったな。」
一方海辺では
「ふぅ……掃除完了」
「あぁようやく終わった面倒くさかった……。なんで掃除だけに飽き足らず戦いはじめるんですか。」
この二人はそう、海岸掃除で来ていた生徒会長らである。
「流石に危なかったから、戦うのは当たり前じゃん」
「私戦えないんですけど。戦えても面倒くさいし戦いたくないんですけど。」
「それより、これ出しに行くからそっちもって。」
「えぇ〜面倒くさい。」
渋々ながらも、仕方なく持っていった。そっちのほうが早く終われると気がついたのだった
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