第18章 列車の旅と警察業!
ゴールデンウィーク、今年のゴールデンウィークは火〜木の3日間しかなくて、多少ゴールデンウイーク感が薄れてしまうような気がしますが、それでも学生にとって嬉しいものです。
「恋、これだと記事に文が入り切らないから、ちょっと短くしてくれないか?」
「分かった。」
4月25日の高校内にて、私は同じく部員の葉蘭と部室で新聞を書いている。
新聞自体は皆結構読んでくれてるみたいなんだけど、新聞部に入ろうとする人は少ないんだよね〜。幽霊部員除いたら、数人程度しか部員いないもん。部員来てほしいな〜…。
「じゃあ、ここをこうしてと。」
忙しいったらありゃしない。月の始めに毎回出してるから、あと1週間。部活があるのはそのうちの4日だから、本当に忙しい。
「これでいい?」
「うん。良さそう。次の記事お願い。」
意地としてでも間に合わせないと。
キーンコーンカーンコーン
「あぁー時間なったか。」
「でもこの調子なら、なんとかなりそうだね。」
部室の電気を落とし鍵を閉め、私達は下校した。
「あ、そういえば、恋ってゴールデンウイーク予定ある?」
「予定?今のところはないね。仕事が入ったらその限りじゃないけど。」
「そう。もしよかったら、ゴールデンウイーク中に使えるペア旅行券があるんだけど、貰ってくれない?私商店街の福引きで当てたんだけど、ゴールデンウイーク中に親戚が帰省してくることになってるから、使えないんだ。」
「私でいいの?」
「うん。私にとって一番の親友が恋だしね。」
そう言われると悪い気はしない。クラスも同じだしね。でも、純様もクラス同じだったら良かったのに……。
「なら、遠慮なく貰おうかな。ありがとう。いつか、昼食奢るね。」
「そんなにしなくてもいいのに。ふふっ。ありがとう。」
次の日、朝葉蘭からとりあえずチケットを受け取った。1時間目が始まる前、一人机に向かってチケットの内容を確認していた。
「1泊2日の列車の旅。目的地は岐阜県と愛知県。なるほどなるほど。」
観光地を巡るタイプのよくあるやつ。ツアーリストとかが付くやつではなくあくまで列車と旅館が無料になるだけで、他は自由行動というらしい。
「せっかくもらったんだし、使わなきゃ損だよね。」
人からもらったものをさらに人に渡すのは、私にはちょっと無理だしね。
今日は部活がない日なので、6時間目が終わるとすぐ帰った。
葉蘭は………。うん。宿題出さなかったもんね。自業自得。
「あ、恋も終わったところか。」
「純様!ナイスタイミングですね。」
純様の部活は木曜日ならいつもはあるけど、工事のせいでできないのかな。
「それで純様、友達からゴールデンウイークのペア旅行券貰ったんですけど、一緒に行きません?」
「すっごいもの貰ったね。」
純様も驚いている。まぁこんな展開漫画とかではあるけど、現実に起きるとそりゃそうなるよね。
「予定の関係で使えないらしいんで、譲ってもらったんですよ。」
「ゴールデンウイーク中だったよな。チケット見せてくれるか?」
「どうぞ。」
丁寧にバッグの中に入れておいたチケットを取り出して渡した。
「うん。ほうほう。」
純様はまじまじとチケットを見つめている。探偵の癖が抜けないのかな。
「うん。日時的には私は問題ないけど。」
「なら行きましょう!一緒に!」
「たまにはリフレッシュもしたほうがいいよな。この前大仕事済ませたところだし、ま、いいんじゃないか。お金も何とかなるだろうし。」
ありがとう葉蘭。本当にありがとう。高めの昼ご飯奢ろう。
旅行についてのことを話しながら二人は、同じ探偵事務所へと向かう。
「今のところ案件はなかったよな。うん。ないな。」
棚の上の箱は空だった。あれは依頼関係のことを入れている箱。それがないということは、今は依頼がないということを表していた。
「ピーンポーン。」
その時、探偵事務所のインターホンが鳴った。
「はーい。」
荷物を上に置き、純はドアを開けた。
「おひさ~。」
「美咲。それに健心に紬も。」
ドアの前にいたのは3人。元異小課だった3人だった。
「ゴホッゴホッ。」
「大丈夫?健心?」
「とりあえず中入れば?」
3人は事務所の中へと入る。
「あれ?久しぶり。美咲達だったんだ。」
「恋ー。相変わらずどう?進展した?」
美咲は恋を質問攻めにしている。美咲が聞いてるのは恋愛関係のこと。昔の仲とはいえ入ってすぐ勝手に質問するあたり、相当図太い。
「ゴホッゴホッ。」
「本当に大丈夫?倒れたりしない?」
「いや、これは多分、花粉症の咳だから。あっちのやつじゃないから。」
健心と呼ばれた彼はさっきからずっと咳ばかりしている。彼は異小課時代の出来事により、特殊な病気にかかってしまった。それは不定期で頭痛吐き気めまいその他を起こして気絶して倒れてしまうものだった。
そして、紬と呼ばれた彼女が彼のことをずっと気にかけていた。彼女は優しい姉のような存在で、異小課時代は二人の姉のように接してきていた。今でもそんな感じに接している。姉役が何より好きみたいだ。
彼女達3人で、異小課の一期が行われていたのだ。
「で、何しに来たんだ?」
一人置いてきぼりをくらっていた純がいい加減質問した。人ん家に入って謎の話と咳するためだけに来たわけではないだろう。
そう質問すると、恋を質問攻めにしていた美咲が質問をやめて答えた。
「いや、もうすぐゴールデンウイークだから、ゴールデンウイーク中5人でどっかいかないかな?って。偶然帰りであったから。どうせならって来ちゃったんだ。」
想像の何倍もしょぼい理由だった。それぐらいならメッセージアプリで良かったよねと思ってしまう。
「あぁ………。」
こんな声も出てしまった。
「でもせっかく来たところ悪いけど、私ゴールデンウイーク中旅行行く予定あるから。それと被らない日しか無理だよ。」
「旅行?」
美咲に旅行のことを色々と伝えた。
「じゃあ一緒に行ってもいい?いいよね?」
だから圧が凄い。その聞き方だと有無を言わせないからやめなさい。
「いやいいけど、行けないだろ。」
「チケット買うから。」
「なんて?」
「だーかーら、チケット買うから、一緒に行けるって。」
はぁ……。聞き間違いじゃなかったのか。
「いやなんで。少なくともそんなお金ないだろ。」
親に頼めばいけるかもしれないけどさぁ。親がそんなののために許してくれるか分からんよ。
「大丈夫大丈夫。なんなら今から聞いて見るから。」
美咲は電話をかけ始めた。かけてる先は多分親かな。
よくよく考えたら、お金あるといえばあるのか。そういや異少課で皆働いてたんだった。あそこの給料はそれなりにあるらしいからな。私のところに入るのは全然だけど。まあ、仕事自体少ないから文句言えないけど。
でも、仕事もう少し増やしてほしいな。恋の親からの仕送り金ありきで探偵経営しているもん。高校は義務教育じゃないらしいから学校辞めて探偵に専念することでいけなくもないけど。でもなぁ……いつまでできるかも分からないからなぁ……最悪のことを考えると高校は行っといたほうがいいからなぁ……。
なんて色々なことを考えているうちに、電話終わってた。
「うん。お父さんから譲ってもらっえるから、大丈夫大丈夫。」
「譲ってもらえる?」
「お父さん株主優待券持ってるから、割引料金で乗れるんだ。皆の分渡してくれるから、皆で行けるってわけ。」
ま、料金に関してはなんとかなるのか。
「でも、あと2人は行くって言ってるのか?」
「うん。健心ー、紬ー、恋達が電車旅に出るらしいから、一緒にゴールデンウィーク旅しない?料金は株主優待券でかなり抑えられるから!」
「俺は行こうかな。家でだらだら暇潰すぐらいならな。」
「私も。新しい思い出をカメラに残したい。」
「ほら。だってさ。」
ま、いいのかな。この鬱陶しくなるぐらいの騒がしさ、嫌いというわけでもないし。
「ちょっと紬!?」
「恋。最近連絡くれなかったけどさぁ。困ったことがあったらちゃんと相談してよ。」
恋も私と同じく、そっちのほうが楽しそうだし。
「あ、でも本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫って?」
私は無言で健心を指す。
新幹線とかじゃない普通の列車。当然列車内は揺れる。
健心の病気が発生しないか心配だ。
「大丈夫。多分……。」
心配しかない。
色々と紆余曲折ありながらも、ゴールデンウィーク初日へとなった。今荷物片手に富山駅ホームにいる。
ちゃんと事務所は休業にしたし、部活動も行けない旨を伝えたし大丈夫かな。
少しレトロな感じを醸し出す列車は、富山駅から動き出した。路面電車とは違うガタンゴトンという音が、列車の中に響いている。
「なんか最近疲れたりしてない?私心配よ。本当純は人に頼るの下手だから、自分でなにか抱えこんだりしてない?」
余計なお世話だ。
「余計なお世話だ。そんなことあったら恋を頼ってる。」
「ふふ〜ん。なら大丈夫。それにしても、あの純がねー。よっぽど仲良いのねー。安心したよ。」
やめてほしい。他人に言われるのはなんだか小っ恥ずかしい。恋の前じゃなくて良かった。あんま恋に改めて聞かせたくないし。
「そうだ。皆でトランプしない?ちょうど持ってきてたから。」
恋がトランプを持って誘ってきた。
「でも、トランプあんまり分からんよ。私は。」
「じゃあ、ルールから教えますよ。」
恋と組んでから色々と無駄な知識が増えている気がする。まあ、本当に無駄なわけじゃないから、いいんだけれど。
覚える必要はなくても、覚えておいて損はないから。無意味なことを覚えたら大事なことを忘れるとか言っている人もいるけど、それはただ覚えようとしてないだけだと思うから。だから損はない。
「ババ抜きって言いまして……。」
「すうっ……。」
現在県境の山の中。トンネルの中を何度も走りその都度轟音が聞こえてくる。
美咲は寝てしまった。健心と紬は二人でどこかに行ってしまった。座席で恋と二人っきりだ。
「純様?景色でも眺めてるんですか?」
「まぁ、そういったところだな。」
私は子供のように窓に張り付いて移り変わる景色を眺めている。トンネルの中はわざわざ見たところで味気もない単調なのが続いているけど、トンネルとトンネルの間は見る価値がある。
「故郷に似てるなぁって。」
「それ、前にも言ってましたね。故郷が好きなんですね。」
この前仕事で新潟の方まで行ったときも、こんな話をしたような気がする。無意識で私が同じことをやったから。
「そりゃそう。ここもいいけれど、住み心地がいいし、故郷より快適で、ここのほうが良いって点はたくさんあるけど。でも、私は帰りたい。あそこには、ここにはない家族がいる。友達がいる。」
恋にわざわざ話したって何にもならないことは分かってるけど、今の私は愚痴る感覚で恋に話していた。共感してほしかったのかもしれない。境遇は全く違うけど、恋なら理解してくれる。そんな気がしたから。
キーーー
遂に終点、岐阜駅へと着いた。
「着いたー!」
荷物を持って駅へ立つと美咲が開口一番言った。ちょっとうるさい。
「私、あの子達に久しぶりに会いたいな。今どうしてるかな。まだ続けてるかな。」
「紬、一回行ってみれば?俺も確かに会いたいといえば会いたいし。」
岐阜県の異小課とは任務で数回お世話になっている。久しぶりに3人は会いたくなっていた。
「純達はどう?」
「私はな……。たった1度しか会ってないからな。私自身どんな人だったか覚えてないから、パスだな。」
純達は異小課の協力者的存在であるとはいえ、異小課の任務には基本的に無関係。1回絡めばいい方で、殆どの他県の異小課とは会ったこともないのだ。岐阜県とは任務の関係で呼ばれただけ。触れ合ったのも短い時間だったので、本当に覚えてなかった。
恋に関してはその日予定があったので会ったことすらない。
「そうか。なら、ちょっと3人で会いに行ってくるな。そこそこしたら戻るから。先昼でも食って時間つぶしといて。」
「ああ、そうするよ。」
改札口を出て駅の案内板のところへと行こうとする。駅近くの美味しそうな店に行こうと。いつもは食べられないやつを今だけしか無理なんだから食べたい。
「山井さんじゃないか。ようこそ岐阜へ。」
そこに、一人の女子が話しかけてきた。特徴的なモノクルと付けている。
「ゲッ………。」
あまり感情を表に出さない純が露骨に嫌そうな顔をした。
「何なんですか?純様が嫌そうな顔してますけど。」
「あー恋、そこまでしなくていいけどさ。」
恋のことだから手を出したりはしないだろうけど。それでも止めとかないと
「ひっどいなぁ。あのとき一緒に仕事した仲だというのに。」
「私は少なくとも好きとは言えないけど。」
彼女達には複雑な関係性があるようだ。彼女達は前にただ一回会っただけ、その時一緒になって仕事したとはいえ、普通ならこんなことにはならない。純は絶対そんなこと忘れる。
だけど、純が一度だけなのにわざわざ覚えるほど、この人のインパクトが強かったのだ。
「たまたま近くの店によった後たまたま駅のファストフード店に行こうとしたら、まさか会っちゃうとはね。ところで君は?」
「私は川崎恋、純様の助手です。」
「ふぅん。なるほど。山井さんは凄いからね。助手も相当すごいんだろうな。」
「いや、私は……」
「恋、もういいから行くぞ。」
逃げるようにその場を離れようとする。
「酷いなぁ。私は久しぶりに話したいだけだというのに。」
「純様、見た感じそんなに険悪な関係になるとは思えないんですけど……。」
だが、恋が興味を持ってしまったせいで話をせざるを得なくなった。無視してもいいとはいえ……。
「単純にやることが気に食わないんだよ。」
説明しよう。恋を放置するのも良くない。話についてこれてないだろうし。
「こいつは前の異小課の任務の関係で岐阜に行ったとき初めて会ったんだ。岐阜の異小課の協力者の探偵なんだが、探偵の風上に置けないんだよ。だから嫌いなんだ。」
「風上に置けないとは失礼な。たしかにさ、推理力も一般よりは上と自負しているけど探偵やる上には全然足りないことも自覚しているよ。だから推理力がめちゃくちゃある君が気に入ってたのにさ。でもさ、ちゃんと依頼は解決してるんだよ。」
ここまで聞いた感じ純が嫌うほどの理由はなさそうに見える。
「……こいつはな。自分のことを運ゲー探偵とか言いやがるんだよ。事件も何も、運任せで解決する。だから嫌いなんだ。」
純は探偵として、そんな方法で事件を解くのが気に食わない。運なんかで事件は解いていいもんじゃない。複雑なロジックを紐解いて一本の道筋を見つけるのを、運というものです全て破壊してしまっている。
「それ、大丈夫なんですか?」
恋もこの驚き顔である。そりゃこんなん初めてだろう。2次元の世界まで考えたとしても、いるかどうか怪しい。
「大丈夫じゃない。」
「確かに普通なら大丈夫じゃないよ。だけどさ。私にはこれがあるのさ。」
そう言って、胸ポケットの中から一枚の御札を取り出す。よく分からない言葉で書いてあって、解読はできない。
「異小課と同じ。これも異世界のもの。これを使えば、自分の運を上げることができる。それも異常に。だからね。運任せだと言っても大体なんとかなるもんなんだよ。だからいいのさ。」
笑って言った。自分はこれで良いと考えているから笑えていた。
「そうそう。私は福野幸。せっかく会えたんだから、仲良くしてもらえると嬉しいな。山井さん。」
「私はあんまり仲良くしようと思えないけど。」
純が彼女のしていることを認める日はいつか来るのだろうか。
「もういいだろ。恋。こんなやつに構ってないで早く行こう。」
純は恋を急がせる。
恋がこいつと楽しく話しているのを見るとムカムカする。運だのなんだの行ってるが、そんなもんで探偵やっていいわけないんだ。
探偵とは、依頼者に寄り添い、依頼者だけではできないことを行うもの。知恵を振り絞り、依頼を自分のやり方でこなすもの。
「岐阜県を楽しんできなよ〜。」
運ゲー探偵である以外は普通に良い人なんだがな。
一方その頃、岐阜県中央警察署では。
「スヤァ……。」
「どうせここにいるんだろ?起きろ!」
岐阜県の異小課は二人。常識人の任田沖と、寝ることが大好きすぎて仕事中でもマイペースに寝る観音玲夢である。
沖は問題無いのだが、玲夢は問題児だ。周りが困ろうがマイペースに寝る。寝ることは悪いことではないが、ここまで寝られると流石に苛つかれる。なお、武器の力で自身を透明に出来るので、寝るのを邪魔されたくないから透明になって寝ている。そのせいで余計に苛つかせられる。
「寝てる人を起こしちゃ駄目だって習わなかったの?気持ちよく眠っているのを起こすのは、高級ステーキを食べている最中に近くでシュールストレミング開封させられるようなもんなんだよ〜。」
「確かにそれは嫌だけどそもそも仕事中に眠っているのを叩き起こすのは仕方のないことだろ。寝過ぎなんだよお前は。」
扱いには苦労しているようだった。
「で、何?」
渋々ながら玲夢は任務のことを聞く。まぁここでのいつもの流れである。
「あー任務内容だけど刃皇山の方でまた塵男が出たらしいって目撃情報があったから、調べにいけだと。」
塵男とは最近岐阜県でよく発見されている都市伝説のようなもの。山を歩いていると、全身が塵のような男が現れるという都市伝説。無駄に噂が流行るせいで調査せざるを得ない
「やっほーいる?」
「うぇ!?」
急にドアが開くもんだからびっくりした。誰だよ本気で。
「おひさ~」
「えーっと……。あ、思い出した。富山県の3人だ。昔の。」
昔少しお世話になったけど、なんでここに?富山県のは代わったらしいって聞いてたんだけどな。スポーツのときもそうだったし。
「たまたま近くにきたから、来ちゃった!」
「たまたま近くに来ることある!?」
ここ岐阜ぞ!
「旅行よ旅行。ついでに会いに来たん。久しぶりだからね〜。」
俺の精神持つかなぁ?ただ一緒にいるだけで疲れるんだけど。特に彼女が。他は気さくな男と優しく過保護な女って感じでまだなんとかなるんだけどさ。こういう見るからにテンション高いやつとつるめないんだよ!
前のときもどっと疲れたし……。
「まぁ、ソファに座れば?」
玲夢以外の対応するのきついんだけど。玲夢だけで十分なんだけど。
「でも今から任務ですよ俺たち。だからあんまり話したりはできませんよ。」
「じゃあ一緒に行こうよ任務。」
なんで?なんでこうなるの?
いや確かに助け入るのなら嬉しいよ。だけどさぁ……
「いや勝手に決めていいんですか?」
自由すぎる。本当に。
「いいよね?皆?」
「私は皆のことを見守りたいから。いいと思うよ。」
「え?じゃぁ…じゃぁ?」
「じゃあ私は行かなくていいね。」
「お前はいけ。」
「えぇ……。」
いや露骨に嫌そうな顔してるけど、本来玲夢の仕事だから!やりなさい。サボるんじゃないよ。
「はぁぁ……。」
沖は大きなため息をついた。
一方その頃、純と恋は駅近くの料理店で料理を食べていた。
ピロン
「ん?あっちは終わったのか。いやー?ん?」
美咲から届いたメッセージを純は読む。
[岐阜県の子達の任務に一緒に行くことになったよ〜。2,3時間で帰れると思うから。]
はぁー。
美咲やっぱり自由だな。前からだけどさぁ……。治してくれよその性格少しでも……。
「純様?」
「これ。美咲から来た。」
メッセージを恋に見せた。
「あぁー。美咲らしい。」
やっぱり恋もそう思うか。健心と紬は美咲の案にとりあえず何も考えず賛成しがちなんだから……。
「私達とわざわざ一緒に行きたいって言ってたのに。何なんだろうかあれは。」
「アハハハハ……。」
これには恋も苦笑いだ。
昼も食べ終わって料理店から二人は出た。美咲達のことをブツブツ言ってもしょうがない。そもそも当初は恋と二人で行く予定だったから、当初の予定に戻っただけだ。
「どこ行く?駅のパンフレット色々と持ってきたけど。」
「うーん……。あ、私。足湯入ってみたいです。」
「足湯?」
「足だけ浸かる温泉のことです。血行とかを結構良くしてくれるみたいなんです。」
世の中には色々なものがあるんだな。
「まぁ、なら刃皇山とかどうだ?ここそれなりに近くて、足湯あるぞ。他も無しってわけじゃないけど、行き帰りに時間かかるから会うのが面倒になるし。」
「純様の言ってることでいいですよ。純様の考えなので。」
そこへと行くため駅前のバス停でバスを待っていた。
ガーン!
「うん?」
大きな音が近くから聞こえた。見ると、柱に男の子が頭をぶつけていた。そして地面に財布から出てきたのか小銭やら紙幣やらが散乱していた。
「いてて……またかよ……。」
「大丈夫?」
「あ、はい。」
男の子が黙々と落とした財布の中身を探し始めた。もちろん私達も手伝うことにした。
「はい。これで全部かな。」
「ありがとうございます。」
男の子は私達に頭を下げた。
「風、大丈夫?ごめんね。泣かなかった?」
「子供扱いするな!まったくもう……」
男の子のもとへと一人やってきて話始めた。男の子の知り合い的な感じのように見える。
ただ、そいつはどう見ても先程話したあいつだった。
「山井さんじゃんないか。もしかして、山井さんもこのバス乗るのか?」
もということはこいつが乗るのは確実。はぁ……これもはや狙ってるだろ……と言いたいところだが、運が異常に良くなる力が作動して私と一緒にいようとする説があるな。というかそれな気がする。こいつは私のことを良く思ってるからな。私は好きじゃないけど。
「あ、はい。そうなんです。もしかして幸さんも?」
「すっごい偶然だな。アハハハハ。」
幸は偶然じゃないことは分かってるがあえて笑った。そういうジョークというやつだ。
「幸、知り合いか?」
「そっか。風が助手になる前だから知らないのか。前に一回一緒に仕事したんだ。それで、その推理力を私は凄いと思ってるよ。」
「まぁ、私はあんまりこいつのことが好きではないからな。わざわざコミュニケーションを取ろうとはしなくていいぞ。他人だよただの他人。」
そう他人。少なくとも私はそう思ってる。
「他人なら、なおさらコミュニケーションが必要なんじゃないのか?山井さん。」
理屈的にはそうかもだけど、全てのことが理屈どおりに動くわけじゃない。理屈通りに動くなら私は恋と探偵業をやってない。
探偵が理屈を無視しちゃだめだとは分かってる。だけど、今は無視したい気分だった。
「やっぱり、運ゲー探偵だから嫌なのか?」
「それ以外何があると?」
冷たく鋭い目で純は幸を見る。
「これはただの持論だし、無視してもいい。だけど、探偵、いや全てのことは運なしには何も始まらないと思わない?探偵の例を出すけど、探偵漫画で探偵は近くで起きた日常の些細なことから真実を見つける。よくあることだけど、その日常の些細なことが起こるかは運じゃん。そもそも、証拠がちゃんと残っていて、犯人を突き止められる状態で始まることが運じゃん。そういうことだよ。」
言ってることは理解できる。納得は……できない。
そのとき、助け舟を出すかのようにバスが到着した。私は前の方の二人席に恋と乗る。バスの構造的に、あの二人は後ろに乗らざるを得ない。だから、この状況から自然と逃げ出せる。
「ふぅ。」
椅子に着いて一息つく。流石に同じバスに乗ったからって同じ場所で降りるとは限らない。もう会わずに済むはず。回答を永遠に先延ばしにできる。
流石に降りる場所は違う……よな?たまたま行き先が被ったりしてないよな?そこまで運働かないよな?
心配になってくる。運とかそういうもの探偵に出されたら無茶。犯人はたまたま運良く密室殺人がバレなかった。とか、そういう話がないのと同じ。
「発車します。ご注意ください。」
機械音がバス内に流れた。
「あの、純様?」
「何?恋。」
恋が後ろに乗った二人を見てから話しかけてくる。まぁ十中八九あいつに関することだろうな。
なんでこうなるんだか。普通なら恋と一緒に楽しく足湯行ってるはずなのに。あいつの運が良くなってるとしても、私は不幸なんだが。そうやって調和を取ってるのかとも思ってしまう。
「純様、いいんですか?私は持論もそれなりに理解できました。性格的にも良さそうでし武器の力を活かしているだけって感じでしたし、純様があそこまで険悪にするほどではないんじゃないですか?」
「あのな、恋。武器の力を活かして運の良い探偵っていう、探偵+運って感じなら私もいい。だけど、全てを運に任すのは駄目。探偵なんて、運だけで何とかなるわけじゃない。運でAという結果が出たからって、そのAが100%正しいわけじゃない。どんなに運が良いからって、綻びはちゃんと出る。その時の対策を持ってなく、適当にやってるから気に食わないんだ。」
あっちが自分の考えを述べるなら私だって自分の考えを述べる。あっちよりも納得できる言い方で。
「まぁ……確かに。」
「まぁ、これは私がただこう感じてるだけだから、恋は好きなようにしていいよ。あいつのことをよく思ったって私には関係ない。」
自分の考えを強制的に押し付けるほど、私は落ちぶれていない。まぁ、他の要素では落ちぶれてると言っても反論できない状況にもう陥っているけど。あんだけやったらそりゃそうだ。1回だけならまだしも。
それぞれが考える中、バスは何も知らずにただ走り続けていた。
一方、バスの後ろでは。
「痛……。」
「大丈夫風、痛くない?痛いの痛いの飛んでけ。」
「だから子供扱いするな。」
風が幸の子供扱いに苦言を呈していた。幸はなぜか子供扱いしたがる。特に彼を。
「はぁ……幸がいてもこうなるとはな。」
「うん。私と一緒にいたらあらかた抑えられるはずなんだけど。ただの不注意までは防げなかったのかもね。」
「ん……まぁ。でもこの体質……体質か?まぁそんな感じのやつ治ってほしいんだけどな。絶対ビン神に取り憑かれてるって。」
幸が異常に幸運であるように風はかなりめの不幸体質なのだ。しかもこれは武器の力関係なく単純な不幸体質で、どうすることもできない。不幸を呼ぶと言われている貧乏神のビン神に憑かれていると嘆いているけど、これはわりと冗談じゃないかもしれない。
これをなんとかする唯一の方法が幸運な人の幸運で打ち消すこと。実際に幸の近くなら不幸体質はあまり発症しない。
「私は、風がビン神に取り憑かれていようが、大丈夫だよ。」
「そりゃあ訳分からないぐらいの幸運を起こせる幸は大丈夫だろうな。」
「もう……そういう意味じゃなくて。」
幸は子供のようにほっぺたを膨らませて怒って(?)いた。
「次は、刃皇山、刃皇山でございます。」
「よし。バス着いたらすぐに降りるぞ。」
押しボタンが押され、バス停が見えてきて、そしてバスは停まった。
「やっぱりか……はぁ……」
純は後ろで降りようとする二人を見て陰鬱な気分になった。
「え、降りるの同じところだったんだ。」
なんでバスの中で言うんだよ……。言わなければ気づかないふりして立ち去れたのに……。この状況で立ち去るのは流石に無茶あるんだけど……。
いや、何かある……いやないな。
とりあえず運賃を払ってバスから降りる。バスは次のバス停へと走り去った。
「そういやどこに行くの?」
「私が足湯に行きたいって言ったら、純様が一緒に来てくれたんです!」
私抜きで話が進んでるけど、正直コミュニケーションに関しては私より恋のほうが高いと分かっている。ここは恋に任せて、私は適当に相槌でも打つだけにしよう。
「いいねぇ。私達は仕事の関係で山の中腹あたりを調べに来たんだ。仕事の内容は教えられないけどね。あ、でもそうそう。ここら辺たまに変なやつが出るらしいから、用心するに越したことないよ。」
変なやつとは。
「変なやつって、何なんですか?」
「えーっと……風、バトンタッチ。私は大事なとこが思い出せないから。」
「はい。ここら辺で塵男というのが出るらしいです。全身が塵で覆われた男の噂です。まぁ、俺的にはただの質の悪い噂だと思うんですけどね。正直そんな気にしなくていいと思います。本当にいたとて、目撃情報が結構あるんです。でも、危険な目にあったという情報は数えるほどしかありません。」
「えぇー?私は本当に塵男がいると思うんだけど。この世界魔族とかがいるんだもん。いてもおかしくないって。どんなにありえなくても、絶対ありえないと言い切ることはできないんだから。」
仲良いなー。もしかして私達も他人からはこんな感じに見えてるのかな?
一方その頃、麓の駐車場にて。
「よーし、着いたぞ。いつもみたいに終わったら連絡よこしな。迎えはここいらに車停めてるから。おーい、起きろ。観音。お客がいるときぐらい起きろ本当に……。」
「だと。起きろ。」
「えぇ〜。気持ちいい夢見てたのになぁ。幻想的な場所で気持ちよく眠る夢を。」
「夢でも寝てるのかよ。」
塵男の調査の依頼を受けた沖と玲夢は、色々とあって一緒に仕事することになった富山県の3人と共に車で目的地へとやってきた。
「さてと、塵男の調査と言われてもな……。」
「焦っても何も起きないよ。気長にやろう。」
「あ、俺仕事を早めに終わらせて自由時間を多く作りたい勢なので。」
「あ、そう……」
紬が凹んでた。やんわりとだけど自分の意見を颯爽と否定されたから、まぁ仕方がない。このぐらいで凹むなとも言いたいけど。まあ、絶対治さないと危険というわけではないからいいと思う。
「塵男の出現スポットは……こっちだな。」
5人は山道を歩き始めた。ちなみにこの山道は純達が登っている山道とは違うので、会うことはなかった。
「何やら、きな臭い香りがするな。」
「山登りは楽しくやりたいんだけどね。」
山を登る沖達一行は、不穏な気配を感じ取っていた。何かが出そうな、そんな雰囲気である。
まだ明るい時間帯にも関わらず、木々のせいかかなり暗い。
「こういうところで、肝試しとかやったら、楽しそうに見えるんだけれど。やるなら安全が確保されてからだけど。」
「ゲホッゲホッ。アア、ア。」
「ちょっとみんなストップ!大丈夫、健心?」
「健心?近くにやすませれそうなところ……くそないか。」
「「え、大丈夫ですか?」」
健心が急に咳を頻発させる。あれが起きる。
「座らせられる場所……ないか?仕方ない。作るしかないか。ごめんな健心。服汚れる。」
美咲は自身の罠作りの力で、ペンキが塗り立てのベンチを生み出し、そこに健心を座らせる。ズボンに青色のペンキが付着する。洗うのが一苦労しそうなレベルに付着する。ペンキ塗り立てじゃないものが出せればいいのだけれど、ただのベンチは罠という判定ではないから作ることができなかった。
「救急車呼んだほうがいいんじゃないですか?呼びましょうか?」
玲夢がスマホを取り出して119の電話をかけようとするが、紬はそれを止める。
「駄目。救急車は呼ばなくていいよ。健心は、色々とあってそういう病気というかともかくそんな感じのやつにかかってるの。ランダムに発症して数分間苦痛を味わうことになっちゃうの。その数分が終わったら急に症状が収まるの。だからね。救急車を呼んでも何も解決しない。救急隊員を無駄に働かせるだけになるから、やっちゃだめ。健心自身がそう言ってるから。守ってね。」
本当にこれ治したい。でもお医者さんは匙を投げた。異世界関係のだから、お医者さんには頼れない。治るよう祈ることしか、私にはできない……。
「はい……。」
「うん。偉い偉い。」
少し儚さも見え隠れする笑顔で優しく言った。
「あぁ。はぁ。はぁ。」
「目が覚めた?」
気絶してから数分、健心は正常状態に移行した。後遺症もないとはいえ、いつ来るかわからない苦しみの恐怖に怯えながら生活することは、どれほどの覚悟がいるのだろう。
「紬。ありがと。」
「私を頼ってよ。いつもね。」
弟を見守る優しい姉のように、紬は健心に接した。
健心が苦しみを味わっていた頃、純達はそんなことは露知らず楽しそうに会話しながら(純はそこまで楽しくはなさそうだが)山を登っていた。
「さっきからこの感じ降るかもしれないな。」
「だね。ここは山というほど高い山じゃないから、山の天気は変わりやすいってのは起きないけど、まぁ注意したほうがいいと思うよ。傘買うことも考えといたほうがいいと思うよ。最近強めの雨が多いからね。」
あ
ふとぼそりと言った言葉が拾われてしまった。本当にどう接していいかわからない。
もう、どうにでもなれだ。
本当にあの子が代わりにやってほしい。あの感じのあの子なら、とりあえずこの場を会話で切り抜けられる。でも、代われない。代償がでかすぎる。恋にも迷惑をかける。
いや、待てよ。あの子が言いそうなことを言えばいいんじゃないか?私には推理力がある。あの子の考えを見抜く。
なんだが見えた気がした。失敗してもいい。これで行くしかない。
「それはいいとして、本当にちゃんと探偵業できてるのか?」
どう返す。こちらから質問すれば相手は答えざるを得ない。答えたらすかさず新しい質問を行う。これで、私に質問されることはない。
「興味持ってくれて嬉しいな。普通の探偵からしたら私って異質でしょ。でも、注目されてるってことは、時代は運ゲー探偵ってことでいいんだよね?」
「「それはない。」」
風と純が妙にシンクロした。
「冗談冗談。でね。ちゃんとできてると思うよ。依頼を受けたら、なんか適当に歩いたら運良く依頼が解決するってだけ。事件解決したけど理論が未だに分かってない事件もそこそこある。それぐらい、推理力は人並みしかない。まあ、欠けてるところは風がやってくれると信じてるから。風はかなり推理力多いからね。だから、今までやってこれたんだ。」
「ほんとそう。はっきり言って旧来の探偵には全く向いてない。けど、変わり者の探偵としてなら、ここまで向いてるのもなかなかないと俺も思う。」
「風ー!」
「ちょっ!くっつくなっ!暑苦しいから!」
なんか目の前でいちゃつかれた。まぁそこはいいとしても、うーん……。
二人で一つという感じか……。それぞれがお互いの足りないところを足し合う。
運だけでやってるなら許せないけど、それなりの推理力もチームとしてはある。
運ゲー探偵とやらも、一種の探偵と考えていいのかもしれない。よくよく考えれば、人のことをつべこべ言える立場に私は無いんだった。
世の中広い。異質なものがあってもそれが世の中何じゃないかと、思うようになった。
「目撃情報が多発しているのは、このあたりだよな。」
「そうだったはずだよ。早く出てきてほしいよ。仕事は早く終わらし、その上で残り時間を睡眠その他に費やすのがベストムーブなんだから。」
多発スポットにて山道から少し外れて、あたりを見回す。
「健心。どうかした?」
「あれ、どう見てもその塵男とか言うやつだよな。」
紬が健心の指差す方向に目を凝らすと、塵男と呼んで納得のものがいた。おそらくこれだろう。
人型の物体。でもその身体は何かあることは分かるけど奥が透けて見える。肉眼でぎり見える小さな点がたくさんある。簡単に言うときめ細かな点描のようなものだった。
少し動いているのだが、それも足も手も動かさずに移動する。その人とは明らかに違う動きは、怖さをより一層引き立てていた。
「あれがそのやつ?確かにすっごいやつだね。私達も初めて見るタイプ。」
「玲夢透明化でちょっと近くで探れたりする?」
「私の使い方がいつも荒いですよ。これは仕事中眠らせてくれる権を対価に要求します。」
くだらないことを言いながらも、早く透明化して気づかれずに情報を探り始めた。やるときはやる子なのだ。やる気があまり沸かないという致命的な欠点がそれを台無しにしているように見えるけど。
「ちょっと行ってきたけど、あんまりわからなかったよ。分かったのは倒すのが面倒くさそうってこと。木の枝を投げてみたけど体にぶつかったかのように枝が貫通しなくて塵男の足元に落ちたから、実体はあるんじゃない。」
「実体があるのか。ならやれそうだな。実体がなけりゃどうしようかと思ってたから。」
「その時は何も残らないよう全身を燃やすだけだよ。」
いつものトーンで紬が言った。怖い。笑わせに来てるわけじゃなくガチでやろうとしているように聞こえるのが本当に怖い。
「それにしても塵男倒しちゃうの?何もしてないなら倒すのは引けるけど……。」
前回のときはまだ私を襲ってきたから倒すのも躊躇しなかったけど、本当に何もしてないものを倒してしまうのは躊躇いがある。果たしてそれで本当に楽しいことになるのか。ハッピーエンドになるのか。
「何もしてないからって、何かしないわけではない。倒さないといけないです。悪の根は摘めるうちに摘むべきです。」
「私より大人びてるよね。君は。」
他人の県のことにつべこべ言う資格は、私には無いんだ。
「それに、この匂い。血ですよ。何の血かは分からないですけど。ここら辺にいる動物ならまだいいです。ヒトの血かもしれませんけど。」
「ちょっと沖!やめてって……。今日眠れなくなるじゃん。そういうグロ系無理なんだって。」
玲夢がヒトの血かもしれないことを淡々と伝える沖に突っかかってる。
正直いつもこんなこと言う割には、帰りに熟睡するから信憑性がまるでない。まあグロ系苦手なのは本当だろうけど。
「大丈夫?」
「はい。これも仕事ですから。耐えます。」
「まぁそれならいつも仕……」
と言おうとでも思ったけど、野暮な気もしたから黙っておいた。やる気だしてるはずだから。多分。
「ところで、みんなの技ちゃんと分かってる?分かってるならいいけれど。最後の共闘は結構前だったからね。」
「一応やっておきます?」
「うん。そうしよう。互いの技分かっていたほうが、戦うとき余計な心配しなくてもいいし、戦略の幅も広がるからね。」
というわけで、急遽それぞれの力を説明し合う会が始まった。
「まず私から。私の力は人の傷を癒やす力。人以外はできないのと、回復量に比例して必要SPも多くなるからそこだけ難点なんだけどね。」
紬は簡単に言うとRPGの僧侶的な役割。蘇生技がないけど、まぁ死ぬことほぼないからいいでしょう。死んだらそこで人間はおしまいなんだから。世界の理が崩れてしまう。まあ今更感凄いけど。
「私のは罠作りっていって、その名の通り罠を作れる技。これ意外と役に立つんだ。」
「主に役に立つのは驚かせたりするときだろ。」
ちょっと呆れ顔になって健心がいった。
「それは言わない約束。」
「俺のは近くに火を出す能力。火の強さとかも指定できるけど、火事になるからあんまり強いのは使わないな。」
RPGの火魔法は基本火事にならないけど、現実だとそうは行かない。現実はゲームほど都合よくないのだ。
「えーっと、俺か。俺のはものを重力に逆らって浮かせる能力です。何個も何個もできるわけじゃないけど、重さとかは関係ないっぽい?です。」
スポーツ大会のバドミントンのときに使っていた。
「私のは自分自身を透明化させる能力。これ使えば、怒られずに寝れるから神だよ〜。」
「怒るよちゃんと。」
すぐさま沖からのツッコミが入った。
「よし。じゃあ、行く?」
「行きましょう。」
まだ逃げずにあそこにとどまっていることは都合が良かった。
「動かれるとね、駄目だから。」
こんな森の中なら逃げられる可能性は十分にある。逃げられないようにするためにも落とし穴を仕掛けてその中に落とした。
さぁ戦闘開始だ。
落とし穴から這い上がろうとはしているものの、逃げれそうにはない。
「火は……効いてなさそうだな。」
「あの感じだと、攻撃が効いてるのかも分かりませんね。」
いつもなら敵の身体に傷がついたり血が出てきたりしたら「あ、これはダメージをちゃんと与えられているな。」と分かる。だが、今回の敵は塵で構成されている男。内蔵も何もありゃしない。当たる感触はあっても、それがちゃんと攻撃できているかは全然わからなかった。流石に攻撃できていると信じたいが。
「ッ……危ない!」
敵の少しの動きから敵が何かをしようとしていることを瞬時に読み取り、玲夢はその穴の近くにいた人の首根っこを掴んで後ろに持っていった。その瞬間、敵は大きなジャンプをして、落とし穴を飛び抜けてきた。
玲夢はやれば有能なのだ。
「落ちて!」
落とし穴をまた作るも、すぐに飛び抜ける。もうこの穴は速く抜けたほうが良いものと学習したようだ。知性がある敵は厄介でしかない。
「霧?これは……きついな。」
謎の儀式めいた動きが行われると、急に近くに霧が出てきた。2〜3メートル先までしか見えない。視界に映るのはその限られた世界と、大きな白い霧だけだ。
こんなのが自然に行われたとは考えづらい。先程の動きも考えてもこの霧を呼んだと考えたほうがありえる。
でも、これなら相手も視界が悪いはず。でも逃げられる可能性は捨てきれない。どうにかしたくてもどうにもならない。
「はぁ?っと……きついにもほどがあんだろ。ハードモードやりに来たんじゃないんだからさ。みんな!この霧の中でも塵男は俺達が見えてるかもしれないから、各自自衛したほうがいい!」
どこからともかく突撃して襲いかかり、その攻撃をもろに食らう。武器のない丸腰で、力が熊並みに強いわけでもないからまだなんとかなるものの、いつまでも続けるのはきつすぎる。
「怖。」
自分自身を浮かせて対処する。霧のせいもあって所々にある木の枝と葉っぱ以外は一面白。下を見ても地面が見えない。恐怖を覚えた。
「音でなんとかするしかないか。」
動くときの音で居場所を把握するしかない。勿論、普通の耳でできるのならだけど。
透明化で玲夢は自分の身を守り、美咲は自分の周りに簡易的な罠を仕掛けることで突然攻撃されることを防いだ。とはいったものの、健心や紬に関しては正直どうしようもない。攻撃してきたら受け流す程度の防御しかできない。簡潔に言ってきつい。
向こうは見えてるのに、こちらは全く見えない。この霧が治まるまではまともに攻撃できない。かと言って、いつ治まるか分からない。無限というわけではないだろうけど……。
「闇雲にやったところで戦況は良くならない。かえって悪くなるかもしれない。」
「罠の中に、何かないの!」
「火で明るくしたらなんとか……ならないか。」
各々脱出口を探るものの、難航しているとしか言えなかった。
(この感じ、大丈夫かしら。この近くにいるはずだから、見つけて一緒にいたほうがいいかも。やられて、ないよね。)
霧の中ビビらずに紬は勇気を持って皆を探す。崖のような危険なものが近くにないことはすでに把握済み。誰かが怪我しているかもしれないのに、ここで何もしないわけにはいかない。
回復役として、全員が怪我してないか調べ、怪我しているのなら癒やさないとと、強い使命感を感じていた。
そんな中、一人だけ現状をなんとかできそうな人がいた。眠り姫の玲夢である。
「頻繁に聞こえる足音が2つ。いや、右から聞こえる方はおぶられている時に下から聞こえてきたもの。左から聞こえる低い足音。これだ!」
眠りというのは静かな場所で脳を休めること、よく眠る彼女は、人より聴覚が休まっているからか、聴覚が人より良いらしい。
色々と雑音のあるこの場所であの忌々しい塵男の足音を聞くことぐらいは、彼女にとって容易いことなのだ。
音を出さず静かに透明化して近づく。音を出さないのは念の為。気を付けて悪いことはない。
「いた。」
小声で喜ぶ。耳は鈍っていなかったようだ。
「どこ……から。」
「早くしたほうが良さそう。」
血が出るピュッとした音が聞こえてくる。足音をやっぱり出して急いで向かった。
興奮しててこっちには気がついていない。いる事すら知覚していないよう。楽でいい。
「速く仕事終わらせて、いっぱい寝よう!」
心の中だけに留めるはずの声が周りに出ていた。
玲夢はいつも使う武器の警棒を手に、力一杯殴りつける。一発やったら一度逃げる。ヒットアンドアウェイ戦法だ。
「とは言たものの……。いや、まあやるしかない。」
玲夢は2つ懸念していた。1つは透明化はめちゃくちゃ長い時間ずっと使い続けることができないこと。でもこっちは懸念したもののそこまで問題とは言えない。使える時間は1日につき4時間。4時間超の戦いになることなんて滅多にないから、これは言うてそんなに問題じゃない。
問題は2つ目。単純に玲夢が与えられるダメージが少ないことだ。というのも、玲夢の武器の力は透明化で、攻撃関係の力に比べりゃそりゃ与える量は減る。
それに、玲夢の武器は警棒なのだ。警棒のダメージは使用者の能力にかなり依存するが、お世辞にも玲夢の能力が良いとは言えない。むしろ平均より少し下だ。
玲夢は偵察任務などには優れているが、ちゃんと攻撃するのには力不足なのだ。沖と比べると1/3以下のように感じる。
それでも他の人ができるとも思えない。場所が分かるなら、とっくにやっていそうだ。他の人に敵の居場所を教えたところで、刻一刻と場所が変わるから移動してもその場所にはもういないことになりかねない。
同じことを何度も繰り返す。未だに霧は晴れない。透明化をずっとしているからバレるはずはないと思いたいけど、危ないことも増えてきている。見えなくてもそこにいることは分かってると思う。なら、まあそこら辺を注意深く観察するよね。ただ暴れているように外からは見えるけど、暴れられると近寄れないから透明化しててもきつい。
「早く寝たいのに。早く仕事終えたいのに。」
完全に私的な怒りが、警棒を持つ手に加わっていった。
「この音、玲夢か?」
沖には先程から鈍い金属音が聞こえていた。相方とも言える人の武器の音に凄く似ている。多分これはそれなのだと感じた。
「でも……どこ?ここら辺か?」
耳が普通な沖にはどこから来るかの正確な情報は分からない。だけど、ここまで大きな音が鳴ってると自ずとおおよその方向が分かってくる。高度を地面が少し見える程度まで下げて、沖はその方向へと向かった。
一方その頃、純達は普通に足湯がある山の上に着いていた。
「じゃあね。本当は旅行の案内したいんだけどね。探偵としてのしごとがあるからね。」
「じゃあな。」
「もっとお話したかったです。」
「またな。」
最初会ったときの険悪な雰囲気はどこに行ったのやら。めちゃくちゃ仲が良いとまではいかなかったにしても、普通の人よりは良いような感じにはなってた。
「さて、足湯行こっか。」
「はい。」
あちらの惨劇とはうってかわって、こちらはお気楽そうだ。あっちを知らないからこれでいいのだけれど。
「足が温まる……。」
「タオル持ってきてなかったけど、これはいいな。」
足湯って意外といいものなのだ。足だけだとなめてはならない。足湯に行ってみれば分かる。
二人で仲良く観光する。微笑ましい限りだ。
「これでっと。おじいちゃんこっち終わったよー。」
「風、ちょっとそっち持ってくれない?重くてさ。」
二人は個人経営の老舗旅館の手伝いの仕事をしていた。探偵というよりなんでも屋だけど、探偵だけでやってけるのは稀だからなんでも屋もやっているのだ。
「ありがとうね。はい。これ和菓子。お口に合うかのう。」
「おいひいですよ。」
「食べながら言うなよ。汚いって。確かに美味しいけどさ。」
「ふふっ。」
「これで今年も宿が開けるわい。本当にありがとうな。若者よ。」
こちらもこちらで微笑ましい限りだ。きつい仕事よりはこういう仕事のほうがいいに決まってる。きつい仕事は、誰かがやらなきゃいけない仕事だって頭では理解しているつもりだけど。
「じゃあね。おじいちゃん。」
「ありがとうございました。」
二人は宿から出た。
「さあて、風どうする?帰る?それともここまで来たからついでにどっか行ってから帰る?」
「どっか行くって言ってもな……。」
観光客からしたら観光地で色々と行くとこあるかもだけど、地元民からしたらわざわざ行くほどかってなる。ここ位置的にも結構来たことがある。だからちょっととなる。
「ひゃぁぁぁ!」
「おじいちゃん?」
「逃げろ逃げろ!お前さんたちも早く逃げろ!」
おじいちゃんは非常に慌てている。何?何があったの?
聞きたかったもののおじいちゃんは走って去っていった。
「こっちも逃げたほうがよさ……。これはヤバいな。」
「え?あ……。これが塵男?可能性としてはあるけど。」
「忌々しい忌々しい忌々しい。早く出せ。あの男を出せ!邪魔するものはすべて許さぬ。切り捨ててやる。」
旅館の奥から現れたのは黒い靄に包まれた男。輪郭がぼうっとしている。右手に剣を持っている。その剣から赤いものがポタポタと……。
そして負のオーラのようなものが常に張っている。霊感とかないけど、それでも見えるということは、かなりヤバいやつだ。
「風、走るよ。私達じゃかなわない。」
「うん。でもどうする?このまま逃げてもどうにもならない。」
戦う武器なんて持ってない。確かに形式上武器なものを幸は持ってるけど、でもとてもじゃないけど戦えるものじゃない。霊媒できれば戦わなくて済むかもだけど、そんなもんできるわけない。
「なら私が囮になる。大丈夫。私の運はとてもいいから、そっとのことじゃやられない。運命が護ってくれる。だからさ、ここの人逃しておいて。あと、あの子達呼んで。こういうやつに一般人は呼んでも無駄だから。」
「なにを言っておる。さっさと出せ。」
「何言ってるのかわからないけどさ、出さないよ。悔しかったら私を倒してみな。一般人だと思ったら、大間違いだよ!」
「面白い。どれぐらい強いか、余興としてやってやろう。」
幸は自分自身にタゲを向ける。そして近くの山道から外れた森の中へと逃げた。被害を増やさないためだと思う。
「ちっ……。電話繋がらねぇ……こんなときに……。」
事態を収めるために異少課の2人に電話したものの、電源が入ってないか電波の届かないところにいるの一点張り。任務中なんだと予想はできた。最悪だ。
「幸!待ってろよ!おいこら聞け!皆ここから逃げろ!死にたくなけりゃ逃げろ!」
脅すかのような発言。言い方。でもこれも風の作戦だった。こう言わないと、信じてもらえない。無理矢理にでも、逃がすことが大事だ。
「早く逃げてくれ!化け物が出たんだって!死にたくないだろ!死にてぇのか!」
「あーね、確かに最近化け物流行ってるからねー。ほんと。まぁだから、化け物が来ることも、なりよりの有りけり?アリニッシモ?的な感じだよねー。」
はぁー……。嫌になる。これ。
なんなんだよ!ふざけるなよ!
今も今幸は一人時間稼いでるっていうのに。早く急がなきゃなのに。
少しは逃したけど他は全然逃げてくれない。こういうボケだと思ってる?漫画で子供のキャラクターが大事なことを大人に言っても大人は信じてくれない的な場面あるけど、こんな感じなのな。
「ついでに君、僕の店来ない?美味しい和菓子揃えてるよ。」
「ちっ……。」
綺麗に舌打ちが響いた。
「あぁもう!あいつらなんとか繋がらないか?………駄目だまだ繋がらない。」
頭を唸らせる。強い思考力で危機回避の方法を考えようにも、現実的に不可能だったりどこか問題があったりで駄目だった。
「なんかやけに走っている人多いですね、何かあったんですかね?」
「なんかのイベントかな。でもイベントにしてはそれっぽいのがなにもないんだよな。走っていない人も多いし、本当に特に何も無いのにただ個人的に走っていただけなのかもな。」
「あぁ〜。ありそうですね。」
一方純と恋は二人で道を歩いていたのだが、なんかやけに走っている人が多いと感じていた。勿論風が逃がそうとして逃げてくれた人達なのだが、その事自体純も恋も気がついていない。
「ん?あれ。仕事中?」
「ですかね。」
俯きながら頭を抱えている風を見つけた。仕事の関係でここに来たらしいから、その仕事なのかなとこのときは考えていた。
「あぁ!助けてください!名探偵様!」
「いや何?何?どうした?」
「早く離れてください。」
風が純を見つけた。風がどうしようかと考えてもいい案が浮かぶ焦っていたところにやってきた神様。今までのことをあらかた伝えた。
「なるほど。恋、戦えそう?」
「戦えます!武器もちゃんと持ってきてますから!」
「よし。居場所は?」
「ちょっと待ってください。」プルルルルル…プルルルルル…「はい。居場所分かりました。幸はかなり体力消耗しているから、急いでください。」
「分かってる。」
逃がそうにもどうにもならないなら、あの謎の悪霊を町の外で倒すほかない。倒すのは強い恋ということになった。
「幸。今行く。」
大丈夫であってほしい気持ちが高くなっていた。
「小童め。我をおちょくるとは……許さぬ許さぬぞ!」
「はぁ……はぁ……。風……。」
幸は引き連れてずっと山の中をかけていた。異常なまでの運の良さが幸を助けてくれていたが、それでも精一杯だった。ちょうどよく木が倒れようが森の動物がそいつに敵対しようが、剣ですべてなぎ倒す。頭おかしい。
しかも残りの体力がかなり少ない。こんな山の中必死に走らされるこっちの身にもなってよ。
「幸!おいこらお前!俺が……川崎さんが相手だ!」
ようやく風の声が聞こえた。遅いよ……疲れたよ……頑張ったよ……。
「ええ。私一人で相手します。純様も逃げてよかったのに。純様戦うのができないんだから。ここに来たところで意味がないって、分かっていたんですよね。」
「そうだけど、作戦を考えて貢献できるから。だから、許して。」
「我をおいて話をするとは。癪に障る。だが強さはあるように見える。小童の戯言というわけではないと。ふむ。なら正々堂々と勝負と行こうか。我は女子供だからとて容赦はせぬ。」
戦いが始まった。まず相手が素早く幸の体に剣を突き刺す。かろうじて場所がズレて目の前の地面に剣が刺さるので終わったが。
「ヒイッ……。」
「手が滑ったか。なまってるな。」
「正々堂々と勝負するんでしょうが!」
「正々堂々とした勝負に邪魔者などいらない。卑怯な手で弱者に負けるのは何にも代えがたい屈辱だ。」
「っつ……。」
本当に嫌らしい正々堂々だ。正々堂々といいつつ、こっちに不利でしかない。私は目の前で殺されそうな人を見捨てることができる人なわけない。
守りつつ、攻撃する。3人分守るのは今のままだと無理だあの威力なら私が剣で防いでも防ぎきれるか……。
「ごめん。恋。あと頑張ってくれ!これはここにいたほうが危ないとわかったから!」
助かります。純様。
純様が二人を連れて離れてくれた。これは熱い。自分の身を守るだけでいい。
「逃げられたか。まああの2人は良い。だが、あの余興は逃さぬ。」
「ぐっ……ぐっ……。風、私は良いから逃げて!この感じ、私を狙ってる。多分さっきおちょくったからだと思う。だから、私は逃げられないから!」
「なら自分も!」
風が自分も行こうとしたのだが、純にその手を掴まれ、そして離れた場所に引き連れられた。
「離し……やがれ!俺は、行かなきゃいけないんだ!」
「戦えるのならそうだけど、君は戦えないんでしょ。」
「それはそうだけど、でも!」
「ああいうところに戦えない一般人が言ったって何にもならない。マイナスにしかならない。少し考えれば分かるはず。」
風が手を振り払おうと、幸のところに行って自分にできる何かをしようと駄々をこねている。
先程まででかなり疲弊しているはずの幸がまともにできるとは到底思えない。一般人にだって、出来ることがある。と風が考えているのに対し
恋が言ってた。「純様戦うのができないんだから。ここに来たところで意味がない」と。そしてあの感じ、あれは私達も一緒に狙いかねない。自分の身すら守れない人がいたって、ただ受ける意味のないダメージを受けて、下手すりゃ死ぬ必要ないのに死んでしまうかもしれない。そんなのは駄目だ。と、純は考えていた。
その2つの考え方の違いが、今こうして亀裂を呼んでいた。
「我をおちょくったものから殺す。お前は後回しだ。」
これは大変危険だ。彼女に攻撃が集中したら防ぎきれない。そもそも槍なんて攻撃を防ぐためのものじゃないからより難しい。
「馬鹿!アホ!間抜け!お前なんか近所の犬の糞みたいな匂いだ!」
「お前から殺す。」
あの感じじゃどうにもこうにもならないからせめて自分にタゲを向けようと挑発してみた。恋自身悪口を言うことも聞くことも全然無く、その結果無理やり出したのがこの悪口で小学生の喧嘩のようだった。でもこいつの沸点が著しく低いのか簡単に挑発に乗ってくれた。チョロい。
「死ね!」
「ぐっ………。強………。」
槍で防ごうにも自分自身に強い反動が降りかかる。こいつ、前の廃ビルで戦ったやつより断然強い。気を引き締めなきゃ。
「どうしたそんなものか。防戦一方とは余興にならんな。攻撃してみろよ。」
さっきから防戦一方。槍でカウンターを狙おうにもまともに攻撃できないし、それでいて全くくらってないように見える。手応えはあった。ダメージをくらってないわけじゃない。多分、体力か防御力のどっちか、若しくは両方が高い。
この感じ、早くあのやつ使ったほうが良さそう。使ったあとの反動の関係上30秒で倒さないと死あるのみだから、最後の切り札として取っておきたいけど、四の五の言ってられない。
「私も、少しは力になるから!」
逃がしてあげたいのはやまやまだけど、逃げれそうにない。
そんなとき、たまたま(多分幸運のおかげ)カラスの群れが低空飛行して間を通った。いい目くらましになってる。
「なんだ。やめろ!」
体が切り裂かれカラスの死体がその場所に出来上がっていく。酷いことこのうえない。
「ありがとう。さてと!」
今を使うしかない。走って間合いを詰めて、一気に槍で心臓を刺した。
「こんなものか。」
「ぐっ………。」
でも一気にカウンターされそうになり、とっさに地面を蹴って剣の攻撃をかわした。とてもじゃないけどあんなのくらったら普通に死ぬ。私はまだ人間。人間らしく一回刺されただけで重体になる。
「何かない?何かない?」
本当こんな時に限って私一人だけなのがピンチに拍車をかけてる。前の廃ビルは他に3人いた。私はそもそも純様の助手。普通より強いけどめちゃくちゃ強いってわけじゃないはず。今回は彼女のおかげで常時幸運状態になってるようなものだけど、それでも差は開きすぎていた。
「弱点とか、無い?」
見た感じの感想。あのモードになったとして30秒で倒すのはほぼ無理。体力の多さが全く分からないけれど、めちゃくちゃ体力が低いとかじゃないとこの化け物を倒せない。せめて弱点とかでも見つけないと……。でも純様は今いない。
「そうだ。幸運の力でこいつの弱点とか分かる?」
「分かった。いけると思う。やってみる。」
幸運だけとは言っても、かなり頼もしく見えた。
「邪魔をするな。」
「そっちもね。」
狙われてそうだったから槍で防ぐ。この槍剛体のように折れも変形もしないから防御にも使える。けれど、盾とかに比べれば劣っちゃうと分かっていた。
防御役とか回復役とか、そう分かれていることの重要性を戦いながら感じてた。
数分ぐらい戦い続けていた。ほぼ槍で攻撃を防ぐだけだけど、たまに運良くチャンスが出来るからそのときに攻撃するって感じ。私は子供の頃格闘教えてもらった名残で剣を見切っているから未だにまともに攻撃をくらってはいない。けれど、このままってわけにはいかない。単純に自分の身体が終わってしまう。
「………。」
「……。」
私もこいつもさっきから話すことが無くて無言で戦っている。それほど緊迫しているって言ったほうがいいのかもだけど。
「やっぱり、いや……。」
あれを使わないと勝てないということがわかっても、それをいつ使うか。それが一番の問題。正直そこがこの勝負の分け目になるはず。
でも私には勘でしか分からない。私は格闘の訓練ぐらいならともかく、この槍を使った戦いは数回ぐらいしかない。あの力を使ったのはもう3回ほどしかない。あの廃ビルの戦いからそもそも一度も使ってないほど(確か訓練の手伝いだったっけ?それされたときは使えなかったから)。
まあ私の経歴は今どうでもいい。頭から出ていって関係ないから。今考えるべきなのは、いつ使うか。
少し考えたけど、少なくとも弱点とかが分かる、もしくは敵が確実に弱っているまでは無理だと考えついた。
弱点……調べたいけどなぁ……。
2人で戦うのなら一人が敵を引き付けている間にじっくりと観察できそうだけど。
「今のままじゃ、無理だなぁ。」
この攻撃くらってちゃそんなことはできないと分かっている。本当に誰か欲しい。美咲達と別行動したのが本当に悔やまれる。
「てか、美咲達呼べないかな?」
美咲達終わってるよね?流石に。
私が気づいている時点で純様なら呼んでそうだけれど。
純様。頼みます。
「こういうとき、何もできない自分が嫌になる。」
恋が戦っている間、避難していた純はポツリと独り言を言った。声に出すつもりはなかったのに、声に出てしまっていた。
「分かります……。」
風が小さな声で頷く。状況だけで言うとこの二人は似ている。いつもの状況ではあまり似てな………。いや、それなりに似ている二人だが、今は特に同じ気持ちだった。
ここまで逃げる途中に色々とあった。何故か目の前で木が倒れたり穴に落ちたり野生動物に襲われたり。原因は口に出さないがこの子だと分かってる。そこを責めたりしないさ。だけど、こっちよりあっちのほうが酷い目にあってると思うと……。
実は、この前変なことをふと思った。恋がいなかったら、私はどうしてたんだろうかな……と。本当に起きてほしくない。そんな未来認めない。
恋。無事に倒せよ。恋の強さは誰よりも分かってるけどさ。それでも不安になるんだよ。
恋がいなくなったら、本当に一人ぼっちになるんだって。クラスメイトとか美咲達とかあの子達とかいるけど一人ぼっち。私の秘密を共有できるのはこの世には恋だけ。落ち込んだ私を励ましてくれるのはこの世には恋だけ。悪い私をあそこまで必死に見返りも貰わずに助けてくれるのは恋だけ。
「っ……。」
泣くんじゃない。私。ここで泣いたら、また恋にいらない心配をさせてしまう。恋は帰ってくるんだ。この顔をまた見るんだ。だから、顔はきれいにしておかないと。ファションに疎い私でも、それぐらいは分かるよ。
「くそっ……。まだ帰ってきてないのか……。」
「……。」
目の前にはその子のために必死にことをよくしようとしている子がいた。本当、私何やってたんだろう。
「美咲……。出てくれないか?」
「おかけになった電話は電源が」
あいつめ……なんでこんな時に限って……。ダメ元で他の2人にもかけたものの、帰ってくるのは同じ機械音声だけだった。
「自分達だけでなんとかしろってことか。」
やってやるよ。私は探偵だ。アイデアを考えるのは慣れてる。
「そっちって何か使えないか?何でもいい。」
「ごめんなさい。俺は何も……。異世界の武器とやらも、俺は持ってないですし……。運が悪いこと以外これと言ってできることは……。普通の人にできることならできますけど……。」
私はあの力を使うことができるけど、それでもいい解決案は思いつかない。敵のことを知らないと……。
もう一度思い出す。現れたときから。言動やら何やらが動機を教えてくれていることは探偵やってるとよくある。
性格的にただの戦闘狂な感じがしてならない。だとすると厄介でしかない。戦闘狂の野郎を黙らせるの無茶にもほどがある。ただ戦いたいって理由で戦うんだもの。
「それにしても、あれは……。」
「っ!」
その瞬間。風の脳裏に電撃が走った。風も同じようにあれが何か考えていた。そして思い出した。どこかでみたことがあると思った。あの剣も、あの見た目も、あの言葉も、そうだとしたら説明がつくことに気がついた。
「もしかしたら、分かったかもしれません。多分そうです。あれは……。」
「うん?本当?何?」
「この山の言い伝えで、昔有名な剣士二人がひたすら戦い続けたという話があるんです。ですが、そのうちの一人が山の中で事故で死んでしまったらしくて、その剣士の墓がこの場所にあるらしいんです。」
「つまり、その幽霊だと?」
「幽霊なんてオカルト染みてますが、無いことではないかと。」
「なるほど。」
幽霊説。確かに有り得そうだ。武器が剣だったし、あの男を出せは戦いたかったからと考えられるし、余興というのもその後に本戦の予定があるからそう言ったとしたら辻褄が合う。
「それで、その剣士に関する他の情報ある?弱点とか?」
私は肩をつかんで必死に聞き出していた。そんなことしなくても教えてくれると思うが、居ても立っても居られなくこんな感じになっていた。
「ちょっと待って下さい。調べますから。」
「こっちも調べるか。」。
「脛……。これだ!」
インターネット情報によると、その剣士は脛が弱点だったらしい。戦った相手が「強かった。脛を剣で攻撃していなければ、今頃死んでいたかもしれない。あれだけの男で全身に筋肉をつけて身を守っていても、弱点というものは必ずある。それを見つけることが勝つ秘訣だ」と言っていたらしい。
「よし。君はここでもっと調べておいて。」
風が着いてこないように釘を刺して、また森の中へと行った。
「恋。無事だよな。」
最悪は考えたくない。最善だけ考えておけば、それでいい。
「うぅ……。」
やっぱり増強の技を使うべきかと自問自答している。でも使えない。戦い始めてからすでにかなり経っていて、私自身結構疲弊している。
使うべきか?救助の望みはかなり薄いと分かってる。もしかしたら来ているかもしれないけど、その救助が来るまで持ちこたえられる自信がない。
そもそもこいつが私と違って全然疲弊してないのがおかしい。疲れを隠しているわけじゃない。単純に疲れを感じてない。おかしいでしょ。
「はぁ……はぁ……。恋!」
「……純、様?純様!?」
一瞬反応が遅れたのは疲れのせい。私は純様が大好き。純様の声に気が付かないはずがないのに……。いや、それより純様!?なんで?
「純様、ここは危険です。帰ってください!こいつは私が今までに戦ったどいつよりも強いです!」
「純!聞いてくれ!こいつは多分脛が弱点だ!」
「ふっ……。分かりました。」
純様。やっぱり純様ですね。純様なら変えれると信じていました……。疑ったわけではないから、信じていたと言っていいですよね。
「我に何もしないただの小童なら無視でよかったものの……。自分から邪魔をしに来るとは力量の差も分からなくて哀れなり。」
っ……。
弱点を伝えに来た純様を卑怯にも狙おうとしていた。
「純様には……触らせません!」
その剣を槍で弾く。文字通りの横槍。
そしてそのまま脛を突き刺した。
「っ……。小童め……。」
効いてる!今まで全く効いてなさそうだったのに、攻撃をくらったときしかめっ面になったのを見た。痛いんだろう。
そして結構苦しんでるように見える。これなら、あの増強の力で倒せる。さっきまでならほぼ0%に近かったけど、今は99%以上成功するはず。
「純様。あと幸さん。下がったほうがいいです。巻き込まない保証はできません。」
「分かった。」
信じているからかすぐ言うことに従って離れる。
「逃げられると思うたか」
「よそ見してていいんですか?30秒でけりつけてあげますよ。」
恋が増強の力を使った。
油断禁物
時間が一秒も惜しい。脛に目標を定め、槍で突き刺しまくる。
「ぐっ……。まだ本気を隠していたというのか。」
相手側もこれはやばいと思ってるのだろう。全力で殺しにかかってきた。逃げようとはしてない。むしろラッキー。
「小童め。」
「邪魔。」
構えた剣を槍で弾いて2度目、3度目の攻撃。かなり弱まってるはず。
血がその場所にちょっとずつ飛び散る。これは、できる。
「恋!」
純様からの応援の声もある。神は私に言っている。勝つべきだと。
あと15秒
「はぁーー!」
「その調子、長くは持たないであろう。」
弱点を狙われていると知って、何もしないわけはない。攻撃を読んでかわしてきた。
「くっ……。」
「だいぶ疲弊しているようだな。」
あと8秒。時間的にあと一撃しかできない。これをかわされたら、終わる。
「私は勝つ!」
負けられない意思をここに表明して、負けないよう暗示をかける。そんなのに意味あるのかと言われたらどっちとも言えないけど、ただの精神的な問題。
そしてそれより大事な技術の問題。今の場合だとかわされないように攻撃をするにはどうすればいいのか。
「これでいい。」
はずなんて言わない。言えない。
残り5秒。
「はぁぁ!」
「この一発に賭けてると、まあ、当たらなければ強さも何も関係ない。」
4秒
さっきのように脛を退かそうとした。でも、意味なんてない。
槍の進行方向を変える。その脛へと向ける。
3秒
「うっ……。」
「まだまだ……。」
離れようとするのを抑え、もっと深くまで槍を刺す。即死させるレベルまで刺す。
2秒
「あぁぁ……まだ……まだ……まだ……あの野郎に……。」
1秒
それが、名前も知らないこいつの最後に話した言葉となった。こいつの身体は煙のように消えていった。
0秒
その場所に、恋は倒れた。
一方その頃、山の中腹では、彼らが戦っていた。
「ん?何?」
突然霧が晴れた。これは好機に感じた。
「うん?」
ちょっと違和感を感じた。だが、危険なことに変わりはない。
全員で倒す。さっきまでとはうってかわってあっさり倒すことができた。
「何が、起きたんだ?」
少なくともこっちの情報だけでは、何が起きたのかを知るのは不十分だった。
「あぁもう。無茶しやがって……。……頑張ったな。」
数分前は激戦が繰り広げられていた場所で、純は倒れた恋を介抱していた。
恋の周りは血が飛び散っている。この血は返り血というわけではなく、恋自身の血。傷ついた皮膚から出ていた血だった。
「風ってどこにいるか知ってる?伝えたいんだ。あと、ありがとうって、伝えておいて。あ、でも、なにかしたほうがいいことある?」
「何もない。町の中にいるはず。」
「ありがとう。」
運ゲー探偵を自称する彼女は助手に助かったこと、助けてもらったことを伝えに走っていった。
「……んぁ。」
「恋。」
「ありがとう。助けてくれて。」
「本当幸を助けてくれてありがとな。」
町のベンチで恋は目を覚ました。周りには今日初めて会ったのにかなり仲良くなった二人、そして彼女が一番大好きな純様の3人がいた。
純が森の中で目を覚まさせるのはあれだなとここまで背負って運んでくれてた。
「終わりましたよ。純様。弱点見つけて、ありがとうございます。」
戦いが終わって、戦い中は必死で気にしていられなかった傷の痛みがどんどん伝わってくる。でもそんな中笑顔で純様へと伝えた。
「恋のほうこそ、頑張ったな。一人で戦う相手じゃないだろあれ。よく倒せたな。」
純様からの労いの言葉で、疲れは全て溶けていく。
「もうちょっと、ここにいさしても、いいですか?まだ、痛くて……。」
「もちろん。」
「そういえば……。結局何だったんですかね?あの剣士。」
ふとした疑問を呟いた。
「多分、この山の言い伝えの剣士の霊とか、そう言うやつなんだと。」
風は恋に言い伝えの内容を教えてあげた。
「へぇー。だからあんなに強かったのかな。」
「でも、本当よく霊になってるとはいえその凄腕の剣士倒せたね。」
「お父さんお母さんのおかげだよ。」
また笑って言ってた。
「何だったんだろ……。」
山の中腹にて、よく分からないまま何故か急に弱体化した塵男を倒した5人は、とりあえずその場にとどまっていた。
「時間の問題か使用する力が切れたのか、まあいいんじゃないの?脅かすものは討伐されたんだし。」
「それでいいのかね。」
色々とモヤモヤが残る。まあでも、分かるわけじゃないからいいのかもしれない。分かったところでその事実がなにかになるわけじゃないんだし。
「そんなの良いから早く帰ろう。眠い……。」
「玲夢なぁ……。まあいっか。帰りましょうか。」
もうちょっと調べたい気もしたけど、玲夢も眠たそうだし調べる必要もないと思ってもう帰ることにした。
「そうだね。純達ほっぽりだして来ちゃったからねー。」
「そういえば、そうだったな。」
「そうだ。今から行ける観光地教えて?」
話し合いながら、5人は降りていった。
それから次の日。
「福野が言ってたが、この前の塵男の山で同じぐらいに剣士の幽霊みたいなやつが出てたらしいぞ。なんか運良くそこにいた人が倒してくれたみたいだけど」
「運はめちゃくちゃいいからな……。そんなこと起きてたんだ。」
「だから、塵男ももしかしたらそれに関係するんじゃないかって。日方が言ってたんだよ。」
「助手のほうがまともに探偵やってるよなー。」
運ゲー探偵なんて普通務まらないもの。
「そういや、急に弱くなったけど、あれもそれと関係性があったから起きたのかもな。玲夢、どう思う?」
「スヤァ……。」
「起きろ。」
ソファに寝転がって玲夢は眠っていた。
これがいつもの日常だった。
「はぁ……。手につけられなくなったら意味ないって何度言ったら分かるんだが……。」
「申し訳ありません!」
「あのねー……。確かに道具を強くすることは大事だけど、反抗されるほど強くしちゃだめだって。従順にさせなきゃ。」
ここはとあるビルの一室。ある男がある男に文句を言っていた。
「こんな調子じゃ、ネウス様に怒られるよ。ネウス様のために働かないと。」
「はっ。精進致します。」
ネウス様はアンダス団が信仰している邪神。うん。ここはアンダス団の拠点なのだ。
アンダス団の一員の男は、今回のやらかしの顛末が書かれた手帳を最初から読んでいた。
日時 5月2日
任務内容 埋蔵伝説の調査
同行 横山 新木 ダスター
行き先 刃皇山
私達は山の奥、人目につかない場所で墓を見つけた。この山の伝承の剣士の墓と思われる。今回の任務はその剣士が残した財宝の調査であるため、まず墓を掘り起こした。
墓の下には箱があった。古めかしさがひしひしと伝わってくる。100年以上はゆうにこえているだろう。箱には謎の札が付いてあった。札に何か旧字体で書かれていたが、それを理解するのは私達にはできなかった。ひとまず、開けてみることとした。
開けたら中には何も入っていなかった。しかしそこであたりが嫌な感じに包まれた。
「我を復活させたのは貴様か。」
目の前には剣士が立っていた。その剣士からは邪悪なものがずっと漂っていた。ここで私達は考えた。これは開けてはならない呪いだったのかもと。もしくは悪霊を封印していたのではないのかと。
「は、はい。」
私達は剣士の質問に正直に答えた。
「ふむ。感謝する。我には倒さなければならない相手がいる。さらばだ。」
その剣士は私達に特に危害を加えることもなく立ち去った。
剣士のことはひとまず無視して、財宝を再び探し始めた。すると、連れてきたダスターの様子がおかしくなった。先程まで従順だったのが、急に私達に攻撃を仕掛けてきた。
「おい、どうしたんだよ!お前ごときが反抗できると思うなよ!なんだ?あの剣士のせいか?」
理由は未だに分かっていない。
ダスターは身体を塵のように変え、霧を巻き起こした。
「ぐぁぁぁ!」
私がよく分からぬまま、横山の悲鳴が聞こえた。それから横山の声は聞こえていない。
即座に調査を中止して報告すべきと思い、無我夢中に走った。私を追いかけてきていたようだったが、霧のせいで足元が見えず崖から落ちたあとは、私を襲おうとはしていなかった。
「はぁ……。幽霊とかも邪魔するのか……。慎重でなかった二人が悪いが、これは酷いな」
急変した理由はわからないが、とりあえず幽霊の瘴気を浴びたからと憶測として書いておいた。
「でも興味深いな。研究班に回しておくか。」
転んでもただでは転ばぬようだった。
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